100 / 709
8章 赤い呪いと青い呪い
93
しおりを挟む
「はぁ。アンディウム第2師団長さんは称号の変更されたことを普通に信じて行動してくれましたよ。ですから、わたしが複雑化しているのではなく、あなた方が信じないことに問題があるのでは?」
「今までのあなたの行動を見て、どう信用しろというのです。門兵に絡まれて、業務執行妨害で連れていけば、第5師団が壊滅。おかげで王都の警邏を担う第6師団が門兵の業務までしなければならなくなりましたし、師団長の家に押し掛けて、師団長を殺そうとしていましたよね。その後、師団長は使い物にならなくなって本当に困ったのですからね。」
「それ、私怨が入っていますよね。前から思っていましたが、なぜ、わたしが第5師団を壊滅したことになっているのですか?『YesロリータNoタッチ』と言いながら、ルーちゃんに近づいてきた人を殴ったことは認めましょう。しかし、建物を壊して被害を甚大にしたのは、元統括副師団長の今はトーセイにいるギルドマスターですよね。あと、そこのクスト師団長さんの件は奥さまに用件があっただけで、師団長さんはこの青いくすりを自ら飲んだのですから、わたしは殺そうとはしていないですよ。」
「第5師団ってそんな感じだった?」
イーリスクロム陛下が疑問を口にすると、第6師団の兵たちが一斉に横を向く。触れられたくないようだ。代表として師団長であるクストが口を開く。
「第5師団のモットーは『可愛い子に危害を加えるヤツは門より中に入れない』だそうです。特に第5師団長の直感というやつは侮れなかったです。」
クストは遠い目をしながら話している。きっと、警邏隊と門兵の間柄でいろいろあったのだろう。
「第5師団が編成されないのは危険だからって聞いたけど、てっきり彼女が原因だと思ったんだけどな。違うのかな?」
当時の状況はただ単にシンプルだった。少し、その当時のことに触れてみよう。
シェーリーが8歳、ルークが3歳のときのことだ。そのときのシェリーの髪は黒髪のままであり、見た目から勇者と聖女の血筋が伺われる容姿だった。この国の住んでいる人たちのシェリーに対する反応は二分した。黒を忌避する反応と魔王という脅威を退けた勇者の血筋が垣間見える容姿に好意を向ける反応だ。直接的に勇者の番狂いの影響を受けなかったシーラン王国だからこその反応である。
その日、シェリーとルークは天気が良かったために西第二層内を散歩をしていた。第三層と違い滅多に人には会わず、人の目線を気にせずに散歩ができるのだ。
そこに一人の女性が道に座り込んでいた。人の行来は馬車か騎獣かで移動することが多い場所なので珍しい事だった。近付いて行くと思っていたより大柄の赤髪の女性で、大きなお腹を抱えていることから緊急事態のようだ。
「大丈夫ですか?近くに人はいませんか?」
とシェリーが尋ねると、女性は顔を上げ脂汗を額に滲ませながら
「ナオフミ?」
とシェリーに向かって言ったのだ。シェリーの顔に不快感があらわれる。あのクソ勇者に間違われるなんてどんな目を持っていると危うく妊婦を殴りそうになったが思いとどまり
「わたしは勇者ではありません。お付きの方はいらっしゃらないのですか?」
「ああ、すまん。運動がてら、兄のところに行こうと思っていたから、一人なのだ。」
女性にしては言葉遣いが少々荒い気がする。ここから一番近くに人がいる場所と言えば、西第一層門の門兵の詰め所だ。そこまで行って、女性の助けを呼ぶのがいいのか、女性の家に行って家人を呼んで来るのがいいのか迷うところだ。
「人の手がいるかと思うのですが、西第一層門の門兵が一番近いのですがどうされますか?」
「第一層門?ここからだと直ぐか。すまんが、これを持って門兵に騎獣を連れて来てくれないかと頼んでくれないか?」
シェリーに手渡された物を見るとそれは軍の階級を示す軍章だった。言葉遣いが女性らしくないと思っていたら、どうや軍属している人物のようで、ナオフミの名が出たということは、この女性も討伐隊にいたようである。
