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太陽の章 王族
熱中症
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***クリビア
シタール王国が滅んでから早くも一年が経とうとしている。
その間、カビたり腐っていたりはしたけど必ず三食持って来ていたメイドは一日に一回来るか来ないかとなった。
私はアナスタシアが持って来てくれる食事で生き延びていられる。
でも彼女も公的な仕事で来られない日が続くこともあって、そういう時は自分のメイドにこっそり食事を持ってこさせると言ってくれたのだけど、それが国王にばれたらそのメイドは首になるだろうと思って断った。
今は夏。
部屋の中は異様に暑く、喉が渇いてしょうがなかったので没風宮の外にある井戸に水を汲みに行った。
風はそよりとも吹いておらず、容赦なく照りつける日差しが汗ばむ体に絡みつく。
桶から水を飲んでそのまま井戸の横に座り込んだ。
このまま逃げ出せたらどんなにいいか。
そう思っていたら倦怠感と頭痛に襲われた。
涼しい場所に移動しないとと思ったけどその元気が出てこない。
ああ、でももういいかもしれない。
このまま熱気に包まれ蒸発してしまうのも悪くないと思った。
《クリビア 今はまだ耐えるのだ》
薄れていく意識の中で、誰かの声が聞こえた。
私は二十三歳になっていた。
#####
目を覚ますと、白い見知った天井が目に入った。
「あれ? 私……」
アナスタシアが心配そうな顔で覗きこんだ。
「よかった! お目覚めになられて。王妃様がいらっしゃらないのでお探ししたら井戸の横で倒れていたのですよ」
「え、そうなの? ちょっと目を瞑っていただけだと思っていたんだけど」
「非常に体温が高くなっていたのです。それで医師から直ちに体を冷やして足も高くするよう言われて。あと、しっかり食べるようにと怒られました……」
「宮医?」
まさか国王が宮医を寄越してくれたのだろうかと思ったがやはり違うらしく、アナスタシアが目を伏せた。
「……それが……宮医に診せることは父に止められて……」
その代わり、今サントリナ王国からボランティアの医師が来ていることを宮医に教えてもらい、大至急連れてきたという。
その医師は大陸一の名医と言われるアルマ医師に医療の知識を授けるほど優秀らしい。
そして私を王妃ではなく自分の友人だと伝えたので、私の王妃としての名誉は守られているから安心してくれと言った。
名誉なんてどうでもいいけど、彼女の気遣いには感謝しよう。
アナスタシアは手にしている袋から何かを取り出した。
「これは医師がくれた塩飴で、町なかで子どもたちに配っているそうですよ。今回のような症状になる前に舐めるといいらしいです。もちろん、塩分は食事から摂る様に言われましたが」
前世の記憶の中で熱中症という言葉を思い出した。私は熱中症になったのだ。
この時代にそれを適切に処置ができる医師がいるとは意外だ。
よりによってそんな高名な医師に診てもらって命を長らえるなんて、どれだけ悪運が強いのだろう。
アナスタシアがもう少し私を見つけるのが遅くて、医師だって連れてこなければよかったのにと思う自分がいる。
でも私を助けようと頑張った彼女の気持ちを考えると、私なんか死んでいなくなればよかったなどとは口が裂けても言えない。
一つ一つ包装されている丸い塩飴をテーブルの皿の上に置いているアナスタシアの肩は震えて、泣いているのがわかる。
急にどうしたんだろう。
責任を感じることは無いのに。
「ごめんなさい。父には王妃様を王宮に戻してくださいとお願いしているんです。メイドにもちゃんと世話をするようにと。でも聞いてくれなくて!」
「あなたのせいじゃないわ」
「こんなことなら離婚した方が王妃様のためだと思います……」
私も離婚したいのは山々だ。
シタール王国が滅亡した今となっては私を王妃にしておく必要は無い。
でもヴァルコフ国王は離婚よりも私にここで病死してほしいのだ。
アナスタシアは涙を拭くと、そういえばと思い出したように一通の手紙を差し出した。
「王妃様宛です。サントリナ王国からです。でも御免なさい、父が先に読んだみたいです」
何を警戒する必要があるのだろうか。
まるで敵か人質であるかのような扱いに、自虐的な笑いが込み上げてくる。
封の開けられた手紙は故母の妹ダイアナからだった。
叔母はサントリナ王国のノースポール公爵夫人だ。
子どもの頃、母とサントリナ王国に渡ったのはこの叔母の結婚式に参加するためだ。
手紙にはシタール王国滅亡後の私を心配する内容と、落ち着いたら一度遊びにいらしてくださいと書いてあった。
