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リセット(一)
生き返る日の前にエレンの様子を知ろうとジェラールが神殿に行っても水瓶は見せてもらえなかった。
以前見せてくれたのは特別だったようだ。
だから月一の祈りの日以外は神殿に行くことはなかった。
そして時が過ぎ季節は夏真っ盛り。
その日ジェラールは一人で神殿に向かった。
濃い緑の中、顔を紅潮させながら馬を走らせる。
途中、気が急いて独り言のようにジェイジェイに囁いた。
「もっと急いでくれ、早く、早く」
『急いでるけどもっと急ぎます』
「お、おう。頼む」
到着するとジェイジェイをいつもの木に繋ぎ、「待っててくれ」と言って急いで神殿へ入って行った。
この時はもう新しい能力が芽生えたのだと確信していた。
「エレンは!?」
期待と興奮で息を弾ませるジェラールにマルセラン神は軽く微笑みを浮かべた。
「安心したまえ」
(ああ、やっぱり生き返ったんだ。エレンは戻ってきた!)
マルセラン神がアルマン神を呼ぶと真っ白な壁の一部が突然開いた。
左から右へ壁に長方形の穴が開いていく。
その奥は光がマーブル模様のように渦巻いているように見える。
驚いたがこんな驚きには慣れっこだ。
エレン、エレンはと、そこに目を凝らすとアルマン神が出現した。
そしてその斜め後ろからエレンが足を引きずることなく歩いて出てきた。
まさに奇跡だ。神の奇跡。
ジェラールの瞳から嬉し涙が溢れてくる。彼はこんなに神に感謝したことはない。
「ああ、神よ、ありがとうございます!」
アルマン神の横に立つ彼女は生きている時と変わらない美しいオーラを纏っている。
その光は以前より強くなっているのが彼にはわかった。
彼女は流れるようなドレープの真っ白いノースリーブのかかとまであるワンピースを着ている。
とても柔らかそうな素材で、体のラインに沿っているため大人の女性を感じさせ、腰には金銀の刺繍が施されたサッシュを巻いている。
気になっていた彼女の火傷跡は見る影もなく、左目もぱっちりと開いている。
当たり前だが十三歳の頃より少し大人っぽくなった顔はやはりエレンに違いない。
ただ、金髪だったのに髪がマルセラン神の青い髪を薄くしたような薄い水色になっていて、両目とも銀色に変わっていた。
よく分からないが癒された過程でそのようになってしまったのだろうとジェラールは勝手に解釈した。
そして満面の笑みを浮かべて彼女の手を包み込んだ。
昔と変わらない柔らかく温かい手。
……が、何か様子がおかしい。
なぜエレンは困惑した表情で固まっているのか。
「あの……ごめんなさい……」
「ジェラール、実は彼女は――」
ジェラールの喜びも束の間、彼女は記憶を失っているとアルマン神から聞かされた。
彼女はベニュロ侯爵家で働いていたことは覚えているが、ジェラールと出会ってから以降をすっかり忘れていた。
当然ジェラールとの過去の美しく楽しい瞬間も記憶に無い。
母親が亡くなったことも忘れていたので、それを神から知らされた時彼女はとてもショックを受け、今もその悲しみの延長線上にいるため表情は暗い。
ただ、ジェラールは記憶喪失なら時間が解決してくれるものだと思ってそれほど重く受け止めなかった。
記憶が戻るまで宮殿で医師を付けて見守っていればいいだけだ。
だがその考えはあまりにも楽観的だった。
マルセラン神からエレンは人間界に連れて帰らせることはできないと言われてしまったのだ。
「見ての通り彼女の髪の色が金髪から水色に変わっているだろう。彼女には神の世界の住人の血が流れるようになった。瞳が両方とも銀色になったのもそのためだ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「神の世界の住人は人間世界では生きてせいぜい一年」
「は? エレンは神の世界の住人になったのですか!?」
全く想定外の話にジェラールは困惑した。
連れて帰ったら婚約など飛ばしてすぐに結婚しようと思っていた。
もちろん両陛下も了承済みで、神が癒すほどの娘なら将来の皇后に十分値すると、平民に興味のない皇后ですら歓迎する雰囲気を見せていた。
頭に思い描いていた計画がボロボロと崩れていく。
「私も誤算だった。癒されていく過程で私のエネルギーと海中という環境ではそちらの方が親和性が高かったのだろう。記憶を失くしたのもそれが原因なのかもしれない。だが、魂が戻ることを選んだとしても、我々はせっかく生き返った彼女を人間の世界で死なせたくない。だから彼女の事は諦めよ」
以前見せてくれたのは特別だったようだ。
だから月一の祈りの日以外は神殿に行くことはなかった。
そして時が過ぎ季節は夏真っ盛り。
その日ジェラールは一人で神殿に向かった。
濃い緑の中、顔を紅潮させながら馬を走らせる。
途中、気が急いて独り言のようにジェイジェイに囁いた。
「もっと急いでくれ、早く、早く」
『急いでるけどもっと急ぎます』
「お、おう。頼む」
到着するとジェイジェイをいつもの木に繋ぎ、「待っててくれ」と言って急いで神殿へ入って行った。
この時はもう新しい能力が芽生えたのだと確信していた。
「エレンは!?」
期待と興奮で息を弾ませるジェラールにマルセラン神は軽く微笑みを浮かべた。
「安心したまえ」
(ああ、やっぱり生き返ったんだ。エレンは戻ってきた!)
