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剣戟
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子響は、騎士が崩れ落ちる姿を認めても、槍をそれとなく持ち直した。
戦意は明らかに喪失したようだが、相手は龍帝従騎士団の騎士だ。油断してはならない。
離れた場所での魔物騒ぎは、彼と行動をともにしていたであろう龍騎士か、神殿騎士かあるいは軍の者か__そうした輩が対応している音に変わっていた。そちらの状況が気になりこそすれ、目の前の騎士団の彼を牽制するように見つめ、出方を見守る。
ぐっ、と息を詰めた彼は、得物を手に立ち上がった。
そして、迷わず切っ先とともに、怒気を孕んだ顔を向けてくる。今度は切っ先が揺れていない。迷いなく、子響に向けられている。
__さて、どうしたものか。
相手は追手になるだろう輩だが、ロンフォールとかなり親しい様子。いくら記憶がないとはいえ、里に戻った時、討ち取ったことを伝えたら、ロンフォールには堪えるに違いない。
ふむ、と唸るように息をこぼした子響は、構える騎士にあえて構えずに応じた。すると、挑発と受け取った騎士は苛立たしげに舌打ちし、地面を蹴って踏み込んでくる。
直線的な縦一閃。精確ではあるその一撃目だが、手練れの子響は、わずかに横に避けることでかわすことができる。続いて繰り出される横一閃を、くるり、と回転するように身を返して空を切らすと、勢いをそのままに槍の柄で強かに騎士の背を押し出すように叩いた。
うめき声をあげた騎士は、重心をずらされてよろけて、地に手をつく。
素早さはあるものの、見切りやすい動き。
__それ以前に、槍相手に、初手で深く懐に飛び込むとは……。
男は憤怒しているが、先程の動揺がいまだに色濃く残っていることを伺わせる。あえてわざと懐深く飛び込むのであれば、あらゆる動きに対処できるよう心づもりがあり、さらにすでに三撃目を振るっていたはずだ。
そうこう考えていると、騎士が再び声を上げて切りかかってくる。今度は、槍を使って彼の繰り出す刃を受けて流した。
そこから、流れるように彼は刀を振るった。太刀筋は、龍騎士というだけあって悪くはなかった。むしろ、刀を得意としているだけあって、見習いたい動きだった。振り方も大ぶりでなく、最小限で精確。__だが、冷静さに欠けていた。
何合打ち合ったか、騎士の連撃を繰り出す素早さが変則的でなく、しかも遅くなってきたところで子響は屈み、槍で彼の足を払って地に伏せさせる。
ばっ、と勢いよく身体を起こそうとするその動きを、喉元近くに槍の先を迷いなく向けて封じた。
肩で荒く息をする騎士だが、怯んではいない。
__引き下がってはくれないか。
なんとも弄んでいるようで、冥利が悪い。
__捨て置こう。
この感情にまかせた騎士は、彼らの強さの証である“御業”を使わない。それは街なかであるからだろうが、龍さえも呼ばないあたり、ロンフォールを追うという目的を逸してしまっている。
最大の脅威は、空からの追跡、追撃だ。それが先に逃げた皆にないのであれば、この騎士は捨て置いても問題はさほどないかもしれない。
__それに、時間が無いのだ。
懐に忍ばせた封書に意識を向けた刹那、きらり、と視界の端で何かが光った。反射的に槍で叩けば、甲高い音を立てて石畳に落ちる小指ほどの小刀。
それが飛び道具だと認識したと同時、小刀が飛んできた方から、影が中空へ躍り出た。
「__!」
石畳に飛び込むように転がってその場を退けば、自身が居た場所に石突が突き立てられる。
身を翻すようにして立ち上がりながら槍を向けると、石突で突き立てた槍を引き抜いて、改めて地を突く者がこちらを見つめていた。
__耳長族……。
見るからに武人という成りの、耳長族の青年だった。
上背は子響よりも頭ひとつ分は優に高く、巨漢というよりは偉丈夫という印象。髪は金色ながら光に染められたように薄い色味で、鋭い双眸は遠目にもわかる透徹された深みのある青__まるで、地底湖のそれである。
ひと目で、只者ではない、と子響は察し、槍を構え直す。
対して槍を構え直した様を見た耳長は、目を細めた。
「アリオーシュ、下がっていろ。今の君では無理だ」
「ブラウシュトルツ卿……」
騎士が希望を見出したような表情でその耳長族を呼んだ。
__ブラウシュトルツ……。確か、外つ国出身の元龍騎士だったか。
その名は、龍帝従騎士団の内情に明るい者でなくても、そこそこに知られている。
__これはいよいよ分が悪い。
耳長__ブラウシュトルツは、子響を視線で牽制しながら、地面に転がっている小刀を拾い上げる。
そうしていると、龍騎士に駆け寄る男が現れ、ブラウシュトルツはその男へ目配せして、龍騎士を半ば強引に引きずるように連れ去った。
「貴殿が、あの魔物騒ぎを起こしたのかね?」
その彼らを視線の端で見送りつつ、ブラウシュトルツは問う。
__なるほど、誤解されているが……まあいい。
子響は肩をすくめた。
「……だとしたら?」
「無駄だとは思うが、聞いておく。__投降する気はないか?」
