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26章 建国祭

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 武闘大会の会場に何事もなくたどりついたシェリーたち。馬車という名のマイクロバスはユーフィアのチートの塊だった。人が避けていくというか、人が走行中の馬車バスに近づけない仕様だった。
 だから、何も問題は起こり得なかった。

 闘技場。外から見れば高さ3メルメートルの壁が見渡せるかぎり横に広がっているだけで、闘技場という雰囲気ではなかった。

 だが、壁の隙間に人々が次々と吸い込まれている。

「なんかギランの闘技場と違うよな」

 オルクスの素直な感想である。外見からは闘技場という雰囲気は何も感じられない。ただ、石造りの壁が連なっているだけだ。

「オルクスさん。アマツさんのチート級遺産と比べるのも、どうかと思いますが?」

 シェリーは水龍アマツが作り上げた、異界の異物と思えるようなコロッセオや簡易式の闘技場と一緒にすべきではないと釘を刺した。

「この区画は学園施設が多くあるから、あまり近づくことがなかったな」

 カイルはこの王都で数年過ごしていたが、北地区の学園がある場所は来る用もなく、建国祭の時期は寝て過ごしていたカイルにとって闘技場など行く必要のない場所だった。

「君たちはこっちの入り口だ」

 リベラは人々が吸い込まれている壁の隙間ではなく、別の方を指し示した。しかし、シェリーたちの周りには人垣が出来ている状態だった。
 赤髪で大柄な女性が軍服を着ていればどうしても目立ち、英雄の一人のリベラ大佐ということがひと目でわかってしまう。

 リベラにこの国の人々に注目が集まっていたために、黒髪のシェリーは人の目を引くことはなかった。それに周りにいるシェリーのツガイたちも良くも悪くも目立っていた。

 だから……シェリーの姿を目にすることはなかった。



「ルーク!見ろよ。あれリベラ大佐だ!本物だよな」

 黒と青の色が混じった髪の15歳ぐらいの少年が、金髪の13歳ぐらいの少年に声を掛けた。

 15歳ぐらいの少年は髪質と同じ色のフサフサの尻尾を大きく振って興奮しているようだ。

「ミュゼル先輩。ミュゼル先輩ぐらいなら何度か会ったことあるのではないのですか?」

 ルークと呼ばれた金髪の少年は珍しいピンク色の瞳を人垣よりも頭一つ分飛び出た赤髪の人物に視線を向ける。
 ルークとしては隣りにいるミュゼルと呼んだ少年が興奮するような人物にはどうしても思えなかった、遠目からは何も獣相はなく、身体の大きな赤髪の女性にしか見えなかった。

 そう、例えば隣にいるミュゼルのように頭から髪と同じ色の三角の耳が出ているのであれば、獣人としてすごいのだろうと思えると。

「ルーク。例え父上が凄くても家に軍の偉い人が来るわけじゃないからな」

 夏の空のような青い色の瞳を、何を言っているんだと言わんばかりにルークに向けている。第6師団長であるクストと同じ黒と青が混じった色合いの髪にユーフィアの青い瞳を持つ少年は、彼らの次男のミュゼルだ。ただ、クストのようなキツい目つきではなく、ユーフィアと同じ瞳が大きく美少年という印象を抱かせる容姿だった。

「うん。まぁ、ユーフィアさんがコソコソと姉さんに会いに来ていたぐらいだったから、そうだとは思ったけど、一応聞いてみたのです」

「母上がコソコソするのはシェリーさんが来ると父上が騒ぎ出すからだと思う」

 ルークはどうやら同じ学年の少年たちより、上級生であるミュゼルと共に行動をしているようだ。互いに接点がなかったが、母親と姉が互いの家に行き来していため、存在は認知していた。
 ユーフィアには二人の息子がいると。
 シェリーには溺愛する弟がいると。

 そして、ルークは第6師団長であるクストとは幼い頃から顔見知りだったので、ミュゼルの姿を見て、直に誰の子供かわかったのだろう。クスト2号と化している長男のヴァリーほどではないが、似ていると。

「でも、リベラ大佐が一般の部に顔を出すなんて、どうしたんだろうな。いい人材でも探そうとしているのか?」

「それはどうかと思います。人垣でよくわかりませんが、誰かを案内しているようにも見えます」

 ルークはリベラ大佐の動きから、誰か連れがいるように思えたらしい。そのルークの言葉にミュゼルは人垣でよく見えなくなっていくリベラ大佐の後ろから、数人が移動している姿を見て、そういうことかと納得をした。

「なーんだ。てっきり誰かを軍にスカウトしに来たのかと思った」

「一般部門で軍にスカウトをするとは、よほど人が足りていないっていうことだと思いますから、そうなっていれば、かなり危険だと思います」

「ルーク。お前って時々難しいことを言うよな。まぁ、それがルークなんだろうけど」

 ミュゼルはルークの人事論が理解できないと言いながら、手のひら程の大きさの一枚の紙をルークに差し出す。

「ルーク、セーラって言う使用人がいい席をとってくれたからな。一番前の席だ」

 ミュゼルはニカリと笑って言ったのだった。普通では取ることの出来ない席だから、感謝しろよと。

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