マルセラン神がアルマン神を呼ぶと真っ白な壁の一部が突然開いた。
左から右へ壁に長方形の穴が開いていく。
その奥は光がマーブル模様のように渦巻いているように見える。
驚いたがこんな驚きには慣れっこだ。
エレン、エレンはと、そこに目を凝らすとアルマン神が出現した。
そしてその斜め後ろからエレンが足を引きずることなく歩いて出てきた。
まさに奇跡だ。神の奇跡。
ジェラールの瞳から嬉し涙が溢れてくる。彼はこんなに神に感謝したことはない。
「ああ、神よ、ありがとうございます!」
アルマン神の横に立つ彼女は生きている時と変わらない美しいオーラを纏っている。
その光は以前より強くなっているのが彼にはわかった。
彼女は流れるようなドレープの真っ白いノースリーブのかかとまであるワンピースを着ている。
とても柔らかそうな素材で、体のラインに沿っているため大人の女性を感じさせ、腰には金銀の刺繍が施されたサッシュを巻いている。
気になっていた彼女の火傷跡は見る影もなく、左目もぱっちりと開いている。
当たり前だが十三歳の頃より少し大人っぽくなった顔はやはりエレンに違いない。
ただ、金髪だったのに髪がマルセラン神の青い髪を薄くしたような薄い水色になっていて、両目とも銀色に変わっていた。
よく分からないが癒された過程でそのようになってしまったのだろうとジェラールは勝手に解釈した。
そして満面の笑みを浮かべて彼女の手を包み込んだ。
昔と変わらない柔らかく温かい手。
……が、何か様子がおかしい。
なぜエレンは困惑した表情で固まっているのか。
「あの……ごめんなさい……」
「ジェラール、実は彼女は――」
ジェラールの喜びも束の間、彼女は記憶を失っているとアルマン神から聞かされた。
彼女はベニュロ侯爵家で働いていたことは覚えているが、ジェラールと出会ってから以降をすっかり忘れていた。
当然ジェラールとの過去の美しく楽しい瞬間も記憶に無い。
母親が亡くなったことも忘れていたので、それを神から知らされた時彼女はとてもショックを受け、今もその悲しみの延長線上にいるため表情は暗い。
ただ、ジェラールは記憶喪失なら時間が解決してくれるものだと思ってそれほど重く受け止めなかった。
記憶が戻るまで宮殿で医師を付けて見守っていればいいだけだ。
だがその考えはあまりにも楽観的だった。
マルセラン神からエレンは人間界に連れて帰らせることはできないと言われてしまったのだ。
「見ての通り彼女の髪の色が金髪から水色に変わっているだろう。彼女には神の世界の住人の血が流れるようになった。瞳が両方とも銀色になったのもそのためだ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
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「は? エレンは神の世界の住人になったのですか!?」
全く想定外の話にジェラールは困惑した。
連れて帰ったら婚約など飛ばしてすぐに結婚しようと思っていた。
もちろん両陛下も了承済みで、神が癒すほどの娘なら将来の皇后に十分値すると、平民に興味のない皇后ですら歓迎する雰囲気を見せていた。
頭に思い描いていた計画がボロボロと崩れていく。
「私も誤算だった。癒されていく過程で私のエネルギーと海中という環境ではそちらの方が親和性が高かったのだろう。記憶を失くしたのもそれが原因なのかもしれない。だが、魂が戻ることを選んだとしても、我々はせっかく生き返った彼女を人間の世界で死なせたくない。だから彼女の事は諦めよ」
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