聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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260 聖王と王妃

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「しかし、皮肉だねぇ」

「何がだ?アンジュ?」

 皮肉。それはこの状況だろう。私達が浮かぶ下には多くの獣人たちが集まってきている。そして、何かを待っているのだ。恐らくその何かが終わらない限り、次の階層には行けない。

「だってさぁ。本来なら役目を終えた聖女と王が来るんだよ。それも死の鎖にぐるぐる巻きにされてね。そして、下から自分たちが住んでいた王城らしきものを見上げている。これが皮肉じゃなくてなに?」

「王と聖女はこの見慣れぬ者たちと、同じ立場ですらなく、鎖に繋がれた罪人というわけですか?」

 神父様の言葉に苦笑いを浮かべた。そう、裁きを待つ罪人のようにだ。

「あ、誰か出てきた」

 王城と思われる建物のバルコニーに二つの影が見えた。その現れた者に対して歓声が沸き起こる。

「ふーん。アレが太陽の王に月の王妃ね」

 太陽の王と思われる人物は黄金の髪に体格のいい人物。月の王妃は長い黒髪に細身の体格の人物としか、ここからではわからない。だから遠見の魔術を使う……残り少ない魔力だけど、一瞬なら可能なはず。

 前方に透明な板を出し、その拡大した姿を映し出す。

「アンジュ!」

 一瞬にして拡大表示されたスクリーンは爆発し消失した。まいったなぁ。魔術を使っても、周りに展開している魔術が大きすぎて、維持すらできなかった。
 しかし、その容姿は確認できた。

「アンジュ!魔術は使えないのに無理をして使うな」

「そうだね、ルディ。この幻影を作り出している魔術の大きさに、負けてしまったね」

 爆風から私の身を守ろうとしたルディを見てみるけど、怪我はしていなさそうだ。大した魔力量は使っていなかったから、爆風があたっただけに、とどまったのだろう。

「それで、何が見えましたか?」

 ここでは空を見上げるように態勢を維持している神父様が聞いてきた。

「王は獅子の獣人かな?王妃は九尾の黒狐かな?」

「九尾ですか。それは恐いですね」

 茨木は九尾という言葉に反応した。しかし、玉藻御前とは違うと思うので、恐いかどうかは私にはわからない。

「九本尾があるって数えたわけじゃないよ。それぐらい見えただけ」

「いやぁ。あれは九尾だろう?それだとアマテラスが言っていたこともわかるなぁ」

 酒吞は目を細めて、月の王妃を見ている。鬼の視力がどれぐらいかはわからないけれど、酒吞には見えていそうだ。

「アンジュが言っていた意味がわかるとは、どれのことですか?」

 神父様。私が毎回おかしなことを言っているような言い方をしないで欲しい。そこまで神父様が理解できないような言葉は言っていない……はず。

「九尾は一つの国を滅ぼしてんだよ」

「聞く話によりますと酷いものでしたね。まぁ、日ノ本では陰陽師なるものが目を光らせていますから、好き勝手にはできないようですがね」

「だから、一度滅んでいてもおかしくはないと言うことですか?」

 酒吞と茨木の話の元は妲己の話だろう。正確には王を傀儡にして民に重税を強いて、歯向かう者はことごとく処刑したという話だけど、神話の域に達しているので、物語のいち登場人物のような感覚でしかない。
 だけど、彼らは玉藻御前を知っているのならば、本人から話を聞くことがあったのかもしれない。

「神父様。それは私が予想した結末の一つです。この物語を進んでいけば、真実が見えてくるでしょう。それにここの最終地点には恐らく聖王がいますよ。本人に聞けばいいのです」

 そして、いつの間にか多くの獣人の人の姿はなくなり、足元にはポッカリと黒い穴が口を開けていた。どうやら見せたいものは終わったらしい。

 次の階層に進もうか。


 次の階層の風景は知っているところだった。

「あ、家があるところに近い」

 私が生まれた家がある場所に近い風景だった。何度も家の窓から眺めた高い山脈。あの先には王都があるのだ。

「ん?この辺りがアンジュの出身地なのか?」

「こんな大きな川は見たこと無いけどね」

 私達は大きな川の横に出てきた。そして背後には青い海。海は初めて見た。これは王都と隔てている山脈から流れている川の水が海へと注いているのだけど……

「人が浮いているね」

 動いていない人が川の流れに沿って海に出ていっている。それも一人や二人じゃない。複数人だ。

「何かあったのでしょうね」

 神父様の声は幾分か硬い。恐らくここまでの幻影で予想はしていたのだろう。人という人種が虐げられていたということに。

 そして、背後から水の音と共に、砂利のような砂浜を歩く人の足音が聞こえた。振り返れば、肩に一本の矢が刺さった男性が、海から上がって来たところだった。老人のように白い髪だが、容姿からは20代中頃と思われる人物だ。その人物の血に染まったような赤い瞳には殺意の色が乗っている。

「今度はこの人について行けってことかな?」

「そうだな」

 ルディも同じ意見のようだ。ゆっくりと歩く男性に合わせて私も移動速度を落としたのだった。

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