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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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「お!流石に嬢ちゃんの飯を毎日食べていると、気がついたか」
厨房の奥でジェフがニヤリと笑った。
シェリーの料理。
しかし、出された物は目の前でジェフが作ったものだ。これは、シェリーがレシピを提供したということだろう。
だが、それぐらいでカイルが怒ることはないはずだ。
「食後のパフェまだですか」
カイルの隣では食後のパフェを要求するシェリー。シェリーからの要求でミーニャがトレイに乗せて生クリームとアイスに果物が盛られたパフェを持ってきた。
「おまたせにゃ!」
出されたパフェをシェリーの前から取り上げる。
「どういうことだ?」
「私のパフェを返してください」
「これもそうだが、パフェという食べ物もここしか見たことがないよな」
「それは嬢ちゃんが疲れたあとには、甘いものが食べたくなるっていうから、メニューに入れてるんだ。ヤロー共にも受けがいいから驚きだよな」
ジェフがメニューに入れた理由を言っているが、別にそういう事をカイルは問いたいのではない。色んな国を巡ってきたカイルだ。ここの人たちが普通に受け入れているから、そういうものだと思っていたが、おかしいと思い始めると、次々に疑問が湧き出てきた。
5年程、王都を中心に冒険者というものをしてきた。冒険者をしていると食事など取れればいいと近場の併設の食堂を使っていた。その食堂は今までのところと違って美味しく、そのまま行き付けのようになっていたが、美味し過ぎるのだ。
ジェフの腕だと言ってしまえばそれまでなのだが、シェリーの作ったものと変わらない。
いや、同じと言っていいほどだった。
なぜ、そこまでカイルが怒っているのか。シェリーの料理を手伝ってきてわかったことだが、シェリーの使っている調味料が普通では手に入らないものばかりだからだ。こんな一般食堂では絶対に手に入らない炎国産の物だからだ。そして、異界の物も混じっている。
だから、全く同じ味つけなど不可能なのだ。
「チート級の料理スキルを持っているジェフさんに再現できない料理なんてありませんよ。アイスが溶けるのでいい加減に返してください」
「チート級?」
カイルは意味がわからないとジェフを見る。その間にシェリーはカイルからパフェを奪い取り、口にして満足していた。
「おう。俺にできない料理は無いぞ。まぁ、一度食べればという条件はあるが」
厨房の奥で偉そうにジェフが言っているが、どうやらスキルで料理を作っていたようだ。しかし、それの何処がチート級なのだろうか。
パフェを食べているシェリーが、おもむろに箱をジェフに差し出す。
「チーズケーキです」
受け取った箱を開けるジェフ。中には丸く光沢のあるケーキが入っていた。それをジェフは切り取って一口食べる。
その横ではミーニャがよだれを垂らしながらチーズケーキを見ている。
ジェフは頷いて、厨房の奥に消えていった。
「カイルさん、厨房に入ってジェフさんの作っているものを見て来てください」
「え?厨房に?」
勝手に入っていいのかという疑問だ。
「入っていいにゃ」
ミーニャが手招きをしてカイルが入って来るのを促す。困惑しながらシェリーを見るが、シェリーはパフェに夢中であり、カイルのことを見向きもしない。
仕方がなく、ミーニャに言われるまま厨房に入り、ジェフの姿を追う。中では鍋の前に立つジェフ。
鍋?
