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それから(一)
新皇帝マクシミリアン・テオフロワ・ド・ガイアマーレ十八歳。
艶のある黒髪と、きりっとした眉に銀色の大きな瞳。
背が高く、絵に描いた様な美青年に成長したジェラールとエレンの息子だ。
今日の午前中に即位式が行われ、めでたく新皇帝となった。
午後は彼の結婚式が予定されている。
新婦控室
「あら、アレット。カメオのネックレスなんてとても古風ね」
「はい。亡くなった母親から貰った物で、うちに代々伝わってきた物です」
新婦のアレットは田舎育ちの平民で、美しい金髪と翡翠色の瞳をした優しい顔立ちの大人しそうな女性だ。
マクシミリアンの祖父母である元皇帝・皇后が暮らす風光明媚な離宮で働く使用人だった。
「いいじゃないか、本人がそれがいいと言うのだから」
「あら、エルネスト。私は駄目だなんて言っておりませんわ。失礼しちゃう」
「これは失敬。お、もうすぐ兄上たちが着くころだ。久しぶりで緊張するな」
「マクシミリアンを預けに来た時以来ですからね」
街はたくさんの人でごった返し、通り沿いの全ての家の二階の窓からは住人が顔をのぞかせている。
結婚式の後に行われる新皇帝・皇后のパレードを見るためとはいえ、落っこちそうなほど乗り出している人もいて危なっかしい。
しかし今の彼らの目当てはそれではない。
その前に、結婚式に出席するため神の世界からジェラールとその妻がやってきてこの道を通るという噂が立ったからだ。
人々のざわめきが大きくなり警備の者たちも気を引き締めた。
二人は皇宮が迎えにやった馬車に乗ってやって来た。窓は開いているので中が見える。
「見て見て、お母さん! 髪が水色よ! なんて綺麗なの」
「まるで妖精みたいね」
「おい、ジェラール様も水色だぞ?」
観衆は興奮して二人の姿を賞賛した。
ある高齢の夫婦は人だかりから少し離れた所でようやく見ることができる位置にいた。
「髪の毛は肩までの長さで金じゃなく水色だ。瞳は両目とも銀色で……」
「火傷の跡は治っているかい?」
「全く、見る影もない。とても綺麗で可愛いよ」
「幸せそうかい?」
「ああ、微笑んで我々の方を見ているよ。とても穏やかな顔をしている。本当に幸せそうだ」
夫からそう教えてもらった目の不自由な女性、ウージェニーは嬉しそうに微笑んだ。
瞳からは大粒の涙が零れ落ち、それを夫が優しいまなざしで見つめている。
セシールの結婚後も侍女の一人として皇宮で働くことになった彼女はその後マクシミリアンの乳母に抜擢された。
その時に初めてエレンが生きていることを知らされたのだ。
しばらくマクシミリアンの養育に当たっていたが、彼が十五の年に目の病を患い仕事に支障をきたすようになった。
マクシミリアンは海の神に彼女の目を治してくれと頼んだが、あえなく撃沈。
年も年だったので、惜しまれながらも仕事を辞めることになった。
あれから三年、まだ料理人として働いている夫と二人で暮らしている。
皇宮に到着したジェラールとエレンはエルネストとセシールと再会の挨拶を交わした。
そしてアレットに祝福した後、マクシミリアンの控えている部屋に向かった。
新郎の控室では背の高い立派な青年が落ち着きなく室内をうろうろしている。
「陛下、どうか落ち着いてください」
「お前だって緊張するだろ? 何年振りだ? 俺なんて生まれて初めて会うんだぞ!」
「おーい、声が扉の外まで聞こえてたぞ。我が息子、マクシミリアン」
扉を開けながらジェラールたちが笑いながら入って来た。
「! ち、父、上……? 母上……?」
ウージェニーから聞いていた父母の見た目とあまりにも違うため、マクシミリアンは一瞬戸惑った。
その隙に、さっきまで強がって再会になんとも思っていなさそうだったアランがジェラールを見た途端感極まって泣き出した。
エルネストとセシール、アランは十八年前、マクシミリアンを託すためこの世界に来た二人と会っている。
だから見た目が変わっていることを既に知っている。
「ジェラール様! お久し振りです! お懐かしゅうございます!」
「すっかりおじさんになったなぁ、アラン」
「うっ、うっ、ジェラール様は相変わらずかっこいいです!」
「ああマクシミリアン! 会いたかったわ! なんて立派に成長したの!」
「母上!」
自分の名前を呼ぶ母親の声。
想像していた見た目とは違うことなど一瞬で吹っ飛んでマクシミリアンはエレンに抱き着いた。
これまで泣くことが無かった彼の眦がきらりと光る。
その二人を覆うようにジェラールは笑顔で抱きしめた。
「会いにこなくてごめんなさいね。あなたが人間の世界で生きていくためには私たちと会わない方がいいと思ったの。私たちと一緒に暮らしたいと言わないように……」
「いいんです。知っています。俺の事をずっとあっちの世界から見守っていてくれたことを」
「ああ、俺たちは毎日お前の事を考え、話していたよ」
艶のある黒髪と、きりっとした眉に銀色の大きな瞳。
背が高く、絵に描いた様な美青年に成長したジェラールとエレンの息子だ。
今日の午前中に即位式が行われ、めでたく新皇帝となった。
午後は彼の結婚式が予定されている。
新婦控室
「あら、アレット。カメオのネックレスなんてとても古風ね」
「はい。亡くなった母親から貰った物で、うちに代々伝わってきた物です」
新婦のアレットは田舎育ちの平民で、美しい金髪と翡翠色の瞳をした優しい顔立ちの大人しそうな女性だ。
マクシミリアンの祖父母である元皇帝・皇后が暮らす風光明媚な離宮で働く使用人だった。
「いいじゃないか、本人がそれがいいと言うのだから」
「あら、エルネスト。私は駄目だなんて言っておりませんわ。失礼しちゃう」
「これは失敬。お、もうすぐ兄上たちが着くころだ。久しぶりで緊張するな」
「マクシミリアンを預けに来た時以来ですからね」
街はたくさんの人でごった返し、通り沿いの全ての家の二階の窓からは住人が顔をのぞかせている。
結婚式の後に行われる新皇帝・皇后のパレードを見るためとはいえ、落っこちそうなほど乗り出している人もいて危なっかしい。
しかし今の彼らの目当てはそれではない。
その前に、結婚式に出席するため神の世界からジェラールとその妻がやってきてこの道を通るという噂が立ったからだ。
人々のざわめきが大きくなり警備の者たちも気を引き締めた。
二人は皇宮が迎えにやった馬車に乗ってやって来た。窓は開いているので中が見える。
「見て見て、お母さん! 髪が水色よ! なんて綺麗なの」
「まるで妖精みたいね」
「おい、ジェラール様も水色だぞ?」
観衆は興奮して二人の姿を賞賛した。
ある高齢の夫婦は人だかりから少し離れた所でようやく見ることができる位置にいた。
「髪の毛は肩までの長さで金じゃなく水色だ。瞳は両目とも銀色で……」
「火傷の跡は治っているかい?」
「全く、見る影もない。とても綺麗で可愛いよ」
「幸せそうかい?」
「ああ、微笑んで我々の方を見ているよ。とても穏やかな顔をしている。本当に幸せそうだ」
夫からそう教えてもらった目の不自由な女性、ウージェニーは嬉しそうに微笑んだ。
瞳からは大粒の涙が零れ落ち、それを夫が優しいまなざしで見つめている。
セシールの結婚後も侍女の一人として皇宮で働くことになった彼女はその後マクシミリアンの乳母に抜擢された。
その時に初めてエレンが生きていることを知らされたのだ。
しばらくマクシミリアンの養育に当たっていたが、彼が十五の年に目の病を患い仕事に支障をきたすようになった。
マクシミリアンは海の神に彼女の目を治してくれと頼んだが、あえなく撃沈。
年も年だったので、惜しまれながらも仕事を辞めることになった。
あれから三年、まだ料理人として働いている夫と二人で暮らしている。
皇宮に到着したジェラールとエレンはエルネストとセシールと再会の挨拶を交わした。
そしてアレットに祝福した後、マクシミリアンの控えている部屋に向かった。
新郎の控室では背の高い立派な青年が落ち着きなく室内をうろうろしている。
「陛下、どうか落ち着いてください」
「お前だって緊張するだろ? 何年振りだ? 俺なんて生まれて初めて会うんだぞ!」
「おーい、声が扉の外まで聞こえてたぞ。我が息子、マクシミリアン」
扉を開けながらジェラールたちが笑いながら入って来た。
「! ち、父、上……? 母上……?」
ウージェニーから聞いていた父母の見た目とあまりにも違うため、マクシミリアンは一瞬戸惑った。
その隙に、さっきまで強がって再会になんとも思っていなさそうだったアランがジェラールを見た途端感極まって泣き出した。
エルネストとセシール、アランは十八年前、マクシミリアンを託すためこの世界に来た二人と会っている。
だから見た目が変わっていることを既に知っている。
「ジェラール様! お久し振りです! お懐かしゅうございます!」
「すっかりおじさんになったなぁ、アラン」
「うっ、うっ、ジェラール様は相変わらずかっこいいです!」
「ああマクシミリアン! 会いたかったわ! なんて立派に成長したの!」
「母上!」
自分の名前を呼ぶ母親の声。
想像していた見た目とは違うことなど一瞬で吹っ飛んでマクシミリアンはエレンに抱き着いた。
これまで泣くことが無かった彼の眦がきらりと光る。
その二人を覆うようにジェラールは笑顔で抱きしめた。
「会いにこなくてごめんなさいね。あなたが人間の世界で生きていくためには私たちと会わない方がいいと思ったの。私たちと一緒に暮らしたいと言わないように……」
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