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20章 趣味と実用性を兼ね備えたモノは奇怪な存在

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カイルside
 必要ない。何度もシェリーから言われる言葉だ。言われる度に心が張り裂けそうに痛い。
 番のシェリーから言われると息が出来ないほどの苦しみが胸を占める。

 ここ最近シェリーの態度から明らかに壁を感じてしまう。どうすれば許してもらえるのかわからない。

「はぁ」

「竜の兄ちゃん。困り果ててるのかな?」

 後ろから声が聞こえ振り向けば、黒髪、黒目の女性が立っていた。ダンジョンマスターのヨーコだ。
 彼女の気配はいつもわからない。ここがダンジョンだからなのか、それともダンジョンマスターというものだからか。

「シェリーなら、地下に行ったぞ」

「知ってるよ。ただ、ササッちが苛つく原因の黒わんこ君がいるからね。様子を見に来ただけ」

 苛つく原因の黒わんこ?黒狼クロードのことだと思うが、彼が原因なのか?

「彼がシェリーの機嫌を損ねているのか?」

「ん?ササッちの機嫌が悪い原因?それは君達だと陽子さんは思うよ。解決方法を教えてあげようか?」

 それはわかっている。

「シェリーの側に立てるぐらいに強くなれということだろう?」

「違うよ。一番簡単なことは、ルーク君に口添えしてもらうこと」

 ルークから?確かにシェリーはルークに対して甘いが、それでは根本的に解决になっていない。

「もしかして、それは違うって思っている?ルーク君もシスコンだからね。ルーク君に認めてもらうのも大変だと思うよ」

 しすこん?何かよくわからいがシェリーの事を大切にしているという意味なのだろう。

「陽子さん的には『ルーちゃんが言うから仕方がなく一緒に居てあげるんだからね』と上目遣いでツンデレ風に言って欲しいな」

 ヨーコはそう言いながら、リビングの扉を見ている。いや多分その中を見ているのだろう。しかし、彼女の言っている意味がわからない。

「やっぱり、黒わんこ君全然ダメだよね。口で説明するより、体に叩き込むタイプだからね」

「ヨーコさんは彼を知っているのか?」

「まぁ。私のダンジョンを破壊しまくったのは黒わんこ君だからね。今でも怒りがこみ上げて来るよね」

 以前、ヨーコが話していた進めないからといってダンジョンを破壊して進もうとした張本人がクロードだったのか。

 扉の向こう側が騒がしくなって、扉が内側から開いた。

「だから、テメェーら表に出ろって言ってるんだ!」

 イライラした感じのクロードが中から出てきた。何か話がこじれたのだろうか。
 クロードが廊下に出てきて、目の前にいた俺とヨーコに気がついたようで、目線をこちらに向けたまま止まってしまった。

「あ・・・に・・・」

 あに?クロードは何を言いたのだろう。

「日本人!お前日本人だよな!」

 そう言いながら、クロードはヨーコに近寄って行ったが、ヨーコがかかとでカツンと床を叩くと、こちらとクロードの間に石の壁がせり上がってきた。

 これはヨーコのクロードに対する壁なんだろう。

「あっ。ちょっと話ぐらい聞いてくれ」

「聞く耳は持ちません。だから、ローリリアちゃんから『人の話をよく聞け』って言われるんですよ」

「なんで、ローリリアの名が出てくるんだ?それに、まだ何も話をしてない」

「豹の兄ちゃんの質問。鬼くんの質問。ちゃんと意味わかっていた?意味わかんないこといってさぁ、勝手に苛ついて表に出ろ?黒わんこ君このままダンジョンに落としてあげようか?」

「う・・黒わんこ・・・」

 壁に阻まれて分からないが、クロードは落ち込んでいるような気がする。狼族は犬扱いされるのことは屈辱的な事だと誰かから聞いた事がある。

「陽子さん、こんなところに壁を作らないでもらえますか?それから、ダンジョンに落としても私の力はそこまで届きませんよ」

 シェリーが地下から上がってきた。頼み事は終わったのだろうか。しかし、この時間にオリバーを見かけたことがなかったが、起きていたのだろうか。

「ササッち、なんでこんな馬鹿を喚び出したの?陽子さんは殺意がムクムクと湧いて来るんだけど?」

「聞きたいことがあると言われたので、もう一度喚び出しただけですよ。それから、陽子さんの変な言葉にオリバーが興味津々なので後で説明しておいてください」

「およ?何か変な言葉って言ったかな?」

「ツンデレ」

「おお、ササッちのツンデレが見たいってやつだね。相変わらずここじゃ内緒話も出来ないよね。筒抜けだね」

 それはダンジョンマスターのヨーコが言う言葉ではないだろう。彼女もここであった事は全て把握しているのではないのか?

「ツンデレだと!」

 壁の向こうから声が聞こえた。

「ツンデレならその性格の悪さも許せる・・・ぐふっ!」

 クロードの言葉を遮る様にシェリーが壁ごとクロードを殴っていた。『つんでれ』とは何なのだろう。

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