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27章 魔人と神人
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「それで、青い建物があれば、何なのだ?掘り起こせば、残骸ぐらい残っているだろう」
モルテ王が1000年前に空島を落とし、土に埋もれてしまったとしても、建物であれば、その痕跡ぐらいは存在しているはずだ。その島に生きているものがいたのであれば、骨が残っているかは断言できないが。
「もしかしたら、神降ろしの建物が壊されていればいいと思っただけですので」
「神降ろし?礼拝堂のことか?」
「シェリーミディア。それは神殿のことかな?」
二人の国主はシェリーの『神降ろしの建物』を、別の言葉に言い換えようとしてきた。
だが、その言葉にシェリーは首を横に振る。二人が言った建物はどちらも神を崇めるための場所だ。そういうことではない。
「『神降ろしの場』です。私には言い換える言葉は持っていません。そこでは神殺しが行われていたのですから」
シェリーの言葉になんとも言えない緊張感が走った。いや、神を殺すという概念など元から持っていない。
そして、ここにいる者たちは……シェリー以外の者たちは、何かしらの神への信仰心を持っている。その神を殺すなど、許されることではない。
「うむ。シェリーミディア。神に干渉されたと言っていたが、聖女と言えどもそのようなことを、神が伝えるものなのか?」
ミゲルロディアは神殺しが行われた場があることを信じられないと。そもそもそのようなことを神が聖女に伝えるものなのかと問いただした。
言うならば、それは闇に葬るべき歴史というものだ。そんな事実が行われていたのならば、それこそ神自身が口を噤むだろう。神にも死があるということを。
「多分、そこは重要ではなかったと思います」
シェリーは白き神の考えなど計り知ることはできないが、今回シェリーに見せつけたかったのは、シュロスという変革者の性格とその能力だ。
アーク族と対抗するのであれば、シュロスという存在が鍵となるだろうと。大魔女の知識など、所詮後世に伝えられたシュロス王の姿であって真実ではないと。
「重要ではない?神を殺しておいてか?」
モルテ王はアーク族に対して色々思うことがあったようだが、流石に神殺しは癇に障ったのだろう。モルテ王の影から何かがうごめき出している。
元々は白き神を狂信的に崇めていたカウサ神教国の王族だ。そして今では死の神と闇の神に生かされた存在でもある。神という存在に弓を引く行為は、腹に据えかねるという感じが窺えた。
「重要ではありません」
シェリーは怒気をはらんでいるモルテ王に対してはっきりと言う。モルテ王の目の前では、魔人であるミゲルロディアが威圧的な空気に耐えきれずに、うつむき加減でいることを横目で見ながら、はっきりと言葉にした。
「アーク族の王はただ唯一であり、考えたことがすべて現実として反映することができる存在だと、教えたかったのでしょう。それから威圧を抑えてください。あまり酷いとナディア様にお仕置きされますよ」
シェリーはしれっと女神ナディアの名前を出して、モルテ王を脅した。いや、シェリーが言っていることには間違いはない。もしここでラースの血を引くミゲルロディアに何かあれば、女神ナディアは神罰をモルテ王にくだす確率は高い。
「昔は魔物が存在していませんでした。私がレベルという概念と、神の加護を得ることができると、シュロス王に言えば、あの馬鹿は言葉を混同させて、神を殺して超越者に至ったという結果でしかありません」
シェリーは事実を淡々と述べる。この言葉には嘘はない。嘘ではないが、ところどころおかしな言葉があることに、気づいた者がいる。それはカイルだ。
「シェリー。その言い方だと、シェリーが直接、そのシュロス王と話しているみたいだけど?」
「話していますけど?」
「過去の人物だよね」
「そうですね」
「おかしいよね?」
「私のことを知らない白き神と、私を知っている白き神とも話をしたので、時空を歪めればいけるのではないのでしょうか?」
「……俺が側に居ないのに、そのシュロスとか言うやつと、シェリーは仲良くしていたのだよな?」
カイルは嫉妬心からか、シェリーはシュロスと仲良くしていたと決めつけた。流石にそのことにはシェリーは反論する。
「仲良くはありません」
眉間にシワを寄せて凄く嫌そうに否定した。だが、カイルは否定したシェリーの言葉を否定する。
「シェリーが『バカ』と言ったということは、そう言えるほど仲良く話していたということだよな」
確かにシェリーは他人には基本的に敬語で話す。だが、シュロスのことは口悪く罵るほどだった。
そして、シェリーが馬鹿と評価できるほど、話し込んでいたとカイルは判断したのだ。己が側に居ることができない状況でだ。
「カイルさん。あれは誰でも馬鹿と言いますよ。今は空島は拳大ぐらいにしか見えませんが、最初は一国と言えるほどの巨大な島を低空飛行させていたのです。そんな邪魔な物を空に浮かべるなんて、馬鹿以外に何と言えばいいのですか?」
「ふむ。国を空に浮かべるか。それはセイルーン竜王国と同じであるな」
「……やっぱりアレと同じ思考回路だった」
ミゲルロディアが最初の空島の姿が、本来の空島である竜人の国と同じだと言う。その言葉に、シェリーは遠い目をしてシュロスが白き神と同じ思考回路を持っていたのだと、再認識したのだった。
モルテ王が1000年前に空島を落とし、土に埋もれてしまったとしても、建物であれば、その痕跡ぐらいは存在しているはずだ。その島に生きているものがいたのであれば、骨が残っているかは断言できないが。
「もしかしたら、神降ろしの建物が壊されていればいいと思っただけですので」
「神降ろし?礼拝堂のことか?」
「シェリーミディア。それは神殿のことかな?」
二人の国主はシェリーの『神降ろしの建物』を、別の言葉に言い換えようとしてきた。
だが、その言葉にシェリーは首を横に振る。二人が言った建物はどちらも神を崇めるための場所だ。そういうことではない。
「『神降ろしの場』です。私には言い換える言葉は持っていません。そこでは神殺しが行われていたのですから」
シェリーの言葉になんとも言えない緊張感が走った。いや、神を殺すという概念など元から持っていない。
そして、ここにいる者たちは……シェリー以外の者たちは、何かしらの神への信仰心を持っている。その神を殺すなど、許されることではない。
「うむ。シェリーミディア。神に干渉されたと言っていたが、聖女と言えどもそのようなことを、神が伝えるものなのか?」
ミゲルロディアは神殺しが行われた場があることを信じられないと。そもそもそのようなことを神が聖女に伝えるものなのかと問いただした。
言うならば、それは闇に葬るべき歴史というものだ。そんな事実が行われていたのならば、それこそ神自身が口を噤むだろう。神にも死があるということを。
「多分、そこは重要ではなかったと思います」
シェリーは白き神の考えなど計り知ることはできないが、今回シェリーに見せつけたかったのは、シュロスという変革者の性格とその能力だ。
アーク族と対抗するのであれば、シュロスという存在が鍵となるだろうと。大魔女の知識など、所詮後世に伝えられたシュロス王の姿であって真実ではないと。
「重要ではない?神を殺しておいてか?」
モルテ王はアーク族に対して色々思うことがあったようだが、流石に神殺しは癇に障ったのだろう。モルテ王の影から何かがうごめき出している。
元々は白き神を狂信的に崇めていたカウサ神教国の王族だ。そして今では死の神と闇の神に生かされた存在でもある。神という存在に弓を引く行為は、腹に据えかねるという感じが窺えた。
「重要ではありません」
シェリーは怒気をはらんでいるモルテ王に対してはっきりと言う。モルテ王の目の前では、魔人であるミゲルロディアが威圧的な空気に耐えきれずに、うつむき加減でいることを横目で見ながら、はっきりと言葉にした。
「アーク族の王はただ唯一であり、考えたことがすべて現実として反映することができる存在だと、教えたかったのでしょう。それから威圧を抑えてください。あまり酷いとナディア様にお仕置きされますよ」
シェリーはしれっと女神ナディアの名前を出して、モルテ王を脅した。いや、シェリーが言っていることには間違いはない。もしここでラースの血を引くミゲルロディアに何かあれば、女神ナディアは神罰をモルテ王にくだす確率は高い。
「昔は魔物が存在していませんでした。私がレベルという概念と、神の加護を得ることができると、シュロス王に言えば、あの馬鹿は言葉を混同させて、神を殺して超越者に至ったという結果でしかありません」
シェリーは事実を淡々と述べる。この言葉には嘘はない。嘘ではないが、ところどころおかしな言葉があることに、気づいた者がいる。それはカイルだ。
「シェリー。その言い方だと、シェリーが直接、そのシュロス王と話しているみたいだけど?」
「話していますけど?」
「過去の人物だよね」
「そうですね」
「おかしいよね?」
「私のことを知らない白き神と、私を知っている白き神とも話をしたので、時空を歪めればいけるのではないのでしょうか?」
「……俺が側に居ないのに、そのシュロスとか言うやつと、シェリーは仲良くしていたのだよな?」
カイルは嫉妬心からか、シェリーはシュロスと仲良くしていたと決めつけた。流石にそのことにはシェリーは反論する。
「仲良くはありません」
眉間にシワを寄せて凄く嫌そうに否定した。だが、カイルは否定したシェリーの言葉を否定する。
「シェリーが『バカ』と言ったということは、そう言えるほど仲良く話していたということだよな」
確かにシェリーは他人には基本的に敬語で話す。だが、シュロスのことは口悪く罵るほどだった。
そして、シェリーが馬鹿と評価できるほど、話し込んでいたとカイルは判断したのだ。己が側に居ることができない状況でだ。
「カイルさん。あれは誰でも馬鹿と言いますよ。今は空島は拳大ぐらいにしか見えませんが、最初は一国と言えるほどの巨大な島を低空飛行させていたのです。そんな邪魔な物を空に浮かべるなんて、馬鹿以外に何と言えばいいのですか?」
「ふむ。国を空に浮かべるか。それはセイルーン竜王国と同じであるな」
「……やっぱりアレと同じ思考回路だった」
ミゲルロディアが最初の空島の姿が、本来の空島である竜人の国と同じだと言う。その言葉に、シェリーは遠い目をしてシュロスが白き神と同じ思考回路を持っていたのだと、再認識したのだった。
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