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13章 死の国

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モルテ様の意ですか。」

 レガートスはシェリーを見る。その真意を探るように

「貴女はどの神の手となっているのでしょうか。」

 シェリーは上を見上げる。天井の先の天を見つめた。

「聖女を決める神は一柱です。人を嘲笑い現実を突きつけ、叩き落とす神です。」

「ハハハ。やはり、我々の選択は正しかった。それでも貴女は付き従うのでしょうか?」

「ええ。それが私の役目ですから。」

「貴女は愚かですね。」

「愚か?愚かはあなた達の方ではないですか。聖女を魔人へと変貌させたきっかけを作り、世界の浄化を阻害し、ここまで世界を汚すことになった全ての起点はカウサ神教国ではないですか。」

「その代わりこちらも酷い痛手を負いましたけどね。話はここまでにしましょう。」

 レガートスは立ち上がり、シェリーを見てニヤリと笑う。

「黒の聖女様がモルテ様の意で動いていることがわかっただけでも確認できて良かったです。その御言葉は王に伝えておきましょう。では、またお迎えにあがります。その時は本来の姿でいてくださることを願っていますよ。」

 そう言ってレガートスは霧の様に消えた。
 シェリーはため息を吐いた。あの者がブライが頭を抱え、ノートルが青い顔をしていた原因の人物なのだろう。マリートゥヴァから情報を聞いていなかったら、飲み込まれていたのはシェリーの方だったに違いない。

 マリートゥヴァ曰く従兄弟だったレガートゥスティラーはムカつくの一言で表せられるらしい。人の嫌なことを的確に突いてくる。人を嘲笑い貶してくる最低な男だと言っていた。自分の立場というものが無かったら、後ろから突き落としていただろうと。

 だから、表情を読み取らせない。相手のいいように話を進めない。切り札は用意しておくこと。と言われたが、シェリーにとってあまり関係のないことだったので、適当に聞き流していた。まさか、マリートゥヴァが嫌悪感を抱いていた一部隊の隊長が国の外交を担っているなんて思いもよらなかった。

「シェリー大丈夫か?」

 グレイが床に膝を付き、シェリーに目線を合わせて聞いてきた。

「少し疲れました。」

 それはそうだろう。4刻間8時間騎獣に乗り続け、その後にこの国を外交官との話だ。肉体的にも疲れているのに精神的疲労も加算されてしまったのだから

「まだ、時間かあるから1刻二時間程休むといいよ。」

 そうカイルに言われ、シェリーは素直に奥の部屋のベッドに横になり眠った。


 シェリーはひつぎの中にいた。いや、正確には夢の中のひつぎだ。
 一度だけ呼ばれた事があるが、相変わらずの悪趣味な夢である。
 シェリーは起き上がり、ひつぎの外に出る。そこは地下の様に薄暗く、沢山のひつぎが整然と並んでいた。
 目の前のひつぎに腰掛ける人物がいるが、人と言っていい容姿ではない。骨だけの骸骨が分厚い豪華なマントを羽織、骨だけの頭に王冠を被っている。死の神モルテの姿である。

『久しぶりだな。』

 骸骨に声帯があるかどうかわからないが、シェリーに声を掛けてきた。シェリーはあの謎の生命体にはしない礼をこの骸骨姿の神に腰を折り行った。

「お久しぶりです。何かようですか?」

『そうだな。君がこの国に来たのが楽しみで待ち切れなかったのだ。』

「来たくありませんでしたが?」

『カカカ。』

 モルテは骨を鳴らしながら笑った。

『先程の君の言葉で気付かされしまってな。可哀相なあの者達に与えた死のない死は時の流れを止めた肉体だ。それを君の聖魔術で元に戻せば、過ぎた時が肉体を襲い崩れさるなぁーと』

 モルテは骨の顎を撫でながら、困った風を醸し出しているが骨なので表情が全く分からない。

「そうなるでしょうね。」

 シェリーは淡々と答える。
 モルテは分厚い豪華なマントの中からワイングラスのような形の金属の容器を取り出し、シェリーの方に向かって手放した。それは浮遊しながらシェリーの前にたどり着く。

「何ですかこれは?」

 シェリーはとても嫌そうに尋ねた。それは聖杯と言っていいかもしれない形だが、黒光りする金属容器の中には、墨のように微妙に光沢のある黒色の液体が入っていた。

『死のある生にする物だ。はぁ。我と闇の神が創り出した新たな種族の中で正気を保っている者はホンの僅かに過ぎない。永き時がそうさせたのか、狂った王の影響か、それは我らにも分からないのだ。あの御方なら御存知かもしれないが。』

 神であっても分からないことがあると。そして、あの謎の生命体なら知っているだろうと言う。神というものにも神格差があるようだ。
 しかし、シェリーは正気でいられた者と正気を保てない者の違いは何となくわかっていた。佐々木の世界で想像の存在ではあったが、もし謎の生命体が死の神と闇の神の慈悲に面白がって手を加えたとしたら?

「ただの吸血衝動ではないですか?」

『うぇ?知っているのか!』

 そう言って、豪華な洋装の骸骨がシェリーに迫ってきた。迫力があり過ぎる。

「吸血鬼ですから、食事行動が満足に行えないとすれば、おかしくもなりますよね。」

 死の国に生者はほとんどいない。居ても結界の中から出ることはない。そんな国で満足に食事ができるとは思えないのだ。

『そんな事だったのか。うーん。・・・・。そこの液体にちょこっと血を入れてくれない「お断わりします。」か?』

 シェリーは被せながら返事をする。

『何となく君の血が良いような気がする。むすm・・・・。』

 シェリーはその先を言わせなかった。骸骨の頸椎を掴みながら

「1個抜きますか?2個抜きますか?」

 と神であるモルテを脅していた。

『ああ。うん。あの王の番のの血で良いよ。』

 その言葉を聞いたシェリーは骸骨を解放した。モルテは首を撫でながら『神である我にも容赦しないなんて』とブツブツ言いながらシェリーから距離をとっている。
 モルテは元いた位置に戻り棺の上に再び座った。

『まぁ。あれだ。それは可哀想な者達に与えるといい。あと、あの王の正気は少し保つ様にしておいたから、さっさと対処するといい。君の知りたいことがわかるだろう。』

 正気を保つ。レガートスもそのような事を言っていた。神の手を借りなければ正気を保てないなど、余程のことがあるのだろう。
 モルテは上を見上げ骨を鳴らしながら笑い出した。

『カカカ。君のつがい達は必死だな。あの御方にいいように遊ばれたのか?』

「何のことですか?」

『君を起こそうと呼びかけている。それとも我が接触したのが気に入らないのか?』

「さぁ。」

『君がそんなんじゃ、つがい達も大変だ。カカカ。』

 そう言って、モルテは闇の中に消えて行った。

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