聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
250 / 461

250 聞いているけど……

しおりを挟む
 私は渡された器の中身を見て、既視感に襲われてしまった。薄暗い中でもはっきりとわかる。お湯のようなスープの中に、クズ野菜のような具材が入っている。
 それを見た私は思わず目頭を押さえてしまった。教会のスープ!

 いや、味は違うかもしれない。お湯のようなスープをさじで掬って口に運ぶ。うすい塩味しかしない。駄目だ。ここ最近の自炊している食事に比べたら、ほとんど水と言って良い。

 ああ、妹もどきが言っていたシチューが食べたい。

「なんですか?アンジュ。その不満そうな顔は」

 神父様が食べ物に文句があるのかという視線を向けてきたので、文句はないと無言でお湯と言っていいスープを飲む。

「アンジュ。散歩はそろそろ止めにしようか」

 突然、背後からとても低い声が聞こえて来た。何故に私の散歩を止めないといけないのだろうか。

「ルディ。散歩は必要なことだよ」

 歯が折れるんじゃないかっていうぐらい、硬いパンも渡されたのでスープに浸しておく。

 散歩は自分のいる環境を知るのに必要なことだ。どこから行けば抜け出せるか、日々模索するために……とは言っても、現状では聖騎士団を抜け出すことなんて不可能だということは理解している。
 物理的ではなく、誓約に縛られているためだ。

「一緒に歩いていて気がついたが、アンジュに不躾な視線を向けてくるヤツが多いよな」

 ああ、気持ち悪い視線ってことだね。まぁ、視線を向けてくるぐらいは、どうもない。それに、キルクスの顔見知りが、私の方に来ようとしている騎士を引き止めているのを知っているから、放置している。

「あ……干し肉をつけてくれるんだ。だったら一緒に煮込んでくれても良かったのに」

 干し肉の欠片を渡されて、お肉があることに喜んだものの、木の板のように硬い肉を渡されてもと困ってしまう。それなら塩抜きして、スープに入れてくれたほうがよかったのに。

「アンジュ。聞いているのか?」

 干し肉を小さく割ろうとして、身体強化が使えないことに項垂れている私に、ルディは言ってきた。
 聞いているよ。

「ああ、それは酒吞が、そのまま食べたいと言ったので、入れてないですね」

 茨木の言葉に酒吞に視線を向けると、木の板のような干し肉をバリバリと食べていた。鬼だもんね。固くても食べれるよね。

「くぅー。まさか身体強化が使えないことでダンジョンが進めないとかじゃなくて、干し肉を食べれないことになるなんて……なんて地味な嫌がらせ」
「はぁ」

 私が、干し肉を食べることができない憤りを呟いていると、ルディからため息が聞こえてきた。そして、私が持っている干し肉を手にとって、細かく砕いて膝の上に乗せているスープの器の中に入れてくれた。

「シュレイン。アンジュが食べているときに話しかけても、無駄だと学習していないのですか?」

 神父様、酷い言い草だね。教会のスープに干し肉が付いていたら奪い合いになるじゃないの!
 だからさっさと砕いて、自分のスープの中に入れるのが一番いい。

「それぐらい、知っている。干し肉は細かく砕いてスープに入れることも知っている」

 昔から身体強化が使えていたからね。皆が干し肉に苦戦している横で、一人細かく砕いてスープと一緒に流し込んでいた。

 スープに溶け込んだ酸味のあるパンと干し肉と一緒に掬って食べる。恐らくこれがこの味気ないスープを少しでも美味しく食べる方法だ。パンの酸味と肉の旨味と塩味とでこの味気ないスープを飲む。

「でも、確かにアンジュの食べ方が一番おいしく感じるんだよなぁ。他の部隊だと遠征に行くと必ず、この保存食になるだろう?一度、干し肉と一緒に煮たら塩っぱすぎて食べれなかったと言っていたからな」

 ファルも私と同じようにしてスープを食べている。
 やっぱりそうだったのか。いくらなんでも、教会のメニューが水みたいなスープから変わらないと思ったら、聖騎士団の遠征食がこのスープだったのか。これこそ洗脳教育と言っていいよね。遠征食に文句を言わせないための、質素な食事。

「ファル様。干し肉を煮るときは、塩抜きするって常識じゃない。遠征の時はそんな時間がないから、干し肉がそのまま出るんだよ」

「じゃ、さっきなんで一緒に煮込んでないことに文句を言ったんだ?」

「それは私が今の状態では、普通の干し肉が食べれないからに決まっているよね!」

「堂々と偉そうに言うな。ただ単に食い意地が張っているだけだろうが!」

「美味しい物は正義だ!」

 私とファルが言い合っていると、クスクスと神父様の笑い声が聞こえて来た。なに?すごく怖いのだけど?

「昔からあなた達は変わりませんね」

 なんかジジくさいことを神父様が言ってきた。まぁジジくさいと言うと怒られそうだから言わないけれど。

「リュミエール神父。それはアンジュが成長していないということですよね」

 ファルが失礼なことを言ってきた。

「私は大きくなっているからね!背も伸びているからね!なに?ファル様の白い目は!神父様がジジくさいことを言うから悪いんだよ……ね」

「ジジくさいって、どういうことでしょうか?」

 あ、つい口が滑ってしまった。



しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている

おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。 しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。 男爵家の次女マリベルを除いて。 ◇素直になれない男女のすったもんだ ◇腐った令嬢が登場したりします ◇50話完結予定 2025.2.14 タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)

【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする

白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、 12歳の時からの日常だった。 恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。 それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。 ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。 『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、 魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___ (※転生ものではありません) ※完結しました

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...