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犯人探し(三)
「殿下の能力があればすぐに犯人は見つかりそうですね」
そう言いながらアランのお腹がグーッと鳴った。
もう昼過ぎだ。
皆で町へ食事に繰り出そうとしたとき黒いドレスを着たカリーヌがやって来た。
ついさっきまで泣いていたのか彼女の瞳は赤い。
「殿下にご挨拶申し上げます。あの……差し出がましいことを申すようでなんですが、もっと慎重に調査すべきだと思うんです。自殺した者を犯人と決め付けるなんて……死人に口なしと申しますし……」
「それは侯爵の考えだ。俺は調査を終わらせるつもりはない」
「……そうだったのですか。私ったら……生意気なことを言って申し訳ありませんでした。ところでもうお昼ですが皆さまうちでお食事をお召し上がりになってはいかがでしょう」
内定取り消しをするつもりの女性の家で食事を頂く――。
皇帝はあのあと内定取り消しの話をしなかったから、彼女がまだ知らないとしても図々しい感じがしてジェラールは断ろうと思った。
しかし隣にいるアランから「邸内の使用人を観察する丁度いい機会ですよ」と、熱い視線と共に囁かれたため、それもそうだと面の皮を厚くして彼女の善意を受けることにした。
アラン以外の護衛の者らは遠慮して外で食事をすると言うので、自警団の所に行ってこれまでの詳しい調書をもらってくるようついでに言いつけた。
※※※
侯爵はあれから夫人と出かけたらしく留守だった。
食堂に案内されるまでの間、ざっと見たところ犯人のオーラを持つ該当者は見当たらない。
席に着いて少しすると、なんとガリアスが現れた。
ジェラールが彼に会うのは数年ぶりだ。
目のつり上がった冷たい顔立ちは年を取って増々ベニュロ侯爵に似てきている。
黒に近いこげ茶色の髪を短く切りそろえ、がたいが良く筋肉質。
そのオーラは性格を表しているかのように暗い灰色と黒が混ざり、所々赤い筋が入った禍々しい色をしている。
ジェラールは本当にこのオーラが嫌いだ。
「これはこれは皇太子殿下。ご挨拶申し上げます。久しくお目にかかっておりませんでした」
「領地に行っていると聞いたが戻って来ていたのだな」
「ええ、そうですよ。ところで私もご一緒させて頂いてもよろしいですか」
「何を言う。君の家ではないか」
侯爵の座る椅子に当たり前のように座ったガリアスは、ポーカーフェイスのジェラールを見てニヤッと笑った。
「いやぁ、殿下を我が家でもてなすなど何年振りでしょうか。光栄なことだ。しかしエレンのことは本当に驚きました。死んだと思っていた彼女が生きていたこともそうですが……。犯人は使用人というではないですか。殿下はエレンと親しかったので、ご胸中、いかばかりかと思います」
彼は意味ありげな顔でカリーヌを見て続けた。
「それにしても義理妹が皇太子の婚約者になるなど我が家も幸運だ。こんなこと言うのもなんだがお前はホッとしたんじゃないか、カリーヌ」
「義理兄様! 馬鹿なこと言わないでください! 言っていい事と悪いことがあります! それに、正確にはまだ婚約者ではありません……」
「はっ、冗談さ。でもほんとに彼女は昔からついていなかった。あの火傷跡を見てもそう思わずにはいられない。最後は無残にも殺されてしまうなんて、生きていたことは果たして良かったのか悪かったのか。ああ、神は彼女を見放したか!」
ガリアスは両手を大きく広げて嘆いてみせた。
ジェラールの我慢もここまでだ。彼はバンッ! と震える拳でテーブルを叩いた。
そして殴り殺したい気持ちを抑えて「その辺にしろ」と低い声で制した。
しかし驚いたガリアスは肩をすくめてその口を噤みこそしたが顔はニヤついたまま。
わざと挑発するようなその態度にジェラールはらわたが煮えくり返る。
いっそこいつが犯人なら、いや、こいつ以外犯人に最適な人物などいるだろうか、そうだったら思う存分痛めつけて殺してやるのにと思わずにはいられなかった。
緊張した空気の漂う食堂の扉が開いてメイドが料理を運んできた。
そしてテーブルに並べ終わって食堂から出ようと再び扉を開けたその時、ジェラールは俄かに立ち上がり扉の外へ走った。
「アラン、こいつだ! こいつが犯人だ」
