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77 治癒のスキル
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「どなた?」
リリーの姉であるアレーネさんの声が扉の向こうから聞こえてきたが、酷い声である。ずっと泣いていたのだろうか。
「モナです。リリーに会いにきました」
「も、モナちゃん!戻って来たの?熱は大丈夫?」
アレーネさんは勢いよく扉を開けて私の額に手を当ててきた。
「大丈夫です。リリーに会わせてもらえませんか?」
「モナちゃん。ごめんなさいね。リリーはまだ病が治ってないから会わせられないの」
やはり、会わせてもらえないのか。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「アレーネさん。リリーの病は治りますよ。だから会わせてください。お願いします」
「でも、ね。その、ね」
アレーネさんの目が泳ぎ始めた。迷っているのだろう。これはもうひと押しか?
「モナ。入って来てリリー会ってくれ」
私がゴリ押しのお願いをする前に奥の方から声が掛けられた。アレーネさんの後ろから現れたのはキールだった。リリーと結婚すると浮かれに浮かれていたキールだ。しかし、その顔つきは以前と全く違っている。銀色の髪はボサボサで、深い緑色の目は人を射殺さんばかりに目つきが悪くなっている。
「キール!」
アレーネさんは私をリリーに会わせたくないのだろう。そんなアレーネさんにキールは首を横に振る。
「モナが会いたいと言っているんだ」
キールがそう言うとアレーネさんは私に道を譲ってくれた。そして、私はキールの後ろを付いて行く。
「なぁ。モナ」
「何?」
「リアンを殺してきていいか?」
人を射殺さんばかりの目で人殺し発言をしないでほしい。それにリアンは魔王討伐の使命があるから、簡単に殺さないでほしい。
「リアンが魔王を討伐した後だったらいいんじゃない?」
「それは俺が殺されないか?」
まぁ、勇者として魔王を討伐した後のリアンはそれはそれは強くなっているだろうね。
「暗殺一択で」
「プッ。流石モナだな。はははh····。なぁ、なんでリリーだったんだ?なんでリリーじゃなければならなかったんだ?」
そう言って、キールはリリーの部屋の前で立ち止まった。きっとキールはこの20日間ずっと思っていたのだろう。だから、私は笑ってキールに言ってあげる。
「キール。私達の天使は幸せにならないといけないの!キールはリリーを幸せにするって約束したでしょ!約束は守らないとね。あ、部屋にはリリーと二人きりにしてね。女の子同士の内緒話があるから」
「モナ。お前····いや、ありがとう」
キールのその言葉を背に私はリリーの部屋に入って行った。
ひんやりと冷えた部屋の中に入っていく。初夏とは思えないほど部屋が冷えている。
そこにはヒューヒューと呼吸する音だけが部屋に響いていた。
窓際のベッドの上にはやせ細り、目がくぼみ落ち、くちびるがカサカサに乾いたリリーが横たわっていた。
ベッドの脇には雪華藤が水に付けられ冷気を放っている。これは冬の女神ティスカの神気が混じっていると言われている。言わばこの冷気が満たされた部屋は簡易的に神域を作り出していると。
全てのモノに冬の女神ティスカの神域が温かな春を待つ穏やかな眠りに誘うとされている。病の原因である高熱を生み出す細菌も活動を止め朽ちていくと。そう、朽ちていく。
弱いモノにはこの神域はキツすぎるのだ。だから、長居はできない。
ベッドの側にあった椅子に座り、骨と皮だけになったリリーの手を握る。本当に折れてしまいそうなほど、細い。
「どうかこの者に治癒の奇跡を施しください」
女神から戴いた治癒のスキルだ。別に文言なんて必要ないだろうが、女神ティスカに祈るぐらい、いいだろう。
するとどうだろう。リリー呼吸が安定し、心なしかふっくらしてきたような気がする。ただ、私の気分が徐々に悪くなってきた。やはり、いつも使っている真眼と違って、治癒のスキルは私の何かを減らしているのだろう。ステータスを開くとスタミナが凄い勢いで減っていた。このままだと流石に倒れてしまうというところでリリーから手を離した。
リリーの状態を確認してみると、呼吸は安定し、スースーと寝息が聞こえてくる。顔色も頬に赤みが差し、少しほっそりとしているが、先程の病的までに痩せこけた姿ではなかった。
リリーはこれで大丈夫だろう。
私は椅子から立ち上がる。···が、頭がクラクラする。やばいな。でも人様の家で倒れるわけにはいかない。気合で立ち上がり、扉を開け、部屋の外に出る。
「モナ。やっぱりリリーの姿を見て····」
キールの落ち込んだ声が聞こえてきた。どうやら、私の気分の悪さをリリーの痩せこけた姿を見たからだと思っているようだ。
「キール。リリーは大丈夫だから、えっと。私をおんぶで玄関まで運んでくれる?」
「了解」
そう言ってキールは背を向けて屈んでくれた。はぁ、本当にクラクラする。治癒のスキルは多用できないな。
「モナ殿!」
キールに運ばれて玄関から出てきた私を見て、ジュウロウザが駆け寄ってきた。ジュウロウザはキールに背負われていた私を抱えて、顔色を伺っている。
「モナちゃん、だから会わせたくなかったのに」
アレーネさんの声が聞こえるが顔を上げる元気すらない。
「モナどうしたんだ?」
父さんの声も聞こえる。
「家で休みたい」
それだけ。ただ、今の希望はそれだけ。気分悪過ぎ、頭がクラクラする。横になって休みたい。ただ····それ··だけ···。
リリーの姉であるアレーネさんの声が扉の向こうから聞こえてきたが、酷い声である。ずっと泣いていたのだろうか。
「モナです。リリーに会いにきました」
「も、モナちゃん!戻って来たの?熱は大丈夫?」
アレーネさんは勢いよく扉を開けて私の額に手を当ててきた。
「大丈夫です。リリーに会わせてもらえませんか?」
「モナちゃん。ごめんなさいね。リリーはまだ病が治ってないから会わせられないの」
やはり、会わせてもらえないのか。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
「アレーネさん。リリーの病は治りますよ。だから会わせてください。お願いします」
「でも、ね。その、ね」
アレーネさんの目が泳ぎ始めた。迷っているのだろう。これはもうひと押しか?
