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25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた
閑話 雨の日の朝
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*400話あたりの話です。
シトシトと雨が降っている音が耳に触れてくる。カーテンを引いた室内には朝の光を届くほどの明るくなく。シェリーはベッドの中で今日は厚い雲に覆われた朝だということを感じていた。
ここ数日、シェリーに付きまとっているツガイはカイルだけなので、今はカイルの腕の中で覚醒と眠りの間を漂っている状態だ。
今日の予定は何もなく、そろそろニールから依頼を受けろと言われそうだが、ルークがいつ帰ってきてもいいようにしておきたいので、冒険者としての依頼を受けたくないのが本音だ。そして、今日は雨が降っているようなので、屋敷から出るのも億劫になる。
ああでも、旅行のパンフレットを街に出て探しに行かなければならない。ルークとの初めての家族旅行なのだ。ルークには楽しんでもらいたい。
そう思い、シェリーはパチリと目を開ける。目の前には金色の目が·····ここ最近のいつもの光景だ。
「シェリー。おはよう」
そう言って、カイルはシェリーに口づけをしてくる。これもいつものことだ。
「おはようございます」
それに対し、シェリーは真顔で返す。これもいつものこと。
「今日はどうするのかな?」
カイルは今日の予定をシェリーに尋ねる。尋ねてもカイルがシェリーの言葉を否定することはない。これはただ、このまどろみの空間をカイルが少しでも長引かせたいだけの言葉。
だが、いつもはシェリーの何もないという言葉で終わらされ、さっさと朝食を作るシェリーに付き合うカイルなのだ。しかし、今日はいつもと違った。今日の予定を尋ねられたシェリーは花がほころんだように笑ったのだ。
「今日はルーちゃんと旅行に行くための資料を探しに行こうと思っています」
シェリーの笑う姿に思わず抱きしめる力が強くなるカイル。
「うっ!」
「それなら、今日は本屋をいくつか巡ってみようか」
そう言いながらも、カイルはシェリーの額に唇を落とす。
「カイルさん。力が強いです」
シェリーに指摘され力を緩めるが、カイルがシェリーを抱きしめていることに変わりはない。
そのカイルはシェリーの首元に顔を埋め、ブツブツと独り言を言いだしている。
『アイツらが戻って来なければいいのに』とか『このまま連れ去りたい』とか独占欲丸出しの独り言だった。
そんなカイルにため息を吐きながら、シェリーはカイルの腕から逃れようと、身をよじるが、絶妙な力加減なのか、抜け出すことができない。
「カイルさん。そろそろ、朝食を作りたいのですが?」
カイルの独り言をスルーしたシェリーは、いつも通り朝食を作りたいと言葉にすると、カイルもシェリーの顔を見てニコリと笑い
「そうだね。今日はデートだからね」
と言った。デートという言葉にシェリーは眉をひそめる。シェリーはルークと行く旅行で何処に行こうかと思案したいだけなのだ。決してデートなどではない。
「カイルさん。今日は雨が降っていますが?」
シトシトという雨音が聞こえていることから、ザーザー降りではないが、それなりに雨が降っているのだ。デートと言うには天気が悪い。それに、この世界の雨具は外套が主流であり、傘は貴族が使用人に持たせて使うものという定着があるため、初々しいデートという雰囲気にはならない。
「雨の日のデートもいいよね」
カイルはデートという言葉から離れられないようだ。そんなカイルに再びため息を吐き、身を起こすシェリー。
「デートではありませんから」
シェリーは否定の言葉を残してベッドを下りる。その後からカイルが付いてくる。いったい何の為かと言えば、カイルは壁にある取っ手を持って引き開いた。
「今日はこれがいいな」
そこには真新しい洋服がみっちりと吊るされていた。ここはシェリーのクローゼットなのだが、シェリーのツガイたちがこぞって買い与えた洋服が詰まっている。その内の一着をカイルが取り出して、シェリーに差し出す。
これはシェリーに課せられたツガイの彼らに対して平等に扱うというモノの一つであった。休日は彼らが買って選んだ洋服を着るという、シェリーにとってどうでも事を強いられているのだ。
シェリーは白を基調とした長袖の胸元で切り返しがあるワンピースを渡され、腐った魚の目になってしまっている。それは金糸で刺繍が施され、こんな雨の日に着るような服では無いことが明白な衣服だった。それに対になった胸までの上着があり、最近寒さが増しているので、上着があることはありがたいが、デザイン的に防寒というより、オシャレ感の方が勝ってしまっている。
「シェリー。着てくれるよね」
カイルからは決められた約束だからねという圧を感じ、またまたシェリーからはため息が溢れるのだった。
そして、雨の日のデートがどうだったというと、ニコニコなカイルの横で、これまたルークの事で頭がいっぱいの笑顔のシェリーが本屋で仲良く物色し、早めのランチも行き付けのジェフの店···いや、冒険者ギルド併設の食堂でとり、ついでと言わんばかりに冒険者ギルドの従業員であるエリサの写真を撮り、昼過ぎには第二層の屋敷まで戻ってきたのだ。
見た目では完璧にデートだったのではないのだろうか。シェリーの頭の中にはルークと行く旅行でいっぱいだったとしても。
そして、陽子の突撃を受け、炎王を巻き込み、オリバーの鶴の一声で大規模実験を行うことになったことに繋がるのだが、その時決してシェリーがカイル以外のツガイの前に姿を見せなかったのは、カイルの独占欲丸出しの衣服を着ていたため、これ以上面倒なことを避けるためでもあったのだった。
