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26章 建国祭

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 シェリーは白い板を取り出して起動させ、名前が羅列している板の表面をスライドし、一つの名前をタップする。
 そして、音をスピーカー音に設定して、コール音を辺りに響かせている。

「え?佐々木さん。その携帯どうしたんだ?俺も欲しい」

「これは軍専用の無線機のようなもの……詳しくはユーフィアさんに聞かないとわかりませんが、事前に登録した機器同士でしか連絡が取れないと思います。炎王には個人間で連絡が取れるので必要ないと思います」

 必要ないと言われた炎王だが、見覚えのある形のものを目の前で操作されると、物欲が発生するものだ。

『第6師団の者がなんですか?』

 コール音の後に出た声にシェリーは再び舌打ちをする。

「くそ狐を出してください」

『……もしかして、シェリー・カークスなのですか?軍の所有物を強奪すると罰せられますよ』

 正論を言われたが、これは提供者が持っていって良いと許可をだしたものだ。だから、シェリーが強奪したわけではない。その前に、通信機を出すように脅したとしてもだ。

「ユーフィアさんから持っていって良いと許可をもらったので、私がもっています。それよりも今私の目の前に、ミゲルロディア大公閣下と炎お……エン・グラシアールがいらっしゃるのですが?」

『それを早く言ってください。陛下~!!』

 通話に出た相手の叫び声が響いている。それから、シェリー・カークスがとかラース大公がとか初代炎王がとか説明している声が白い板を通じて漏れ出ているのだ。

「佐々木さん、それに保留機能はないのか?」

 炎王が漏れ出ている声に頭がいたいと言わんばかりにこめかみを押さえている。

「新人がやらかすミスを体現してくれていますね。勿論機能は付いていますが、説明不足ではないのでしょうか?」

「ああ、電話口の混乱が全部聞こえているやつな」

 炎王も覚えがあるという感じがありありとみえるが、勿論その話はこの世界ではなく、異世界の話だ。その炎王に対して更に殺気が襲いかかる。
 自分たちには理解できないことを、炎王が己たちの番に理解を示して、話を楽しんでいると。炎王は更に強さが増した殺気に両手を上げて、自分に嫉妬しても意味がないと現している。

『シェリー・カークス。何をしようとしている?』

 白い板から今度はイーリスクロムの声が聞こえてきた。それもシェリーが何かをしようとしていると、決めつけているのだ。

「まだ、何もしていません」

『まだ。ということは、これからするつもりなのか?』

 イーリスクロムの決めつけている言葉は勿論、この室内に響いている。

「因みに、くそ狐の声はミゲルロディア大公閣下と炎王にだだ漏れです」

『は?』

 突然文句を言っていくるシェリーを邪険にするように話すイーリスクロムに、その話し方でいいのかを遠回しに指摘すると、やはり声が聞こえているとは思っていなかったのだろう。
 無言ながら焦っているイーリスクロムの雰囲気が伝わってくる。

「スピーカー機能で音の拡散が出来ます。それから、保留でそちら側の声が、こちら側に聞こえなくなります。ということで、近衛騎士団長さんの説明の声が、こちらに聞こえていましたよ」

『ガンッ!』

 向こう側で通信機を落としたような音がした。一国の国王に王自身の失態を告げる者がどれほどいるだろうか。はっきり言ってよっぽどのことでなければ、告げない。
 それも他の国の国主が二人もいる状態でだ。

「シェリーちゃん。そこはそっとしておくべきじゃなかったのかしら?」

 思わずオーウィルディアがシェリーに言い過ぎではなかったのかと言葉にしたが、シェリーはため息を吐くだけにとどめる。

 そして、通信を切り再びコール音を鳴らしだす。

「こういうことは、言い逃れのできないその時に、指摘するべきです。後で指摘しても、無言で無視する新人!」

「佐々木さん。恨みがこもり過ぎだ」

 シェリーの文句に色々苦労したことが、垣間見える。そこにやっと起動したのか、コール音が消え、イーリスクロムの声が聞こえてきた。

『何があったのですか?シェリー・カークス』

 外面がいいイーリスクロムの声が、白い板から聞こえてくる。

「なぜ、完全体の悪魔の話が各国の上層部に共有されていないのですか?」

 シェリーは言いたいことをズバッと口にする。しかし、年末に起こったことを一ヶ月も経っていない時点で、共有するのは難しいことだろう。いや、シャーレン精霊王国のように、各国に教会を保持していれば、連絡手段は遠い土地でも可能なのかもしれない。

『無理をいいますね。新年までに対処しただけでも、早い対応だったと思いますよ』

 勿論イーリスクロムとしては、軍の上層部、それも統括師団長まで動かして対処したのだ。そのことが軍部の中で軋轢を生んでいることなど百も承知だ。

「すまないが、何があったのか説明をしてくれないだろうか。ああ、俺はエン・グラシアールだ」

 炎王はシェリーのいつも通りの態度で行動を起こしているので、そのままだと説明されないだろうと先手を打った。

『しょ!……初代炎王!』

 しかし、基本的に表に出てこない炎王が、出てきたことで、イーリスクロムの声が裏返って緊張しているのが、白い板から出てくる声で聞き取れた。一国の国王が簡単に心情を気取られるとは……だから若王だと蔑まれてみられてしまうのだ。

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