勇者の幼なじみに転生してしまった〜幼女並みのステータス?!絶対に生き抜いてやる!〜

白雲八鈴

文字の大きさ
77 / 121

77 治癒のスキル

しおりを挟む
「どなた?」

 リリーの姉であるアレーネさんの声が扉の向こうから聞こえてきたが、酷い声である。ずっと泣いていたのだろうか。

「モナです。リリーに会いにきました」

「も、モナちゃん!戻って来たの?熱は大丈夫?」

 アレーネさんは勢いよく扉を開けて私の額に手を当ててきた。

「大丈夫です。リリーに会わせてもらえませんか?」

「モナちゃん。ごめんなさいね。リリーはまだ病が治ってないから会わせられないの」

 やはり、会わせてもらえないのか。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。

「アレーネさん。リリーの病は治りますよ。だから会わせてください。お願いします」

「でも、ね。その、ね」

 アレーネさんの目が泳ぎ始めた。迷っているのだろう。これはもうひと押しか?

「モナ。入って来てリリー会ってくれ」

 私がゴリ押しのお願いをする前に奥の方から声が掛けられた。アレーネさんの後ろから現れたのはキールだった。リリーと結婚すると浮かれに浮かれていたキールだ。しかし、その顔つきは以前と全く違っている。銀色の髪はボサボサで、深い緑色の目は人を射殺さんばかりに目つきが悪くなっている。

「キール!」

 アレーネさんは私をリリーに会わせたくないのだろう。そんなアレーネさんにキールは首を横に振る。

モナ・・が会いたいと言っているんだ」

 キールがそう言うとアレーネさんは私に道を譲ってくれた。そして、私はキールの後ろを付いて行く。

「なぁ。モナ」

「何?」

「リアンを殺してきていいか?」

 人を射殺さんばかりの目で人殺し発言をしないでほしい。それにリアンは魔王討伐の使命があるから、簡単に殺さないでほしい。

「リアンが魔王を討伐した後だったらいいんじゃない?」

「それは俺が殺されないか?」

 まぁ、勇者として魔王を討伐した後のリアンはそれはそれは強くなっているだろうね。

「暗殺一択で」

「プッ。流石モナだな。はははh····。なぁ、なんでリリーだったんだ?なんでリリーじゃなければならなかったんだ?」

 そう言って、キールはリリーの部屋の前で立ち止まった。きっとキールはこの20日間ずっと思っていたのだろう。だから、私は笑ってキールに言ってあげる。

「キール。私達の天使は幸せにならないといけないの!キールはリリーを幸せにするって約束したでしょ!約束は守らないとね。あ、部屋にはリリーと二人きりにしてね。女の子同士の内緒話があるから」

「モナ。お前····いや、ありがとう」

 キールのその言葉を背に私はリリーの部屋に入って行った。

 ひんやりと冷えた部屋の中に入っていく。初夏とは思えないほど部屋が冷えている。
 そこにはヒューヒューと呼吸する音だけが部屋に響いていた。
 窓際のベッドの上にはやせ細り、目がくぼみ落ち、くちびるがカサカサに乾いたリリーが横たわっていた。

 ベッドの脇には雪華藤が水に付けられ冷気を放っている。これは冬の女神ティスカの神気が混じっていると言われている。言わばこの冷気が満たされた部屋は簡易的に神域を作り出していると。
 全てのモノに冬の女神ティスカの神域が温かな春を待つ穏やかな眠りに誘うとされている。病の原因である高熱を生み出す細菌も活動を止め朽ちていくと。そう、朽ちていく。
 弱いモノにはこの神域はキツすぎるのだ。だから、長居はできない。

 ベッドの側にあった椅子に座り、骨と皮だけになったリリーの手を握る。本当に折れてしまいそうなほど、細い。

「どうかこの者に治癒の奇跡を施しください」

 女神から戴いた治癒のスキルだ。別に文言なんて必要ないだろうが、女神ティスカに祈るぐらい、いいだろう。

 するとどうだろう。リリー呼吸が安定し、心なしかふっくらしてきたような気がする。ただ、私の気分が徐々に悪くなってきた。やはり、いつも使っている真眼と違って、治癒のスキルは私の何かを減らしているのだろう。ステータスを開くとスタミナが凄い勢いで減っていた。このままだと流石に倒れてしまうというところでリリーから手を離した。

 リリーの状態を確認してみると、呼吸は安定し、スースーと寝息が聞こえてくる。顔色も頬に赤みが差し、少しほっそりとしているが、先程の病的までに痩せこけた姿ではなかった。
 リリーはこれで大丈夫だろう。

 私は椅子から立ち上がる。···が、頭がクラクラする。やばいな。でも人様の家で倒れるわけにはいかない。気合で立ち上がり、扉を開け、部屋の外に出る。

「モナ。やっぱりリリーの姿を見て····」

 キールの落ち込んだ声が聞こえてきた。どうやら、私の気分の悪さをリリーの痩せこけた姿を見たからだと思っているようだ。

「キール。リリーは大丈夫だから、えっと。私をおんぶで玄関まで運んでくれる?」

「了解」

 そう言ってキールは背を向けて屈んでくれた。はぁ、本当にクラクラする。治癒のスキルは多用できないな。

「モナ殿!」

 キールに運ばれて玄関から出てきた私を見て、ジュウロウザが駆け寄ってきた。ジュウロウザはキールに背負われていた私を抱えて、顔色を伺っている。

「モナちゃん、だから会わせたくなかったのに」

 アレーネさんの声が聞こえるが顔を上げる元気すらない。

「モナどうしたんだ?」

 父さんの声も聞こえる。

「家で休みたい」

 それだけ。ただ、今の希望はそれだけ。気分悪過ぎ、頭がクラクラする。横になって休みたい。ただ····それ··だけ···。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

処理中です...