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174話 愛を乞い願う者

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父がティアから離れた時、母は俯いたままで立っていた。

ティアは母の考えがよめず、

ただ慄いていた。

はやく部屋から出て行って欲しかった。

静寂の中、ティアと母が動けないでいると、

父が母の手を取って、

「さぁ、君も、ティアに話したいことがあるんだろう?」

と言うと、ティアの側へ優しく引き寄せた。

母は俯いたまま、おずおずと、そして、そっとティアを抱きしめた。

⁉︎

ティアは雷に打たれたような気分だった!

母に抱かれるという感覚に慣れていないティアは、身を棒のように固くした。

母の香りは、

いつも通るたびにあの冷たい目をしながら香ってきた匂い。

嗅覚が記憶を呼び戻し、

恐怖を一緒に連れて来る。

抱かれていても、嬉しくない。

気持ち悪いという嫌悪感に襲われる。

もう離して、離れて。

私を愛さなかった人。

私を愛せなかった人。

私の事を嫌いだった人。

私が…好きになってもらいたかった人…

一番、ずっと、ずっと、

愛して欲しいとやまなかった人…

もう、やめて。

もうそんな気持ち捨てたから…

もうそんな願いは捨てたから…

捨てたから幸せになれたのに…

もう思い出させないで。

あなたの愛を乞う私を…  

今さら思い出させないで。

助けて、やめて、離して…

離して、嫌い、嫌い、嫌い…

そんなことして…

…愛して…くれるの?



「ティア…私…私…」

母は泣き出した。

泣きたいのは私なのに。

母は泣き出した。

なんなの?なんで?

私をいじめたのはあなたよ?

なんで泣くの?

泣きながら、ぐしゃぐしゃになりながら、

母は私から離れて後ろに周り

髪に触れて泣きじゃくりながら何かをしている。

それが終わると、一言

「ごめ…ん…ね、ティア」

と言って、父に背中をさすられながら、部屋を出た。

ティアは、母に触られていた髪が気になり、

姿見に自分をうつして、髪のうしろを確かめた。

…そこには、手作りのレースで編み上げられたベールが、

すでにティアの頭にはガーネットから贈られたベールがつけられているため、

髪飾りとして、髪に編み込み、銀の髪が美しく結い上げられていた。

母が娘に贈るベールだった。

母から貰った唯一のものだった。

ティアは、その場に座り込み、堰を切ったように泣き始めた。

初めて貰った、母の愛に、泣きたくもないのに、涙が止まらなかった。
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