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太陽の章 王族
解放
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***クリビア
「汚ねーなー。ほら、とっとと出て行け」
王宮の門番にドンと背中を槍の柄で押されてよろよろもたつきながら私は門の外へ出た。
背中は痛いけどそれよりやっとこの城内から出られたと思うと涙が出るほど嬉しくて、そんな門番の態度もなんとも思わなかった。
代わりにマリウスが睨みつけあかんベーをしてくれた。
私の不幸が詰まったバハルマの王宮を背に、少し離れた所で両手を大きく上に伸ばして深呼吸をした。
牢に入った時はすぐに死ぬか何年も入っていることになるかのどっちかと思っていたけど、牢に入れられてから二ヶ月ちょっと。
久し振りに浴びる太陽の光が眩しくて目を細めていると、マリウスが今日は曇りだよと言った。
それでもずっと地下にいた私には眩しくて、全身の細胞は喜んでいるのだ。
空気も新鮮で風の揺らす葉音が耳に心地よい。
生きていて良かった。
右手にアナスタシアが持たせてくれた宝石とお金、少しのお菓子等の入ったトランクを持ち、左手にはマリウスの手を繋いで私は自由への一歩を踏み出した。
私にはもうなんのしがらみもない。
ただ、クリビアという名前は今やすっかり悪女の代名詞でその名を使うことが憚られるため偽名を使って生きていくことにした。
マリウスが弟なので、新しい名前は「マリアンヌ」に決めた。
「マリアンヌお姉ちゃん」
「なーに?」
「マリアンヌお姉ちゃん」
「なーーに?」
私たちは顔を見合わせて笑った。
これからどこへ行こう。
馴染みのない北や東の国々もいいけど、サントリナ王国に行くのはどうだろうか。
叔母のいるサントリナなら何かと安心だ。
そこで落ち着いてからジュリアナの事をマリウスに話そう。
まずサントリナへ行くにはカラスティアの一部となった旧シタールの港町まで行く必要がある。
急ぐことは無い。
お金を節約するためできるだけ歩いて行きたいが、ずっと牢にいたため少し歩いただけでも疲れて息が上がる。
マリウスが心配そうにするから仕方なく乗合馬車に乗って国境近くの街まで行って、そこで今夜は宿泊することにした。
宿屋の食堂ではカラスティア国王の結婚式のパレードを見学しに行った人たちが盛り上がっていた。
私には何の関係も無い、違う世界の出来事だ。
そう思っていたのに、人々の酒のつまみになる話はそれだけでは終わらなかった。
もっと、面白いものでなければならないらしい。
「クリビア王妃が昔の婚約者だったんだろう?」
その一言を皮切りに、人々は次々と私の噂話に花を咲かせた。
「あんな女と結婚しなくてロータス国王は正解だったな」
「そういや恩赦で牢から出たらしいぞ」
「ヴァルコフ国王は優しいからなぁ。いくら若く美しくてもあんな女にはもったいない国王だ。離婚して良かった」
「全くだ。泥棒だったらしいぞ。次々と宝石が無くなって、調べたら王妃の部屋にたんまり隠されていたって!」
「そりゃひでーな。ほんとに王女だったのか?」
「シタールの王女だぞ。何を期待すんだ」
「カリアス王子も襲ったとんだ淫乱だ」
「まだ王都にいるんじゃねぇか?」
「見てみてーなぁ。俺らとも遊んでくれるんじゃね?」
コップを持つ手が震え呼吸が浅くなる。
恐い。
逃げ出したい。
でも目の前ではマリウスが夢中で食事を取っている。
元気をださなきゃ。
マリウスが満腹になったのを見計らって私たちはすぐに宿屋の部屋に入った。
翌日の早朝、とにかくバハルマの国境を越えてカラスティアに入る一番近道の山道を宿屋の主人に教えてもらった。
そのルートは歩いて行くことしかできないが、ゆっくり歩いて行くなら近くはトリス川が流れていて観光客もいるから女性と子どもでも危なくないだろうということだった。
港町に行く方法はカラスティアに入ってからまた考えることにして、私たちはそのルートで国境を超えることにした。
マリウスは私に合わせてゆっくり歩いてくれている。
なんだか自分がとんでもなくおばあさんになった気がしてならない。
「遅くてごめんね」
「そんなことないよ、周りをゆっくり見ながら歩けるから楽しいよ」
道は整備されていないが、人が踏みならした道はそれほど悪路ではない。
空気はおいしいし鳥の鳴き声や時折風で香る花の匂いをたっぷりと吸い込みながら歩くのは健康的で癒される。
水の流れる音が聞こえて来て、木の枝を除けながら進むと大きな川が目の前にひらけた。
川面には花びらが舞い降りていて、見とれながら川辺を歩いていると気温も段々上がってきて汗が出てきた。
生成りのワンピースが体にへばりつく。
「ちょっと休みましょう。私の目の届く所にいてね」
「うん。わー、川だ、川だー」
まだ午前中の早い時間帯なので人は誰もおらず、マリウスのキャッキャ遊ぶ声だけが川の流れの音と共に聞こえてくる。
トランクを置いて、川辺に座って空を見上げた。
晴れた青空に白い雲。
清々しくて、本当に気持ちがいい。
その時、後ろでザクッという小石を踏む音が聞こえ振り返ると、見知らぬ大きな男が私を見下ろして立っていた。
「汚ねーなー。ほら、とっとと出て行け」
王宮の門番にドンと背中を槍の柄で押されてよろよろもたつきながら私は門の外へ出た。
背中は痛いけどそれよりやっとこの城内から出られたと思うと涙が出るほど嬉しくて、そんな門番の態度もなんとも思わなかった。
代わりにマリウスが睨みつけあかんベーをしてくれた。
私の不幸が詰まったバハルマの王宮を背に、少し離れた所で両手を大きく上に伸ばして深呼吸をした。
牢に入った時はすぐに死ぬか何年も入っていることになるかのどっちかと思っていたけど、牢に入れられてから二ヶ月ちょっと。
久し振りに浴びる太陽の光が眩しくて目を細めていると、マリウスが今日は曇りだよと言った。
それでもずっと地下にいた私には眩しくて、全身の細胞は喜んでいるのだ。
空気も新鮮で風の揺らす葉音が耳に心地よい。
生きていて良かった。
右手にアナスタシアが持たせてくれた宝石とお金、少しのお菓子等の入ったトランクを持ち、左手にはマリウスの手を繋いで私は自由への一歩を踏み出した。
私にはもうなんのしがらみもない。
ただ、クリビアという名前は今やすっかり悪女の代名詞でその名を使うことが憚られるため偽名を使って生きていくことにした。
マリウスが弟なので、新しい名前は「マリアンヌ」に決めた。
「マリアンヌお姉ちゃん」
「なーに?」
「マリアンヌお姉ちゃん」
「なーーに?」
私たちは顔を見合わせて笑った。
これからどこへ行こう。
馴染みのない北や東の国々もいいけど、サントリナ王国に行くのはどうだろうか。
叔母のいるサントリナなら何かと安心だ。
そこで落ち着いてからジュリアナの事をマリウスに話そう。
まずサントリナへ行くにはカラスティアの一部となった旧シタールの港町まで行く必要がある。
急ぐことは無い。
お金を節約するためできるだけ歩いて行きたいが、ずっと牢にいたため少し歩いただけでも疲れて息が上がる。
マリウスが心配そうにするから仕方なく乗合馬車に乗って国境近くの街まで行って、そこで今夜は宿泊することにした。
宿屋の食堂ではカラスティア国王の結婚式のパレードを見学しに行った人たちが盛り上がっていた。
私には何の関係も無い、違う世界の出来事だ。
そう思っていたのに、人々の酒のつまみになる話はそれだけでは終わらなかった。
もっと、面白いものでなければならないらしい。
「クリビア王妃が昔の婚約者だったんだろう?」
その一言を皮切りに、人々は次々と私の噂話に花を咲かせた。
「あんな女と結婚しなくてロータス国王は正解だったな」
「そういや恩赦で牢から出たらしいぞ」
「ヴァルコフ国王は優しいからなぁ。いくら若く美しくてもあんな女にはもったいない国王だ。離婚して良かった」
「全くだ。泥棒だったらしいぞ。次々と宝石が無くなって、調べたら王妃の部屋にたんまり隠されていたって!」
「そりゃひでーな。ほんとに王女だったのか?」
「シタールの王女だぞ。何を期待すんだ」
「カリアス王子も襲ったとんだ淫乱だ」
「まだ王都にいるんじゃねぇか?」
「見てみてーなぁ。俺らとも遊んでくれるんじゃね?」
コップを持つ手が震え呼吸が浅くなる。
恐い。
逃げ出したい。
でも目の前ではマリウスが夢中で食事を取っている。
元気をださなきゃ。
マリウスが満腹になったのを見計らって私たちはすぐに宿屋の部屋に入った。
翌日の早朝、とにかくバハルマの国境を越えてカラスティアに入る一番近道の山道を宿屋の主人に教えてもらった。
そのルートは歩いて行くことしかできないが、ゆっくり歩いて行くなら近くはトリス川が流れていて観光客もいるから女性と子どもでも危なくないだろうということだった。
港町に行く方法はカラスティアに入ってからまた考えることにして、私たちはそのルートで国境を超えることにした。
マリウスは私に合わせてゆっくり歩いてくれている。
なんだか自分がとんでもなくおばあさんになった気がしてならない。
「遅くてごめんね」
「そんなことないよ、周りをゆっくり見ながら歩けるから楽しいよ」
道は整備されていないが、人が踏みならした道はそれほど悪路ではない。
空気はおいしいし鳥の鳴き声や時折風で香る花の匂いをたっぷりと吸い込みながら歩くのは健康的で癒される。
水の流れる音が聞こえて来て、木の枝を除けながら進むと大きな川が目の前にひらけた。
川面には花びらが舞い降りていて、見とれながら川辺を歩いていると気温も段々上がってきて汗が出てきた。
生成りのワンピースが体にへばりつく。
「ちょっと休みましょう。私の目の届く所にいてね」
「うん。わー、川だ、川だー」
まだ午前中の早い時間帯なので人は誰もおらず、マリウスのキャッキャ遊ぶ声だけが川の流れの音と共に聞こえてくる。
トランクを置いて、川辺に座って空を見上げた。
晴れた青空に白い雲。
清々しくて、本当に気持ちがいい。
その時、後ろでザクッという小石を踏む音が聞こえ振り返ると、見知らぬ大きな男が私を見下ろして立っていた。
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