チーズケーキを作っているシェリーの姿を知っているカイルからすれば、疑問符しか浮かばない。
鍋の中に何かをいれ、火をかけながらかき混ぜるジェフ。
鍋に蓋をして、腕組みをして暫し待つジェフ。
そして、蓋をあけ、鍋をひっくり返すように皿の上に出せば、先程箱から出てきたチーズケーキと寸分違わないモノが出てきた。
その姿にカイルは眉間をもみだす。何かおかしな物を目にしてしまったと。これは間違いではないかと。
しかし、目を開けると先程と何も変わらない丸い光沢のあるチーズケーキが存在しているのだった。
「ジェフさんの料理に憧れて、弟子になりたいと毎年何人も来るにゃ。だけど、みんにゃ死んだ目をして帰って行くにゃ」
カイルの横で皿を持って立っているミーニャからの言葉だ。それはそうだろう。料理と言うには何もしていないに等しい。何がどうなって、目の前の熱々のチーズケーキが存在しているのかわからないのだ。
「食べ比べするにゃ!」
カイルは目の前に差し出されたモノを目にする。一つは先程シェリーが出した箱から出てきたチーズケーキがカットされている。もう一つはジェフが摩訶不思議現象で作り上げた熱々のチーズケーキだ。
まずはシェリーが作ったチーズケーキを食べる。そして、熱々のチーズケーキを口にする。
「美味しい」
ただ、その一言のみだ。ジェフが作った方は出来たての熱いままなので、それはそれで美味しい。シェリーの作った物は冷えていてしっとりしていて美味しい。同じもので2度美味しいものを味わっているかのようだ。
「おう。それはそうだろう!嬢ちゃんのチーズケーキっていうやつが美味しいからな」
ジェフは偉そうに言っているが、これはジェフが凄いわけではなく。スキルが凄いのだ。
「美味しいにゃ!美味しいにゃ!」
ミーニャは尻尾をゆらゆらさせながら一心不乱に食べている。
美味しそうに食べているミーニャ。出来上がったチーズケーキとシェリーのチーズケーキを切り分けて、ギルド職員に持っていっているジェフ。そして、カイルの手元にあるチーズケーキ。
それを見てカイルは苦笑いを浮かべる。
この世界にはまだまだ己の知らぬことがあるのだと。
______________
補足
シェリーのところで暮らすようになってから、幾度かこのギルドの食堂で食べる事がありましたが、今までカイルが気が付かなかったのは、今回カイルの心に余裕があったからです。今までは他の番がいて、味わう余裕はありませんでした。
料理スキルについては、『番とは~』ではそこまで重要ではないで、詳しくは語りません。摩訶不思議現象っということで。
厨房の奥でジェフがニヤリと笑った。
シェリーの料理。
しかし、出された物は目の前でジェフが作ったものだ。これは、シェリーがレシピを提供したということだろう。
だが、それぐらいでカイルが怒ることはないはずだ。
「食後のパフェまだですか」
カイルの隣では食後のパフェを要求するシェリー。シェリーからの要求でミーニャがトレイに乗せて生クリームとアイスに果物が盛られたパフェを持ってきた。
「おまたせにゃ!」
出されたパフェをシェリーの前から取り上げる。
「どういうことだ?」
「私のパフェを返してください」
「これもそうだが、パフェという食べ物もここしか見たことがないよな」
「それは嬢ちゃんが疲れたあとには、甘いものが食べたくなるっていうから、メニューに入れてるんだ。ヤロー共にも受けがいいから驚きだよな」
ジェフがメニューに入れた理由を言っているが、別にそういう事をカイルは問いたいのではない。色んな国を巡ってきたカイルだ。ここの人たちが普通に受け入れているから、そういうものだと思っていたが、おかしいと思い始めると、次々に疑問が湧き出てきた。
5年程、王都を中心に冒険者というものをしてきた。冒険者をしていると食事など取れればいいと近場の併設の食堂を使っていた。その食堂は今までのところと違って美味しく、そのまま行き付けのようになっていたが、美味し過ぎるのだ。
ジェフの腕だと言ってしまえばそれまでなのだが、シェリーの作ったものと変わらない。
いや、同じと言っていいほどだった。
なぜ、そこまでカイルが怒っているのか。シェリーの料理を手伝ってきてわかったことだが、シェリーの使っている調味料が普通では手に入らないものばかりだからだ。こんな一般食堂では絶対に手に入らない炎国産の物だからだ。そして、異界の物も混じっている。