ジェラールの下には薄茶色の髪の男が押さえつけられていた。
そう言いながらアランのお腹がグーッと鳴った。
もう昼過ぎだ。
皆で町へ食事に繰り出そうとしたとき黒いドレスを着たカリーヌがやって来た。
ついさっきまで泣いていたのか彼女の瞳は赤い。
「殿下にご挨拶申し上げます。あの……差し出がましいことを申すようでなんですが、もっと慎重に調査すべきだと思うんです。自殺した者を犯人と決め付けるなんて……死人に口なしと申しますし……」
「それは侯爵の考えだ。俺は調査を終わらせるつもりはない」
「……そうだったのですか。私ったら……生意気なことを言って申し訳ありませんでした。ところでもうお昼ですが皆さまうちでお食事をお召し上がりになってはいかがでしょう」
内定取り消しをするつもりの女性の家で食事を頂く――。
皇帝はあのあと内定取り消しの話をしなかったから、彼女がまだ知らないとしても図々しい感じがしてジェラールは断ろうと思った。
しかし隣にいるアランから「邸内の使用人を観察する丁度いい機会ですよ」と、熱い視線と共に囁かれたため、それもそうだと面の皮を厚くして彼女の善意を受けることにした。
アラン以外の護衛の者らは遠慮して外で食事をすると言うので、自警団の所に行ってこれまでの詳しい調書をもらってくるようついでに言いつけた。
※※※
侯爵はあれから夫人と出かけたらしく留守だった。
食堂に案内されるまでの間、ざっと見たところ犯人のオーラを持つ該当者は見当たらない。
席に着いて少しすると、なんとガリアスが現れた。
ジェラールが彼に会うのは数年ぶりだ。
目のつり上がった冷たい顔立ちは年を取って増々ベニュロ侯爵に似てきている。
黒に近いこげ茶色の髪を短く切りそろえ、がたいが良く筋肉質。
そのオーラは性格を表しているかのように暗い灰色と黒が混ざり、所々赤い筋が入った禍々しい色をしている。
ジェラールは本当にこのオーラが嫌いだ。
「これはこれは皇太子殿下。ご挨拶申し上げます。久しくお目にかかっておりませんでした」
「領地に行っていると聞いたが戻って来ていたのだな」
「ええ、そうですよ。ところで私もご一緒させて頂いてもよろしいですか」
「何を言う。君の家ではないか」
侯爵の座る椅子に当たり前のように座ったガリアスは、ポーカーフェイスのジェラールを見てニヤッと笑った。
「いやぁ、殿下を我が家でもてなすなど何年振りでしょうか。光栄なことだ。しかしエレンのことは本当に驚きました。死んだと思っていた彼女が生きていたこともそうですが……。犯人は使用人というではないですか。殿下はエレンと親しかったので、ご胸中、いかばかりかと思います」
彼は意味ありげな顔でカリーヌを見て続けた。
「それにしても義理妹が皇太子の婚約者になるなど我が家も幸運だ。こんなこと言うのもなんだがお前はホッとしたんじゃないか、カリーヌ」
「義理兄様! 馬鹿なこと言わないでください! 言っていい事と悪いことがあります! それに、正確にはまだ婚約者ではありません……」
「はっ、冗談さ。でもほんとに彼女は昔からついていなかった。あの火傷跡を見てもそう思わずにはいられない。最後は無残にも殺されてしまうなんて、生きていたことは果たして良かったのか悪かったのか。ああ、神は彼女を見放したか!」
ガリアスは両手を大きく広げて嘆いてみせた。
ジェラールの我慢もここまでだ。彼はバンッ! と震える拳でテーブルを叩いた。
そして殴り殺したい気持ちを抑えて「その辺にしろ」と低い声で制した。
しかし驚いたガリアスは肩をすくめてその口を噤みこそしたが顔はニヤついたまま。
わざと挑発するようなその態度にジェラールはらわたが煮えくり返る。
いっそこいつが犯人なら、いや、こいつ以外犯人に最適な人物などいるだろうか、そうだったら思う存分痛めつけて殺してやるのにと思わずにはいられなかった。
緊張した空気の漂う食堂の扉が開いてメイドが料理を運んできた。
そしてテーブルに並べ終わって食堂から出ようと再び扉を開けたその時、ジェラールは俄かに立ち上がり扉の外へ走った。
「アラン、こいつだ! こいつが犯人だ」
ジェラールの下には薄茶色の髪の男が押さえつけられていた。
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