619 / 709
26章 建国祭
606
しおりを挟む「あの公爵を出し抜く者か。只者ではなさそうではあるが、今回の攻撃は違うのだろう」
ミゲルロディアは降り積もり雪により白く染め上げられる公都を見ながら言った。
ただ、ラース公国に宣戦布告として公都グリードを襲撃したというのであればわかる。だが、今回はシーラン王国の王都メイルーンも同時に襲撃された。そして、まだ彼らの耳には入ってはいないが、ギラン共和国の首都ミレーテも襲撃された。
三カ国同時に襲撃する意味とは何か?いや、三カ国だけなのだろうか。
しかし、現状では二カ国が同時に次元の悪魔から襲撃された。それも次元の悪魔の名の由来となる空間を切り裂いて現れたのだ。
まるで30年前に逆行したかのようだ。
今回の襲撃は帝国ではなく、女神ナディアが“愚者”と表現した者たちだろう。
「シェリーミディアは今回の連携したような攻撃は魔王は関係ないと考えているでよいか?」
ミゲルロディアはシェリーの言葉の端から今回の襲撃は魔王はまだ誕生しておらず、何者かの意図で行われたことと結論づけているのか確認を取った。
それに対してシェリーは眉を潜める。はっきり言えば情報が全く足りないのだ。現状は複数の次元の悪魔から国の都が襲撃されたという事実のみ。それだけで結論は出ないだろう。
「閣下。私自身は30年前の討伐戦を聞いただけですので、これは実際にその場で戦った者に確認するべきではないのでしょうか」
「そうではあるが、オーウィルディアはあり得ないと驚いていた。その言葉の真意はまだ聞いてはおらぬが、経験したことがない状況だったと受け取れた。魔王が既に存在しており、魔王自身がこの攻撃を命令したとなれば、脅威的だとは思わないかね?」
ミゲルロディアはすでに魔王が存在しており、次元の悪魔に命じて操っているとすれば、今回魔王と成った者を危険視しているのだろう。
国の中心である都を攻撃することにより、国の機能を停止させ、混乱が極まったところに、更に追加で完全体の悪魔を投入されれば、人々は悪魔に蹂躙されるしか選択肢がなくなるのだ。
これはこの世界に住むヒトという種族を根絶やしにする行為ではないのだろうか。
「今回はまだ次元の悪魔だった。しかし、これが完全体の悪魔となるとどうだったかと考えると、いくら私でも国を護ることは難しいだろう」
勿論、魔人と成ったミゲルロディアが一人で戦うという意味ではなく、国主として女神ナディアの子孫として、魔眼を使ったとしても国という形を保てなくなるという意味だ。
女神ナディアの願いはただ一つ。愛するラースの国を護る。それだけだ。それだけだが、住まう民がいなければ最早それは国とは言えない。国だった地というものでしかなくなるのだ。
「閣下は何を望まれているのですか?」
シェリーはミゲルロディアの言葉からシェリーに何かを望んでいるのだろうと受け取った。
「例えばだ。彼の地に住まう彼らの力を借りれないものかと思ってな」
ミゲルロディアの言葉にシェリーは歩む足を止めてミゲルロディアを見た。正気で言葉にしたのかという疑いの目をしてだ。
「閣下自身がお願いをすればいいのではないのですか?」
ミゲルロディアはその彼の地にいたのだ。シェリーに頼むよりも、彼らと交流をしてきたミゲルロディアが言う方がいいに決まっている。
「シェリーミディアには分からぬかもしれないが、あの御方と番様に意を告げることは我々にとって死地に赴くよりも脅威なのだ」
あの御方と番様というのは勿論、初代聖女であったラフテリアと剣聖ロビンの事だ。どちらかと言うとラフテリアに近づくことが恐ろしいということだろう。
なんせラフテリアは溜まりに溜まった人々の悪意を全て受け止め、その身に取り込んだ初代聖女にして初代魔人なのだ。誰も逆らう気は起きないだろう。
ここでふとシェリーはあの言葉を思い出した。
『大公を引っ張ってきなさい。それが一番ベストの未来』
そう黒髪のエルフであるアリスの言葉だ。もし今回ミゲルロディアがいなければどうであっただろう。実質、風竜ディスタだけで戦い切れたかという話だ。いや、もしかしたらナオフミとビアンカがその未来にはいたかもしれない。
ただアリスの言葉で大公がこの国にいることがラース公国にとって……いやアリスはシェリーの未来を見ていたのだ。そのシェリーの未来にとってベストということは、今回の魔王との戦いに魔人を参戦させるように言っているのかもしれない。
「ラフテリア様とロビン様をこの地にですか?」
「いや、それは勘弁願いたい。幾人か知り合いがいる。その中に誰かラース公国に来てもいいという者がいれば、手をかして欲しいという意味だ。我々は勝手を許されないのでな」
シェリーがラフテリアとロビンをラース公国に招くのかと問えば、ミゲルロディアは慌てて首を横に振った。これはラフテリアに対して対処しきれないというミゲルロディアの拒否反応だった。
魔人である彼らにとってラフテリアは魔王よりも恐ろしい存在なのかもしれない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
975
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる