14 / 65
太陽の章 王族
名ばかりの王妃
しおりを挟む
***クリビア
カラスティア王国が再興した。
シタール王国の領土も治めることとなった広大なカラスティア王国の国王の名はロータス。
元王子の復讐劇に、カラスティアだけでなくシタールの国民も拍手を送ったそうだ。
彼は両国の国民にまるで英雄かのごとく崇められ大人気らしいとアナスタシアが言っていた。
美しい容姿と強さを併せ持った彼なのだからそうなるのも当然だ。
そして彼女が言うにはダキアの正体がロータス率いる集団だとわかったヴァルコフ国王がカラスティア王国との平和条約を結ぶことを考えたらしい。
それでバハルマ王国とカラスティア王国、さらに海を隔てたサントリナ王国も加わって、三国の平和友好条約調印式がバハルマ国内の教会で行われることとなった。
式が終わってからはバハルマの王宮で親睦パーティーが開かれる。
そこに私は王妃として出席しなければならない。
#####
倒れてから生活が改善されたという事はないが、三日前からメイドが持ってくる食事が明らかに変わった。
三食とも王宮で出されているメニューと同じなのは、もうすぐ親睦パーティーがあるからそれまでに私を健康的な見た目にしておきたいという意図だろう。
たった三日普通の食事をしただけで変わるのだろうか。
急にこんな食事を出されても小さくなった胃はなかなか受け付けないのに、全て食べ終えないとメイドが出て行かないので必死で流し込む。
これはこれで苦痛だ。
パーティー当日の没風宮は朝から非常に慌ただしく、王宮からたくさんのメイドがやってきて私の支度に取り掛かった。
久し振りに入るお風呂は気持ちいい。
ただ長くお風呂に入っていなかったので入浴にも時間がかかり、出る頃には私もメイドたちもくたくただった。
ドレスとアクセサリーも新調された。
深紅のオフショルダーのドレスはスカート部分がバラの花びらのようになっていて、それぞれ違う生地が幾重にも重なっている。
ヴァルコフ国王は赤い瞳をしているので、それに合わせた様にアクセサリーもルビーで統一されている。
こんな立派なドレスを着せられても心は全く晴れない。
このパーティーが終わるとまたあの生活に戻るのだから空しいだけ。
鏡に映る私の顔が浮いている。
それよりも彼とこんな風に再会することになるなんて。
もし会話することがあったら何と言おう。
「あなたがダキアのリーダーだったなんてびっくりしました。国を取り戻しておめでとう」とでも言えばいいか。
未だに彼は独り身だと聞くし、女性とは別れたのだろうか。
彼も私に会うのは気まずいのではないかと思うと段々落ち着かなくなってきた。
できれば会話せずに済むに越したことはない。
パーティー会場に入場するまで国王一家は一旦控室で待つということで、移動することになった。
私もこのときだけはその中に数えられるらしい。
既にアナスタシアもいたのが救いだ。
国王は控室に入った私を見て一瞬ニヤッとしたかと思うと、すぐに厳めしい顔に変わった。
「お前は我がバハルマの王妃であるという事を忘れるな」
「はい」
都合がいい時だけ王妃扱いされる名ばかりの王妃。今日はその役目を果たさなくてはならない。
アナスタシアが私の手を取って「王妃様、とってもお美しくて素敵です!」と褒めてくれたらカリアス王子が口を挟んだ。
「容姿だけは最上級だと認めましょう。ですが貞淑な女性と言えなければそんなのなんの役にも立ちません」
それに続けてバーバラが「泥棒の癖に」と憎々しげに罵った。
「黙れ!」
怒鳴り声に部屋の中がしーんとなる。
バーバラを叱責したのは国王だ。
まさかバーバラに怒鳴るなんてびっくりした。
母親のバーベナが目を丸くして抗議した。
「陛下、バーバラを叱るなんてあんまりじゃありません?」
国王はバーベナを無視してバーバラの顔を睨みつけて更に言った。
「蒸し返すなら正式に調査してもいいんだぞ」
「! ご、ごめんなさい……」
「まぁ、どうしてそんな脅すような言い方をなさるのです? バーバラは何も悪くないのに」
私も疑問だ。どうして国王は脅したんだろう。
バーバラの仕業だと分かっていなければ調査を盾に彼女を黙らせることはできない……。
ある考えが閃いて、思わず国王の顔を見上げた。
彼は私が無実だと知っていたのだ。
私のこれまでの考えはあまりにも真っ直ぐ過ぎた。
調査をしてくれなかったのは、国王にとって真実なんかどうでもよくて、処女ではなかった私への仕返しだとこれまではそう思っていた。
そういう心境にさせた私の方に非があるから諦めもついていたのだ。
しかし、無実と分かっていたのに汚名を着せたのだったら納得がいかない。
途轍もない屈辱に涙を呑んで耐えていたというのに。
許せない。
でもこの感情の持って行き場はない。
圧倒的な権力の前ではどうすることもできず、私はただ泣き寝入りするしかないのだ。
カラスティア王国が再興した。
シタール王国の領土も治めることとなった広大なカラスティア王国の国王の名はロータス。
