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収束・懺悔(二)
数日前、ジェラールはジャックに犯行現場を白状させると、即座にそこへ飛んだ。
お忍びでいつも行っていた治安の悪い港町の古い倉庫。
まさかこんな理由で行くことになるとは、彼は本当に腹立たしかった。
そして凶器のナイフも彼が言った所に捨てられていた。
その倉庫で見つけた吸殻とリスが持っていた吸殻をガリアスに突き付けた。
「ヨルゴの家とエレンの殺害現場から見つかった吸殻だ。これはまだ皇都には入って来ていない発売前のものだ。そうだろう、侯爵」
燃えていない部分からかすかに甘いバニラの香りがしてベニュロ侯爵は険しい顔をして唸った。
今年からバニラの香りを付けて売り出すことにした新商品で、ガリアスが領地からサンプルを沢山持ち帰ってきたものと同じだったのだ。
ベニュロ侯爵家で扱う未発売の煙草の吸殻が二か所で見つかったことをジャックに話すと彼の目は泳ぎ、煙草は自分が吸ってヨルゴも自分一人で殺したと言い出した。
彼が煙草を吸わない事を聞いていたジェラールは、試しにどんな味か聞いたら黙り込んでしまった。
誰かを庇っているのは優に想像がつく。
侯爵にはずっと邸にいたというアリバイがある。
そうなると、暴力を振るい煙草を押し付け、理由は分からないがジャックが庇うような人間、それはこの侯爵邸では一人しかいない。
そしてガリアスは自分でも気づかずに白状してくれていた。
「エレンを殺したのはジャックですよね? だったらヨルゴに罪をかぶせて殺したのも彼に違いない。ああ思い出した。煙草はジャックにも土産で渡したんだった」
「ジャックは煙草を吸わない。長年一緒にいてそんなことも知らなかったのか?」
「っ……! で、でも吸えるようになりたいと言っていた!」
「ふっ、無駄なあがきを。で、いつ渡した?」
「帰って来る途中で会って」
最初の威勢の良さが段々引っ込んでくる。
「渡してからどこにいた? お前が帰って来たのはエレンの遺体が発見されたその日の明け方だとみなが証言している」
「帰る前に酒場に寄って、そのままずっと飲んでいた」
「だったらなぜエレンの火傷跡をお前は見ることができたんだ」
「なんのことです?」
「ヨルゴが殺された日、邸で食事した時お前は自分が言ったことを忘れたのか?」
ガリアスはしばらく考え込んだが自分の発言をいちいち覚えていなかった。
「あの日お前は確かに“あの火傷跡を見てもそう思わずにはいられない”と言った。聞いていたのは俺だけじゃない。彼女が働き始めたのはお前が領地に行ってからだ。そして彼女は亡くなってそのまま安置所へ送られたから邸にいなかったお前が彼女の火傷跡を目にしたとすればそこはエレンの殺害現場以外にはない!」
侯爵が思い切りガリアスを殴り怒鳴りつけた。
「お前と言う奴は!」
「私は何もしていない! 信じて下さい! エレンに火傷跡があることはジャックから聞いたんです!」
「お前のたわ言に付き合うのもここまでだ。遺書の筆跡鑑定をしたらお前の字と一致した」
「なんだと、あの遺書はお前が書いたのか! 昔からダメなやつだと思っていたがそこまでとは!」
「父上!」
「近衛兵、奴を拘束しろ!」
「くそ! 俺は無実だ!」
「ああ、ガリアス、ガリアス!」
その時侯爵夫人はガエタン・ベニュロ侯爵を非難の目で見つめていた。
※※※
数日後、ジェラールに侯爵家の執事が自殺したとの報告が入った。
遺書には四年前の火事で失火と報告したのは自分であることと、火事に息子とガリアスが関わっていることを知っていながら黙っていたと書いてあった。
『あの日の夜中、ジャックが部屋を出て下級使用人の小屋のある方へぼっちゃまと向かうのを窓越しに見ました。
その時は男の子の夜中の冒険か何かだろうと思い大目に見て邸に戻るよう注意はしませんでしたが、火事が発生した時私はすぐに覚りました。
旦那様にお伝えしなければ。
しかし喉元まで出かかって止まってしまったのです。
二人が罰を受けるなら納得でき諦めもつきますが、坊ちゃまは侯爵家の嫡男です。きっとジャックにだけ罪をなすりつけて終わらせるかもしれないと。
そんな理不尽なことはあってはならないと思い、墓場まで持っていくことを決意しました。
そしてナタリー親子に対する罪悪感を払しょくするため、火をつけた場面を見たわけではなかったこともあり、思い過ごしだと自分を騙し騙し生きてきました。
そんな中、カリーヌお嬢様が亡くなったはずのエレンを連れてくるなど誰が想像できましょうか。
ましてやエレンを殺そうとするなど、なんと恐ろしい巡り合わせかと思わずにはいられません。
いいえ、決して呪いのせいにするつもりはありません。
ナタリー親子、ヨルゴには償いようもないことは確かです。
どうやら地獄への渡し船が迎えに来たようです。
ジャックよ、愚かな私の息子よ。
先に地獄で待っている』
執事の遺書をジャックに見せると彼は項垂れてこれまでのことをポツリポツリと話し出した。
お忍びでいつも行っていた治安の悪い港町の古い倉庫。
まさかこんな理由で行くことになるとは、彼は本当に腹立たしかった。
そして凶器のナイフも彼が言った所に捨てられていた。
その倉庫で見つけた吸殻とリスが持っていた吸殻をガリアスに突き付けた。
「ヨルゴの家とエレンの殺害現場から見つかった吸殻だ。これはまだ皇都には入って来ていない発売前のものだ。そうだろう、侯爵」
燃えていない部分からかすかに甘いバニラの香りがしてベニュロ侯爵は険しい顔をして唸った。
今年からバニラの香りを付けて売り出すことにした新商品で、ガリアスが領地からサンプルを沢山持ち帰ってきたものと同じだったのだ。
ベニュロ侯爵家で扱う未発売の煙草の吸殻が二か所で見つかったことをジャックに話すと彼の目は泳ぎ、煙草は自分が吸ってヨルゴも自分一人で殺したと言い出した。
彼が煙草を吸わない事を聞いていたジェラールは、試しにどんな味か聞いたら黙り込んでしまった。
誰かを庇っているのは優に想像がつく。
侯爵にはずっと邸にいたというアリバイがある。
そうなると、暴力を振るい煙草を押し付け、理由は分からないがジャックが庇うような人間、それはこの侯爵邸では一人しかいない。
そしてガリアスは自分でも気づかずに白状してくれていた。
「エレンを殺したのはジャックですよね? だったらヨルゴに罪をかぶせて殺したのも彼に違いない。ああ思い出した。煙草はジャックにも土産で渡したんだった」
「ジャックは煙草を吸わない。長年一緒にいてそんなことも知らなかったのか?」
「っ……! で、でも吸えるようになりたいと言っていた!」
「ふっ、無駄なあがきを。で、いつ渡した?」
「帰って来る途中で会って」
最初の威勢の良さが段々引っ込んでくる。
「渡してからどこにいた? お前が帰って来たのはエレンの遺体が発見されたその日の明け方だとみなが証言している」
「帰る前に酒場に寄って、そのままずっと飲んでいた」
「だったらなぜエレンの火傷跡をお前は見ることができたんだ」
「なんのことです?」
「ヨルゴが殺された日、邸で食事した時お前は自分が言ったことを忘れたのか?」
ガリアスはしばらく考え込んだが自分の発言をいちいち覚えていなかった。
「あの日お前は確かに“あの火傷跡を見てもそう思わずにはいられない”と言った。聞いていたのは俺だけじゃない。彼女が働き始めたのはお前が領地に行ってからだ。そして彼女は亡くなってそのまま安置所へ送られたから邸にいなかったお前が彼女の火傷跡を目にしたとすればそこはエレンの殺害現場以外にはない!」
侯爵が思い切りガリアスを殴り怒鳴りつけた。
「お前と言う奴は!」
「私は何もしていない! 信じて下さい! エレンに火傷跡があることはジャックから聞いたんです!」
「お前のたわ言に付き合うのもここまでだ。遺書の筆跡鑑定をしたらお前の字と一致した」
「なんだと、あの遺書はお前が書いたのか! 昔からダメなやつだと思っていたがそこまでとは!」
「父上!」
「近衛兵、奴を拘束しろ!」
「くそ! 俺は無実だ!」
「ああ、ガリアス、ガリアス!」
その時侯爵夫人はガエタン・ベニュロ侯爵を非難の目で見つめていた。
※※※
数日後、ジェラールに侯爵家の執事が自殺したとの報告が入った。
遺書には四年前の火事で失火と報告したのは自分であることと、火事に息子とガリアスが関わっていることを知っていながら黙っていたと書いてあった。
『あの日の夜中、ジャックが部屋を出て下級使用人の小屋のある方へぼっちゃまと向かうのを窓越しに見ました。
その時は男の子の夜中の冒険か何かだろうと思い大目に見て邸に戻るよう注意はしませんでしたが、火事が発生した時私はすぐに覚りました。
旦那様にお伝えしなければ。
しかし喉元まで出かかって止まってしまったのです。
二人が罰を受けるなら納得でき諦めもつきますが、坊ちゃまは侯爵家の嫡男です。きっとジャックにだけ罪をなすりつけて終わらせるかもしれないと。
そんな理不尽なことはあってはならないと思い、墓場まで持っていくことを決意しました。
そしてナタリー親子に対する罪悪感を払しょくするため、火をつけた場面を見たわけではなかったこともあり、思い過ごしだと自分を騙し騙し生きてきました。
そんな中、カリーヌお嬢様が亡くなったはずのエレンを連れてくるなど誰が想像できましょうか。
ましてやエレンを殺そうとするなど、なんと恐ろしい巡り合わせかと思わずにはいられません。
いいえ、決して呪いのせいにするつもりはありません。
ナタリー親子、ヨルゴには償いようもないことは確かです。
どうやら地獄への渡し船が迎えに来たようです。
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