聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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30 不服と言うなら剣を抜け

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「どういうことですかね」

 胡散臭い笑顔をしているルディがゼクトに問う。

「アンジュ!お前王族と婚姻するために、子爵位の将校オフィシエになったんだろ!卑怯だぞ!」

 ·····あ。そう言えば、将校オフィシエって子爵位が与えられるのだった。え?すごく面倒くさくない?
 因みに騎士シュヴァリエは騎士伯だ。男爵と同じぐらい数が多い。

 しかし、子爵で王族と結婚できるかと言えば普通は無理だと思うけど?何を言っているのか、このゼクトは。

「アンジュは正当な方法で将校オフィシエの階級を承りましたよ」

「正当?!騎士シュヴァリエの実力もないアンジュが将校オフィシエに成れるはずないだろ!」

 ゼクトの言葉にルディは不思議そうに私を見るが、何か思い立ったのか再びゼクトに問いかける。

「君は単独でドラゴンを倒した事はありますか?」

「無いが、倒せる自信はある!」

 おお、言い切った。まぁ、ドラゴンは空を飛ぶから厄介なだけで、飛べないようにすれば、あとは簡単なものだ。

「アンジュは単独でドラゴンを倒したそうですよ」

「嘘だ!こいつの実力は同期の中で一番弱い。こいつがドラゴンを倒せるのなら、俺は伝説の魔王を倒せる!」

 ····毎度ながら、人の話を否定するのが得意だな。ゼクトと話をすると疲れるから、さっさと逃げるのが一番なのだけど、胡散臭い笑顔を浮かべているルディの機嫌が段々と低下していっているのが、手にとるようにわかってしまう。
 先程から私はルディの手を引っ張って、ゼクトを無視しようと促しているのに、ルディに動く様子が見られない。

 ザインはどこに消えた!さっさとゼクトを引き取って欲しい。

「君の配属部隊はどこですか?」

 ん?ゼクトの配属部隊?何が関係するのだろう?

「聞いて驚け!俺は俺の実力を認められて第1部隊に配属された!」

 凄く偉そうに言われた。騎士シュヴァリエとしてはまだ仕事をしていないのに、配属されただけ偉そうに言われてもなぁ。

「そうですか。だそうですよ。ロベル」

 ゼクトの後ろには淡い緑色の短髪の大柄で長身の男性が白い隊服を身にまとって立っていた。水色の目は呆れたようにゼクトに向けられている。
 その男性の後ろには息切れをしたように肩で息をしているザイルがいた。恐らく自分では手に余ると思って、上官を呼びに行っていたのだろう。

 ルディの言葉にゼクトは後ろを振り向き唖然としている。

「だ、第1部隊長」

 ゼクトは思わずといった感じで一歩後ろに下がった。

「ゼクトデュナミス」

「はっ!」

 ゼクトは第1部隊長のロベルと呼ばれた上官に向かって姿勢を正して、右手を左胸の上に置く敬礼の姿を取る。この命を捧げるという聖騎士の最敬礼のポーズだ。

「お前は3歳の時に教会の訓練を受けた10歳から16歳の者達、約300人を一瞬にして倒せたか?」

「は?」

「我らキルクスの者達を倒せるかと聞いたのだ」

「それは、無理であります」

「では、5歳の時に常闇の大型の魔物を3体を相手にして勝てたか?」

「大型を3体?···無理であります」

「アンジュはそれをやってのけた。5歳のときには既に聖騎士団に入団できる資格があったのだ。我々はそれを実際に知っている。だからこその将校オフィシエだ」

 ゼクトは信じられないという視線を私に向けてくる。

「しかし!しかし、アンジュは同期の中では最弱で、訓練もサボっていたし····」

 ゼクトは第1部隊長の強い視線を受けて押し黙ってしまった。

「お前は私の話を聞いていたか?既に聖騎士団に入れる実力を持っていたのだ。訓練なんて必要ないし、弱い者に本気で剣を振るうこともない。なんだ、不服そうだな」

 私からはゼクトの背中しか見えないけれど、私が強いってことが、ゼクトの中で許されないのだろう。はぁ、本当にゼクトの話相手は面倒くさい。

「ゼクトデュナミス。不服だというなら、その腰の飾りの剣を本気でアンジュに向けて振るってみろ。アンジュも本気で反撃していい。生きていれば問題にはしない」

 ん?これは虫の息にしろということだろうか。いや、問題だよね。ルディを仰ぎ見ると、私に向けてにこりと笑った。え?

 ルディは私と繋いでいた手を離す。

「ぶっ殺していいからな」

 笑顔のまま物騒なことを言わないでほしい。

 ゼクトは腰の礼式用の剣を抜いて突きの構えをとる。狭い廊下ではそれが一番無難だ。

 第1部隊長とザイルはゼクトから距離を取るように下がり、壁際に寄っている。
 ルディも私から離れて壁際に寄った。と、同時にゼクトが私に向けて剣を突いてきた。私はそれを横に体を捻り避けるが、ゼクトはそのまま剣を横に振るってきた。
 本当にゼクトは本気で剣を振るって来ている。私は距離を取り剣を避ける。

 距離を取った私に向かってくゼクトの剣には炎がまとわりついていた。魔力が動いた様子がないので、彼の聖痕は炎のようだ。

 本気。私の本気かぁ。そう言えばここ最近は本気だしたことないよね。いや、ルディと剣を交えた時はかなり本気だったなぁ。

 そう思いながら、何も持っていない腕を上から下に振るう。ただ単に素早く振るっただけだ。ゼクトに向けて腕を振るったことで発生する風が吹き抜ける。
 次の瞬間ゼクトの左腕が宙を舞った。それでも構わずゼクトは私に向かってくる。

「『炎渦フラムヴィーテ!』」

 炎の渦を纏いながらゼクトは突っ込んでくる。だから、私は逆の渦を作る。

「『風渦ヴァンヴィーテ』」

 風をゼクトを中心に中から外へ大気ごと動かす。すると、私に剣が届くかという一歩手前でゼクトが膝から崩れ落ちた。

 纏っていた炎は消え、陸の上に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせて生き足掻あがいている。そう、ゼクトは陸の上で溺れているのだ。私の魔術を解けば、一気に大気がゼクトを中心に向かって戻ってくる。

 荒れ狂う大気に押され、木の葉のように舞うゼクトの体は天井や壁に叩きつけられ、床に落ちていった。

 ·····生きているかなぁ。

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