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嵐の夜
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雷鳴が空を裂き、一瞬だけ周囲の木々が白く照らし出される。
覆面の盗賊たちは嵐の中、闇に包まれた山道をぎこちなく進む一台の豪奢な馬車に目を付けた。
道はぬかるみ、馬車馬の蹄が泥を跳ね上げる。
腹の出た貴族の男が馬車から引きずり出され、御者、従者もろとも縄で縛り上げられた。
横殴りの雨が容赦なく降り注ぐの中、盗賊たちの服はずぶ濡れで、泥が靴や裾にこびりついている。それでも彼らは手際よく馬車の中を漁り、金品を次々と袋に詰め込んでいく。
さらに貴族が身に着けている金の鎖、宝石のついた指輪をむしり取る。
一仕事終えた盗賊たちは震える貴族の男らを再び馬車に放り込むと、馬に乗って泥飛沫を上げながら山道を駆け下りて行った。
途中、盗賊のお頭のソーハンは大木の下で濡れ鼠のように蹲っている子どもを発見した。
それから一年後――
***ソフィア
家の外の近くで馬の嘶きとひずめの音が微かに聞こえた。
私は勇気を出してベッドから飛び起きて玄関に走った。
間もなくびしょ濡れのマントを被ったソーハンが「参った参った」と呟きながらバンと玄関を開けて駈け込んで来た。
外は凄い嵐だから無事に帰ってきてホッとした。
「ソーハン、お帰り」
「お、まだ起きていたのか」
「うん。雨の音がうるさくて眠れなかったの」
嘘。
本当は強い風が吹く度に聞こえる幽霊の泣き声が怖くて眠れなかった。前もこんな日があったんだけど、その時ソーハンに隙間風の音だよって笑われたから今日は雨の音のせいにした。
ソーハンは私の頭にポンと手を乗せて髪をくしゃっとした。
「あー悪かったな、遅くなって。飯は……食ったようだな。明日の朝食はパンとバターだ」
「バター!? わーい!」
ソーハンは私の為に高価なバターをたまに買って来てくれる。
これにストロベリージャムがあれば最高だけど、そこまでの贅沢は言わない。
ルンルン気分で玄関横に乱暴に脱ぎ捨てられたびしょびしょのマントをハンガーにかけて泥まみれのブーツと濡れた床を雑巾で拭いた。
床に置かれた三つのバケツには天井から雨粒がボタボタ落ちて、それぞれ音が違って面白い。面白いなんて思えるのも、ソーハンが帰ってきたから。
全部片づけ終わったタイミングでソーハンに呼ばれた。
「ソフィア、寝るぞ。もうくたくただ」
今日は一緒に寝られるから嬉しい。
急いでソーハンの部屋に入ってボスッとベッドにダイブした。
「ソーハンあったかーい」
もう幽霊の泣き声なんて怖くない。安心したらすぐに瞼が塞がって来た。
***ソーハン
金髪碧眼の美少女。大きくなったらさぞ美しくなるという片鱗を見せている。
俺は横でスヤスヤ眠るソフィアの長いまつ毛を見ながら一年前を思い出していた。
時は大小の王国が領土を奪い合う戦乱の時代。
俺が暮らす内陸のマクガイア王国は隣国の海に面したティリティア王国を滅ぼし勢いに乗っていた。
しかし王子と王女は行方不明で、指名手配された二人には合わせて五千ガイアもの懸賞金がかけられた。
五千ガイアといえば平民が五年は楽に暮らせる金額だ。
現在でも手配書の絵姿は国中至る所に貼られて平民や賞金稼ぎは我先に捕まえようと目を光らせている。
俺の家からは三カ国にまたがるマグネ山が見える。
交通の要所であるその山は盗賊団が出没することで有名だ。
その盗賊の頭が俺であることをソフィアは知らない。
赤い髪に薄い茶色の目。
体は日に焼けてあちこちに切り傷があり、決してガラがいいとは言えない。
普通の人間なら敬遠するだろう。
ソフィアを拾った夜も今日のような嵐の日で、貴族の馬車を襲った帰りだった。
大木に蹲る金髪の女の子を発見して、最初はよくいる孤児だと思って素通りした。
しかし孤児にしてはいい服を着ていたのが気になって、懸賞金のかかった手配書があったことを思い出した。
そこで、仲間たちが帰ったのを見計らって戻ってみると、その子はまだ木の下にいて、額を触ると熱もあり意識は朦朧としていた。
首にかけてあるロケットペンダントの裏側には“ソフィア”と刻印が押されている。
中を開けてみるとティリティア国王夫妻の絵姿が入っていて、やはり行方不明の王女だと確信し、懸賞金を貰うため取り敢えず家に連れ帰ったのだ。
それが一年後も一緒に暮らしている。
俺はソフィアの背中をポンポンとあやす様に叩きながら軽く抱き合って目を閉じた。
覆面の盗賊たちは嵐の中、闇に包まれた山道をぎこちなく進む一台の豪奢な馬車に目を付けた。
道はぬかるみ、馬車馬の蹄が泥を跳ね上げる。
腹の出た貴族の男が馬車から引きずり出され、御者、従者もろとも縄で縛り上げられた。
横殴りの雨が容赦なく降り注ぐの中、盗賊たちの服はずぶ濡れで、泥が靴や裾にこびりついている。それでも彼らは手際よく馬車の中を漁り、金品を次々と袋に詰め込んでいく。
さらに貴族が身に着けている金の鎖、宝石のついた指輪をむしり取る。
一仕事終えた盗賊たちは震える貴族の男らを再び馬車に放り込むと、馬に乗って泥飛沫を上げながら山道を駆け下りて行った。
途中、盗賊のお頭のソーハンは大木の下で濡れ鼠のように蹲っている子どもを発見した。
それから一年後――
***ソフィア
家の外の近くで馬の嘶きとひずめの音が微かに聞こえた。
私は勇気を出してベッドから飛び起きて玄関に走った。
間もなくびしょ濡れのマントを被ったソーハンが「参った参った」と呟きながらバンと玄関を開けて駈け込んで来た。
外は凄い嵐だから無事に帰ってきてホッとした。
「ソーハン、お帰り」
「お、まだ起きていたのか」
「うん。雨の音がうるさくて眠れなかったの」
嘘。
本当は強い風が吹く度に聞こえる幽霊の泣き声が怖くて眠れなかった。前もこんな日があったんだけど、その時ソーハンに隙間風の音だよって笑われたから今日は雨の音のせいにした。
ソーハンは私の頭にポンと手を乗せて髪をくしゃっとした。
「あー悪かったな、遅くなって。飯は……食ったようだな。明日の朝食はパンとバターだ」
「バター!? わーい!」
ソーハンは私の為に高価なバターをたまに買って来てくれる。
これにストロベリージャムがあれば最高だけど、そこまでの贅沢は言わない。
ルンルン気分で玄関横に乱暴に脱ぎ捨てられたびしょびしょのマントをハンガーにかけて泥まみれのブーツと濡れた床を雑巾で拭いた。
床に置かれた三つのバケツには天井から雨粒がボタボタ落ちて、それぞれ音が違って面白い。面白いなんて思えるのも、ソーハンが帰ってきたから。
全部片づけ終わったタイミングでソーハンに呼ばれた。
「ソフィア、寝るぞ。もうくたくただ」
今日は一緒に寝られるから嬉しい。
急いでソーハンの部屋に入ってボスッとベッドにダイブした。
「ソーハンあったかーい」
もう幽霊の泣き声なんて怖くない。安心したらすぐに瞼が塞がって来た。
***ソーハン
金髪碧眼の美少女。大きくなったらさぞ美しくなるという片鱗を見せている。
俺は横でスヤスヤ眠るソフィアの長いまつ毛を見ながら一年前を思い出していた。
時は大小の王国が領土を奪い合う戦乱の時代。
俺が暮らす内陸のマクガイア王国は隣国の海に面したティリティア王国を滅ぼし勢いに乗っていた。
しかし王子と王女は行方不明で、指名手配された二人には合わせて五千ガイアもの懸賞金がかけられた。
五千ガイアといえば平民が五年は楽に暮らせる金額だ。
現在でも手配書の絵姿は国中至る所に貼られて平民や賞金稼ぎは我先に捕まえようと目を光らせている。
俺の家からは三カ国にまたがるマグネ山が見える。
交通の要所であるその山は盗賊団が出没することで有名だ。
その盗賊の頭が俺であることをソフィアは知らない。
赤い髪に薄い茶色の目。
体は日に焼けてあちこちに切り傷があり、決してガラがいいとは言えない。
普通の人間なら敬遠するだろう。
ソフィアを拾った夜も今日のような嵐の日で、貴族の馬車を襲った帰りだった。
大木に蹲る金髪の女の子を発見して、最初はよくいる孤児だと思って素通りした。
しかし孤児にしてはいい服を着ていたのが気になって、懸賞金のかかった手配書があったことを思い出した。
そこで、仲間たちが帰ったのを見計らって戻ってみると、その子はまだ木の下にいて、額を触ると熱もあり意識は朦朧としていた。
首にかけてあるロケットペンダントの裏側には“ソフィア”と刻印が押されている。
中を開けてみるとティリティア国王夫妻の絵姿が入っていて、やはり行方不明の王女だと確信し、懸賞金を貰うため取り敢えず家に連れ帰ったのだ。
それが一年後も一緒に暮らしている。
俺はソフィアの背中をポンポンとあやす様に叩きながら軽く抱き合って目を閉じた。
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