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犯人探し(一)
ジェラールがアランと共に急ぎ向かった先はベニュロ侯爵家の下級使用人の小屋だ。
小屋に入ると犯人はまだ首を吊ったままの状態だった。
男の名前はヨルゴ。
年は四十代後半から五十代始めくらいで白髪交じりの癖のある黒髪。
自警団団長はジェラールが到着すると一礼をして、犯人の特徴を述べた後にテーブルの上に置いてあったという遺書を手渡した。
それには彼女のことを子どもの頃から目を付けていてずっと好意を抱いており、告白したが断られたため衝動的に刺してしまった、彼女の後を追って自分も死ぬという内容が書かれてあった。
団長がジェラールに報告する。
「ヨルゴの仕事仲間によると、彼は普段から被害者と親しかったようです。そして仕事場でエレンの訃報を聞いた時は慌てふためいてすぐにいなくなり、その日は仕事に来なかったらしいです」
「そうか」
「凶器はまだ見つかっておりませんがこの男で決まりですね」
団長は犯人は自殺したということで早くエレンの事件を終わらせたいようだ。
しかしジェラールはまだ自分の中の疑問を解決しておらず、このまま何も調べないで終わらせる気はなかった。
まず彼は家の中を一通り見て回った。床や引き出し、そしてゴミ箱の中。
しかし彼が探しているものが見当たらない。
「何を探しておられるのですか?」
ベニュロ侯爵がこれ以上何を探す必要があるのかという含みのある言い方で聞いてきた。
侯爵も団長も、使用人の間の殺人事件などに時間を取られたくないというのが見え見えだ。
団長も平民であるのに何らかの団体の長となれば意識が変わるのだろうか。
侯爵はイライラを隠そうともせず煩わしそうにしょっちゅうため息を吐いている。
そんな侯爵を無視してジェラールは野次馬の使用人らに向かってヨルゴは煙草を吸うのかと聞いた。
だが誰一人彼が煙草を吸っている所を見たことがある者はいなかった。
小屋にも煙草は無いし灰皿も吸い殻も見当たらないのはそういうことだ。
「そういえば被害者の肌には煙草の火を押し付けられた跡がありましたね」
団員の男がそう言うと、団長が面倒くさそうな顔でその男を一瞥した。
外から別の団員が駆け足で入って来た。
「団長、事件の目撃者と思われる者の証言が取れました」
「報告しろ」
「その者は金髪の女性の腕を掴んで路地裏に引っ張っていく男の姿を見たと言いました。場所は高級店の並ぶ大通りです。男は帽子をかぶっており、日も暮れはじめていたこともあって顔や髪の色は分からなかったようです。もう一つは、まだ明るい時間帯に黒髪の男が金髪の女性の隣をゆっくりと歩いていたのを目撃したというものです。女性の方は足を引きずっていたため印象に残っていたと話しておりました」
「その男二人は別人ということか? ……いや、後で帽子をかぶった可能性もある」
態度は別として団長の言い分も無きにしも非ずだが、そうなると犯人は一人でそれはヨルゴということで片付けられてしまう。
この事件を早く終わらせたいからそんなことを言うのだろうが、別人と考える方が自然だ。
そして何よりヨルゴが煙草を吸わない事は決して見逃してはならない。
ジェラールは徐に剣を取り出した。
(こんなことしたくはなかったがやむを得ん)
犯人の死体から血がボトリと床に落ちた。
死体を剣で切りつけたその光景にその場の皆が凍りつく。
「ど、どうなさいました!?」
さすがのベニュロ侯爵もびっくりだ。
切り傷から流れるまだ固まっていない血をじっと見つめるジェラールの顔が険しくなる。
「エレン殺害犯はこの男一人じゃない」
団長が聞いた。
「どうしてそう思われるのですか?」
「皆、忘れていないか? 俺にはオーラを見る能力がある。血もオーラを発するのさ」
ジェラールの能力は秘密ではない。だが生活とはなんの関わりもないので普段はみんな忘れている。
「エレンの爪には犯人のものと思われる血が付いていた。そのオーラと、こいつのオーラは違った。こいつが煙草を吸わないことと合わせると複数犯で間違いない」
安置所でエレンの手を握った時、彼女の指先が僅かに光っていることにジェラールは気付いた。
爪の中には犯人を引っ掻いた時に着いたと思われる血が残っていてまだオーラを発していたのだ。
もう一人犯人がいることを確信するため試しに死体を切りつけたが、死んで間もない人間の血液はまだオーラを発することをジェラールも今わかった。
小屋に入ると犯人はまだ首を吊ったままの状態だった。
男の名前はヨルゴ。
年は四十代後半から五十代始めくらいで白髪交じりの癖のある黒髪。
自警団団長はジェラールが到着すると一礼をして、犯人の特徴を述べた後にテーブルの上に置いてあったという遺書を手渡した。
それには彼女のことを子どもの頃から目を付けていてずっと好意を抱いており、告白したが断られたため衝動的に刺してしまった、彼女の後を追って自分も死ぬという内容が書かれてあった。
団長がジェラールに報告する。
「ヨルゴの仕事仲間によると、彼は普段から被害者と親しかったようです。そして仕事場でエレンの訃報を聞いた時は慌てふためいてすぐにいなくなり、その日は仕事に来なかったらしいです」
「そうか」
「凶器はまだ見つかっておりませんがこの男で決まりですね」
団長は犯人は自殺したということで早くエレンの事件を終わらせたいようだ。
しかしジェラールはまだ自分の中の疑問を解決しておらず、このまま何も調べないで終わらせる気はなかった。
まず彼は家の中を一通り見て回った。床や引き出し、そしてゴミ箱の中。
しかし彼が探しているものが見当たらない。
「何を探しておられるのですか?」
ベニュロ侯爵がこれ以上何を探す必要があるのかという含みのある言い方で聞いてきた。
侯爵も団長も、使用人の間の殺人事件などに時間を取られたくないというのが見え見えだ。
団長も平民であるのに何らかの団体の長となれば意識が変わるのだろうか。
侯爵はイライラを隠そうともせず煩わしそうにしょっちゅうため息を吐いている。
そんな侯爵を無視してジェラールは野次馬の使用人らに向かってヨルゴは煙草を吸うのかと聞いた。
だが誰一人彼が煙草を吸っている所を見たことがある者はいなかった。
小屋にも煙草は無いし灰皿も吸い殻も見当たらないのはそういうことだ。
「そういえば被害者の肌には煙草の火を押し付けられた跡がありましたね」
団員の男がそう言うと、団長が面倒くさそうな顔でその男を一瞥した。
外から別の団員が駆け足で入って来た。
「団長、事件の目撃者と思われる者の証言が取れました」
「報告しろ」
「その者は金髪の女性の腕を掴んで路地裏に引っ張っていく男の姿を見たと言いました。場所は高級店の並ぶ大通りです。男は帽子をかぶっており、日も暮れはじめていたこともあって顔や髪の色は分からなかったようです。もう一つは、まだ明るい時間帯に黒髪の男が金髪の女性の隣をゆっくりと歩いていたのを目撃したというものです。女性の方は足を引きずっていたため印象に残っていたと話しておりました」
「その男二人は別人ということか? ……いや、後で帽子をかぶった可能性もある」
態度は別として団長の言い分も無きにしも非ずだが、そうなると犯人は一人でそれはヨルゴということで片付けられてしまう。
この事件を早く終わらせたいからそんなことを言うのだろうが、別人と考える方が自然だ。
そして何よりヨルゴが煙草を吸わない事は決して見逃してはならない。
ジェラールは徐に剣を取り出した。
(こんなことしたくはなかったがやむを得ん)
犯人の死体から血がボトリと床に落ちた。
死体を剣で切りつけたその光景にその場の皆が凍りつく。
「ど、どうなさいました!?」
さすがのベニュロ侯爵もびっくりだ。
切り傷から流れるまだ固まっていない血をじっと見つめるジェラールの顔が険しくなる。
「エレン殺害犯はこの男一人じゃない」
団長が聞いた。
「どうしてそう思われるのですか?」
「皆、忘れていないか? 俺にはオーラを見る能力がある。血もオーラを発するのさ」
ジェラールの能力は秘密ではない。だが生活とはなんの関わりもないので普段はみんな忘れている。
「エレンの爪には犯人のものと思われる血が付いていた。そのオーラと、こいつのオーラは違った。こいつが煙草を吸わないことと合わせると複数犯で間違いない」
安置所でエレンの手を握った時、彼女の指先が僅かに光っていることにジェラールは気付いた。
爪の中には犯人を引っ掻いた時に着いたと思われる血が残っていてまだオーラを発していたのだ。
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