「モナ。入って来てリリー会ってくれ」
私がゴリ押しのお願いをする前に奥の方から声が掛けられた。アレーネさんの後ろから現れたのはキールだった。リリーと結婚すると浮かれに浮かれていたキールだ。しかし、その顔つきは以前と全く違っている。銀色の髪はボサボサで、深い緑色の目は人を射殺さんばかりに目つきが悪くなっている。
「キール!」
アレーネさんは私をリリーに会わせたくないのだろう。そんなアレーネさんにキールは首を横に振る。
「モナが会いたいと言っているんだ」
キールがそう言うとアレーネさんは私に道を譲ってくれた。そして、私はキールの後ろを付いて行く。
「なぁ。モナ」
「何?」
「リアンを殺してきていいか?」
人を射殺さんばかりの目で人殺し発言をしないでほしい。それにリアンは魔王討伐の使命があるから、簡単に殺さないでほしい。
「リアンが魔王を討伐した後だったらいいんじゃない?」
「それは俺が殺されないか?」
まぁ、勇者として魔王を討伐した後のリアンはそれはそれは強くなっているだろうね。
「暗殺一択で」
「プッ。流石モナだな。はははh····。なぁ、なんでリリーだったんだ?なんでリリーじゃなければならなかったんだ?」
そう言って、キールはリリーの部屋の前で立ち止まった。きっとキールはこの20日間ずっと思っていたのだろう。だから、私は笑ってキールに言ってあげる。
「キール。私達の天使は幸せにならないといけないの!キールはリリーを幸せにするって約束したでしょ!約束は守らないとね。あ、部屋にはリリーと二人きりにしてね。女の子同士の内緒話があるから」
「モナ。お前····いや、ありがとう」
キールのその言葉を背に私はリリーの部屋に入って行った。
ひんやりと冷えた部屋の中に入っていく。初夏とは思えないほど部屋が冷えている。
そこにはヒューヒューと呼吸する音だけが部屋に響いていた。
窓際のベッドの上にはやせ細り、目がくぼみ落ち、くちびるがカサカサに乾いたリリーが横たわっていた。
ベッドの脇には雪華藤が水に付けられ冷気を放っている。これは冬の女神ティスカの神気が混じっていると言われている。言わばこの冷気が満たされた部屋は簡易的に神域を作り出していると。
全てのモノに冬の女神ティスカの神域が温かな春を待つ穏やかな眠りに誘うとされている。病の原因である高熱を生み出す細菌も活動を止め朽ちていくと。そう、朽ちていく。
弱いモノにはこの神域はキツすぎるのだ。だから、長居はできない。
ベッドの側にあった椅子に座り、骨と皮だけになったリリーの手を握る。本当に折れてしまいそうなほど、細い。
「どうかこの者に治癒の奇跡を施しください」
女神から戴いた治癒のスキルだ。別に文言なんて必要ないだろうが、女神ティスカに祈るぐらい、いいだろう。
するとどうだろう。リリー呼吸が安定し、心なしかふっくらしてきたような気がする。ただ、私の気分が徐々に悪くなってきた。やはり、いつも使っている真眼と違って、治癒のスキルは私の何かを減らしているのだろう。ステータスを開くとスタミナが凄い勢いで減っていた。このままだと流石に倒れてしまうというところでリリーから手を離した。
リリーの状態を確認してみると、呼吸は安定し、スースーと寝息が聞こえてくる。顔色も頬に赤みが差し、少しほっそりとしているが、先程の病的までに痩せこけた姿ではなかった。
リリーはこれで大丈夫だろう。
私は椅子から立ち上がる。···が、頭がクラクラする。やばいな。でも人様の家で倒れるわけにはいかない。気合で立ち上がり、扉を開け、部屋の外に出る。
「モナ。やっぱりリリーの姿を見て····」
キールの落ち込んだ声が聞こえてきた。どうやら、私の気分の悪さをリリーの痩せこけた姿を見たからだと思っているようだ。
「キール。リリーは大丈夫だから、えっと。私をおんぶで玄関まで運んでくれる?」
「了解」
そう言ってキールは背を向けて屈んでくれた。はぁ、本当にクラクラする。治癒のスキルは多用できないな。
「モナ殿!」
キールに運ばれて玄関から出てきた私を見て、ジュウロウザが駆け寄ってきた。ジュウロウザはキールに背負われていた私を抱えて、顔色を伺っている。
「モナちゃん、だから会わせたくなかったのに」
アレーネさんの声が聞こえるが顔を上げる元気すらない。
「モナどうしたんだ?」
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