だから、全く同じ味つけなど不可能なのだ。
「チート級の料理スキルを持っているジェフさんに再現できない料理なんてありませんよ。アイスが溶けるのでいい加減に返してください」
「チート級?」
カイルは意味がわからないとジェフを見る。その間にシェリーはカイルからパフェを奪い取り、口にして満足していた。
「おう。俺にできない料理は無いぞ。まぁ、一度食べればという条件はあるが」
厨房の奥で偉そうにジェフが言っているが、どうやらスキルで料理を作っていたようだ。しかし、それの何処がチート級なのだろうか。
パフェを食べているシェリーが、おもむろに箱をジェフに差し出す。
「チーズケーキです」
受け取った箱を開けるジェフ。中には丸く光沢のあるケーキが入っていた。それをジェフは切り取って一口食べる。
その横ではミーニャがよだれを垂らしながらチーズケーキを見ている。
ジェフは頷いて、厨房の奥に消えていった。
「カイルさん、厨房に入ってジェフさんの作っているものを見て来てください」
「え?厨房に?」
勝手に入っていいのかという疑問だ。
「入っていいにゃ」
ミーニャが手招きをしてカイルが入って来るのを促す。困惑しながらシェリーを見るが、シェリーはパフェに夢中であり、カイルのことを見向きもしない。
仕方がなく、ミーニャに言われるまま厨房に入り、ジェフの姿を追う。中では鍋の前に立つジェフ。
鍋?
チーズケーキを作っているシェリーの姿を知っているカイルからすれば、疑問符しか浮かばない。
鍋の中に何かをいれ、火をかけながらかき混ぜるジェフ。
鍋に蓋をして、腕組みをして暫し待つジェフ。
そして、蓋をあけ、鍋をひっくり返すように皿の上に出せば、先程箱から出てきたチーズケーキと寸分違わないモノが出てきた。
その姿にカイルは眉間をもみだす。何かおかしな物を目にしてしまったと。これは間違いではないかと。
しかし、目を開けると先程と何も変わらない丸い光沢のあるチーズケーキが存在しているのだった。
「ジェフさんの料理に憧れて、弟子になりたいと毎年何人も来るにゃ。だけど、みんにゃ死んだ目をして帰って行くにゃ」
カイルの横で皿を持って立っているミーニャからの言葉だ。それはそうだろう。料理と言うには何もしていないに等しい。何がどうなって、目の前の熱々のチーズケーキが存在しているのかわからないのだ。
「食べ比べするにゃ!」
カイルは目の前に差し出されたモノを目にする。一つは先程シェリーが出した箱から出てきたチーズケーキがカットされている。もう一つはジェフが摩訶不思議現象で作り上げた熱々のチーズケーキだ。
まずはシェリーが作ったチーズケーキを食べる。そして、熱々のチーズケーキを口にする。
「美味しい」
ただ、その一言のみだ。ジェフが作った方は出来たての熱いままなので、それはそれで美味しい。シェリーの作った物は冷えていてしっとりしていて美味しい。同じもので2度美味しいものを味わっているかのようだ。
「おう。それはそうだろう!嬢ちゃんのチーズケーキっていうやつが美味しいからな」
ジェフは偉そうに言っているが、これはジェフが凄いわけではなく。スキルが凄いのだ。
「美味しいにゃ!美味しいにゃ!」
ミーニャは尻尾をゆらゆらさせながら一心不乱に食べている。
美味しそうに食べているミーニャ。出来上がったチーズケーキとシェリーのチーズケーキを切り分けて、ギルド職員に持っていっているジェフ。そして、カイルの手元にあるチーズケーキ。
それを見てカイルは苦笑いを浮かべる。
この世界にはまだまだ己の知らぬことがあるのだと。
______________
補足
シェリーのところで暮らすようになってから、幾度かこのギルドの食堂で食べる事がありましたが、今までカイルが気が付かなかったのは、今回カイルの心に余裕があったからです。今までは他の番がいて、味わう余裕はありませんでした。
料理スキルについては、『番とは~』ではそこまで重要ではないで、詳しくは語りません。摩訶不思議現象っということで。
応援ありがとうございます!
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