公爵令嬢の幸せな夢

IROHANI

文字の大きさ
13 / 45

十、ささやかな誕生日会

しおりを挟む
 『転移の門』を使って戻ってきた王都――本日から一週間ほどこちらに滞在する事になる。
 六年離れていたからか、懐かしさとあの頃の違いにきょろきょろと辺りを見回していれば、一緒に帰ってきたお姉様に笑われてしまった。
 お姉様は月に一度は王都に戻られて、お茶会に参加されたりしていた。クラウス殿下の婚約者候補選定のお茶会にも参加されて、そこで仲良くなった方とお会いになっているそうだ。殿下の婚約者候補選定のお茶会は、あくまで王妃殿下主催の同年代の令嬢達が親睦を深めるというものである。その中で何人か殿下の婚約者候補を選び相性などから決まる。
 今年十歳になった私も、王妃殿下主催のお茶会に招待されている。このお茶会は第三王子のクレメッティ殿下の婚約者候補選定お茶会という噂もあるそうだ。しかし私と殿下は従兄妹であるので選ばれる事はない。私もお姉様のようにこのお茶会で友人が出来ればいいなと思う。

 王宮から少し離れた位置にある屋敷。住んでいた時は当たり前に思っていたが、これは屋敷というよりは宮殿である。キルッカ家には何人も王女が降嫁しており、何代か前に降嫁した王女のために当時の国王陛下が離宮を建て、そこがキルッカ家の王都での住まいとなった。血が濃くなりすぎるのも良くないので何代か間を開けるが、王家に女児とキルッカ家に男児が生まれた時は、すぐに婚約が決まる。相性の問題もあるが特に今まで問題が無かったらしい。
 キルッカ家の屋敷、もとい離宮に着いた。使用人一同に出迎えられ、私は自室ではなく客室に向かう。以前はグロリアと同じ部屋で過ごしていたが、成長した私達にはそれぞれの部屋が与えられる。私に与えられた部屋はまだ家具などが置かれていない。好きな家具を選んで良いそうなので、少しずつ考えていこうと思う。
 グロリアが表に出て来られるのは、あの人が眠っている時間帯。今日の夜、彼女と六年ぶりに再会出来るのだ。ドキドキするのを抑えるように深呼吸し、夜に備えてベッドに向かって倒れこむ。

 何から話そうか……。
 
 まずは、数日前に迎えた誕生日のお祝いをしよう。そして、あの日別れた時からのお互いの事をゆっくりと語っていきたい。





「アマリアお嬢様、起きてください」

 メーリの声が聞こえ、ゆっくりと意識が戻ってくる。起き上がりいつもと違う部屋の様子に、今は王都に戻ってきていた事を思い出した。顔を洗って眠気を覚まし、メーリに身なりを簡単に整えてもらう。ネグリジェの上にカーディガンを羽織って、そっと部屋を出る。静まり返った廊下に薄っすらと明かりが見え、メーリ達に案内されて部屋に向かった。

「グロリアお嬢様。アマリアお嬢様をお連れしました」

 コンコンと軽いノックの音が静かな廊下に響く。部屋の中からガタタッと音がし「入って」と、声が聞こえた。
 グロリアの声だ。毎日聞いていたあの声が聞こえた。それだけで胸の奥からこみ上げてくる何かを抑え、緊張を静めるために息をはく。

「グロリア、入るね」

 震えそうになる声で入室を告げ、開けられた扉からそっと中へと足を進める。一歩踏み入れた瞬間、ぎゅっと抱き着いてくる感触に涙が溢れいく。

「アマリア! 会いたかったぞ!!」

 グロリアの声が、身体が震えている。泣くのを我慢するように私を抱きしめている彼女の背中に手を回して、抱きしめ返した。

「グロリア……私も……私も会いたかった!」

 六年ぶりに触れ合えた私の大切な半身。このまま抱きしめあっていたかったが、ゆっくり話が出来ないだろうとソファーに座る事にした。グロリアは当たり前に手を繋いで私を引っ張ってくれる。座ってからも手が離される事はない。ぎゅっと握りあい、ぴったりとくっ付きながら隣同士で座った。

「グロリア。過ぎてしまったけど、お誕生日おめでとう」
「ありがとう。アマリアもお誕生日おめでとう」

 やっと直接伝えられた言葉。夜に食べてもいい様に甘さ控えめのクッキーとハーブティーが準備され、ささやかなお誕生日会が始まる。
 手紙にも書いていたがお互いの六年間を語り合い、そして話題はやっぱりあの人の事になってしまう。

「アンノさんは相変わらずなの?」
「あぁ、相変わらずだ」

 グロリアはため息をついてからお茶を口にする。

「アンノ・キッカを通して、あの人の前世の知識のような物も知る事が出来たのは、わたくしにとってもプラスになったが……話が通じないというか、何なのであろうな。根本的にあの人とわたくしは性格も考え方も違いすぎる。あれでは話し合いが出来ないのも仕方がないのかもしれないな」

 腕を組んで難しそうな顔で悩んでいるグロリア。私にも何か出来ればいいのだが、この問題は当人同士でしか解決出来ない。下手にあの人を刺激してグロリアを失う事になってしまうなんて私達には耐えられない。

「なかなか進展しないが、わたくしは諦めないぞ! だからアマリアも信じていてくれ。アマリアやみんなが待っていてくれるのだから、わたくしは頑張れるのだ!」
「いつまでだって待ってる……グロリアの事、信じてる!」

 両手を繋いで私達は笑顔で約束をする。力強く宣言したグロリアはやっぱり私よりも背は高く、でも細りとした身体は少し頼りなさも感じた。
 夜が更けていく中、二人のささやかなお誕生日会は終わりを告げる。「おやすみ」とお互いに挨拶し、グロリアが廊下の先に消えていくのを見つめた。

 翌日に遠くから見たグロリアには快活さは感じず、前髪で顔を隠してのっそりと歩く姿はまさに別人だ。あの人に見つかってはいけないので、あまり見続ける事は出来ない。目を逸らし部屋に戻る。
 今日は、王妃殿下主催のお茶会に向けての準備をしている。先に戻っておられたお母様にマナーの最終チェックと着ていくドレスを選んでもらう。

「マナーには問題がないわ。でもそうね、どのドレスがいいかしら……」

 お母様は娘を着飾るのが楽しいのか、ウキウキと侍女達と一緒に選んでいる。領地では動きやすさを重視したワンピースを着ていたので、ドレスを着る機会などほぼ無かった。
 お母様達に着せ替え人形にされながら、最終的に選ばれたのは薄い水色のドレス。白いリボンが所々に付いていて、ふわりとしたレースも可愛い。
 明日のお茶会にはお姉様も招待されているので一緒に向かう。残念だがグロリアは招待されていない。<ヒョウイシャ>であるグロリアが表へ立てるようになるのは、学園に入学してからだろう。あと五年。長いのか短いのかわからない。ただ、今は私もグロリアもやるべき事をするだけだ。
 机の上に領地から持ってきた薬草の本を開いて、ぱらぱらと捲っていく。

「あの人が現実を見てくれるようになる薬草は無いものか……」

 もちろん、そんな都合の良い薬草などないのだった。





 お茶を飲みながらぼーっとしているのはグロリアに憑依しているアンノ・キッカ。何だか家の中が騒がしいような気がしたが、きっと母や姉が騒いでいるだけだろうと無視し、クッキーを口に入れる。

「あら、おいしい……」

 ほんのりと甘くてサクッとしている。アンノは無駄に砂糖ばかり使ったような甘すぎるお菓子が苦手だった。そこは本来のグロリアと共通している。

 この世界の食べ物って日本人好みの物ばっかりだから助かるのよね。前世にあった料理も出てくるし、やっぱり食は大切よ!

 クッキーを堪能し、お茶で喉を潤す。

 そう言えば、お茶会とかに招待されないのかしら。まぁ、招待状が来ても母が勝手に返事を書いて欠席扱いなのかもしれないわね。でも、王家からの招待とかないの?ほら、よくある王子様の婚約者を選ぶお茶会とかさぁ……それも欠席扱い?

「お茶会かぁ……」

 その言葉にピクリとわずかに反応をしめした侍女がいたが、アンノ・キッカが気付く事はなかった

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】身代わりに病弱だった令嬢が隣国の冷酷王子と政略結婚したら、薬師の知識が役に立ちました。

朝日みらい
恋愛
リリスは内気な性格の貴族令嬢。幼い頃に患った大病の影響で、薬師顔負けの知識を持ち、自ら薬を調合する日々を送っている。家族の愛情を一身に受ける妹セシリアとは対照的に、彼女は控えめで存在感が薄い。 ある日、リリスは両親から突然「妹の代わりに隣国の王子と政略結婚をするように」と命じられる。結婚相手であるエドアルド王子は、かつて幼馴染でありながら、今では冷たく距離を置かれる存在。リリスは幼い頃から密かにエドアルドに憧れていたが、病弱だった過去もあって自分に自信が持てず、彼の真意がわからないまま結婚の日を迎えてしまい――

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

王子様とずっと一緒にいる方法

秋月真鳥
恋愛
五歳のわたくし、フィーネは姉と共に王宮へ。 そこで出会ったのは、襲われていた六歳の王太子殿下。 「フィーネ・エルネスト、助太刀します! お覚悟ー!」 身長を超える大剣で暗殺者を一掃したら、王子様の学友になっちゃった! 「フィーネ嬢、わたしと過ごしませんか?」 「王子様と一緒にいられるの!?」 毎日お茶して、一緒にお勉強して。 姉の恋の応援もして。 王子様は優しくて賢くて、まるで絵本の王子様みたい。 でも、王子様はいつか誰かと結婚してしまう。 そうしたら、わたくしは王子様のそばにいられなくなっちゃうの……? 「ずっとわたしと一緒にいる方法があると言ったら、フィーネ嬢はどうしますか?」 え? ずっと一緒にいられる方法があるの!? ――これは、五歳で出会った二人が、時間をかけて育む初恋の物語。 彼女はまだ「恋」を知らない。けれど、彼はもう決めている――。 ※貧乏子爵家の天真爛漫少女×策略王子の、ほのぼのラブコメです。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...