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2話 お姿を見る事ができて幸せです
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この部屋から誰かが去って行こうとする気配がします。この気配は
「キアン。何処に行こうとしているのです。まさか、今の話をお祖父様とお祖母様に報告するつもりですか?」
そう、何処ともなく声をかけると、一人の男性が私の足元に、頭を下げ跪いた姿で存在していました。まるで、ずっとそのような姿で今までいたように
「はい」
ただ一言、キアンは答えてきました。
「なりませんよ。私の心は私の中に留めておきます。皆も今の話は他言無用です。それに今さら誰かに話したところでどうにかなる事ではありませんしね」
「メイア様と前公爵様はこの婚姻に反対されていましたので、力尽くでなかったことにされると思いますよ」
ユーリア、分かっているから報告するなと言っているのです。それはとても恐ろしいことになりそうではないですか。
この国の守護者と言われているお祖父様とそのお祖父様を暗殺するために北のヴィーリス国から送られた第3王女のお祖母様。
そんなにお二人に私の気持ちが知られてしまったら、国を2分する騒動になるか、王太子の首をすげ替えることをされるではないですか。
『ルーシェも強き伴侶の方が望ましいわ。もやし王子などお祖母様がサクッとヤッてあげますわよ』と高笑いしているお祖母様が想像できてしまいます。それは国として問題があると思います。
「キアン、下がりなさい」
そう言うと目の前のキアンは一度顔を上げ再び頭を下ると消えていきました。流石ヴィーリス国の影ですね。
「はぁ、ルーシェ様ぐらいですよね。あの仮面を付けていて個人を判断できるなんて」
ユーリアはそう言いますが、わかるものはわかるとしか言いようがないですね。クラナード公爵家の影は皆全員、真っ白な目の部分しか空いていない仮面を被っているのですが、それはヴィーリス国特製の個人の魔質を消し去ることで、個人を特定されないようにする物なのです。それを付けることで誰がそこに居るとは、普通は分からないそうなのです。
「大したことではないわ。皆違うことは当たり前なのだから。お茶美味しかったわ。ありがとう。もう、休むわ」
立ち上がり、私の隣の部屋に入ろうとする背中に
「そんなお嬢様だからこそ、皆喜んで仕えているのですよ。お嬢様がお望みになれば一国ぐらい潰してみせますよ。今日はお疲れ様でした。おやすみなさいませ」
ユーリアが声を掛けてきました。それぐらい理解していますよ。だから、私は彼らに安易なことを言ったりはしない。
本当に今日は疲れましたけど、いい夢が見られそうな気がするわ。
「ええ、おやすみ。ユーリア」
翌朝、扉をノックする音とユーリアの「朝でございます」という声で目が覚めました。夢見は最悪でした。王太子が渡された書類に適当にサインをして甚大な被害が出てしまう夢でした。正夢になってはいけませんので、さっさと起きて今日の仕事に取り掛からなければなりません。
「ユーリア。入って来ていいわ」
私のその言葉と同時に扉が開き、ユーリアが「おはようございます」と言って入ってきました。ユーリアもですが、クラナード公爵家の家人は許可なく私の部屋に入ることはありません。
それは、お祖母様の『人が寝ている部屋に入ってくる者は敵としてブチ殺しなさい』という教育方針に従っているからです。実際、次期当主であるお兄様の部屋に入ろうとした新人のメイドが朝に首が切られた状態でお兄様の部屋の前に倒れていました。因みにお兄様はキラキライケメンです。私の好みではありませんが。
「ルーシェ様。今日のドレスはどういたしましょうか?」
ユーリアが今日着るドレスについて尋ねてきました。
「いつものシンプルなものでいいわ」
「はぁ。もう少し着飾ってもよろしいかと思います」
着飾っても何も良いことなどありはしないのだから、無駄ですね。
「王妃様に目を付けられると面倒でしょう?グチグチと1刻は言われつづけるでしょ?あのマリアンヌという子も公爵家のお貴族様はお金持ちだからいいよねとか言われるのよ?面倒だからいつものでいいわ」
「ルーシェ様。その娘消しましょうか?」
それこそ面倒なことになるからしないで欲しいわ。
「ユーリア、そのようなことはいいから、準備を手伝って、早く王宮に行けばあの方を垣間見ることができるかもしれないしょ?」
夜着を脱ぎ、ユーリアが用意をしてくれた深い青色にグレーのオーガンジーが重なったドレスに袖を通します。見た目は地味ですが、青い生地に銀糸の刺繍がされているので、光に当たるとキラキラと光るのが気にっているドレスです。
「シュトラール王は見送りはいいと言われているので、いつ退城されるかはお調べすることができませんでした」
流石ユーリアですね。私の欲しい情報を手に入れてくれているなんて、しかし、いつ退城されるか分からないですか。これは早く王宮に向かわねばなりませんね。
鏡台の前に座り、ユーリアが髪をまとめていってくれているのを、鏡越しに見ます。その前には金色の髪にローズのような赤い目の私が映っています。ふわふわしすぎて直ぐに絡まってしまう髪はお祖母様譲りです。その髪をキツめに結ってもらうのがいつものスタイル。そして、見つめる目は王族特有のローズレッドの色をした瞳。可愛らしいというより、冷淡に見える顔。それが私です。
髪が結い終わったユーリアは私に軽く化粧をして、私の後ろに控えました。
「いかがでしょか?」
「ええ、いつもどおり素敵にしれくれてありがとう。ユーリア」
そして、軽く朝食を取り、王宮に向かいます。この離宮から王宮までは広大な庭園を挟んでいる為にかなりの距離があります。通常は馬車で移動をするところなのでしょうが、私は徒歩です。
私用の馬車など、お前には勿体無いなどと言われ、使わせてもらえないのです。今までは公爵家の馬車がありましたが、王族となった私には使用してはいけないとも言われてました。
別に私は徒歩でも構いませんよ。王太子はご存知ないかもしれませんが、この離宮には王宮直通の道があるのです。5代前の王が作った、愛人のところにお忍びで通う隠し通路です。
「ルーシェ様。いってらっしゃいませ」
小さな物置の中で頭を下げているユーリアに見送られ、光を通さぬ暗い通路を駆け足で進んでいきます。私にとって暗いだけの道など光が無くても問題はありません。
そして、他の通路と合流、分岐を繰り返し、私に宛行われた執務室の出口にたどり着きました。小さな扉をそっと開けますが、誰もいないようです。
滑るように執務室の中に入ります。3階にあるこの部屋に丁度朝日が差し込む時間です。窓に近づき外を見ますと、王城の外門が開けられていっています。間に合いました。これから、この王城に出入りする人を迎える為に門が開かれています。
さて、今日も仕事をしましょうかと伸びをしていますと、下に馬車が停められているのに気が付きました。あの紋章はシュトラール国のもの、危なかったです。お見送りが出来ないことになるところでした。
書類を片手に窓の外を眺めること4半刻、ラディウス様が側近の方たちと共に外に出られてきました。
はぁ。朝日を浴びた姿はとても素敵です。
窓の端のカーテンに身を隠しながら、ガン見します。
え?一瞬、目が合ったような気がしました。しかし、私は気配を消してカーテンに身を隠していますのに、気が付かれるはずはありません。
ああ、馬車の中に入ってお姿が見えなくなってしまいました。でも、少しだけでもそのお姿を垣間見る事ができて幸せです。
「キアン。何処に行こうとしているのです。まさか、今の話をお祖父様とお祖母様に報告するつもりですか?」
そう、何処ともなく声をかけると、一人の男性が私の足元に、頭を下げ跪いた姿で存在していました。まるで、ずっとそのような姿で今までいたように
「はい」
ただ一言、キアンは答えてきました。
「なりませんよ。私の心は私の中に留めておきます。皆も今の話は他言無用です。それに今さら誰かに話したところでどうにかなる事ではありませんしね」
「メイア様と前公爵様はこの婚姻に反対されていましたので、力尽くでなかったことにされると思いますよ」
ユーリア、分かっているから報告するなと言っているのです。それはとても恐ろしいことになりそうではないですか。
この国の守護者と言われているお祖父様とそのお祖父様を暗殺するために北のヴィーリス国から送られた第3王女のお祖母様。
そんなにお二人に私の気持ちが知られてしまったら、国を2分する騒動になるか、王太子の首をすげ替えることをされるではないですか。
『ルーシェも強き伴侶の方が望ましいわ。もやし王子などお祖母様がサクッとヤッてあげますわよ』と高笑いしているお祖母様が想像できてしまいます。それは国として問題があると思います。
「キアン、下がりなさい」
そう言うと目の前のキアンは一度顔を上げ再び頭を下ると消えていきました。流石ヴィーリス国の影ですね。
「はぁ、ルーシェ様ぐらいですよね。あの仮面を付けていて個人を判断できるなんて」
ユーリアはそう言いますが、わかるものはわかるとしか言いようがないですね。クラナード公爵家の影は皆全員、真っ白な目の部分しか空いていない仮面を被っているのですが、それはヴィーリス国特製の個人の魔質を消し去ることで、個人を特定されないようにする物なのです。それを付けることで誰がそこに居るとは、普通は分からないそうなのです。
「大したことではないわ。皆違うことは当たり前なのだから。お茶美味しかったわ。ありがとう。もう、休むわ」
立ち上がり、私の隣の部屋に入ろうとする背中に
「そんなお嬢様だからこそ、皆喜んで仕えているのですよ。お嬢様がお望みになれば一国ぐらい潰してみせますよ。今日はお疲れ様でした。おやすみなさいませ」
ユーリアが声を掛けてきました。それぐらい理解していますよ。だから、私は彼らに安易なことを言ったりはしない。
本当に今日は疲れましたけど、いい夢が見られそうな気がするわ。
「ええ、おやすみ。ユーリア」
翌朝、扉をノックする音とユーリアの「朝でございます」という声で目が覚めました。夢見は最悪でした。王太子が渡された書類に適当にサインをして甚大な被害が出てしまう夢でした。正夢になってはいけませんので、さっさと起きて今日の仕事に取り掛からなければなりません。
「ユーリア。入って来ていいわ」
私のその言葉と同時に扉が開き、ユーリアが「おはようございます」と言って入ってきました。ユーリアもですが、クラナード公爵家の家人は許可なく私の部屋に入ることはありません。
それは、お祖母様の『人が寝ている部屋に入ってくる者は敵としてブチ殺しなさい』という教育方針に従っているからです。実際、次期当主であるお兄様の部屋に入ろうとした新人のメイドが朝に首が切られた状態でお兄様の部屋の前に倒れていました。因みにお兄様はキラキライケメンです。私の好みではありませんが。
「ルーシェ様。今日のドレスはどういたしましょうか?」
ユーリアが今日着るドレスについて尋ねてきました。
「いつものシンプルなものでいいわ」
「はぁ。もう少し着飾ってもよろしいかと思います」
着飾っても何も良いことなどありはしないのだから、無駄ですね。
「王妃様に目を付けられると面倒でしょう?グチグチと1刻は言われつづけるでしょ?あのマリアンヌという子も公爵家のお貴族様はお金持ちだからいいよねとか言われるのよ?面倒だからいつものでいいわ」
「ルーシェ様。その娘消しましょうか?」
それこそ面倒なことになるからしないで欲しいわ。
「ユーリア、そのようなことはいいから、準備を手伝って、早く王宮に行けばあの方を垣間見ることができるかもしれないしょ?」
夜着を脱ぎ、ユーリアが用意をしてくれた深い青色にグレーのオーガンジーが重なったドレスに袖を通します。見た目は地味ですが、青い生地に銀糸の刺繍がされているので、光に当たるとキラキラと光るのが気にっているドレスです。
「シュトラール王は見送りはいいと言われているので、いつ退城されるかはお調べすることができませんでした」
流石ユーリアですね。私の欲しい情報を手に入れてくれているなんて、しかし、いつ退城されるか分からないですか。これは早く王宮に向かわねばなりませんね。
鏡台の前に座り、ユーリアが髪をまとめていってくれているのを、鏡越しに見ます。その前には金色の髪にローズのような赤い目の私が映っています。ふわふわしすぎて直ぐに絡まってしまう髪はお祖母様譲りです。その髪をキツめに結ってもらうのがいつものスタイル。そして、見つめる目は王族特有のローズレッドの色をした瞳。可愛らしいというより、冷淡に見える顔。それが私です。
髪が結い終わったユーリアは私に軽く化粧をして、私の後ろに控えました。
「いかがでしょか?」
「ええ、いつもどおり素敵にしれくれてありがとう。ユーリア」
そして、軽く朝食を取り、王宮に向かいます。この離宮から王宮までは広大な庭園を挟んでいる為にかなりの距離があります。通常は馬車で移動をするところなのでしょうが、私は徒歩です。
私用の馬車など、お前には勿体無いなどと言われ、使わせてもらえないのです。今までは公爵家の馬車がありましたが、王族となった私には使用してはいけないとも言われてました。
別に私は徒歩でも構いませんよ。王太子はご存知ないかもしれませんが、この離宮には王宮直通の道があるのです。5代前の王が作った、愛人のところにお忍びで通う隠し通路です。
「ルーシェ様。いってらっしゃいませ」
小さな物置の中で頭を下げているユーリアに見送られ、光を通さぬ暗い通路を駆け足で進んでいきます。私にとって暗いだけの道など光が無くても問題はありません。
そして、他の通路と合流、分岐を繰り返し、私に宛行われた執務室の出口にたどり着きました。小さな扉をそっと開けますが、誰もいないようです。
滑るように執務室の中に入ります。3階にあるこの部屋に丁度朝日が差し込む時間です。窓に近づき外を見ますと、王城の外門が開けられていっています。間に合いました。これから、この王城に出入りする人を迎える為に門が開かれています。
さて、今日も仕事をしましょうかと伸びをしていますと、下に馬車が停められているのに気が付きました。あの紋章はシュトラール国のもの、危なかったです。お見送りが出来ないことになるところでした。
書類を片手に窓の外を眺めること4半刻、ラディウス様が側近の方たちと共に外に出られてきました。
はぁ。朝日を浴びた姿はとても素敵です。
窓の端のカーテンに身を隠しながら、ガン見します。
え?一瞬、目が合ったような気がしました。しかし、私は気配を消してカーテンに身を隠していますのに、気が付かれるはずはありません。
ああ、馬車の中に入ってお姿が見えなくなってしまいました。でも、少しだけでもそのお姿を垣間見る事ができて幸せです。
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