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王城で最も広大なパーティーホールの片隅。
『今日は大事な知らせがある。お前にも深く関係することだから、必ず来なさい。』
兄である国王にそう言われ、俺は披露宴に来賓客として参列していた。
「オイ…あそこにいるの、王弟殿下じゃないのか?」
「あら、本当…一時期だいぶ荒んでたって聞いたけど、今は大丈夫なのかしら。」
「心配ではあるけど、態々声を掛けに行く勇気は無いわね…」
気さくに話しかけられる友人・知人はおらず、唯二の繋がりがあったザフィルとクコリも見かけない。
ザフィルの言う『知らせ』とやらが来るまで壁の花になりながら、周囲の白い目を無視して待機する。
「おっ!来たぞ!」
同じ来賓者である貴族たちの声に、皆が視線を向ける。
その先には、豪華絢爛なドレスを着た薄化粧のクコリと、スーツ姿のザフィルのふたりが、ホールの奥から来た。
これは、もしや…?
「皆様、この度はご多忙のなかお集まりいただき、誠に有難う御座います。」
ザフィルが一礼して、続ける。
「本日皆様をお呼びしたのは、重大なお知らせをふたつ発表するためです。」
「まあ、ふたつも!?」
国王直々の報告に、貴族たちが色めきだつ。
ふたつ…?いったいなんだ?
フラグをへし折ったことによる悪影響が、出なければ良いのだが。
「まずひとつめですが……わたくしはこの度、此方にいるローリ男爵家の娘クコリとの婚約を締結いたしました。」
ギャラリーがドッとざわついた。
やっぱりか、俺はひとり頷く。
国王が男爵令嬢と結婚など、これまでの長い歴史を振り返ればあり得ないことだ。
だが今は時代が変わりつつある。
他国では庶民と結婚した王もいるし、ふたりの努力次第では不可能ではないだろう。
「そしてふたつめですが…」
ザフィルが近衛兵たちに視線を投げかけると、連中は予め目をつけていたのか俺の元へと一直線でやって来た。
「どうぞ、此方へ。」
?
何かは分からないが黙ってついていき、ザフィルと対面する形で立たされる。
「わたくしクランドルの王ザフィル・ランダ・ロザ・クランドルは、今このときをもって、我が弟アズラオ・ランダ・ロザ・クランドルを『小さき王』として承認致します。」
ギャラリーはまたしてもざわついた。
「お、おい!あのクソガ……悪童で有名なアズラオ様を、第二とはいえ国王にするってことか!?」
「いくらザフィル様の監督があるとはいえ、それは…ちょっと…」
ザフィルからの唐突な報告に、皆一様に困惑と嫌悪と焦燥を見せている。
「フッ……どうした?そんな顔をして。」
俺の表情を見て、ザフィルはしたり顔で微笑んでいる。
そうだ。
俺はとても驚いている。
まさかこんなにも早くチャンスが訪れるとは。
「王冠を被せよう。跪きなさい。」
使用人に運ばせた小さな王冠を、ザフィルは手に取る。
「………」
心臓が苦しいぐらいに弾む。
興奮か?恐怖か?俺にすら分からない。
俺は皆に気付かれない程度に胸を押さえて、一歩後退りした。
「お断りさせていただきます。わたくしにはそれを頂戴することは出来ません。」
会場中の人間が目を丸めて俺を見つめる。
「負い目を感じなくていい。確かにお前は王族としてまだまだ未熟だ。だがお前には私とクコリがいる。懸念することは無い。」
「違います。」
とうとう理解が追いつかなくなり間抜けな面を晒す国王様を無視して、俺は何十何百といるギャラリーに向き合う。
「この場をお借りする形となったことをお詫び申し上げます。ですがわたくしからもひとつだけ、告白させていただきたいことがございます。」
「なんだなんだ?」
まったく予想だにしていなかったであろう事態に、全員が呆然としながらも食い入るように俺を凝視する。
「わたくしアズラオ・ランダ・ロザ・クランドルは、先祖代々から引き継がれる神聖な王家の血を、一滴たりとも引いていない『偽物の王族』であることを、ここに白状します。」
会場は水を打ったように静まり返り…
「「「「「!!!?」」」」」
沸き立つように狂乱した。
「は?冗談にしてもタチが悪すぎるぞ。」
「何がどういうことなの?あの御方はいったい何者なの?」
「どういうことなんだ!!?王室はどうなっているんだ!!」
ざわつき野次が飛ぶ外野を、壁に拳を叩きつける音で黙らせる。
「……静粛に。今から五日の後、わたくしの裁判を致します。容疑はそこで、明らかにしましょう。それではまた法廷で。」
絶句したまま指先ひとつ動かそうとしない近衛兵に『仕事だ』と小さく声を掛ける。
ソイツはすぐに捕縛を始め、会場内の人間全員に見送られるなか俺は出て行った。
(……とうとう来たか。このときが。)
俺は震える手で、固く拳を握る。
失敗すればもちろん処刑。
成功しても俺の望む形に事態が収まる保証はない。
だが怯えてばかりもいられない。
これはまだ通過点なのだから。
(絶対に、辿り着いてみせる。)
俺は俺に相応しい未来を迎えることと、身勝手な幸福のために俺の想いを踏み躙ったあの女に目に物を見せてやることを誓い、牢獄に入った。
あと俺のことを『クソガキ』って言いかけたアイツは、後でキッチリと焼きを入れてやる。
『今日は大事な知らせがある。お前にも深く関係することだから、必ず来なさい。』
兄である国王にそう言われ、俺は披露宴に来賓客として参列していた。
「オイ…あそこにいるの、王弟殿下じゃないのか?」
「あら、本当…一時期だいぶ荒んでたって聞いたけど、今は大丈夫なのかしら。」
「心配ではあるけど、態々声を掛けに行く勇気は無いわね…」
気さくに話しかけられる友人・知人はおらず、唯二の繋がりがあったザフィルとクコリも見かけない。
ザフィルの言う『知らせ』とやらが来るまで壁の花になりながら、周囲の白い目を無視して待機する。
「おっ!来たぞ!」
同じ来賓者である貴族たちの声に、皆が視線を向ける。
その先には、豪華絢爛なドレスを着た薄化粧のクコリと、スーツ姿のザフィルのふたりが、ホールの奥から来た。
これは、もしや…?