子響は困ったように小さく笑って槍を構え直すことで答えとすれば、そうか、と頷くブラウシュトルツもまた槍を構えた。
戦意は明らかに喪失したようだが、相手は龍帝従騎士団の騎士だ。油断してはならない。
離れた場所での魔物騒ぎは、彼と行動をともにしていたであろう龍騎士か、神殿騎士かあるいは軍の者か__そうした輩が対応している音に変わっていた。そちらの状況が気になりこそすれ、目の前の騎士団の彼を牽制するように見つめ、出方を見守る。
ぐっ、と息を詰めた彼は、得物を手に立ち上がった。
そして、迷わず切っ先とともに、怒気を孕んだ顔を向けてくる。今度は切っ先が揺れていない。迷いなく、子響に向けられている。
__さて、どうしたものか。
相手は追手になるだろう輩だが、ロンフォールとかなり親しい様子。いくら記憶がないとはいえ、里に戻った時、討ち取ったことを伝えたら、ロンフォールには堪えるに違いない。
ふむ、と唸るように息をこぼした子響は、構える騎士にあえて構えずに応じた。すると、挑発と受け取った騎士は苛立たしげに舌打ちし、地面を蹴って踏み込んでくる。
直線的な縦一閃。精確ではあるその一撃目だが、手練れの子響は、わずかに横に避けることでかわすことができる。続いて繰り出される横一閃を、くるり、と回転するように身を返して空を切らすと、勢いをそのままに槍の柄で強かに騎士の背を押し出すように叩いた。
うめき声をあげた騎士は、重心をずらされてよろけて、地に手をつく。
素早さはあるものの、見切りやすい動き。
__それ以前に、槍相手に、初手で深く懐に飛び込むとは……。
男は憤怒しているが、先程の動揺がいまだに色濃く残っていることを伺わせる。あえてわざと懐深く飛び込むのであれば、あらゆる動きに対処できるよう心づもりがあり、さらにすでに三撃目を振るっていたはずだ。
そうこう考えていると、騎士が再び声を上げて切りかかってくる。今度は、槍を使って彼の繰り出す刃を受けて流した。
そこから、流れるように彼は刀を振るった。太刀筋は、龍騎士というだけあって悪くはなかった。むしろ、刀を得意としているだけあって、見習いたい動きだった。振り方も大ぶりでなく、最小限で精確。__だが、冷静さに欠けていた。
何合打ち合ったか、騎士の連撃を繰り出す素早さが変則的でなく、しかも遅くなってきたところで子響は屈み、槍で彼の足を払って地に伏せさせる。
ばっ、と勢いよく身体を起こそうとするその動きを、喉元近くに槍の先を迷いなく向けて封じた。
肩で荒く息をする騎士だが、怯んではいない。
__引き下がってはくれないか。
なんとも弄んでいるようで、冥利が悪い。
__捨て置こう。
この感情にまかせた騎士は、彼らの強さの証である“御業”を使わない。それは街なかであるからだろうが、龍さえも呼ばないあたり、ロンフォールを追うという目的を逸してしまっている。
最大の脅威は、空からの追跡、追撃だ。それが先に逃げた皆にないのであれば、この騎士は捨て置いても問題はさほどないかもしれない。
__それに、時間が無いのだ。
懐に忍ばせた封書に意識を向けた刹那、きらり、と視界の端で何かが光った。反射的に槍で叩けば、甲高い音を立てて石畳に落ちる小指ほどの小刀。
それが飛び道具だと認識したと同時、小刀が飛んできた方から、影が中空へ躍り出た。
「__!」
石畳に飛び込むように転がってその場を退けば、自身が居た場所に石突が突き立てられる。
身を翻すようにして立ち上がりながら槍を向けると、石突で突き立てた槍を引き抜いて、改めて地を突く者がこちらを見つめていた。
__耳長族……。
見るからに武人という成りの、耳長族の青年だった。
上背は子響よりも頭ひとつ分は優に高く、巨漢というよりは偉丈夫という印象。髪は金色ながら光に染められたように薄い色味で、鋭い双眸は遠目にもわかる透徹された深みのある青__まるで、地底湖のそれである。
ひと目で、只者ではない、と子響は察し、槍を構え直す。
対して槍を構え直した様を見た耳長は、目を細めた。
「アリオーシュ、下がっていろ。今の君では無理だ」
「ブラウシュトルツ卿……」
騎士が希望を見出したような表情でその耳長族を呼んだ。
__ブラウシュトルツ……。確か、外つ国出身の元龍騎士だったか。
その名は、龍帝従騎士団の内情に明るい者でなくても、そこそこに知られている。
__これはいよいよ分が悪い。
耳長__ブラウシュトルツは、子響を視線で牽制しながら、地面に転がっている小刀を拾い上げる。
そうしていると、龍騎士に駆け寄る男が現れ、ブラウシュトルツはその男へ目配せして、龍騎士を半ば強引に引きずるように連れ去った。
「貴殿が、あの魔物騒ぎを起こしたのかね?」
その彼らを視線の端で見送りつつ、ブラウシュトルツは問う。
__なるほど、誤解されているが……まあいい。
子響は肩をすくめた。
「……だとしたら?」
「無駄だとは思うが、聞いておく。__投降する気はないか?」
子響は困ったように小さく笑って槍を構え直すことで答えとすれば、そうか、と頷くブラウシュトルツもまた槍を構えた。
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