子供にそんな階級章をやすやす渡していいものなのだろか。しかし、今は緊急事態だそんなことを言っている暇はない。シェリーは魔力で身体強化を行い、ルークを抱え大通りを走り抜け、第一層門までそのまま走り抜ける。
その姿を見た門兵は目を見開き固まっていた。
そして、門兵の姿を確認したシェリーは眉をひそめる。その門兵は時々、西第二層門にいて、シェリーとルークに怪しい視線を投げかけてくる人物だからだ。
「門兵さん、一番通りの道の途中で妊婦の女性が動けなくなってしまっているので助けて上げてください。その女性から、これを預かってきまして、騎獣を連れて来てほしいと言われました。」
シェリーは階級章を門兵に手渡した。
「これは、リベラ軍曹の階級章!」
あの女性は軍曹だった。
「おい、シル!騎獣を直ぐに用意しろ!」
隣にいた門兵に命令しているのをシェリーは聞き、役目は終わったとばかりに元きた道を戻ろうとしたとき
「お嬢ちゃんたち、ありがとうな。お礼にお菓子をあげよう。」
「え?いらない。知らない人から物はもらいません。」
「あ。」
よく門兵として立っている自分に対して知らない人と言われてショックを受けているようだ。
「だんちょー。用意できましたよー。」
すごく、感じの軽い人物がやってきた。先程、命令された人物ではなく、別の人物がやってきた、なめらかな鱗の太い尾からトカゲ人だと思われる。
「もしかして、だんちょー。好みの美幼女に嫌われて落ち込んじゃってる?」
「嫌われてなどいない!俺のモットーは『YesロリータNoタッチ』だ!」
そう言いながら、近付いてきた門兵をシェリーは思わず、ルークを抱きかかえたまま捩じり込むようにスクリューアッパーをくりだすのであった。
________________
補足
『YesロリータNoタッチ』と言って近付いてきた門兵はシェリーとルークを含めて美幼女という認識だが、シェリーの脳内では怪しい言動をしながらルークに近づく危険人物という認識です。
「今までのあなたの行動を見て、どう信用しろというのです。門兵に絡まれて、業務執行妨害で連れていけば、第5師団が壊滅。おかげで王都の警邏を担う第6師団が門兵の業務までしなければならなくなりましたし、師団長の家に押し掛けて、師団長を殺そうとしていましたよね。その後、師団長は使い物にならなくなって本当に困ったのですからね。」
「それ、私怨が入っていますよね。前から思っていましたが、なぜ、わたしが第5師団を壊滅したことになっているのですか?『YesロリータNoタッチ』と言いながら、ルーちゃんに近づいてきた人を殴ったことは認めましょう。しかし、建物を壊して被害を甚大にしたのは、元統括副師団長の今はトーセイにいるギルドマスターですよね。あと、そこのクスト師団長さんの件は奥さまに用件があっただけで、師団長さんはこの青いくすりを自ら飲んだのですから、わたしは殺そうとはしていないですよ。」
「第5師団ってそんな感じだった?」
イーリスクロム陛下が疑問を口にすると、第6師団の兵たちが一斉に横を向く。触れられたくないようだ。代表として師団長であるクストが口を開く。
「第5師団のモットーは『可愛い子に危害を加えるヤツは門より中に入れない』だそうです。特に第5師団長の直感というやつは侮れなかったです。」
クストは遠い目をしながら話している。きっと、警邏隊と門兵の間柄でいろいろあったのだろう。
「第5師団が編成されないのは危険だからって聞いたけど、てっきり彼女が原因だと思ったんだけどな。違うのかな?」
当時の状況はただ単にシンプルだった。少し、その当時のことに触れてみよう。
シェーリーが8歳、ルークが3歳のときのことだ。そのときのシェリーの髪は黒髪のままであり、見た目から勇者と聖女の血筋が伺われる容姿だった。この国の住んでいる人たちのシェリーに対する反応は二分した。黒を忌避する反応と魔王という脅威を退けた勇者の血筋が垣間見える容姿に好意を向ける反応だ。直接的に勇者の番狂いの影響を受けなかったシーラン王国だからこその反応である。
その日、シェリーとルークは天気が良かったために西第二層内を散歩をしていた。第三層と違い滅多に人には会わず、人の目線を気にせずに散歩ができるのだ。
そこに一人の女性が道に座り込んでいた。人の行来は馬車か騎獣かで移動することが多い場所なので珍しい事だった。近付いて行くと思っていたより大柄の赤髪の女性で、大きなお腹を抱えていることから緊急事態のようだ。
「大丈夫ですか?近くに人はいませんか?」
とシェリーが尋ねると、女性は顔を上げ脂汗を額に滲ませながら
「ナオフミ?」
とシェリーに向かって言ったのだ。シェリーの顔に不快感があらわれる。あのクソ勇者に間違われるなんてどんな目を持っていると危うく妊婦を殴りそうになったが思いとどまり
「わたしは勇者ではありません。お付きの方はいらっしゃらないのですか?」
「ああ、すまん。運動がてら、兄のところに行こうと思っていたから、一人なのだ。」
女性にしては言葉遣いが少々荒い気がする。ここから一番近くに人がいる場所と言えば、西第一層門の門兵の詰め所だ。そこまで行って、女性の助けを呼ぶのがいいのか、女性の家に行って家人を呼んで来るのがいいのか迷うところだ。
「人の手がいるかと思うのですが、西第一層門の門兵が一番近いのですがどうされますか?」
「第一層門?ここからだと直ぐか。すまんが、これを持って門兵に騎獣を連れて来てくれないかと頼んでくれないか?」
シェリーに手渡された物を見るとそれは軍の階級を示す軍章だった。言葉遣いが女性らしくないと思っていたら、どうや軍属している人物のようで、ナオフミの名が出たということは、この女性も討伐隊にいたようである。
子供にそんな階級章をやすやす渡していいものなのだろか。しかし、今は緊急事態だそんなことを言っている暇はない。シェリーは魔力で身体強化を行い、ルークを抱え大通りを走り抜け、第一層門までそのまま走り抜ける。
その姿を見た門兵は目を見開き固まっていた。
そして、門兵の姿を確認したシェリーは眉をひそめる。その門兵は時々、西第二層門にいて、シェリーとルークに怪しい視線を投げかけてくる人物だからだ。
「門兵さん、一番通りの道の途中で妊婦の女性が動けなくなってしまっているので助けて上げてください。その女性から、これを預かってきまして、騎獣を連れて来てほしいと言われました。」
シェリーは階級章を門兵に手渡した。
「これは、リベラ軍曹の階級章!」
あの女性は軍曹だった。
「おい、シル!騎獣を直ぐに用意しろ!」
隣にいた門兵に命令しているのをシェリーは聞き、役目は終わったとばかりに元きた道を戻ろうとしたとき
「お嬢ちゃんたち、ありがとうな。お礼にお菓子をあげよう。」
「え?いらない。知らない人から物はもらいません。」
「あ。」
よく門兵として立っている自分に対して知らない人と言われてショックを受けているようだ。
「だんちょー。用意できましたよー。」
すごく、感じの軽い人物がやってきた。先程、命令された人物ではなく、別の人物がやってきた、なめらかな鱗の太い尾からトカゲ人だと思われる。
「もしかして、だんちょー。好みの美幼女に嫌われて落ち込んじゃってる?」
「嫌われてなどいない!俺のモットーは『YesロリータNoタッチ』だ!」
そう言いながら、近付いてきた門兵をシェリーは思わず、ルークを抱きかかえたまま捩じり込むようにスクリューアッパーをくりだすのであった。
________________
補足
『YesロリータNoタッチ』と言って近付いてきた門兵はシェリーとルークを含めて美幼女という認識だが、シェリーの脳内では怪しい言動をしながらルークに近づく危険人物という認識です。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
975
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる