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カレン
皇太子が婚約者を探し始めたという噂が広がった。
有力と言われているのが現皇帝の従弟の娘である公爵家のセシール令嬢だ。
皇族の血が流れるため生まれる子どもは再び神殿に入れる可能性が高いと噂される。
しかしそれが神殿に入ることのできる条件でない事は歴史上明らかなので、多くの貴族は自分の娘を皇后にすることを諦めることはない。
そもそも神殿に入れる皇子が生まれるのを願っているのは民と皇室であって、貴族の本音としては入れても入れなくてもどちらでもいいのだ。
ベニュロ侯爵家で開かれたお茶会では婚約者探しの話でもちきりで、会が終わると侯爵夫人は夫に愚痴をこぼした。
「うちには娘がおりませんので気楽と言えば気楽ですが、ジェラール殿下が皇帝になられたらうちはどうなってしまうのかと思うと心配でなりませんわ。ガリアスは殿下のこととなるとすぐに悪態をつくのですから……」
「本当にあいつはしょうも無い奴だ」
昔からベニュロ侯爵は皇后陛下の従甥であるというせっかくの繋がりを全く生かすことのできない息子を大ばか者と思っている。
神の血の流れる皇族と深いつながりを持つことを貴族の誇りと思い、今以上に権力を得たかった侯爵は、皇太子の婚約者を侯爵家から出せないことを残念に思っていた。
「殿下も昔は剣の稽古に通われていたのに、あの火事があってからはすっかり通わなくなってしまいましたよね」
「あそこの娘をいたく気に入っていたようだからな。死んだのが余程ショックだったとみえる」
「母親は確か……」
「! そうか、その手があったか」
ベニュロ侯爵は妻との会話であることを思い出した。
そして手元の呼び鈴を鳴らして執事を呼び、ある人物を探す様に命令した。
※※※
「カレン、旦那様が執務室に来るように仰せよ」
「旦那様が私に?」
マルコ・ロビノ男爵家でメイドとして働く十七歳のカレンはメイド長にそう言われて執務室へ向かった。
入るとそこには同じく男爵家で働く両親と男爵夫人もいた。
(何? 私、何かやらかしてしまったかしら……)
「座りなさい」
カレンは最初こそドキドキしたが、男爵の優しい口調と穏やかな表情を見て安心して椅子に座った。
「早速だが、ここに君たちを呼んだのはカレンのことで折り入って相談があるからだ」
「ふふふ。そんなに緊張しなくてもいいのよ」
「実はカレンを私たちの養子に迎えたいと思っている」
「え!?」
カレン親子は考える猶予を一日だけもらうとその日の仕事はもう切り上げていいと言われて帰途についた。
「でも考えてみればそんなに驚くことでもないかも。だってお父さんは奥様の弟でしょう? 私とも血が繋がっているんだから子どものいない旦那様ご夫婦が私を養子にしようと考えても不思議じゃないわ。ね、お父さん」
「まぁ、そうだな」
「それに奥様は平民だったのに旦那様と結婚して貴族になられたのよ。私にもそういうチャンスがあってもいいと思う」
ご機嫌なカレンは鼻歌交じりにスキップをして両親の先を歩き出した。
カレンが建物の角を曲がり姿が見えなくなると母親が首をかしげて呟いた。
「カレンを養子になんて……」
「うーん。何を考えているんだろうな、姉さんも」
一週間後、男爵家の正式な養女となったカレンは『カリーヌ』という新たな名前を与えられカリーヌ・ロビノ男爵令嬢となった。
そしてすぐに貴族としてのマナーや教養を学ぶための厳しいレッスンが始まり、貴族に憧れていたカレンは弱音を吐くことなく一生懸命こなしていった。
同僚が突然男爵令嬢になってもメイドたちの間では嫉妬よりも祝福する声が多く、それはひとえに男爵の穏やかで優しい人柄の賜物といえる。
男爵の影響で普段からメイドたちも和気あいあいとしており、そんな中でカレンも子どもの頃から皆と仲良く仕事をしてきたのだ。
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そんなカレンに半年後、更なる転機が訪れた。
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