公爵令嬢の幸せな夢

IROHANI

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九、姉と婚約者

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 父が爵位を継ぎ、社交シーズン以外はこちらで過ごす事となり、母も姉も一緒にこちらで暮らす事に決まった。グロリアは王都の屋敷に残らなくてはいけなくて、信頼できる使用人達がまわりにはいるが、とても心配だ。
 日中はあの人が表に出ているのだが、あの人は空想の世界に浸っているだけで、大人しく過ごしてはいるようだった。ほぼ、自室で過ごしているので家族がこちらに来ている事にも気付いていない。そういえば、あの人の中では『まわりは自分に興味がなくて除け者にされている可哀そうな次女』でしたね。それでも王都の屋敷を行き来して<ヒョウイシャ>の報告をしなくてはいけない。
 <ヒョウイシャ>の報告は義務であり、王家からも監視される。<ユウゴウシャ>となり危険レベルが下がれば自由が増えるのだが、一生監視される事には変わりはない。グロリアは<ユウゴウシャ>になるためにあの人に話しかけているそうだが、その声は届かないそうだ。まわりの話を聞かなさそうだし、全部都合よく解釈しているのではないだろうか。グロリアは前途多難な状況を「これも試練だ!」と、前向きにとらえている。彼女のそういうところも大好きだ。

 私の一日は朝の散歩から始まり、お祖母様の元へ訪ね診察を受ける。そこで一杯のハーブティーを一緒にいただく。朝食後、午前中は家庭教師の方の元で貴族としての教育を受ける。昼食後の午後からは薬学や医療についての勉強だ。

「アマリア、そろそろお茶にしようか」
「わかりましたわ」

 読んでいた書物から目を上げ、身体をぐっと伸ばすと気持ちいい。

「すごく集中していたね。いつ、声をかけようか迷ってしまったよ」

 クスクスと笑ってソファーに座って手招きをしているのは、ヨハンネスお義兄様。隣の領地を治めるネーベン伯爵家の三男で、ユリアナお姉様の婚約者である。彼とは祖母同士が友人である事から紹介された。姉の一つ上で私にとっては三つ上の優しそうなお兄さんというのが第一印象。薬師を目指していると聞き、話をしていたら意気投合していた。私は新しく兄の様な人が出来たと思っていた。将来、本当の兄になるわけだが、姉ユリアナは私達二人が話しているのをニコニコと笑顔で見ているだけだった。私を間に挟んで私と話す時は二人とも楽しそうなのに、二人だけで話す時はなぜか作った笑顔で話している。

「お姉様はヨハンネス様の事が苦手なのですか?」

 ヨハンネス様がお帰りになられた後に聞いてみたら、きょとんとした顔をしていた。その顔も可愛いのはさすがお姉様だ。

「……ネーベン様を苦手? えぇ、そうね……苦手とかそういった風には思わないわ。でも、そうね。アマリアに少し近すぎないかしら? 私の可愛い妹に初対面から馴れ馴れしいだなんて思っていませんわよ。うふふ」

 お姉様は笑顔のはずなのに、いつもと違うのは気のせいでしょうか?

「ただ、アマリアが薬草の事で楽しそうに話しているのを見る事ができて嬉しいわ。でも二人のお話に入っていけない私が悔しいだけなのかもしれないわね。我が家の大切な事業にも関わる事ですから、本来なら私も勉強するべきなのにね……」
「でも、お姉様は経営のお勉強をしておられますわ。領地のために色々とお考えになられていて、お父様達と議論しているお姉様は生き生きとしていてキラキラと輝いています!そういった事は私には難しくて、あまり興味が持てません」
「ふふっ、私達は興味のない事には無関心だとお父様達がおっしゃられていたわ」
「でしたら、お姉様は経営を、私は薬学を頑張ればいいのです。役割分担ですわ!」

 得手不得手があるのは仕方がない。家族なのだから助け合っていけばいいのだ。

 その数日後、我が家を訪れたヨハンネス様とお姉様の様子がおかしかった。お互いをちらちらと確認して目が合うとすぐに逸らしたり……お顔も赤い。
 こ・れ・は、何かありましたね!!
 それからはお二人でもよくお話になられていて、お姉様も楽しそうにしていた。ヨハンネス様がお姉様にこっそりと、お花を渡しているところも目撃した。そのお花には「かわいらしい人」という花言葉がある。急接近していく二人を見守りながらも、姉が取られたようで少しだけさびしい。あぁ、お姉様が最初の頃に私とヨハンネス様に感じていたのは、こういう気持ちだったのかもしれない。
 そして二人の婚約の話が浮かび上がり、お姉様が十一歳になられた年にお二人は正式に婚約した。

 お茶をいただきながら、お姉様とお義兄様の事を思い出していれば、お姉様がクッキーを持って来られたので小さなお茶会が始まる。お二人は仲睦まじく、お話をしている。その様子を嬉しくて眺めていたら、私の視線に気付いたのか「どうしたの」と聞かれた。

「お二人が楽しそうだから、私も楽しいのです」

 このお二人が本当の家族になる日が、今から楽しみだった。





 魔術コントロールが上手くいき私の身体も成長してきたからか、今では病弱と呼ばれていたのが嘘のようである。とはいえ、同年代の中では背が低く小柄なのもあって幼く見えるらしい。庭師の孫である一つ下のヘレナの方が年上に見える。たくさん食べて適度な運動もして頑張っているが、これは頑張れば得られるというものでも無いのかもしれない。祖父も父も大柄で、祖母も母も女性の中では背が高い方だ。姉もいつの間にか背がぐんと伸びて私との差が開いている。グロリアとも私達は双子なのに差があった。
 そんなグロリアにはまだ会う事が出来ていない。私達が十歳の誕生日を迎えれば直接会う許可がもらえる。六年ぶりのグロリアはどんな風になっているのだろうか。



 季節は廻って、私達の誕生日が近づいている。期待と不安が入り混じって落ち着かない。彼女の手紙からも、私と会える事を楽しみにしているというのがうかがえる。それでも不安が消えないのは、やはりあの人の事があるからだろうか。
『おねえさま』こと、『アンノ・キッカ』さん――。
 彼女に直接会う事はしないつもりだが、この目であの人の事を確かめたい。言ってやりたい事もたくさんあるが刺激するのは良くないとの事で、諦める事にした。

 せめて、グロリアの話を聞いてくれたならいいのに……。
 あの人の事を考える時は、ため息が増えるのは気のせいだと思いたい。

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