シタール王国が滅んでから早くも一年が経とうとしている。
その間、カビたり腐っていたりはしたけど必ず三食持って来ていたメイドは一日に一回来るか来ないかとなった。
私はアナスタシアが持って来てくれる食事で生き延びていられる。
でも彼女も公的な仕事で来られない日が続くこともあって、そういう時は自分のメイドにこっそり食事を持ってこさせると言ってくれたのだけど、それが国王にばれたらそのメイドは首になるだろうと思って断った。
今は夏。
部屋の中は異様に暑く、喉が渇いてしょうがなかったので没風宮の外にある井戸に水を汲みに行った。
風はそよりとも吹いておらず、容赦なく照りつける日差しが汗ばむ体に絡みつく。
桶から水を飲んでそのまま井戸の横に座り込んだ。
このまま逃げ出せたらどんなにいいか。
そう思っていたら倦怠感と頭痛に襲われた。
涼しい場所に移動しないとと思ったけどその元気が出てこない。
ああ、でももういいかもしれない。
このまま熱気に包まれ蒸発してしまうのも悪くないと思った。
《クリビア 今はまだ耐えるのだ》
薄れていく意識の中で、誰かの声が聞こえた。
私は二十三歳になっていた。
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目を覚ますと、白い見知った天井が目に入った。
「あれ? 私……」
アナスタシアが心配そうな顔で覗きこんだ。
「よかった! お目覚めになられて。王妃様がいらっしゃらないのでお探ししたら井戸の横で倒れていたのですよ」
「え、そうなの? ちょっと目を瞑っていただけだと思っていたんだけど」
「非常に体温が高くなっていたのです。それで医師から直ちに体を冷やして足も高くするよう言われて。あと、しっかり食べるようにと怒られました……」
「宮医?」
まさか国王が宮医を寄越してくれたのだろうかと思ったがやはり違うらしく、アナスタシアが目を伏せた。
「……それが……宮医に診せることは父に止められて……」
その代わり、今サントリナ王国からボランティアの医師が来ていることを宮医に教えてもらい、大至急連れてきたという。
その医師は大陸一の名医と言われるアルマ医師に医療の知識を授けるほど優秀らしい。
そして私を王妃ではなく自分の友人だと伝えたので、私の王妃としての名誉は守られているから安心してくれと言った。
名誉なんてどうでもいいけど、彼女の気遣いには感謝しよう。
アナスタシアは手にしている袋から何かを取り出した。
「これは医師がくれた塩飴で、町なかで子どもたちに配っているそうですよ。今回のような症状になる前に舐めるといいらしいです。もちろん、塩分は食事から摂る様に言われましたが」
前世の記憶の中で熱中症という言葉を思い出した。私は熱中症になったのだ。
この時代にそれを適切に処置ができる医師がいるとは意外だ。
よりによってそんな高名な医師に診てもらって命を長らえるなんて、どれだけ悪運が強いのだろう。
アナスタシアがもう少し私を見つけるのが遅くて、医師だって連れてこなければよかったのにと思う自分がいる。
でも私を助けようと頑張った彼女の気持ちを考えると、私なんか死んでいなくなればよかったなどとは口が裂けても言えない。
一つ一つ包装されている丸い塩飴をテーブルの皿の上に置いているアナスタシアの肩は震えて、泣いているのがわかる。
急にどうしたんだろう。
責任を感じることは無いのに。
「ごめんなさい。父には王妃様を王宮に戻してくださいとお願いしているんです。メイドにもちゃんと世話をするようにと。でも聞いてくれなくて!」
「あなたのせいじゃないわ」
「こんなことなら離婚した方が王妃様のためだと思います……」
私も離婚したいのは山々だ。
シタール王国が滅亡した今となっては私を王妃にしておく必要は無い。
でもヴァルコフ国王は離婚よりも私にここで病死してほしいのだ。
アナスタシアは涙を拭くと、そういえばと思い出したように一通の手紙を差し出した。
「王妃様宛です。サントリナ王国からです。でも御免なさい、父が先に読んだみたいです」
何を警戒する必要があるのだろうか。
まるで敵か人質であるかのような扱いに、自虐的な笑いが込み上げてくる。
封の開けられた手紙は故母の妹ダイアナからだった。
叔母はサントリナ王国のノースポール公爵夫人だ。
子どもの頃、母とサントリナ王国に渡ったのはこの叔母の結婚式に参加するためだ。
手紙にはシタール王国滅亡後の私を心配する内容と、落ち着いたら一度遊びにいらしてくださいと書いてあった。
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