聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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282 世界の力の枯渇の原因

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 爪をむき出しにして襲いかかってくる獅子の獣人。腕を振り下ろした瞬間、その姿は歪んで消えた。

「ばーか。誰がこんな物に引っかかるか」

 私は神父様の結界を黒く口を開けた穴に滑り込ませながら、背後に向かって言った。

 そこには吹雪の中、こちらに視線を向けながら唸り声を上げている獅子王の姿があった。そう、視線が合っているのだ。

「いい加減に気づいてよね。この魔力を聖力に変換するシステムが崩壊しているって」
「アンジュ。そんな事を言ってもただの幻影だろう?」

 次の階層に向かう階段に入ってしまったために、その幻影の獅子王がどのような反応をしたかはわからない。けれど、視線が私と合っていたのは確かだ。
 幻影が私を認識していたのだ。

「ルディ。そうでもないかもだよ?」

 私は暗闇しかない前方を見て言う。誰かの意思が関与した幻影。ならば、私の言葉が届いていてもおかしくはない。

「まぁ、聞こえていなくても、聞こえていても、私には関係ないよ。私は魔力を無尽蔵に取り込むルーナの聖女じゃないからね」

 次の階層の入口が見えてきた。しかし、入口から光が漏れている。

 暗闇ではないということは、また火の海ってこと?
 火の海でもこの結界があれば、なにも問題はないけどね。




 二十五階層に入り、その眩しさに思わず、手をかざした。眩しさに目を細めていると、耳に悲鳴が届く。

 何が起こっているの?

 目が慣れて見た光景に私は思わず、上に視線を向けてしまった。深呼吸をして再び、見せつけられている光景に視線を向ける。

「言葉もないよ」

 私は見せつけられている光景に、心が冷えていく思いだ。ああ、なんだっけ?
 確か冬は凍てつくほど寒くて、夏は灼熱の大地だったかな?

「これが聖女を生贄にしようとした、発端ですか」

 神父様が目の前の光景を見て言った。
 確かにそうかも知れない。何故なら世界に太陽が戻ってきているのだから。

 世界に再び太陽を昇らすためにしなければならないこと、それは聖気を再び世界に満たせばいいのだ。

「狂っている」

 ファルが言うように狂っている。いや、既に狂っていたかだ。

「王とは……王とはなんだ? 民を守るために剣を奮うのではなく、何故剣を民に向け殺している」

 ルディは何かに耐えるように言葉にした。そう、獅子王は残った民たちを虐殺している。
 怒っているように咆哮を上げ、悲しんでいるように叫び、何がおかしいのか笑い声を上げている。狂っているようにしか思えない。

 だけど、それしか解決策を見いだせなかったのだろう。

「多分さぁ。獣人、一人ひとりに聖気で加護でも与えていたとしたら、その聖気を世界に返すためには、殺すことしか考えつかなかったのかもしれないね」
「それでも、これは王としては絶対にしてはならない」

 ルディの言うとおりだ。しかし、そもそも世界の力が枯渇するなんて、普通はあり得ないと思う。そんな膨大な力を使い切るなんて、海の水を使い切るぐらいのことだ。

 はっきり言って無理だ。だけど、獅子王が治めている獣人に何かしらの加護を与え、楽園を作り上げ、一国という大きさで桃源郷でも作ったと……桃源郷?
 私は自分の思った言葉に、身の毛がよだった。

 私は直視することをしていなかった、獅子王に剣で切られた獣人をよく見る。上半身と下半身が切られて別れてしまっているというのに、切られてしまった下半身の元に移動しようとしている上半身がいる。首が切られているというのに、その首をつけようと、腕に掲げているものの、うまく付かないともがいている獣人。

 ある意味怖い。だけど、獅子王が民に手をかけている理由がこれだ。世界の力をつかって、獣人に不老不死の肉体を与えたのだ。

 これだ!これが獣人と人との間にあった格差を生み出した原因だ!
 何をしても死なない存在に抵抗するのも無意味だと、人は獣人に付き従うようになってしまった。
 しかし、新たな世界の力である魔力はその獣人を傷つけることができた。

 ということは、敢えて世界は人に新たな力を与えたと思わざる得ない。

「あぁー! ここに来て大体のからくりが分かってきた!」

 全て!全て!あの獅子王が悪い!

 何が聖王だ!獅子王は獣人の願いを叶え続けた結果が、世界の崩壊だ。そして己の過ちを精算すべく、獣人を殺し世界に力を返そうとしている。

 そして今の時代に獣人が存在しない理由と飛行船やそれと同等の技術が残っていない理由がコレだ!


「ん?でも全てを世界に力を返したのに、何故未だに世界は飢えているのだろう?」

 獅子王の行動は自己精算をしているだけだ。これが完結すれば、世界は正常化するはず。だけど、常闇は閉じることなく、二百年に一度の割合で世界は異物を取り込もうと口を開く。

 見せられているものと、現状があってこなかった。

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