公爵令嬢の幸せな夢

IROHANI

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三十七、卒業パーティー

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 ついに学園を卒業する日がきた。式典は午前中に終わっており、今は一度帰宅して卒業パーティーの準備をしている。この学園を卒業すれば私達は成人した事になる。翌年度からは夜会にも出席しなければならなくなるので、この卒業パーティーは最後の練習場所でもある。
 メーリ達に着飾ってもらい姿見で確認する。青みを帯びた紫色のドレスはエドヴァルド様の瞳の色。スカイブルーのシフォン生地が重ねられてふんわりとしている。黒色のレースがあまり主張しないようにされており、ネックレスやイヤリングにもお互いの瞳の色の宝石を使っている。今日はよく着ているパステル系のドレスとは違って大人っぽく仕上がっている。どれもエドヴァルド様が私に贈ってくださった物だ。

「お似合いですわアマリア様! いつの間にか大人の女性になって……」

 メーリが感極まって泣いている。幼少期からずっと私についていてくれた彼女には感謝しきれない。カティは女性用の華やかな騎士服を纏っていて、男装の麗人だ。

「ありがとうメーリ。でも泣かないで。あなたはこれからも私のそばにいてくれるのでしょう?」
「はい! 一生ついて行きますから!」
「アマリア様、フェルン様がお見えになっておりますので準備を」
「わかったわ。カティも似合っているわよ。こんな日なのに護衛をよろしくね」
「もちろんです」

 玄関で待っていてくださるエドヴァルド様の元に向かいながら、これからの卒業パーティーで起こりそうな事について考える。
 あの自称『モブ令嬢』さんが何かを起こそうとしているらしいのだが、それがよくわかっていない。なぜか私とレベッカ様が『ざまぁ?』をされて婚約破棄されるそうだが『ざまぁ』とはどんな事なのだろう。まずそんな公式の場所で婚約破棄など堂々とする人がいるわけがない。そういう事は家同士で集まってするものなのだから。そもそもなぜ私達が婚約破棄をする事になっているのか、そして自称『モブ令嬢』さんがプロポーズされるのかなど疑問が山ほどある。
 きっと断罪劇は起こらないのでしょうが<ヒョウイシャ>の方達がどんな行動に出るのかがわからなくて不安になる。

「アマリア!」
「まぁ、エドヴァルド様! 玄関でお待ちだったのではないのですか?」
「我慢できずにここまで迎えに来てしまった。笑うか?」
「そんな、嬉しいですわ!」

 廊下を進んでいたら前からエドヴァルド様が歩いて来られたので驚いてしまった。正装姿の彼はとてもかっこいい。いつもと違う髪型も式典用の騎士服も似合っていて、ドキドキしてしまう。

「今日は少し大人っぽいな」
「変ですか?」
「いや、似合っているよ。いつものかわいいアマリアも好きだが、今日のアマリアは違って見える。どちらかなど選べない。どちらのアマリアも好きだから」
「エドヴァルド様も素敵ですわ。ラフな格好も似合いますが今日のような正装もかっこいいです。もちろんどちらも大好きです」

 お互いを誉めて好きだと伝えて、ちょっとだけ恥ずかしくて照れる。そろそろここを出発しなくてはいけない時間が迫ってきているので、エスコートしてもらい馬車に乗った。家族に見送られて学園へ向かう間にこの緊張をほぐしておこう。
 深呼吸をして心を穏やかに保とうと何度も繰り返している私の手が大きな手に包まれた。親指がそっと撫でるようにくすぐり、ぎゅっと握ってくれる。

「大丈夫だ。俺がそばにいる。今日もこの先もアマリアの隣にいるのは俺だ」
「はい」

 私の中にある不安をすべて消してくれる彼の言葉にうなずいて、返事と共に手を握り返した。



 卒業パーティーは学園長の挨拶から始まった。陛下の代理で来られた王太子夫妻とヴォワザン王国の第三王子シャンドル殿下と婚約者のカトリーヌ様、そして保護者などの来賓。お酒はまだ飲めないのでソフトドリンクや料理にテーブルなどに添えられている花、そして着飾った生徒達。ここはシャンデリアの光に照らされ煌めいた空間となっている。
 音楽が鳴り始め、まずは卒業生を優先するためにクレメッティ兄様とレベッカ様がファーストダンスを踊られる。そして続いてみながホールで踊りだすので私達も向かった。ダンスは得意だし、エドヴァルド様とは何度も一緒に練習もしていた。

「そんなに見つめないでください」
「だめか? いつまでも見ていたいのだがな」
「もう!」

 そんな風にやり取りをして笑って、まわりを見てみる。レベッカ様もソフィア様も幸せそうに笑ってダンスを踊っている。卒業生や在校生も混ざって、そこはとても幸せで満ちている空間だった。

 ダンスを終えて、休憩をしながらみんなで話をしていたら視線を感じた。ちらっと確認すれば、それは自称『モブ令嬢』さん。料理をたくさん盛ったお皿を持って食べながら少しずつこちらに近づいているようだ。

「アマリア、こっちにおいで」
「レベッカも」
「女性陣は私達で囲ってしまおうか」

 男性陣で出来た高い壁で私達はあちらが見えない。それはあちらも同じなのだろう。でも、近づいて来ているのは雰囲気でわかる。それでも一定の距離からは近づかないで様子をうかがっているみたいだ。この雰囲気の中でまっすぐ突き進んで来れるのはリッリ様かクルーク様ぐらいではないだろうか。

「これ以上は来ませんね」
「この布陣に突き進めるのは、今はいらっしゃらないあの方達ぐらいですわ」
「あら、それって以前にお話ししてくれたあの二人の事かしら?」
「興味深いなぁ……この目で見てみたかったよ」

 カトリーヌ様は無事にシャンドル殿下と婚約し、あちらの学園も卒業されている。お二人は<ヒョウイシャ>に興味がるらしく、ヴォワザン王国で研究をしているそうだ。あちらにも強烈な<ヒョウイシャ>がいらっしゃるそうだが、報告書を読んでこちらの<ヒョウイシャ>を実際に見てみたくなり卒業パーティーに参加されている。もちろん、陛下の許可はおりている。
 自称『モブ令嬢』さんはあれから近づかないが、自称『チート主人公』さんが「俺、また何かやっちゃいました?」といういつものセリフを残し過ぎ去っていった。自称『大魔法使いの末裔』さんはケーキをひたすら食べ続け、自称『亡国の王子』さんと自称『ラスボス』さんはトマトジュースをワインに見立てて決めポーズをしている。仲が良いですね。自称『妖精王の愛し子』さんは「妖精王様ったら」と言いながらひとりで踊っている。アンノさんは今日は着飾っていていつもと雰囲気が違うが、前髪だけは死守したようだ。隅の方で料理を食べているのが見えた。せっかくなので少しでも楽しめていれば良いのだけど。

 特に事件は起こらず卒業パーティーも終わりに近づいている。<ヒョウイシャ>の方達は自称『モブ令嬢』さんを除いてすでに帰宅されたそうだ。自称『モブ令嬢』さん……長いので省略してモブさんは未だにお皿片手に食べている。

「あの方、ずっと食べていますけど大丈夫ですの?」
「今はケーキを召し上がっているみたいですが……」
「胃が心配になります」

 こっそり胃薬を差し入れしたくなるくらい食べている。



 その後、学園長が閉会の挨拶をされて私達の卒業パーティーは閉幕した。

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