「皆様、この度はご多忙のなかお集まりいただき、誠に有難う御座います。」
ザフィルが一礼して、続ける。
「本日皆様をお呼びしたのは、重大なお知らせをふたつ発表するためです。」
「まあ、ふたつも!?」
国王直々の報告に、貴族たちが色めきだつ。
ふたつ…?いったいなんだ?
フラグをへし折ったことによる悪影響が、出なければ良いのだが。
「まずひとつめですが……わたくしはこの度、此方にいるローリ男爵家の娘クコリとの婚約を締結いたしました。」
ギャラリーがドッとざわついた。
やっぱりか、俺はひとり頷く。
国王が男爵令嬢と結婚など、これまでの長い歴史を振り返ればあり得ないことだ。
だが今は時代が変わりつつある。
他国では庶民と結婚した王もいるし、ふたりの努力次第では不可能ではないだろう。
「そしてふたつめですが…」
ザフィルが近衛兵たちに視線を投げかけると、連中は予め目をつけていたのか俺の元へと一直線でやって来た。
「どうぞ、此方へ。」
?
何かは分からないが黙ってついていき、ザフィルと対面する形で立たされる。
「わたくしクランドルの王ザフィル・ランダ・ロザ・クランドルは、今このときをもって、我が弟アズラオ・ランダ・ロザ・クランドルを『小さき王』として承認致します。」
ギャラリーはまたしてもざわついた。
「お、おい!あのクソガ……悪童で有名なアズラオ様を、第二とはいえ国王にするってことか!?」
「いくらザフィル様の監督があるとはいえ、それは…ちょっと…」
ザフィルからの唐突な報告に、皆一様に困惑と嫌悪と焦燥を見せている。
「フッ……どうした?そんな顔をして。」
俺の表情を見て、ザフィルはしたり顔で微笑んでいる。
そうだ。
俺はとても驚いている。
まさかこんなにも早くチャンスが訪れるとは。
「王冠を被せよう。跪きなさい。」
使用人に運ばせた小さな王冠を、ザフィルは手に取る。
「………」
心臓が苦しいぐらいに弾む。
興奮か?恐怖か?俺にすら分からない。
俺は皆に気付かれない程度に胸を押さえて、一歩後退りした。
「お断りさせていただきます。わたくしにはそれを頂戴することは出来ません。」
会場中の人間が目を丸めて俺を見つめる。
「負い目を感じなくていい。確かにお前は王族としてまだまだ未熟だ。だがお前には私とクコリがいる。懸念することは無い。」
「違います。」
とうとう理解が追いつかなくなり間抜けな面を晒す国王様を無視して、俺は何十何百といるギャラリーに向き合う。
「この場をお借りする形となったことをお詫び申し上げます。ですがわたくしからもひとつだけ、告白させていただきたいことがございます。」
「なんだなんだ?」
まったく予想だにしていなかったであろう事態に、全員が呆然としながらも食い入るように俺を凝視する。
「わたくしアズラオ・ランダ・ロザ・クランドルは、先祖代々から引き継がれる神聖な王家の血を、一滴たりとも引いていない『偽物の王族』であることを、ここに白状します。」
会場は水を打ったように静まり返り…
「「「「「!!!?」」」」」
沸き立つように狂乱した。
「は?冗談にしてもタチが悪すぎるぞ。」
「何がどういうことなの?あの御方はいったい何者なの?」
「どういうことなんだ!!?王室はどうなっているんだ!!」
ざわつき野次が飛ぶ外野を、壁に拳を叩きつける音で黙らせる。
「……静粛に。今から五日の後、わたくしの裁判を致します。容疑はそこで、明らかにしましょう。それではまた法廷で。」
絶句したまま指先ひとつ動かそうとしない近衛兵に『仕事だ』と小さく声を掛ける。
ソイツはすぐに捕縛を始め、会場内の人間全員に見送られるなか俺は出て行った。
(……とうとう来たか。このときが。)
俺は震える手で、固く拳を握る。
失敗すればもちろん処刑。
成功しても俺の望む形に事態が収まる保証はない。
だが怯えてばかりもいられない。
これはまだ通過点なのだから。
(絶対に、辿り着いてみせる。)
俺は俺に相応しい未来を迎えることと、身勝手な幸福のために俺の想いを踏み躙ったあの女に目に物を見せてやることを誓い、牢獄に入った。
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