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太陽の章 王族
地獄と天国
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***クリビア
その男は額から頬にかけて傷があり、いかにもガラが悪そうな顔をしている。
手には短剣が握られていて、ただ事ではないと察知した。
私を見下ろす冷たい目に、恐怖で体を動かせない。
その時、マリウスがお姉ちゃん! と呼んだ。
「来たら駄目! 逃げて!」
「わりーな、バハルマの娼婦、俺を恨むなよ」
男は手にした短剣を振り上げた。
殺される! と思い目を瞑った瞬間、ぐっと言う声がきこえた。
恐る恐る目を開けると短剣は地面に落ちていて男は肩を抱えていた。その肩には長剣が刺さっている。
誰の仕業かわからないけどその隙にトランクを持ってマリウスのもとに走った。
「逃げるわよ! 早く!」
しかし男はしつこく追ってくる。
すると別の男がどこからともなく現れてそれを遮った。
二人の剣の交わる音が川辺に響き渡り、鳥たちが一斉に木から飛び立った。
私たちを助けてくれる人がいる!
その間に逃げないと!
反対側の川岸まで、浅そうだから渡れそうな感じがした。
マリウスの手を握り締めながら慎重に渡る。
でも穏やかだと思っていた水流は思っていたより強く、足場は不安定で、何度もふらついて流されそうになる。
そして水流が特に強い所に差し掛かり深さも膝上くらいになったところで、火事場の馬鹿力が出ていた私もついにバランスを崩してしまった。
溺れた拍子にマリウスの手を離してしまい、どんどん離れて行く。
(マリウス!)
浮かんでは沈みを繰り返し、水から必死に顔を出した時、男が叫びながら川に入ってくるのが見えたがどちらの男か判別できるほどの余裕はなかった。
「おねえちゃん!!」
最後に聞こえたのはマリウスの声だった。
***遡る事二日前の結婚式の朝――ヴァルコフ国王
アナスタシアがウエディングドレスに着替えて控室にやってくるまでのる間、昔の事が思い出された。
実は私とロータス国王の父親は、若い頃ガルシア宗教国にある同じアカデミーに通っていた。
学年が違って特に仲が良かったわけではないが、ある時ロータスの父親が友人たちと魔鉱石に関する話をしているのを立ち聞きしてしまった。
戦争には興味が無く、魔鉱石など争いの元だと思っていたが、それで作られた魔剣は自分に振るうと誰かの命を救う剣になる、つまり自分の命を懸けてまでも命を救いたい人物の命を救ってくれる剣でもあるという話を聞いて、それがずっと記憶に残っていた。
それから数十年経ち、ロータス王子が魔鉱石を見つけたという情報が入って、魔剣をなんとか手に入れることはできないかと考えるようになった。
愛する王妃が病に伏していたため、魔剣で命を救いたかったのだ。
自分の命を懸けてでも。
そんな時、シタールがカラスティアを占領するという不測の事態が起こった。
ロータス王子が殺されては魔鉱石の在処がわからなくなると思い、枢機卿を使って密かに彼を救うことにした。
そしてジュリアナ姉弟に目をつけた。
だが救った甲斐は全く無く、ジュリアナはロータスから何も聞き出せないし、王妃の具合は悪くなる一方。
結局王妃を救うことはできず、役立たずな彼女を処分することにした。
魔鉱石を探していたことを知っている彼女を生かしておいてもいいことは無い。
もう必要なくなったにも拘わらず魔鉱石を探していたことが万一にでもシタールの耳に入って我が国との関係が悪化するのを防ぐためでもあった。
マリウスはまだ幼く何も知らないからそのまま奴隷として使うことにしたが、その後はすっかり忘れていた。
クリビアを牢から出す時、アナスタシアからマリウスも一緒に出してくれと言われて思い出した。
離婚した女と奴隷の子ども一人どうでもいい。
それよりもクリビアの存在が後々アナスタシアに不幸をもたらしそうな気がしてならなかった。
ロータスが結婚を急いだことでまだ彼女を愛していることが奇しくも証明されてしまったのだ。
アナスタシアは彼の気持ちが自分に向くのを待つと言うが、それはそれで辛いだろう。
娘にそんな思いをさせたくはない。
恩赦で牢から出せば約束は守ったことになる。
その後、人目のつかない所で殺すのだ。
またあいつにやらせればいい。
ジュリアナを殺した男は伯爵家の二男で、人殺しが趣味の精神異常者だ。
一応子爵位は持っているが、まるで盗賊のような恐ろしい見た目から貴族たちに敬遠されている。
利用するには打ってつけの男。
伯爵も困っているから利用後は殺人罪で処刑すればいい。
そうすれば私が雇った人物だとは誰も思わないだろう。
控室のドアが開いた。
「お父様」
「おお、アナスタシア。なんて美しいんだ。天国にいる王妃にも見せてやりたかった。お前は誰よりも幸せになる価値がある」
~太陽の章 王族 終わり~
その男は額から頬にかけて傷があり、いかにもガラが悪そうな顔をしている。
手には短剣が握られていて、ただ事ではないと察知した。
私を見下ろす冷たい目に、恐怖で体を動かせない。
その時、マリウスがお姉ちゃん! と呼んだ。
「来たら駄目! 逃げて!」
「わりーな、バハルマの娼婦、俺を恨むなよ」
男は手にした短剣を振り上げた。
殺される! と思い目を瞑った瞬間、ぐっと言う声がきこえた。
恐る恐る目を開けると短剣は地面に落ちていて男は肩を抱えていた。その肩には長剣が刺さっている。
誰の仕業かわからないけどその隙にトランクを持ってマリウスのもとに走った。
「逃げるわよ! 早く!」
しかし男はしつこく追ってくる。
すると別の男がどこからともなく現れてそれを遮った。
二人の剣の交わる音が川辺に響き渡り、鳥たちが一斉に木から飛び立った。
私たちを助けてくれる人がいる!
その間に逃げないと!
反対側の川岸まで、浅そうだから渡れそうな感じがした。
マリウスの手を握り締めながら慎重に渡る。
でも穏やかだと思っていた水流は思っていたより強く、足場は不安定で、何度もふらついて流されそうになる。
そして水流が特に強い所に差し掛かり深さも膝上くらいになったところで、火事場の馬鹿力が出ていた私もついにバランスを崩してしまった。
溺れた拍子にマリウスの手を離してしまい、どんどん離れて行く。
(マリウス!)
浮かんでは沈みを繰り返し、水から必死に顔を出した時、男が叫びながら川に入ってくるのが見えたがどちらの男か判別できるほどの余裕はなかった。
「おねえちゃん!!」
最後に聞こえたのはマリウスの声だった。
***遡る事二日前の結婚式の朝――ヴァルコフ国王
アナスタシアがウエディングドレスに着替えて控室にやってくるまでのる間、昔の事が思い出された。
実は私とロータス国王の父親は、若い頃ガルシア宗教国にある同じアカデミーに通っていた。
学年が違って特に仲が良かったわけではないが、ある時ロータスの父親が友人たちと魔鉱石に関する話をしているのを立ち聞きしてしまった。
戦争には興味が無く、魔鉱石など争いの元だと思っていたが、それで作られた魔剣は自分に振るうと誰かの命を救う剣になる、つまり自分の命を懸けてまでも命を救いたい人物の命を救ってくれる剣でもあるという話を聞いて、それがずっと記憶に残っていた。
それから数十年経ち、ロータス王子が魔鉱石を見つけたという情報が入って、魔剣をなんとか手に入れることはできないかと考えるようになった。
愛する王妃が病に伏していたため、魔剣で命を救いたかったのだ。
自分の命を懸けてでも。
そんな時、シタールがカラスティアを占領するという不測の事態が起こった。
ロータス王子が殺されては魔鉱石の在処がわからなくなると思い、枢機卿を使って密かに彼を救うことにした。
そしてジュリアナ姉弟に目をつけた。
だが救った甲斐は全く無く、ジュリアナはロータスから何も聞き出せないし、王妃の具合は悪くなる一方。
結局王妃を救うことはできず、役立たずな彼女を処分することにした。
魔鉱石を探していたことを知っている彼女を生かしておいてもいいことは無い。
もう必要なくなったにも拘わらず魔鉱石を探していたことが万一にでもシタールの耳に入って我が国との関係が悪化するのを防ぐためでもあった。
マリウスはまだ幼く何も知らないからそのまま奴隷として使うことにしたが、その後はすっかり忘れていた。
クリビアを牢から出す時、アナスタシアからマリウスも一緒に出してくれと言われて思い出した。
離婚した女と奴隷の子ども一人どうでもいい。
それよりもクリビアの存在が後々アナスタシアに不幸をもたらしそうな気がしてならなかった。
ロータスが結婚を急いだことでまだ彼女を愛していることが奇しくも証明されてしまったのだ。
アナスタシアは彼の気持ちが自分に向くのを待つと言うが、それはそれで辛いだろう。
娘にそんな思いをさせたくはない。
恩赦で牢から出せば約束は守ったことになる。
その後、人目のつかない所で殺すのだ。
またあいつにやらせればいい。
ジュリアナを殺した男は伯爵家の二男で、人殺しが趣味の精神異常者だ。
一応子爵位は持っているが、まるで盗賊のような恐ろしい見た目から貴族たちに敬遠されている。
利用するには打ってつけの男。
伯爵も困っているから利用後は殺人罪で処刑すればいい。
そうすれば私が雇った人物だとは誰も思わないだろう。
控室のドアが開いた。
「お父様」
「おお、アナスタシア。なんて美しいんだ。天国にいる王妃にも見せてやりたかった。お前は誰よりも幸せになる価値がある」
~太陽の章 王族 終わり~
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