1 / 20
嵐の夜
しおりを挟む
雷鳴が空を裂き、一瞬だけ周囲の木々が白く照らし出される。
覆面の盗賊たちは嵐の中、闇に包まれた山道をぎこちなく進む一台の豪奢な馬車に目を付けた。
道はぬかるみ、馬車馬の蹄が泥を跳ね上げる。
腹の出た貴族の男が馬車から引きずり出され、御者、従者もろとも縄で縛り上げられた。
横殴りの雨が容赦なく降り注ぐの中、盗賊たちの服はずぶ濡れで、泥が靴や裾にこびりついている。それでも彼らは手際よく馬車の中を漁り、金品を次々と袋に詰め込んでいく。
さらに貴族が身に着けている金の鎖、宝石のついた指輪をむしり取る。
一仕事終えた盗賊たちは震える貴族の男らを再び馬車に放り込むと、馬に乗って泥飛沫を上げながら山道を駆け下りて行った。
途中、盗賊のお頭のソーハンは大木の下で濡れ鼠のように蹲っている子どもを発見した。
それから一年後――
***ソフィア
家の外の近くで馬の嘶きとひずめの音が微かに聞こえた。
私は勇気を出してベッドから飛び起きて玄関に走った。
間もなくびしょ濡れのマントを被ったソーハンが「参った参った」と呟きながらバンと玄関を開けて駈け込んで来た。
外は凄い嵐だから無事に帰ってきてホッとした。
「ソーハン、お帰り」
「お、まだ起きていたのか」
「うん。雨の音がうるさくて眠れなかったの」
嘘。
本当は強い風が吹く度に聞こえる幽霊の泣き声が怖くて眠れなかった。前もこんな日があったんだけど、その時ソーハンに隙間風の音だよって笑われたから今日は雨の音のせいにした。
ソーハンは私の頭にポンと手を乗せて髪をくしゃっとした。
「あー悪かったな、遅くなって。飯は……食ったようだな。明日の朝食はパンとバターだ」
「バター!? わーい!」
ソーハンは私の為に高価なバターをたまに買って来てくれる。
これにストロベリージャムがあれば最高だけど、そこまでの贅沢は言わない。
ルンルン気分で玄関横に乱暴に脱ぎ捨てられたびしょびしょのマントをハンガーにかけて泥まみれのブーツと濡れた床を雑巾で拭いた。
床に置かれた三つのバケツには天井から雨粒がボタボタ落ちて、それぞれ音が違って面白い。面白いなんて思えるのも、ソーハンが帰ってきたから。
全部片づけ終わったタイミングでソーハンに呼ばれた。
「ソフィア、寝るぞ。もうくたくただ」
今日は一緒に寝られるから嬉しい。
急いでソーハンの部屋に入ってボスッとベッドにダイブした。
「ソーハンあったかーい」
もう幽霊の泣き声なんて怖くない。安心したらすぐに瞼が塞がって来た。
***ソーハン
金髪碧眼の美少女。大きくなったらさぞ美しくなるという片鱗を見せている。
俺は横でスヤスヤ眠るソフィアの長いまつ毛を見ながら一年前を思い出していた。
時は大小の王国が領土を奪い合う戦乱の時代。
俺が暮らす内陸のマクガイア王国は隣国の海に面したティリティア王国を滅ぼし勢いに乗っていた。
しかし王子と王女は行方不明で、指名手配された二人には合わせて五千ガイアもの懸賞金がかけられた。
五千ガイアといえば平民が五年は楽に暮らせる金額だ。
現在でも手配書の絵姿は国中至る所に貼られて平民や賞金稼ぎは我先に捕まえようと目を光らせている。
俺の家からは三カ国にまたがるマグネ山が見える。
交通の要所であるその山は盗賊団が出没することで有名だ。
その盗賊の頭が俺であることをソフィアは知らない。
赤い髪に薄い茶色の目。
体は日に焼けてあちこちに切り傷があり、決してガラがいいとは言えない。
普通の人間なら敬遠するだろう。
ソフィアを拾った夜も今日のような嵐の日で、貴族の馬車を襲った帰りだった。
大木に蹲る金髪の女の子を発見して、最初はよくいる孤児だと思って素通りした。
しかし孤児にしてはいい服を着ていたのが気になって、懸賞金のかかった手配書があったことを思い出した。
そこで、仲間たちが帰ったのを見計らって戻ってみると、その子はまだ木の下にいて、額を触ると熱もあり意識は朦朧としていた。
首にかけてあるロケットペンダントの裏側には“ソフィア”と刻印が押されている。
中を開けてみるとティリティア国王夫妻の絵姿が入っていて、やはり行方不明の王女だと確信し、懸賞金を貰うため取り敢えず家に連れ帰ったのだ。
それが一年後も一緒に暮らしている。
俺はソフィアの背中をポンポンとあやす様に叩きながら軽く抱き合って目を閉じた。
覆面の盗賊たちは嵐の中、闇に包まれた山道をぎこちなく進む一台の豪奢な馬車に目を付けた。
道はぬかるみ、馬車馬の蹄が泥を跳ね上げる。
腹の出た貴族の男が馬車から引きずり出され、御者、従者もろとも縄で縛り上げられた。
横殴りの雨が容赦なく降り注ぐの中、盗賊たちの服はずぶ濡れで、泥が靴や裾にこびりついている。それでも彼らは手際よく馬車の中を漁り、金品を次々と袋に詰め込んでいく。
さらに貴族が身に着けている金の鎖、宝石のついた指輪をむしり取る。
一仕事終えた盗賊たちは震える貴族の男らを再び馬車に放り込むと、馬に乗って泥飛沫を上げながら山道を駆け下りて行った。
途中、盗賊のお頭のソーハンは大木の下で濡れ鼠のように蹲っている子どもを発見した。
それから一年後――
***ソフィア
家の外の近くで馬の嘶きとひずめの音が微かに聞こえた。
私は勇気を出してベッドから飛び起きて玄関に走った。
間もなくびしょ濡れのマントを被ったソーハンが「参った参った」と呟きながらバンと玄関を開けて駈け込んで来た。
外は凄い嵐だから無事に帰ってきてホッとした。
「ソーハン、お帰り」
「お、まだ起きていたのか」
「うん。雨の音がうるさくて眠れなかったの」
嘘。
本当は強い風が吹く度に聞こえる幽霊の泣き声が怖くて眠れなかった。前もこんな日があったんだけど、その時ソーハンに隙間風の音だよって笑われたから今日は雨の音のせいにした。
ソーハンは私の頭にポンと手を乗せて髪をくしゃっとした。
「あー悪かったな、遅くなって。飯は……食ったようだな。明日の朝食はパンとバターだ」
「バター!? わーい!」
ソーハンは私の為に高価なバターをたまに買って来てくれる。
これにストロベリージャムがあれば最高だけど、そこまでの贅沢は言わない。
ルンルン気分で玄関横に乱暴に脱ぎ捨てられたびしょびしょのマントをハンガーにかけて泥まみれのブーツと濡れた床を雑巾で拭いた。
床に置かれた三つのバケツには天井から雨粒がボタボタ落ちて、それぞれ音が違って面白い。面白いなんて思えるのも、ソーハンが帰ってきたから。
全部片づけ終わったタイミングでソーハンに呼ばれた。
「ソフィア、寝るぞ。もうくたくただ」
今日は一緒に寝られるから嬉しい。
急いでソーハンの部屋に入ってボスッとベッドにダイブした。
「ソーハンあったかーい」
もう幽霊の泣き声なんて怖くない。安心したらすぐに瞼が塞がって来た。
***ソーハン
金髪碧眼の美少女。大きくなったらさぞ美しくなるという片鱗を見せている。
俺は横でスヤスヤ眠るソフィアの長いまつ毛を見ながら一年前を思い出していた。
時は大小の王国が領土を奪い合う戦乱の時代。
俺が暮らす内陸のマクガイア王国は隣国の海に面したティリティア王国を滅ぼし勢いに乗っていた。
しかし王子と王女は行方不明で、指名手配された二人には合わせて五千ガイアもの懸賞金がかけられた。
五千ガイアといえば平民が五年は楽に暮らせる金額だ。
現在でも手配書の絵姿は国中至る所に貼られて平民や賞金稼ぎは我先に捕まえようと目を光らせている。
俺の家からは三カ国にまたがるマグネ山が見える。
交通の要所であるその山は盗賊団が出没することで有名だ。
その盗賊の頭が俺であることをソフィアは知らない。
赤い髪に薄い茶色の目。
体は日に焼けてあちこちに切り傷があり、決してガラがいいとは言えない。
普通の人間なら敬遠するだろう。
ソフィアを拾った夜も今日のような嵐の日で、貴族の馬車を襲った帰りだった。
大木に蹲る金髪の女の子を発見して、最初はよくいる孤児だと思って素通りした。
しかし孤児にしてはいい服を着ていたのが気になって、懸賞金のかかった手配書があったことを思い出した。
そこで、仲間たちが帰ったのを見計らって戻ってみると、その子はまだ木の下にいて、額を触ると熱もあり意識は朦朧としていた。
首にかけてあるロケットペンダントの裏側には“ソフィア”と刻印が押されている。
中を開けてみるとティリティア国王夫妻の絵姿が入っていて、やはり行方不明の王女だと確信し、懸賞金を貰うため取り敢えず家に連れ帰ったのだ。
それが一年後も一緒に暮らしている。
俺はソフィアの背中をポンポンとあやす様に叩きながら軽く抱き合って目を閉じた。
10
あなたにおすすめの小説
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました
七宮叶歌
恋愛
政略結婚が決まった王女・メヌエッタは、決められた未来に従うだけの人生を拒んで王宮を飛び出した。逃げ込んだのは、侯爵令息・アルフレッドの操る飛空船だった。
ところが逃亡の途中、「王女は事故死した」「アルフレッドは指名手配」という報道が流れ、二人は一転して国中から追われる立場になる。更にアルフレッドの父から提示された逃亡の手助けの条件は、逃げ切ることが出来たなら、アルフレッドと『契約結婚』するというものだった。
結婚から逃げてきたはずなのに、行きついた先もまた結婚。けれど、空の旅の中で触れ合う彼の優しさや弱さに、メヌエッタの心は少しずつ揺れ始める。
追手、暗殺の影、契約から始まる恋――。
二人は無事に逃げ切り、幸せを掴むことができるのか。ちょっぴりコミカルで、ときどき切ない空の逃避行恋愛ストーリーです。
落ちこぼれで婚約破棄されて周りから醜いと言われる令嬢は学園で王子に溺愛される
つちのこうや
恋愛
貴族の中で身分が低く、落ちこぼれで婚約破棄されて周りから醜いと言われる令嬢の私。
そんな私の趣味は裁縫だった。そんな私が、ある日、宮殿の中の学園でぬいぐるみを拾った。
どうやら、近くの国から留学に来ているイケメン王子のもののようだけど…
酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~
ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、
夜会当日──
婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、
迎えに来ることはなかった。
そして王宮で彼女が目にしたのは、
婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。
領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、
感情に流されることもなく、
淡々と婚約破棄の算段を立て始める。
目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、
頭の中で、今後の算段を考えていると
別の修羅場が始まって──!?
その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、
エヴァンジェリンの評価と人生は、
思いもよらぬ方向へ転がり始める──
2月11日 第一章完結
2月15日 第二章スタート予定
婚約破棄された辺境伯令嬢ノアは、冷血と呼ばれた帝国大提督に一瞬で溺愛されました〜政略結婚のはずが、なぜか甘やかされまくってます!?〜
夜桜
恋愛
辺境の地を治めるクレメンタイン辺境伯家の令嬢ノアは、帝国元老院から突然の召喚を受ける。
帝都で待っていたのは、婚約者である若きエリート議員、マグヌス・ローレンス。――しかし彼は、帝国中枢の面前でノアとの婚約を一方的に破棄する。
「君のような“辺境育ち”では、帝国の未来にふさわしくない」
誰もがノアを笑い、見下し、軽んじる中、ひとりの男が静かに立ち上がった。
「その令嬢が不要なら、私がもらおう」
そう言ったのは、“冷血の大提督”と恐れられる帝国軍最高司令官――レックス・エヴァンス。
冷たく厳しい眼差しの奥に宿る、深い誠実さとあたたかさ。
彼の隣で、ノアは帝都の陰謀に立ち向かい、誇りと未来を取り戻していく。
これは、婚約破棄された辺境伯令嬢が、帝国最強の大提督に“一瞬で”溺愛され、
やがて帝国そのものを揺るがす人生逆転の物語。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる