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26章 建国祭

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 末の子というのは女神ナディアの直系を意味する魔眼を持った一番年下の子供という意味だ。一番下の子供というとナオフミとビアンカの子供ということになるのだが、言葉から女神ナディアは彼らの子はシェリー以外を女神の血筋と認めていないと言っていることに等しかった。

「それで雨が降るとは何の比喩なのですか?」

 カイルが女神ナディアの言葉の神威しんいを確認した。女神ナディアが末の子と……愛するラースの血を引く我が子と認めた者が幼くその身を雨から守れないから、シェリーに手を貸して欲しいと、わざわざこの下界に姿を顕してまで神言したのだ。
 神が個人の事を気にすることなど無い。いや、ナディアだからこそ、一つの命に対して手を差し伸べたのだろう。

『雨はね。空から落ちてくるのよ?』

 女神ナディアは当たり前の事を言って姿を消した。雨は空から降ってくるというのは常識以外の何物でもない。
 いや、女神ナディアは“落ちてくる”と言った。いったい何が落ちてくるというのだろうか。

 そして、シェリーはというと二階の自室から降りてきて、そのまま玄関ホールの方に気配が移動している。このことに気がついたシェリーの5人のツガイは慌ててシェリーを追いかけるのだった。

 シェリーは思いっきり彼らの存在を無視していた。いや、ルークに何かが起こる前に武闘大会の会場となる場所に向うことが最優先なので、ツガイたちのことなど、シェリーにとって重要ではなかったのだった。


 そして、シェリーとツガイの5人は西教会前に来ていた。ここに来た理由は西教会前の駅から列車に乗るつもりだったのだが、人が多く列車に乗れない状況だった。そう、この建国祭は王都のあちらこちらで催し物があり、国中から人が集まってくるのだ、いつもなら乗れる列車に、人が移動のために利用しているのだ。まだ午前中の早い時間であっても、人が密集して、どうしようもない状況だった。

「ちっ!だから、この時期に外に出るのは嫌だったのです」

 シェリーはこの状況に舌打ちをする。移動手段として列車を使用するのは諦めなければならないと。

「そうだよね。祭りの時期は寝て過ごすのが一番いいよね」

 カイルの言葉から、今までの祭りの間の過ごし方は寝て過ごしていたらしい。獣人たちの祭りに興味がない竜人のカイルとしては、ただの騒がしい日だったのだろう。

「戻ります」

 そう言ってシェリーは来た道を足早に戻り始めた。

 人の隙間を縫うように移動して行くシェリーに、このような人が多い場所を歩きなれていないスーウェンが早々に遅れだした。人波に戸惑うスーウェンにグレイが手を貸しシェリーから距離が離れていく。リオンも人が多くいる場所には足を運ぶことはあっても炎国であれば、皆が道を開けてくれることが普通であったために、この様に縦横無尽に人が行き交う場所では上手く進むことが出来ず、距離が次第に開いていった。
 その中でもこのメイルーンに数年過ごしるカイルとギラン共和国で同じ様な人混みに慣れたオルクスだけがシェリーについて行けている。

「シェリー。戻っているがいいのか?」

 シェリーの行先がこのまま行くと西区第二層門に行き当たるとオルクスが心配して聞いてきた。
 シェリーとしては早くルークが来るはずの武闘大会の会場に向かいたいはずなのに、シェリーの行く方向は屋敷のある第二層に向かっているのだ。それは疑問にも思うだろう。本当にこっちでいいのかと。

「この時期の第三層はまともに歩けません。列車が使えれば一番早いのですが、列車が使えないとなると、第二層を通り抜けた方が早いです」

 シェリーは珍しく早口で説明した。大抵は何事があっても動じず淡々と話すシェリーが、早口で話すほど焦っているのだろう。
 神は理解不能な事を言うことはあっても嘘を付くことはない。
 女神ナディアがルークの身に何かが起こるというのであれば、何が起こるかということを知るよりも、その何事かに対する対策をした方がいいのだ。

 何故か。シェリーが生まれてこの方、神というモノの言葉が理解不能だということが、その身に刻まれている。
 わからない言葉を理解するよりも、何かを言われたということを覚えている方が100倍ましだったのだ。少し前に発覚した片翼の鳥の意味のように。

 第二層門まで戻るとやっと普通に歩けるようになり、リオンもグレイもスーウェンも、ようやくシェリーに追いつくことが出来た。
 第二層門は常時開いているものの、許可がない者は通ることが出来ないため、一般人の通行はなくなるからだ。

「はぁ……何故、普通に歩けるんだ?」

 リオンが追いついたことでホッと安心したようにため息を吐いた。

「シェリー早すぎだ」
「……」

 グレイはスーウェンの腕を掴んで引っ張って来たようで、スーウェンは言葉も無く肩で息をしている。このような人混みは今まで経験したことがなかったのだろう。
 しかし、シェリーは彼らの言葉には答えずに第二層門をくぐった。佐々木の記憶を持つシェリーとしてはこれぐらいで音を吐いていては、電車通勤なんて出来やしないと内心悪態を付いていた。
そんなシェリーに声を掛ける者がいた。

「ナオフミの娘。何かあったのか?」

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