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48話 大丈夫です

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コンコン

アリアはドキリと心臓が跳ねた!

もう寝る前だったので、男装は外していたからだ。

鍵をつけてもらえているので、

夜、男装をしていない時だけは鍵をかけている。

それでも、やはりドキっとして、心拍数が上がるのを感じた。


「はっ、はいっ、あっ、ちょっとしばらくお待ちください!」


扉の外にいたルシードは、

焦ったような返事のあとに、ドタバタと何やら忙しなく動き回る音が聞こえたので、

どうやら中で急いで男装に戻そうとしているのかもしれないと想像できたため、

クスッと笑いながら、

安心するように先に名乗ってやる。


「ルシードだ。そのままで大丈夫だよ」


そういうと、物音がぴたりと止んで、

カチリと鍵が開き、扉がそっと開かれた。


中に入ると、すぐアリアは鍵を閉める。


マルシェに男と2人きりはうんぬんかんぬんと言っておきながら、

自分はどうなんだと思ってしまう。

しかし、周りはみんなトレイルという男だと思っているから、男同士部屋にいても問題はないし、

鍵をかけないといけないのも、

女性姿を見られてはいけないのだから仕方ないのだ

と、自分に言い聞かせて、ルシードは勝手に自分を許した。


「ルシード様!ちょうど良かった!

私いい事思いついたから、話したいと思っていたんです!

早く教えたいのに、明日じゃないと、もう夜だし無理かなぁって諦めてたから、よかったわ!」


と、なんの邪気もない嬉しそうな顔をしてルシードを迎え入れてくれたアリアを見て、

よこしまな考えをしていた自分が恥ずかしくなる。

でも、思わずよこしまな考えが浮かぶほどに、

アリアはとても美しかった。

洗い立ての艶のある金色の長い髪が、

サラサラと男物の上着にかかる。

今日はシャツの上に上着を羽織っていたが、

サラシを外しているので、その膨らみに目がいかないよう、ルシードは堪えた。


無防備にもほどがある…

男でいる気分が抜けないのか?


男同士であるかのように、そんな姿でも自然に接してくるアリアに、

自分が男だと全く意識されていないのが、とても悔しくなった。


「…また何を思いつかれたのです?

楽しみだけど…

でも、先に謝らせてください。

王の件、本当に申し訳ない。


クロード様が強く反抗できないのは、全て私やマルシェのため。

側室である私たちの母に危害を加えさせないために

いつも王に強く出られないのです。


クロード様もあんなにお優しい方とはいえ、

国のためであれば、鬼にもなれる人。  


それは、薬物を他国に売っていたことでもわかるはずです…


たとえ王宮の誰かが傷つけられても、

多くの民を救うためならば、それが王子としての役目だと、

悪役になることさえ厭わない強さのある方なのです。

ですが、こと私とマルシェの事となると話は変わります。


私たち兄妹を大事にすればするほど、

ここに私たちが来た経緯を強く思い募り


側室である母まで傷つけさせるわけにいかないと、

王に反抗しきれずにいるのです。


王もそれがわかっているからこそ、

自分とは真逆の考え方をする王子を抑え込むために、

側室を人質のように扱う。


ですから、

今回の件で王に抗えないのは、

全て私たち家族のせいですから、

強く意見できないことを責めるなら、

どうかクロード様ではなく私を…」


「大丈夫!大丈夫ですよ!そのことでいい事を思いつきましたから!

そんな顔しないでくださいっ

ねっ?」

アリアは、思い詰めた顔をして俯いていたルシードの顔を両手で挟むと上を向かせ、

目が合うと、優しく微笑んで見せた。

顔に触れられてドキッとしたルシードは、

腕を掴んで離させてから、


「どういうことですか?」


と、まだ元気は出ず、暗い面持ちで聞いた。


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