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愛を受け止めて
エレンの仕事が終わるとジェラールは早速彼女の住む小屋へ一緒に行った。
そこは火事の後に再建された、エレンが昔住んでいた小屋だ。
カリーヌはその二人の後ろ姿を微妙な面持ちで見ていた。
(まさかエレンが殿下と親しかったなんて)
お茶会が終わった後に二人の関係を聞いたカリーヌは、積もる話もあるだろうからとエレンの仕事を早く切り上げさせた。
それは自分の心の広さをジェラールに示すためにしたことだ。
そもそもエレンを雇ったのは自分の評価を上げるためだった。
貧民や孤児院へのボランティアは皇后や他の皇族、貴族もやっているから埋もれてしまう。
既に婚約者に内定していてもジェラールの心が自分に無いことを感じているカリーヌは、少しでも自分をよく思ってもらいたかった。
そんな時に思いついたのがエレンの存在だった。
お茶会はそのために開いたようなものだ。
(二人だけにして大丈夫かしら。まさかあの姿のエレンを好きになることなんてないわよね。……でも……)
後ろ髪をひかれながらも、カリーヌは邸内に入って行った。
小屋に入った二人はテーブルに向かい合って座った。
「お付きのメイドなのに邸内に部屋は貰えなかったのか?」
「私がここを望みました」
「そうか。でも俺としてもここの方が落ち着いていい」
ジェラールはいやいや来たお茶会の後このような幸運が待ち構えていたことに上機嫌だ。
一方エレンは使用人の名前が聞かれることなどあり得ないと思っていた自分の考えが浅かったことを後悔している。
でも何故名前を聞こうと思ったのか不思議だった。
「どうして私だと分かったのですか」
「オーラさ。君特有の、あの美しいオーラ」
(オーラ! そうだわ、忘れていた)
「それでもまだ確信は持てなかった。もしかしたら同じオーラの人もいるかもしれないと思ったから。でも、火傷の跡を見て確信した。火事での火傷の跡に違いないと。それならオーラの色が同じで火事に遭った人なんて君しかいないだろう?」
エレンの証明になるのなら、火傷跡は彼にとってはただの記号でしかない。
でも見られたくなかったエレンは複雑だ。
「どうしてエレンだと言わなかった? 無視するなんて酷いじゃないか」
「それは……」
こんな姿になってしまったから。
しかし、だったら侯爵家で働くことも最初から断るべきだったのだ。
それが一番安全だ。
矛盾する感情を説明するのは難しい。
できたとしても、それを婚約者のいる彼に言うことは憚られる。
「殿下は女心が分からないのですね」
エレンにとってその言葉は冗談であり本気であり。
しかしジェラールは困った顔をして、自分の座る椅子をエレンの隣に移動させて顔を覗きこんで言った。
「エレン。顔を見せて」
「嫌です」
「エレン」
「どうして? こんな醜い顔を見てどうすると? 同情なら結構です」
「……俺は君が死んだと侯爵から聞かされてそのまま信じてしまった。捜すべきだったんだ。もう二度と君を失いたくないし後悔したくない。君の全てを受け入れる」
「何を仰っているのかわかりません。デリカシーが無さすぎです!」
「エレンは男心を分かってないな」
「え?」
「男は好きな女のことは全て知りたいんだ。どんなことでも」
(好き!? 私を?)
「殿下は何か勘違いなさっているのです。錯覚というか。子どもの頃の思い出は美化されやすいから……」
「美化? 俺をなんだと思っているんだ」
ジェラールはムッとした。彼は初めて会った時からエレンに夢中だったのだ。
子どものそれではなく、一人の女性として本気で好きだった。
魂が求めているとでも言った方が早い。
「申し訳ありません。でも殿下はカリーヌ様の婚約者です。軽い気持ちでそのようなことを仰ってはいけません」
「……」
ジェラールは俄かに立ち上がって窓の外を見た。昔、寄り添うように立っていた大きな木は火事で焼かれてから取り除かれたのだろう、跡形もない。
「内定しているだけだ。……そうだ、俺が昔プレゼントしたペンダント、まだ持っているか? 火事で失くしてしまったならまた――」
「持っています。でもハンカチは焼けてしまって……申し訳ありません」
「そんなのどうでもいいよ、エレン。ありがとう」
「あ、はい……」
エレンは首に下げているペンダントを取り出して見せた。
付けているのが当たり前のように取り出されたそのペンダントは昔と変わりなく美しく、大事に手入れされているのが見て取れる。
(離れていてもずっとつけていてくれたのか!)
ということは四年の間、自分たちはお互いの事を忘れずにいた。
つまり両想いじゃないかと感激したジェラールは彼女を咄嗟に抱き寄せた。
「ああエレン! あの時は恥ずかしくて友だちの証なんて言ったけど、本当はそれは俺が君を愛しているという証だ」
(あ、あ、あ、愛!?)
「あの頃から俺は君だけをずっと愛していた。この四年間忘れたことはない。わかってくれるか?」
エレンは思ってもみなかった展開に戸惑うしかなかった。
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