シトシトと雨が降っている音が耳に触れてくる。カーテンを引いた室内には朝の光を届くほどの明るくなく。シェリーはベッドの中で今日は厚い雲に覆われた朝だということを感じていた。
ここ数日、シェリーに付きまとっているツガイはカイルだけなので、今はカイルの腕の中で覚醒と眠りの間を漂っている状態だ。
今日の予定は何もなく、そろそろニールから依頼を受けろと言われそうだが、ルークがいつ帰ってきてもいいようにしておきたいので、冒険者としての依頼を受けたくないのが本音だ。そして、今日は雨が降っているようなので、屋敷から出るのも億劫になる。
ああでも、旅行のパンフレットを街に出て探しに行かなければならない。ルークとの初めての家族旅行なのだ。ルークには楽しんでもらいたい。
そう思い、シェリーはパチリと目を開ける。目の前には金色の目が·····ここ最近のいつもの光景だ。
「シェリー。おはよう」
そう言って、カイルはシェリーに口づけをしてくる。これもいつものことだ。
「おはようございます」
それに対し、シェリーは真顔で返す。これもいつものこと。
「今日はどうするのかな?」
カイルは今日の予定をシェリーに尋ねる。尋ねてもカイルがシェリーの言葉を否定することはない。これはただ、このまどろみの空間をカイルが少しでも長引かせたいだけの言葉。
だが、いつもはシェリーの何もないという言葉で終わらされ、さっさと朝食を作るシェリーに付き合うカイルなのだ。しかし、今日はいつもと違った。今日の予定を尋ねられたシェリーは花がほころんだように笑ったのだ。
「今日はルーちゃんと旅行に行くための資料を探しに行こうと思っています」
シェリーの笑う姿に思わず抱きしめる力が強くなるカイル。
「うっ!」
「それなら、今日は本屋をいくつか巡ってみようか」
そう言いながらも、カイルはシェリーの額に唇を落とす。
「カイルさん。力が強いです」
シェリーに指摘され力を緩めるが、カイルがシェリーを抱きしめていることに変わりはない。
そのカイルはシェリーの首元に顔を埋め、ブツブツと独り言を言いだしている。
『アイツらが戻って来なければいいのに』とか『このまま連れ去りたい』とか独占欲丸出しの独り言だった。
そんなカイルにため息を吐きながら、シェリーはカイルの腕から逃れようと、身をよじるが、絶妙な力加減なのか、抜け出すことができない。
「カイルさん。そろそろ、朝食を作りたいのですが?」
カイルの独り言をスルーしたシェリーは、いつも通り朝食を作りたいと言葉にすると、カイルもシェリーの顔を見てニコリと笑い
「そうだね。今日はデートだからね」
と言った。デートという言葉にシェリーは眉をひそめる。シェリーはルークと行く旅行で何処に行こうかと思案したいだけなのだ。決してデートなどではない。
「カイルさん。今日は雨が降っていますが?」
シトシトという雨音が聞こえていることから、ザーザー降りではないが、それなりに雨が降っているのだ。デートと言うには天気が悪い。それに、この世界の雨具は外套が主流であり、傘は貴族が使用人に持たせて使うものという定着があるため、初々しいデートという雰囲気にはならない。
「雨の日のデートもいいよね」
カイルはデートという言葉から離れられないようだ。そんなカイルに再びため息を吐き、身を起こすシェリー。
「デートではありませんから」
シェリーは否定の言葉を残してベッドを下りる。その後からカイルが付いてくる。いったい何の為かと言えば、カイルは壁にある取っ手を持って引き開いた。
「今日はこれがいいな」
そこには真新しい洋服がみっちりと吊るされていた。ここはシェリーのクローゼットなのだが、シェリーのツガイたちがこぞって買い与えた洋服が詰まっている。その内の一着をカイルが取り出して、シェリーに差し出す。
これはシェリーに課せられたツガイの彼らに対して平等に扱うというモノの一つであった。休日は彼らが買って選んだ洋服を着るという、シェリーにとってどうでも事を強いられているのだ。
シェリーは白を基調とした長袖の胸元で切り返しがあるワンピースを渡され、腐った魚の目になってしまっている。それは金糸で刺繍が施され、こんな雨の日に着るような服では無いことが明白な衣服だった。それに対になった胸までの上着があり、最近寒さが増しているので、上着があることはありがたいが、デザイン的に防寒というより、オシャレ感の方が勝ってしまっている。
「シェリー。着てくれるよね」
カイルからは決められた約束だからねという圧を感じ、またまたシェリーからはため息が溢れるのだった。
そして、雨の日のデートがどうだったというと、ニコニコなカイルの横で、これまたルークの事で頭がいっぱいの笑顔のシェリーが本屋で仲良く物色し、早めのランチも行き付けのジェフの店···いや、冒険者ギルド併設の食堂でとり、ついでと言わんばかりに冒険者ギルドの従業員であるエリサの写真を撮り、昼過ぎには第二層の屋敷まで戻ってきたのだ。
見た目では完璧にデートだったのではないのだろうか。シェリーの頭の中にはルークと行く旅行でいっぱいだったとしても。
そして、陽子の突撃を受け、炎王を巻き込み、オリバーの鶴の一声で大規模実験を行うことになったことに繋がるのだが、その時決してシェリーがカイル以外のツガイの前に姿を見せなかったのは、カイルの独占欲丸出しの衣服を着ていたため、これ以上面倒なことを避けるためでもあったのだった。
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