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25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影
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シェリーはご機嫌で旅行パンフレットを眺めている。それは勿論ルークとどこに行こうかと考えているのだ。
そして、カイルもご機嫌でシェリーを膝の上に乗せて一緒にパンフレットを見ている。
外見的には仲のいい恋人同士にしか見えない。そこに水を差す者が現れた。いや、別にパンフレットを眺めていただけなので、邪魔をしに来たというのは語弊がある。
「ササっちー。陽子さんに美味しい物を分けて欲しい」
そう言いながらリビングの床から頭を出して言ってきているのは、ダンジョンマスターの陽子である。
「美味しいものですか?」
シェリーはパンフレットから目を離し、陽子を見る。何だか陽子が疲れているようにも見える。陽子はいつもながら、よっこいせと掛け声を出しながら床から這い出てくる。
「もう、猫と犬が腹減ったとうるさいんだよ。それも陽子さんが出すご飯じゃなくて、ササっちのご飯がいいと、にゃにゃ、わんわん、うるさいんだよ」
陽子の言葉にシェリーは首をかしげる。恐らく猫とはオルクスのことで、犬とはグレイのことだろう。陽子が愚痴を言いに来るほど二人はシェリーのご飯が食べたいと言い続けているのだろうか。しかし、シェリーはそのような文句が出てくるとはおかしなことだと、陽子に尋ねる。
「陽子さんは炎王から食料を受け取っているので、私の作るものとかわらないですよね?」
「そう言ったよ?陽子さんが出す物は味は多少変わるけど、あまり変わらないよって。でも、駄目だって、猫なんて地面をゴロゴロ転がって駄々をこねるんだよ」
オルクスの駄々に陽子は相当困っているようだ。
「陽子さん。美味しいものと言われても、私の作るものはいつもどおりなので、美味しいものではないです」
「もー、何でもいーの。あまりにもうるさいから、ウチの子達もキレれちゃったし」
それを聞いてシェリーはため息を吐きながら立ち上がる。陽子の部下である四獣にまで、迷惑をかけているようだとわかり、渋々キッチンに向かって行った。
陽子とカイル side
「で、さぁ。彼らってやる気あるの?陽子さんの言うこと聞かないし、何ていうか、危機感っていうのないよね」
「そうなのか?」
カイルはキッチンに行ったシェリーを気にしながら答える。そして、『危機感か』と呟いている。
「なんか中途半端に強いって言うのが、駄目なんだろうね」
中途半端。レベル90の壁を超えた者達を中途半端と言う陽子の基準は少しおかしい。ただ、陽子の求めるものが大きすぎるだけではないのだろうか。
「何となく出来てしまったのが、できた気になっちゃうんだよね。あの、鎧たちに敵わなかったこと絶対に忘れちゃっているよね」
「それで、ヨーコさん何が言いたい」
うだうだと愚痴をこぼしている陽子にカイルは話をぶった切る。
「はぁ、陽子さんが言っちゃったのが悪いのだけど、彼らに発破をかけるために、ササっちが旅行に行く計画を立てているから置いていかれるよって言ったんだよ。そしたら、エルフの兄ちゃんと鬼くんがダンジョンから出せって言ってくるようになって、更にうるさくなっちゃったんだよ」
カイルはその言葉にため息を吐く。超越者を前にして全く動けなかった彼らは、己の未熟さを理解していないのだろうか。いや、陽子が言っていたように、一般的な基準であるレベル90の壁に達したということが、彼らの成長の足かせとなっているのだろう。
レベル90の壁。それを超えることが出来るものは選ばれた者だけだと。
それを超えたことで、満足感を得てしまったと。
だが、超越者と対峙したとき彼らは何も思わなかったのだろうか。
ただ、ただ、彼らの真剣さが足りないことにカイルは苛立ちをみせるが、そもそもカイル自身がレベル200超えの存在である。そこにもまた高い壁があることにカイル自身が気がついていない。
このことは、元々カイルが彼らの弱さに苛立ちを感じて行い始めた事だ。
圧倒的な存在から受けるプレッシャー。それはカイルにとってはただの威圧だが、彼らからすれば押しつぶされそうな圧倒的な力をうけ、これは敵わないと本能的に悟ってしまい、膝を折った。
例えて言うなら、高位な存在である神にこれは自分たちとは違う存在だと悟り膝を折る。そのようなものだ。
だが、陽子が言ったように彼らに危機感という物がないのも確かだ。カイルが感じている危機感が、彼らは感じていないのは何故か。
カイルと彼らでは何が違うというのか。
思考をめぐらせていたカイルがハッと気がつく。もしかして、彼らは遭遇していないから、危機感が無いのではと。
しかし、こればかりはどうにもならない。
そう、彼らは遭遇していないのだ、異次元から世界に穴を開け、侵略してくる者達に。
そして、カイルもご機嫌でシェリーを膝の上に乗せて一緒にパンフレットを見ている。
外見的には仲のいい恋人同士にしか見えない。そこに水を差す者が現れた。いや、別にパンフレットを眺めていただけなので、邪魔をしに来たというのは語弊がある。
「ササっちー。陽子さんに美味しい物を分けて欲しい」
そう言いながらリビングの床から頭を出して言ってきているのは、ダンジョンマスターの陽子である。
「美味しいものですか?」
シェリーはパンフレットから目を離し、陽子を見る。何だか陽子が疲れているようにも見える。陽子はいつもながら、よっこいせと掛け声を出しながら床から這い出てくる。
「もう、猫と犬が腹減ったとうるさいんだよ。それも陽子さんが出すご飯じゃなくて、ササっちのご飯がいいと、にゃにゃ、わんわん、うるさいんだよ」
陽子の言葉にシェリーは首をかしげる。恐らく猫とはオルクスのことで、犬とはグレイのことだろう。陽子が愚痴を言いに来るほど二人はシェリーのご飯が食べたいと言い続けているのだろうか。しかし、シェリーはそのような文句が出てくるとはおかしなことだと、陽子に尋ねる。
「陽子さんは炎王から食料を受け取っているので、私の作るものとかわらないですよね?」
「そう言ったよ?陽子さんが出す物は味は多少変わるけど、あまり変わらないよって。でも、駄目だって、猫なんて地面をゴロゴロ転がって駄々をこねるんだよ」
オルクスの駄々に陽子は相当困っているようだ。
「陽子さん。美味しいものと言われても、私の作るものはいつもどおりなので、美味しいものではないです」
「もー、何でもいーの。あまりにもうるさいから、ウチの子達もキレれちゃったし」
それを聞いてシェリーはため息を吐きながら立ち上がる。陽子の部下である四獣にまで、迷惑をかけているようだとわかり、渋々キッチンに向かって行った。
陽子とカイル side
「で、さぁ。彼らってやる気あるの?陽子さんの言うこと聞かないし、何ていうか、危機感っていうのないよね」
「そうなのか?」
カイルはキッチンに行ったシェリーを気にしながら答える。そして、『危機感か』と呟いている。
「なんか中途半端に強いって言うのが、駄目なんだろうね」
中途半端。レベル90の壁を超えた者達を中途半端と言う陽子の基準は少しおかしい。ただ、陽子の求めるものが大きすぎるだけではないのだろうか。
「何となく出来てしまったのが、できた気になっちゃうんだよね。あの、鎧たちに敵わなかったこと絶対に忘れちゃっているよね」
「それで、ヨーコさん何が言いたい」
うだうだと愚痴をこぼしている陽子にカイルは話をぶった切る。
「はぁ、陽子さんが言っちゃったのが悪いのだけど、彼らに発破をかけるために、ササっちが旅行に行く計画を立てているから置いていかれるよって言ったんだよ。そしたら、エルフの兄ちゃんと鬼くんがダンジョンから出せって言ってくるようになって、更にうるさくなっちゃったんだよ」
カイルはその言葉にため息を吐く。超越者を前にして全く動けなかった彼らは、己の未熟さを理解していないのだろうか。いや、陽子が言っていたように、一般的な基準であるレベル90の壁に達したということが、彼らの成長の足かせとなっているのだろう。
レベル90の壁。それを超えることが出来るものは選ばれた者だけだと。
それを超えたことで、満足感を得てしまったと。
だが、超越者と対峙したとき彼らは何も思わなかったのだろうか。
ただ、ただ、彼らの真剣さが足りないことにカイルは苛立ちをみせるが、そもそもカイル自身がレベル200超えの存在である。そこにもまた高い壁があることにカイル自身が気がついていない。
このことは、元々カイルが彼らの弱さに苛立ちを感じて行い始めた事だ。
圧倒的な存在から受けるプレッシャー。それはカイルにとってはただの威圧だが、彼らからすれば押しつぶされそうな圧倒的な力をうけ、これは敵わないと本能的に悟ってしまい、膝を折った。
例えて言うなら、高位な存在である神にこれは自分たちとは違う存在だと悟り膝を折る。そのようなものだ。
だが、陽子が言ったように彼らに危機感という物がないのも確かだ。カイルが感じている危機感が、彼らは感じていないのは何故か。
カイルと彼らでは何が違うというのか。
思考をめぐらせていたカイルがハッと気がつく。もしかして、彼らは遭遇していないから、危機感が無いのではと。
しかし、こればかりはどうにもならない。
そう、彼らは遭遇していないのだ、異次元から世界に穴を開け、侵略してくる者達に。
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