元王子の復讐劇に、カラスティアだけでなくシタールの国民も拍手を送ったそうだ。
彼は両国の国民にまるで英雄かのごとく崇められ大人気らしいとアナスタシアが言っていた。
美しい容姿と強さを併せ持った彼なのだからそうなるのも当然だ。
そして彼女が言うにはダキアの正体がロータス率いる集団だとわかったヴァルコフ国王がカラスティア王国との平和条約を結ぶことを考えたらしい。
それでバハルマ王国とカラスティア王国、さらに海を隔てたサントリナ王国も加わって、三国の平和友好条約調印式がバハルマ国内の教会で行われることとなった。
式が終わってからはバハルマの王宮で親睦パーティーが開かれる。
そこに私は王妃として出席しなければならない。
#####
倒れてから生活が改善されたという事はないが、三日前からメイドが持ってくる食事が明らかに変わった。
三食とも王宮で出されているメニューと同じなのは、もうすぐ親睦パーティーがあるからそれまでに私を健康的な見た目にしておきたいという意図だろう。
たった三日普通の食事をしただけで変わるのだろうか。
急にこんな食事を出されても小さくなった胃はなかなか受け付けないのに、全て食べ終えないとメイドが出て行かないので必死で流し込む。
これはこれで苦痛だ。
パーティー当日の没風宮は朝から非常に慌ただしく、王宮からたくさんのメイドがやってきて私の支度に取り掛かった。
久し振りに入るお風呂は気持ちいい。
ただ長くお風呂に入っていなかったので入浴にも時間がかかり、出る頃には私もメイドたちもくたくただった。
ドレスとアクセサリーも新調された。
深紅のオフショルダーのドレスはスカート部分がバラの花びらのようになっていて、それぞれ違う生地が幾重にも重なっている。
ヴァルコフ国王は赤い瞳をしているので、それに合わせた様にアクセサリーもルビーで統一されている。
こんな立派なドレスを着せられても心は全く晴れない。
このパーティーが終わるとまたあの生活に戻るのだから空しいだけ。
鏡に映る私の顔が浮いている。
それよりも彼とこんな風に再会することになるなんて。
もし会話することがあったら何と言おう。
「あなたがダキアのリーダーだったなんてびっくりしました。国を取り戻しておめでとう」とでも言えばいいか。
未だに彼は独り身だと聞くし、女性とは別れたのだろうか。
彼も私に会うのは気まずいのではないかと思うと段々落ち着かなくなってきた。
できれば会話せずに済むに越したことはない。
パーティー会場に入場するまで国王一家は一旦控室で待つということで、移動することになった。
私もこのときだけはその中に数えられるらしい。
既にアナスタシアもいたのが救いだ。
国王は控室に入った私を見て一瞬ニヤッとしたかと思うと、すぐに厳めしい顔に変わった。
「お前は我がバハルマの王妃であるという事を忘れるな」
「はい」
都合がいい時だけ王妃扱いされる名ばかりの王妃。今日はその役目を果たさなくてはならない。
アナスタシアが私の手を取って「王妃様、とってもお美しくて素敵です!」と褒めてくれたらカリアス王子が口を挟んだ。
「容姿だけは最上級だと認めましょう。ですが貞淑な女性と言えなければそんなのなんの役にも立ちません」
それに続けてバーバラが「泥棒の癖に」と憎々しげに罵った。
「黙れ!」
怒鳴り声に部屋の中がしーんとなる。
バーバラを叱責したのは国王だ。
まさかバーバラに怒鳴るなんてびっくりした。
母親のバーベナが目を丸くして抗議した。
「陛下、バーバラを叱るなんてあんまりじゃありません?」
国王はバーベナを無視してバーバラの顔を睨みつけて更に言った。
「蒸し返すなら正式に調査してもいいんだぞ」
「! ご、ごめんなさい……」
「まぁ、どうしてそんな脅すような言い方をなさるのです? バーバラは何も悪くないのに」
私も疑問だ。どうして国王は脅したんだろう。
バーバラの仕業だと分かっていなければ調査を盾に彼女を黙らせることはできない……。
ある考えが閃いて、思わず国王の顔を見上げた。
彼は私が無実だと知っていたのだ。
私のこれまでの考えはあまりにも真っ直ぐ過ぎた。
調査をしてくれなかったのは、国王にとって真実なんかどうでもよくて、処女ではなかった私への仕返しだとこれまではそう思っていた。
そういう心境にさせた私の方に非があるから諦めもついていたのだ。
しかし、無実と分かっていたのに汚名を着せたのだったら納得がいかない。
途轍もない屈辱に涙を呑んで耐えていたというのに。
許せない。
でもこの感情の持って行き場はない。
圧倒的な権力の前ではどうすることもできず、私はただ泣き寝入りするしかないのだ。
1
あなたにおすすめの小説
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。
テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる