聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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13 天使の聖痕の力を甘く見ていた

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 帰りは行きとは違い皆がバラバラで戻ることになってしまった。しかし、ファルのワイバーンを置いていっているが、いいのだろうか。

 私は立ち上がって、土を払う。

「アンジュ。大丈夫なのか?」

「え?さっきも言ったけど、ただの痺れる毒でしょ?それぐらい解毒できるし」

「確かに脈も安定しているから、大丈夫なのだろうが、あまり無茶はしないでくれ」

 ルディは脈を取っていた手を引っ張り私を引き寄せ、抱きしめるが、チェーンメイルがガツッと頭にぶつかって痛い。自分が何を着ているか理解をしていないのか!

 私はルディとの間に手を差し込み、距離を開ける。そして、へらりと笑ってお願いをしてみた。

「ちょっと散歩してきてもいい?」

「あ゛?一人でか?」

「一人で」

「また、ふらふらと何処かに行こうというのか?俺を置いて何処かに行こうというのか?」

 散歩ぐらいで、なぜルディを置いていくことになるんだ!
 うーん、困った。ルディを置いて行きたい。はっ!置いていっている!

 まぁ、それはいいとして、ルディには言った方がいいのか。いや、でも、しかし····。困った。

 はぁ、人を信用しきれない私が悪いのだ。ルディは恐らく私を裏切らない。だけど、裏切られたときが怖い。私の未来は真っ暗になってしまう。

「あのね。お願いがあるのだけど」

「なんだ?」

「あ、いや、やっぱりいい」

 今度一人で来ればいいか。いや。まて、そんな事は可能だろうか。なんだか以前のように、···以前以上にルディが私につきまとっている気がする。

「アンジュは何が気になるんだ?言ってくれないとわからない」

 そう言ってくるルディを見る。優しい言葉をかけているようで、獲物を逃さないという視線を向けてくるルディを見る。なんだか一人でここに来るは無理そう。そして、ギリギリと体を締め付けられる。私はチェーンメイルにプレスされないように、必死に抵抗しながら、お願いを口にする。

「これから起こる事を見なかった事にして欲しい」

「なんだ?そんな事か。いいぞ」

 やっと、ルディの力が緩んだので、距離を一歩取る。

「常闇の穴のところに行くから」

 そう言って、ファル達が消えていった方向とは別の方向に足を進める。ここからでも、黒いモヤは見える。かなり巨大な常闇の穴だ。

 しかし、ルディに捕獲された。

「危ないから、ワイバーンで行こう」

 いや、直ぐそこだし。歩いてもしれている。
 ルディは私を抱えたままワイバーンの背に乗ってしまった。そして、がっしりと私を捕まえている。

「るでぃ兄。内臓が出そうだから、もう少し緩めて欲しい」

「手を離したら、アンジュは飛んでいってしまうだろ?」

 それはまるで私が風に飛ばされるような言い方だけど、そういうことじゃないよね。はぁ、自由に動く状態のほうが私としてはいいのだけど。

「地面に降りるまで立たないから、緩めて欲しい」

 そう言ってやっと緩めてもらえた。本当になぜこのような状態になってしまったのか。


 ワイバーンが低空飛行しながら、木々の上空を滑空して、黒いモヤのヘリに降り立った。数分の空の旅と言っていいほど短い時間でたどり着いた。

 黒いモヤが全体像が見えないほど広がっている。それはそうだろう。大きな山を遠くで見るのと近くで見るのとの違いだ。
 その大きく遠くに広がった黒いモヤの前に立つ。
 できる。あの話が本当ならできるはず。

 ただ、イメージをする。黒いモヤを穴の中央に渦を巻きながら戻すように。
 黒いモヤがつむじ風が起こる前兆のようにざわざわと動き出す。このまま海の渦潮のように回転させる。
 すると勢いよく黒いモヤが横に動き出す。上から見ればきっと渦状になっていることだろう。
 それを穴の中に落とす。


 黒いモヤが無くなった風景は、黒い底が見えない強大な穴が森の中に空いていた。
 なんだか、薄ら寒くなってきた。

 でも、なんとなくわかった。いや、わかってしまった。

 私は両手を底が見えない穴に向かって突き出す。そして、空間を捻じ曲げるように回転させながら、閉じるようにする。くっ!何かが引っかかっているように、空間を捻じ曲げられない。
 力が足りない。全く足りない。

 右目が熱くなってきた。何かが頬を伝う。あ、そういうこと。天使の聖痕が体に埋め込まれないのは、普通の聖痕とは違うからだ。

 ここで止めるわけにはいかない。右目の聖痕を外に出す。誰かが息を飲む音が聞こえたが、私はそれどころじゃない。

 一気に力を放出する。回転が強まり、空間の歪みが一気に加速した。だが、異物がある感覚が残る。なんだ?何かがいる?

 私は渦を巻きながら歪んでいる黒い穴を目を凝らして見る。なに?赤い塊?


 赤い肉の塊にいくつもの目がこちらを見ている。あ····あれは、まさか!!やばいやばい。空間の歪みに反して出てこようとしている?
 今の私にあの赤い肉の塊を押し込める余裕なんてない。

「るでぃ兄!」

 私が焦ってルディに声をかける。

「どうした?」

 私の斜め後ろから声が聞こえる。

「黒い穴の中の赤い肉の塊は見える?」

「ああ、なんだか気味が悪いやつな」

 良かった見えているらしい。私しか見えないのであれば最悪だった。

「あれを穴の奥底に落とすことはできる?」

「倒すのではなく?」

「あれは死なないから、落とすだけでいい」

「····わかった」

 ルディが了承の言葉を言ったと同時に、私の横から黒い矢が複数飛んでいき、赤い肉の塊に突き刺さっていき、奥へを押し込めていく。そして、つっかえが取れたかのように空間の歪みが加速し、パシュンという音と共に黒い穴が閉じた。
 開く予兆はあるかと少し構えてはみたものの、どうやら完璧に閉じたようだ。

「はぁ」

 疲れた。まさか、天使の聖痕にこんな落とし穴があるだなんて。地面にポツポツと赤い液体が落ちている。本来の力をだそうとすれば、灼熱のような熱を帯びるなんて知らなかった。
 私は右目に手を置く。····あ、なんだか俺の右目が疼くみたいなポースになってしまった。
 そのまま治療し、頭の上の輪を左手で掴む。熱くはない。それを右目の中に再びしまう。

 これで元通りだ。

「····!····ュ!アンジュ!」

 肩を揺さぶられ、ルディから呼ばれていることに気がついた。

「なに?」

「何じゃない!怪我をしたのか!」

「自業自得ってやつ、もう治したからどうもない」

「本当に治したのか?」

「本当、本当。るでぃ兄。終わったから帰ろう。言ったとおり他言無用だからね!私は祀り上げられるのは御免だから!」

 再びワイバーンに乗せられ、来た空を戻っていく。ルディは聞きたいことがあるのだろうが、何も聞いてこない。聞いてこないのならそれでいい。


 冷たい風を頬に受けながら今回の事について考える。私はあの常闇の正体が何となく、わかってしまった。
 恐らく次元を繋ぐ穴だ。穴が小さいうちはいい。この世界の何処かにいる魔物を吐き出しているだけだ。だから、この世界の人達の常識で対処可能なのだ。

 だが、穴が大きくなると他の世界と繋がってしまうのではないのだろうか。あの餓者髑髏がしゃどくろ。多数の骨でできたモノという知識が無ければ対処は難しい。

 そして、赤い肉の塊。あれは太歳たいさいだと思われる。地中の中を移動する厄災。外に出れば死を撒き散らすという恐ろしいモノ。対処は元の地中に戻すってことのみ。ムチを打つといいとい話もあるらしいが、72人中1人しか助からなかった方法なんて試す気にもならない。

 これが穴が大きくなると異次元のモノが出てくるという真相なのだろう。
 やはり聖女というのは、世界の調整者の役割があるのではないのだろうか。

 はぁー。こんなのやってられないよね。ぶっちゃけ、タダ働きに近いんじゃない?この国だけで、どれだけの穴が開いているか知らないけど、聖女が多数いるならまだしも、他の国もって言われたら、これはもう死ぬまで扱き使われる運命しか見えてこない。

 誰か、聖女になってくれる人はいないのかなぁ。

 眠い。疲れた。ああ、太歳の肉を食べると不老不死になるという噂は本当だったのかなぁ。



____________

シュレイン side

 アンジュが眠ってしまった。本来なら騎獣に乗ったまま寝るなと怒るところだが、怒る気も失せてしまった。

 リュミエール神父の言うとおりだ。目を離すといなくなってしまうと。

 元からアンジュは変わった子供だった。姿と言動が合っていない。チグハグな子供だった。考え方も普通ではなかった。

 騎獣がいれば自力で空を駆ける、そんな発想は起きないはずだ。だが、盾を足場にして空を駆ける。そして、何かの術を使って、自由に空を飛んでいく。

 空を飛ぶワイバーンから飛び立ったアンジュの背中を見て、焦った。とても焦った。
 アンジュを失ってしまうという焦りだ。
 それもワイバーンよりも速い速度で、ミレーの雷でも倒しきれなかった巨大な骨に向かって行っているのだ。慌てて追いかけるも俺の目に映った光景は意に反して、崩れ去る骨。その骨を足場にして地面に落ちていくアンジュ。
 その姿に安堵とともに不安と怒りが心を占めた。


 そして、とどめが常闇の穴を閉じたアンジュの姿だ。

 ファルークスとは、そうかも知れないと話してはいたが、実際に目にしてしまえば、理解せざるおえなかった。
 アンジュは聖女様だと。王宮の奥の聖女の間に飾られている200年前の聖女様の絵姿と重なった。

 だが、アンジュはそれを見なかったことにしろと言った。アンジュは聖女にはなりたくないということなのだろう。

 聖女はこの世界に必要だ。しかし、アンジュが聖女となれば、俺だけのアンジュでは無くなる。

 俺は迷っていた。この世界には聖女様が必要だ。アンジュが聖女だと報告しなければならない。しなければならないが、そうすれば、二度と俺の手に届かない存在にアンジュはなってしまうだろう。

 このまま寝ているアンジュの首に手をかければ、俺だけのアンジュでいてくれるだろうか。







 あれから5日経ったが、何事もなく過ごしている。何事もなくというか。ほとんどルディがくっついているのも変わらない。
 ルディは何も聞いてこなかった。そして、本当に誰にも言ってはいないようだ。もし、上層部に報告していれば、今頃、私はどこぞかに軟禁でもされていただろう。

 この5日間は、朝起きて、森の中のぽつんと一軒家に出社して、特に何もせずに宿舎に戻るということを繰り返した5日間だった。
 他の部隊がどのような事をしているかわからないが、この13部隊は日々隊員は自分の好きな事をして過ごしている。そして、気まぐれのように討伐命令が下りてきて、それに数人が駆り出されるという具合だ。
 先日のように全員が出撃するのは珍しいらしい。

 隊員が何をして過ごしているかといえば、ファルは何かと書類に目を通してはいるが、ちらっと見てみたが、どう見ても13部隊のことに関しての書類ではなく、個人的な貴族が管理している領地に関する書類だった。微妙に計算が合っていなかったところを発見してしまったが、黙っておいた。ファルの仕事に口出すことではない。

 ルディは私を膝の上に乗せて、本を読んでいることが多い。私はそこにいる必要はないような気がする。

 ティオは足が折れているので、医務室でベッドの上の住人となっているので、ここには居ない。

 ミレーはシャールとゲームをしている事が多い。カードであったり、ボードであったり、ビリヤードであったり、まぁ暇だということだ。 

 ヴィオは部屋の隅で怪しいものをブツブツと言いながらかき混ぜている。ファル曰く、新しい毒を開発しているらしい。1ヶ月ぐらいはあの状態だそうだ。

 そして、私はと言うと····やることがない。今までは午前中は早朝から聖水作りに訓練があり、午後からは小銭稼ぎに街に出て、色んな仕事をして夕方の門限までに戻ってくるという忙しい日々を送ってきたので、何もすることがないとなると困った状態になってしまう。

 仕方がないので、増産品を私の手に合った剣を改造してみようか。私は5日目にして暇に耐えきれずに刀を創り出そうとしていた。

 火が入っていない暖炉の前に座る。その横には勿論ルディが本を片手に座っている。

 黒いすすがついた暖炉の中に剣先を入れる。そして、炎の魔術で鉄剣を焼く。
 私の手にあった鉄剣とは長めの幅のある剣だ。いわゆる大剣。小柄な私が使うには違和感がある大きさだ。だが、普通の剣だと重力の聖痕に耐えきれないのだ。3本ほど壊したところで、神父様から大剣の鉄剣を勧められ、それから剣を壊すことはなかった。

 赤く熱したところで、不純物を飛ばすために叩くそうだが、形を形成させながら、不純物を落とすようにする。
 『魔法とは想像力だ!』
 正にそのとおりだ。

 形が出来上がったところで、水の魔術を使って冷やす。なかなかいい感じだ。それを風の魔術で片刃に沿わすように研いでいく。本当は波紋を入れたいところだけど、あれは特殊な土で焼きを入れるらしいとしか知識にないので、無理そうなので諦めた。

「ふふふ」

 大太刀とまではいかないが、反りが強い太刀の形でおおよそ刃渡りは80セルメルぐらい。魔物を斬るにはいい感じに出来上がった。

 何か試し斬りができるものはないかと、後ろを振り向けば、8つの目が私を後ろから見ていた。ルディは横にいるので、そこには入らない。ということは、ティオ以外の全員が私のお遊びのような作業を見ていたのだ。

「暇なので、魔物で試し斬りをしてきていいですか?」

「気になるからいいですよ。一緒に行きましょう」

 お、珍しい。ルディからOKが出た。

「あら、でも何処にいきます?近場だと北の森でしょうか?」

「でも、あそこは緑の奴らの管轄だよね。揉めたら、面倒だよ」

「で、では、東のモ··モルド山はどでしょう?」

「いや、あそこは最近、数頭のドラゴンが巣を作ったという報告が来ているから止めたほうがいい」

 ああ、皆さん暇だと。
 しかし、ただの試し斬りなので、近場でいいのだけど。

「魔物がいる近場だとどこですか?冒険者たちが依頼を受けるような浅瀬でいいのです」

「なら、北の森でいいでしょう。このまま森を抜ければ、外壁越しに隣接していますからね」

 あ、このまま森を抜けると外に出られるわけか。そして、皆がいそいそと外に出る準備を始めた。本当にこの第13部隊って何なのだろう。あまりにも自由すぎる。


 そして、私はルディに恋人つなぎで手を握られ、森の中を歩いている。傍から見れば森の散策を楽しんでいる恋人に見えるかもしれなが、私の左手には抜身の太刀もどきが握っている。その前にはヴィオが出来上がった毒の自慢話をたどたどしくしている。その話をミレーとシャールがワインにでも混ぜてみる?なんて恐ろしい話をしていた。

「で、なんで剣を作っていたんだ?」

 ルディの横を歩いているファルから質問された。なぜって?それは勿論。

「暇だったから」

 それ以外の何物でもない。

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