30 / 461
30 不服と言うなら剣を抜け
しおりを挟む「どういうことですかね」
胡散臭い笑顔をしているルディがゼクトに問う。
「アンジュ!お前王族と婚姻するために、子爵位の将校になったんだろ!卑怯だぞ!」
·····あ。そう言えば、将校って子爵位が与えられるのだった。え?すごく面倒くさくない?
因みに騎士は騎士伯だ。男爵と同じぐらい数が多い。
しかし、子爵で王族と結婚できるかと言えば普通は無理だと思うけど?何を言っているのか、このゼクトは。
「アンジュは正当な方法で将校の階級を承りましたよ」
「正当?!騎士の実力もないアンジュが将校に成れるはずないだろ!」
ゼクトの言葉にルディは不思議そうに私を見るが、何か思い立ったのか再びゼクトに問いかける。
「君は単独でドラゴンを倒した事はありますか?」
「無いが、倒せる自信はある!」
おお、言い切った。まぁ、ドラゴンは空を飛ぶから厄介なだけで、飛べないようにすれば、あとは簡単なものだ。
「アンジュは単独でドラゴンを倒したそうですよ」
「嘘だ!こいつの実力は同期の中で一番弱い。こいつがドラゴンを倒せるのなら、俺は伝説の魔王を倒せる!」
····毎度ながら、人の話を否定するのが得意だな。ゼクトと話をすると疲れるから、さっさと逃げるのが一番なのだけど、胡散臭い笑顔を浮かべているルディの機嫌が段々と低下していっているのが、手にとるようにわかってしまう。
先程から私はルディの手を引っ張って、ゼクトを無視しようと促しているのに、ルディに動く様子が見られない。
ザインはどこに消えた!さっさとゼクトを引き取って欲しい。
「君の配属部隊はどこですか?」
ん?ゼクトの配属部隊?何が関係するのだろう?
「聞いて驚け!俺は俺の実力を認められて第1部隊に配属された!」
凄く偉そうに言われた。騎士としてはまだ仕事をしていないのに、配属されただけ偉そうに言われてもなぁ。
「そうですか。だそうですよ。ロベル」
ゼクトの後ろには淡い緑色の短髪の大柄で長身の男性が白い隊服を身にまとって立っていた。水色の目は呆れたようにゼクトに向けられている。
その男性の後ろには息切れをしたように肩で息をしているザイルがいた。恐らく自分では手に余ると思って、上官を呼びに行っていたのだろう。
ルディの言葉にゼクトは後ろを振り向き唖然としている。
「だ、第1部隊長」
ゼクトは思わずといった感じで一歩後ろに下がった。
「ゼクトデュナミス」
「はっ!」
ゼクトは第1部隊長のロベルと呼ばれた上官に向かって姿勢を正して、右手を左胸の上に置く敬礼の姿を取る。この命を捧げるという聖騎士の最敬礼のポーズだ。
「お前は3歳の時に教会の訓練を受けた10歳から16歳の者達、約300人を一瞬にして倒せたか?」
「は?」
「我らキルクスの者達を倒せるかと聞いたのだ」
「それは、無理であります」
「では、5歳の時に常闇の大型の魔物を3体を相手にして勝てたか?」
「大型を3体?···無理であります」
「アンジュはそれをやってのけた。5歳のときには既に聖騎士団に入団できる資格があったのだ。我々はそれを実際に知っている。だからこその将校だ」
ゼクトは信じられないという視線を私に向けてくる。
「しかし!しかし、アンジュは同期の中では最弱で、訓練もサボっていたし····」
ゼクトは第1部隊長の強い視線を受けて押し黙ってしまった。
「お前は私の話を聞いていたか?既に聖騎士団に入れる実力を持っていたのだ。訓練なんて必要ないし、弱い者に本気で剣を振るうこともない。なんだ、不服そうだな」
私からはゼクトの背中しか見えないけれど、私が強いってことが、ゼクトの中で許されないのだろう。はぁ、本当にゼクトの話相手は面倒くさい。
「ゼクトデュナミス。不服だというなら、その腰の飾りの剣を本気でアンジュに向けて振るってみろ。アンジュも本気で反撃していい。生きていれば問題にはしない」
ん?これは虫の息にしろということだろうか。いや、問題だよね。ルディを仰ぎ見ると、私に向けてにこりと笑った。え?
ルディは私と繋いでいた手を離す。
「ぶっ殺していいからな」
笑顔のまま物騒なことを言わないでほしい。
ゼクトは腰の礼式用の剣を抜いて突きの構えをとる。狭い廊下ではそれが一番無難だ。
第1部隊長とザイルはゼクトから距離を取るように下がり、壁際に寄っている。
ルディも私から離れて壁際に寄った。と、同時にゼクトが私に向けて剣を突いてきた。私はそれを横に体を捻り避けるが、ゼクトはそのまま剣を横に振るってきた。
本当にゼクトは本気で剣を振るって来ている。私は距離を取り剣を避ける。
距離を取った私に向かってくゼクトの剣には炎がまとわりついていた。魔力が動いた様子がないので、彼の聖痕は炎のようだ。
本気。私の本気かぁ。そう言えばここ最近は本気だしたことないよね。いや、ルディと剣を交えた時はかなり本気だったなぁ。
そう思いながら、何も持っていない腕を上から下に振るう。ただ単に素早く振るっただけだ。ゼクトに向けて腕を振るったことで発生する風が吹き抜ける。
次の瞬間ゼクトの左腕が宙を舞った。それでも構わずゼクトは私に向かってくる。
「『炎渦!』」
炎の渦を纏いながらゼクトは突っ込んでくる。だから、私は逆の渦を作る。
「『風渦』」
風をゼクトを中心に中から外へ大気ごと動かす。すると、私に剣が届くかという一歩手前でゼクトが膝から崩れ落ちた。
纏っていた炎は消え、陸の上に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせて生き足掻いている。そう、ゼクトは陸の上で溺れているのだ。私の魔術を解けば、一気に大気がゼクトを中心に向かって戻ってくる。
荒れ狂う大気に押され、木の葉のように舞うゼクトの体は天井や壁に叩きつけられ、床に落ちていった。
·····生きているかなぁ。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている
おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。
しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。
男爵家の次女マリベルを除いて。
◇素直になれない男女のすったもんだ
◇腐った令嬢が登場したりします
◇50話完結予定
2025.2.14
タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)
【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする
白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、
12歳の時からの日常だった。
恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。
それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。
ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。
『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、
魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___
(※転生ものではありません) ※完結しました
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる