転生した皇帝は神の罠を乗り越える~あの日の過ちに苦しむ魂は百年の時を越え~

今井杏美

文字の大きさ
9 / 62

新たな生活


「まさかロバを連れて帰るなんて思ってもいませんでしたよ」
「乗りかかった船だ」
「そういえば第二皇子殿下も動物がお好きですよね」
「五匹全部引き取ってくれたくらいだからな」

 五匹とはエレンが育てていた狸のことで、火事の後ジェラールは森に離そうかとも考えたが、エレンとの思い出もあるため手放しがたく全て宮殿に連れて帰ることにした。

 リックの父親が酒代に売り飛ばそうとしていたロバのジュリアはジェラールが買い取り、宮殿の馬小屋で過ごすことになった。
 しかしその代金が酒代で一度に無くなるのは良くないので、一部だけ父親に渡して残りはリックを馬番の見習いとして雇いその賃金に上乗せすることとした。
 
 結局皇太子だということを話さざるを得なくなったがその効果は抜群だった。
 コロッと態度を変えてひれ伏した父親は酒を控えて心を入れ替えると簡単に言ったのだ。
 
「リックにとっては今回殿下にぶつかったことは幸運だったと言えますね。喜んでくれて良かったですね」
「人生、そういうことがあってもいいよな」

 リックの事に関しては丸く収まった。
 それなのに浮かない顔をしているジェラールを見てアランは言った。

「いやぁ~、嫌な奴がひれ伏すのは快感でしたね! 権力を乱用するような暴君だったら最悪ですがいいことに利用するならまた別です」

 実はその時もしまた酒に溺れるようなことがあれば皇太子に嘘を吐いた罪で牢屋にぶち込んでやるとジェラールは父親を脅したのだ。

 権力を笠に着て命令したり脅したりすることに嫌悪感を抱いている彼は自分がそうしたことで気落ちしていたのだが、アランの励ましのおかげで幾分楽になった。

 そして馬番の男に明日から来るリックの事を頼みジュリアを馬小屋につないで部屋に戻った。


 翌日、ジェラールは両陛下に呼び出された。
 

「また町へお忍びに出たのか。聞くところによるとまた動物を連れ帰ったようだな。しかも今度は人間も一緒にとは呆れる」
「お耳がお早いようで」
「まったく……宮廷でお前がなんと噂されているのか知らんのか」
「さて。町で社会勉強をしている民思いで勉強熱心な皇太子、でしょうか」
「その反対だ! しょっちゅう町をふらついて遊び呆けているだらしない皇太子だ!」
「まったく身に覚えのないことですね。一体どこのどいつが言い出したのですか」
「そんなことはどうでもいい! いいか、真面目なエルネストの方が皇太子に相応しいと言い出す貴族も現れた。もっての他だ。お前が十八になったら皇位を譲ろうと思っているのだからもっとしっかりしてくれ」

 さらっと重大な事を言われてジェラールは面喰った。
 昔からあまり政治には熱心でなかった皇帝ではあったが、ジェラールにも心積もりというものがある。

「は? そんなこと初めて聞きました。それにまだまだ父上はお若く、退くには早すぎます」
「もう皇后と穏やかに暮らしたいと思ってな。お前が皇帝となることで民も豊かになるのだから迷うことはない」
「俺の代ではなく、今、民が豊かになることをお考えになってはどうでしょう」
「なに?」
「父上の政治次第で民の生活は変わります」
「民は神殿に入れるお前が皇帝になるのを待ち望んでいるのだぞ。お前の誕生に喜んだ民を裏切ると言うのか」
「あなた」
「……まあいい。今日呼んだのは別の事だ。皇后よ、伝えるがよい」

(何だ?)

「ジェラール、あなたはもう十七でとっくに婚約者がいてもおかしくない年齢です。これまでは頑なに拒んでいたため無理は言いませんでしたが、もうそういう訳にはいきません」


 ※※※

 ガシャン

「きゃあっ」

 ドシンッ

「やーい、やーい、こいつまたへましたぞー」
「きゃはは、どんくさーい」
「のろまー」

「いたたた……」

 子どもたちが脚立を倒して、窓の上部を拭いていた女性が床に落っこちた。
 三段ほどの脚立だったのでそれほど高くはないが、床は木なので落ちると結構痛い。腰と腕を打ってしまった。

「こらっ、あなたたち何をやっているの。さっさと部屋に戻りなさい」

 それを見ていた孤児院の職員が子どもたちを注意すると皆ワーッと言って部屋に戻って行った。
 
「エレンももう窓拭きはいいから。あとで食事を取りに来て」
「はい」



 孤児院での掃除、洗濯、食事の支度を済ませた後に食器洗いが終わるとエレンの一日が終わる。
 
(ハァ……。今日は左からそっと来たから見えなかったわ)

 ベッドに入り腕をさすると、打った肘の部分が腫れている。
 明日には腫れも引くだろうと思い目を瞑ると、そのまま泥のように眠りについた。


 四年前の火事で夜中に医師の家に運ばれたエレンはその体の左半分に酷いやけどを負っていた。
 医師はエレンを運んだ使用人にこれはもう助からないかもしれないと告げた。

 それを執事を介して聞いた侯爵は、早々にエレンが死んだと勘違いしてしまった。

 だが、奇跡的に医師の手によって意識を取り戻し、敗血症や感染症にも罹らなかった。
 
 しかし顔の左側はやけど跡が酷く、左の瞼は塞がって目を開けることが出来ない。そして左足は筋肉を損傷して引きずるようになってしまった。

 医師から今後どうするかと聞かれたエレンは母親のいない侯爵家に戻って働くことを拒否した。
 そのため医師はエレンが助かったことを侯爵家に報告することはしなかった。 

 その後医師の紹介で孤児院に入ることが出来たが、十六歳になって孤児院を出なければならない年齢になっても片目で足を引きずるエレンを雇う所などどこにもなく、孤児院に残ってただ働きをしながら寝食の場だけは与えられることになった。

 孤児たちにからかわれ馬鹿にされても、ここの職員になれなくても、それでも今のエレンにとっては贅沢な事だった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます

白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。 特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。 だがある日、突然の婚約破棄通告――。 「やはり君とは釣り合わない」 そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。 悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。 しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。 「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」 「よければ、俺が貰ってやろうか?」 冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!? 次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには 「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」 ――溺愛モードが止まらない!

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに! かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、 男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。 痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。 そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。 「見つけた! 僕の花嫁!」 「僕の運命の人はあなただ!」 ──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。 こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。 すっかりアイリーンの生活は一変する。 しかし、運命は複雑。 ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。 ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。 そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手…… 本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を─── ※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)