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暗転
ジェラールが神殿に行っている頃。
カリーヌのお遣いを頼まれたエレンは一旦小屋に戻って急いで着替えをした。
その時ジェラールから貰ったペンダントがボトッと床に落ちた。
(紐が劣化していたのかしら。火事の時も無事だったのに、こんなことは初めてだわ)
今出ればお店の開いている時間に間に合う。
ペンダントは帰ってから直すことにして、テーブルの上に置いて出ることにした。
「よお、お遣いか?」
「ヨルゴおじさん」
「一人で?」
「はい」
「もうすぐ暗くなる。馬車を使えばいいのに、何も言われなかったのか?」
そんなこと彼女は考えつきもしなかった。
「大丈夫です。三十分もあれば着きますから」
「俺の足だと十分くらいで着くが、大変だな」
だが彼女にとっては孤児院にいた時より侯爵邸の方が街まで近いのでそれほど苦ではない。
ヨルゴはその後もずっとエレンと一緒に歩いているので彼の仕事が遅れるのではないかとエレンは心配になった。
「あの、先に行ってください。私は大丈夫ですから」
「俺の仕事はもう終わったんだ。心配いらねぇよ。これから知り合いの大工に板を貰いに行くところでね。リスの巣箱が壊れちまって」
そのリスというのは昔エレンの肩に乗ってきた珍しい模様のリスだ。
エレンの家が燃えてから彼の小屋に現れるようになって、それで自分の小屋近くに巣箱を設置したら気に入って居ついたらしい。
今はヨルゴの小屋とエレンの小屋を行ったり来たりしている。
街に着いて高級店が並ぶ通りにさしかかり二人はそこで別れた。
少ししてヨルゴは帰りに荷物があれば自分が持ってやろうと思いつき、待ち合わせて帰るのを伝えるため引き返した。
夕陽に光る金髪と歩き方ですぐに彼女を見つけることができた。
「エレーー」
遠くから名前を呼ぼうとしたとき、彼女の側に男が近づいてくるのが分かった。
帽子を目深にかぶっていて顔ははっきりしない。
何やら話し始める二人にヨルゴは邸の人間だろうかと思った。
するとその男は嫌がるエレンの手を引っ張ってどこかに連れて行こうとするではないか。
助けなければと走って後を追うと、止めてある馬車の中に彼女が引きずり込まれようとしているのが見えた。
エレンに抵抗している様子は無く、ぐったりとしていて気を失っているのがわかった。
誘拐だ! と、ヨルゴは慌てて飛び出ていった。
しかし、そこで中にいたもう一人の男と目が合い、そして足が止まった。
馬車はエレンを乗せて急いで走り去って行く。
ヨルゴは息を呑んで固まったまま、後を追いかけることができなかった。
夜になって、彼はエレンの小屋と自分の小屋を行ったり来たりしながら彼女の帰りを待った。
だが、日付が変わっても明かりはつかずエレンが中にいる様子は無い。
(エレンはどこに行ってしまったんだ? 何で帰ってこない? カリーヌお嬢様も心配しているんじゃないだろうか……)
部屋で項垂れて考え込んでいると、ガサガサッと音がしてヨルゴの心臓が飛び跳ねた。
今彼はほんの少しの音にも敏感になっている。
音の正体はリスだ。
板を貰いに行くことなどすっかり忘れていた彼は、また後で作ってやるからなと話しかけながら代わりにドングリを一つ渡すと、リスは喜んで壊れた巣箱に戻って行った。
翌朝、ヨルゴは起きてすぐにエレンの小屋へ走った。
玄関前で耳をそばだてる。
何も音は聞こえず人がいる気配もない。
心臓がじわじわと口の方まで上がってきた。
嫌な予感がするも、玄関をノックする勇気も出ず暗い気持ちでそのまま仕事場へ向かった。
そして予感は的中する。
仕事場では今日の未明にエレンが街で亡くなっているのが見つかったという話で持ちきりだった。
彼は仕事どころではなくなり慌てて小屋に駆け戻った。
鍵をかけて部屋の隅で縮こまる。
震える両手は今にも叫びだしそうな口を覆い、目には涙が溢れている。
(どうして!? 可哀そうに! あの時声を上げていれば……! でも……。ああ、どうすればいいんだ、誰か!)
顔面蒼白のヨルゴに恐怖と理不尽、そして拭いきれない後悔の念が襲った。
カリーヌのお遣いを頼まれたエレンは一旦小屋に戻って急いで着替えをした。
その時ジェラールから貰ったペンダントがボトッと床に落ちた。
(紐が劣化していたのかしら。火事の時も無事だったのに、こんなことは初めてだわ)
今出ればお店の開いている時間に間に合う。
ペンダントは帰ってから直すことにして、テーブルの上に置いて出ることにした。
「よお、お遣いか?」
「ヨルゴおじさん」
「一人で?」
「はい」
「もうすぐ暗くなる。馬車を使えばいいのに、何も言われなかったのか?」
そんなこと彼女は考えつきもしなかった。
「大丈夫です。三十分もあれば着きますから」
「俺の足だと十分くらいで着くが、大変だな」
だが彼女にとっては孤児院にいた時より侯爵邸の方が街まで近いのでそれほど苦ではない。
ヨルゴはその後もずっとエレンと一緒に歩いているので彼の仕事が遅れるのではないかとエレンは心配になった。
「あの、先に行ってください。私は大丈夫ですから」
「俺の仕事はもう終わったんだ。心配いらねぇよ。これから知り合いの大工に板を貰いに行くところでね。リスの巣箱が壊れちまって」
そのリスというのは昔エレンの肩に乗ってきた珍しい模様のリスだ。
エレンの家が燃えてから彼の小屋に現れるようになって、それで自分の小屋近くに巣箱を設置したら気に入って居ついたらしい。
今はヨルゴの小屋とエレンの小屋を行ったり来たりしている。
街に着いて高級店が並ぶ通りにさしかかり二人はそこで別れた。
少ししてヨルゴは帰りに荷物があれば自分が持ってやろうと思いつき、待ち合わせて帰るのを伝えるため引き返した。
夕陽に光る金髪と歩き方ですぐに彼女を見つけることができた。
「エレーー」
遠くから名前を呼ぼうとしたとき、彼女の側に男が近づいてくるのが分かった。
帽子を目深にかぶっていて顔ははっきりしない。
何やら話し始める二人にヨルゴは邸の人間だろうかと思った。
するとその男は嫌がるエレンの手を引っ張ってどこかに連れて行こうとするではないか。
助けなければと走って後を追うと、止めてある馬車の中に彼女が引きずり込まれようとしているのが見えた。
エレンに抵抗している様子は無く、ぐったりとしていて気を失っているのがわかった。
誘拐だ! と、ヨルゴは慌てて飛び出ていった。
しかし、そこで中にいたもう一人の男と目が合い、そして足が止まった。
馬車はエレンを乗せて急いで走り去って行く。
ヨルゴは息を呑んで固まったまま、後を追いかけることができなかった。
夜になって、彼はエレンの小屋と自分の小屋を行ったり来たりしながら彼女の帰りを待った。
だが、日付が変わっても明かりはつかずエレンが中にいる様子は無い。
(エレンはどこに行ってしまったんだ? 何で帰ってこない? カリーヌお嬢様も心配しているんじゃないだろうか……)
部屋で項垂れて考え込んでいると、ガサガサッと音がしてヨルゴの心臓が飛び跳ねた。
今彼はほんの少しの音にも敏感になっている。
音の正体はリスだ。
板を貰いに行くことなどすっかり忘れていた彼は、また後で作ってやるからなと話しかけながら代わりにドングリを一つ渡すと、リスは喜んで壊れた巣箱に戻って行った。
翌朝、ヨルゴは起きてすぐにエレンの小屋へ走った。
玄関前で耳をそばだてる。
何も音は聞こえず人がいる気配もない。
心臓がじわじわと口の方まで上がってきた。
嫌な予感がするも、玄関をノックする勇気も出ず暗い気持ちでそのまま仕事場へ向かった。
そして予感は的中する。
仕事場では今日の未明にエレンが街で亡くなっているのが見つかったという話で持ちきりだった。
彼は仕事どころではなくなり慌てて小屋に駆け戻った。
鍵をかけて部屋の隅で縮こまる。
震える両手は今にも叫びだしそうな口を覆い、目には涙が溢れている。
(どうして!? 可哀そうに! あの時声を上げていれば……! でも……。ああ、どうすればいいんだ、誰か!)
顔面蒼白のヨルゴに恐怖と理不尽、そして拭いきれない後悔の念が襲った。
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