転生した皇帝は神の罠を乗り越える~あの日の過ちに苦しむ魂は百年の時を越え~

今井杏美

文字の大きさ
12 / 62

春雷

 ガイアマーレ帝国の空はおとといから灰色の雲に覆われ雨が降ったりやんだりとぐずついている。
 今日は遠くで雷も聞こえ、これから近づいてきそうだ。
 
 今、宮殿の大広間で皇帝一家が見下ろす台座の下にジェラールの婚約者候補が横一列に並んでいる。

 町にばかり出ていないで早く婚約者を決めろと皇帝に言われても一向にその様子を見せずにぐずぐずしている彼に代わって、皇后が名だたる家門の令嬢を五名選定してその中から決めるよう命令したのだ。

 決まった後には婚約式があって、それまでは内定となる。

 貴族たちとは違い、神殿に実在する神の血を引く皇族の権威は絶対的なため妃の出身は重要視されない。
 よって基本的に皇族は本当に愛する者と結婚するが、それでも令嬢たちの家門は侯爵家以上がほとんどだ。
 
 ジェラールはこうなったらもう誰でもいいと思った。

 パーティーで美しい令嬢らと踊っても興味が沸かないジェラールは、センスのいい美しいドレスに身を包んで礼を取る五人を適当に見渡した。

 真ん中にいるのは皇帝の従弟の娘セシール公爵令嬢だ。
 一応幼馴染だがそんなに仲良くは無い。
 彼女は金髪の巻き毛の、見た目は華やかな美しい容姿をしている。
 しかし表情は死んでいて、ジェラールは吹きだしそうになった。

 その五人並んだ端にはカリーヌ・ベニュロ侯爵令嬢が立っていた。
 そういうことだろうと思っていたジェラールは半ば批判口調で皇后に聞いた。
 
「母上はどういう基準で彼女らを選んだのですか」
「あら、妙齢で侯爵家以上の令嬢よ。彼女たちより若い娘はエルネストと縁があるかもしれないから入れてないわ」

 エルネストはいきなり自分の名前が出てびっくりして両手を左右に振った。

「私は結婚などまだまだ考えていませんよ」
「だとしても、全ての令嬢をジェラールの婚約者候補になんて、そんなの選ぶ方も大変でしょう? 思ったより少なくなってしまったけど彼女たちの中から選ぶことね、ジェラール」
「……」
「まさか他に気になる令嬢でもいるのかしら?」
「いいえ」

 宮殿の大きな窓が風でガタガタと震え出し、葉っぱや小枝が窓にぶつかる音が聞こえてきた。
 地面を叩きつける雨音は近くにいる人の声もかき消すほど強い。
 大広間は一瞬にして薄暗くなった。

「荒れて来たわね」

 そして窓の外が一瞬ピカッと光るやいやな頭上でカラカラカラドッカーン! と大きな雷の音が響き渡る。

 ジェラールも一瞬びくっとするくらいの大きな音だ。
 目の前の令嬢たちは「キャー」と叫びながらセシールを中心にして集まりその場にしゃがみ込んだ。

 「大丈夫だ、怖れることはない」とジェラールが言っても立て続けに鳴る雷に令嬢たちは肝をつぶして立つことができないでいる。

 そんな中カリーヌだけは平気そうに一人立っている。
 彼女は助け合うようにしゃがむ四人を見て笑いを堪えていた。

 そしてついに笑みがこぼれると、どうしたことか、その笑顔がジェラールの目に飛び込んできて彼の心の奥を揺さぶった。

 彼は庭で会った時も彼女の顔を見て言葉を失った。
 似ているのだ。
 十三歳で亡くなったエレンに。

(いや、何を考えているんだ。オーラだって彼女は平凡だ。髪の色も違うし瞳も両目とも一般的な青色だ……)

 しかし彼の心臓は静かに高鳴りだす。


 雷が遠のいていくに従い大広間も徐々に明るくなってくると、カリーヌは「大丈夫ですか」と言いながら、しゃがみ込んでいる令嬢たちに手を差し出して立たせてあげた。

「有難う。あなた、怖くなかったの?」
「びっくりしましたけど怖くはありません」

 そんなカリーヌの様子に皇帝も興味を持った。

「あの娘はなかなか肝が据わっているな。どこの令嬢だ」
「彼女はベニュロ侯爵家の養女ですわ」
「なんと、ベニュロ侯爵も随分あからさまなことをする」
「私もそう思ったんですけど、きっとジェラールが気に入るだろうからって」
「特に美人でもなんでもないが?」
「性格? よくわかりませんけど」

 その時皇后はジェラールが一人の令嬢を見つめていることに気付いた。

「あら、カリーヌ・ベニュロ侯爵令嬢を気に入ったの?」

(母上は何を言っているんだ?)

「ジェラール?」
「……」
「あらやだ。彼女しか見えてないみたいね」

(そんなわけないだろう)

「ではカリーヌ・ベニュロ侯爵令嬢を――」

 皇后の言葉に反論したいがジェラールは彼女の微笑みから目を離すことができない。
 心と体が別々に動いてどちらが本当の自分なのかさえ分からない。

「婚約者内定でいいのかしら?」

(駄目だ! 彼女はベニュロ侯爵の養女だぞ!)

「……はい……」


感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます

白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。 特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。 だがある日、突然の婚約破棄通告――。 「やはり君とは釣り合わない」 そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。 悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。 しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。 「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」 「よければ、俺が貰ってやろうか?」 冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!? 次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには 「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」 ――溺愛モードが止まらない!

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに! かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、 男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。 痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。 そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。 「見つけた! 僕の花嫁!」 「僕の運命の人はあなただ!」 ──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。 こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。 すっかりアイリーンの生活は一変する。 しかし、運命は複雑。 ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。 ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。 そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手…… 本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を─── ※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)