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12章 不穏な影

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 佐々木は、亜空間収納の鞄から作りおきの食事を取り出し、小さいキッチンで温めなおす。
 佐々木の作りおきは幼いルークの為に作られた食事なので全てルークの好物ばかりが並んでいる。これも時間経過がない亜空間収納だからできることなのだが、成人した男性に出すには些か抵抗があるものだ。
 しかし、前回散々笑われた佐々木は開き直り、クマ形のハンバークや星形やハート形の人参が入ったスープを並べだす。

 この料理を見てどうやらシェリーだが、シェリーではないとグレイもスーウェンもオルクスも気がついたようである。

 食事をしながらもオルクスとカイルは扉の向こう側を気にしている。やはり、気づいていなかったのはシェリーだけだったようだ。

「今回はどうしたのですか?」

 食事が終わりお茶を出したところでスーウェンが聞いてきた。

「今回の事で、少し私が口出しをしたので、わたしがへそを曲げてしまったのです。」

「どういう事ですか、ご主人様。」

 スーウェンが佐々木に聞いてくるが、確かに理解不能な言葉ではあったであろう。

「貴方達は気づいていたのでしょ?この旅に第4師団の監視が付いていることに。そして、昨日宿泊した街に第9師団長さんまで配属されていた。でも、わたしは、シェリーは気づいていなかったのです。第4師団長さんの言葉で気がついたので、私が危機管理は大切よって言ったら、『気づいていたのなら、なぜ教えてくれなかった』って怒られてしまったのですよ。」

「貴女には分かってシェリーに分からない事なんて、あり得るのですか?もとは同じシェリーだと聞きましたが?」

 確かにそうだ。元が同じなら得られる情報は同じはずだ。

「経験の差でしょうか。考えれば第4師団長さんだけが責任者としていることがおかしいと思いますよね。そういうところがわたしには足りないのです。今までは何と私が出て補ってきましたが。」

「それは、貴女とシェリーは全く違うということですか?」

「そうではなく。わかりやすく言えば大人のシェリーと背伸びをした10歳の子供のシェリーですかね?」

「「「は?」」」

「わたしはあのオリバーにすがり付いて泣く事はしないですよ。するのは子供ぐらいです。」

 佐々木の『あの』は何を表しているかわからないが、年頃の娘が自分より美人の男に縋りつけるのかと、怪しい物を生み出し続ける奇人に縋りつけるのかと、どちらにも取れてしまう。

「でも、ササキさんとシェリーは一人なんでしょ。」

 カイルが佐々木に尋ねる。

「それが?」

 それがどうしたと。

「シェリーが困るとササキさんも困ることになると思うよ。ねぇ。ササキさんは何から逃げているの?世界から?俺たちから?異世界にある・・。」

 その先は言葉を紡げなかった。佐々木が一瞬でカイルに詰め寄り、刀をカイルの首元に当てていたのだ。

「何が言いたいのですか?私が居なくても世界は廻り続けるそれが事実です。私が居なくても役目を果たすシェリーがいればいい。神が欲しているのは・・・。神の・・・。」

 佐々木は言葉を止め、刀を収め何かを考え始めた。そして、何かを思い出すように言葉を発する。

「『神々は我々を観ている。退屈な日々の肴にしようと、狂宴を喜び、私の苦しむ姿を嘲笑っているのだ。』」

「それは?」

「ドルロール遺跡の100階層にある大魔女エリザベートが刻んだ文字です。コレが答えです。カイルさんに問われた答えであり、生贄の答えです。」

「生贄?」

 佐々木はそれには答えず。

「もう、この話は終わりです。私は休みます。」

 そう言って、佐々木は奥の部屋に入っていく。窓側にあった一人がけのソファに座り、ため息を吐く。シェリーが思い至らず分からなかった答えに佐々木は行き着いてしまった。

 光の巫女。神の降臨。生贄。エリザベート。それはマルス帝国の思惑では無くおそらく、サウザール公爵個人の思惑。

「最悪。馬鹿馬鹿しい。そんな事のために。」

 しかし、サウザール公爵が光の巫女まで行き着いたと言うことは、彼女の何かしらの手記か資料かを手に入れたと思われる。一体どこで?ラースで手に入れる事は出来ない。そもそも残しているとは考えにくい。となると

「グローリア国」

 これは一度グローリアに行かなければならなくなった。

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