【完結】愛の輪廻~愛する人の為に別れを決意したら運命の人と出会いました~

今井杏美

文字の大きさ
26 / 65
太陽の章 王族

地獄と天国

しおりを挟む
 ***クリビア

 その男は額から頬にかけて傷があり、いかにもガラが悪そうな顔をしている。
 手には短剣が握られていて、ただ事ではないと察知した。

 私を見下ろす冷たい目に、恐怖で体を動かせない。


 その時、マリウスがお姉ちゃん! と呼んだ。

「来たら駄目! 逃げて!」
「わりーな、バハルマの娼婦、俺を恨むなよ」

 男は手にした短剣を振り上げた。

 殺される! と思い目を瞑った瞬間、ぐっと言う声がきこえた。

 恐る恐る目を開けると短剣は地面に落ちていて男は肩を抱えていた。その肩には長剣が刺さっている。
 誰の仕業かわからないけどその隙にトランクを持ってマリウスのもとに走った。

「逃げるわよ! 早く!」

 しかし男はしつこく追ってくる。
 すると別の男がどこからともなく現れてそれを遮った。

 二人の剣の交わる音が川辺に響き渡り、鳥たちが一斉に木から飛び立った。

 私たちを助けてくれる人がいる!
 その間に逃げないと!

 反対側の川岸まで、浅そうだから渡れそうな感じがした。

 マリウスの手を握り締めながら慎重に渡る。
 でも穏やかだと思っていた水流は思っていたより強く、足場は不安定で、何度もふらついて流されそうになる。

 そして水流が特に強い所に差し掛かり深さも膝上くらいになったところで、火事場の馬鹿力が出ていた私もついにバランスを崩してしまった。

 溺れた拍子にマリウスの手を離してしまい、どんどん離れて行く。

(マリウス!)

 浮かんでは沈みを繰り返し、水から必死に顔を出した時、男が叫びながら川に入ってくるのが見えたがどちらの男か判別できるほどの余裕はなかった。

「おねえちゃん!!」

 最後に聞こえたのはマリウスの声だった。



 ***遡る事二日前の結婚式の朝――ヴァルコフ国王

 アナスタシアがウエディングドレスに着替えて控室にやってくるまでのる間、昔の事が思い出された。

 実は私とロータス国王の父親は、若い頃ガルシア宗教国にある同じアカデミーに通っていた。
 学年が違って特に仲が良かったわけではないが、ある時ロータスの父親が友人たちと魔鉱石に関する話をしているのを立ち聞きしてしまった。

 戦争には興味が無く、魔鉱石など争いの元だと思っていたが、それで作られた魔剣は自分に振るうと誰かの命を救う剣になる、つまり自分の命を懸けてまでも命を救いたい人物の命を救ってくれる剣でもあるという話を聞いて、それがずっと記憶に残っていた。

 それから数十年経ち、ロータス王子が魔鉱石を見つけたという情報が入って、魔剣をなんとか手に入れることはできないかと考えるようになった。
 愛する王妃が病に伏していたため、魔剣で命を救いたかったのだ。
 自分の命を懸けてでも。

 そんな時、シタールがカラスティアを占領するという不測の事態が起こった。
 ロータス王子が殺されては魔鉱石の在処がわからなくなると思い、枢機卿を使って密かに彼を救うことにした。
 そしてジュリアナ姉弟に目をつけた。

 だが救った甲斐は全く無く、ジュリアナはロータスから何も聞き出せないし、王妃の具合は悪くなる一方。

 結局王妃を救うことはできず、役立たずな彼女を処分することにした。
 魔鉱石を探していたことを知っている彼女を生かしておいてもいいことは無い。
 もう必要なくなったにも拘わらず魔鉱石を探していたことが万一にでもシタールの耳に入って我が国との関係が悪化するのを防ぐためでもあった。

 マリウスはまだ幼く何も知らないからそのまま奴隷として使うことにしたが、その後はすっかり忘れていた。
 クリビアを牢から出す時、アナスタシアからマリウスも一緒に出してくれと言われて思い出した。
 離婚した女と奴隷の子ども一人どうでもいい。

 それよりもクリビアの存在が後々アナスタシアに不幸をもたらしそうな気がしてならなかった。
 ロータスが結婚を急いだことでまだ彼女を愛していることが奇しくも証明されてしまったのだ。

 アナスタシアは彼の気持ちが自分に向くのを待つと言うが、それはそれで辛いだろう。
 娘にそんな思いをさせたくはない。

 恩赦で牢から出せば約束は守ったことになる。

 その後、人目のつかない所で殺すのだ。
 またあいつにやらせればいい。

 ジュリアナを殺した男は伯爵家の二男で、人殺しが趣味の精神異常者だ。
 一応子爵位は持っているが、まるで盗賊のような恐ろしい見た目から貴族たちに敬遠されている。
 利用するには打ってつけの男。
 伯爵も困っているから利用後は殺人罪で処刑すればいい。
 そうすれば私が雇った人物だとは誰も思わないだろう。


 控室のドアが開いた。

「お父様」
「おお、アナスタシア。なんて美しいんだ。天国にいる王妃にも見せてやりたかった。お前は誰よりも幸せになる価値がある」


 ~太陽の章 王族 終わり~



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】年下幼馴染くんを上司撃退の盾にしたら、偽装婚約の罠にハマりました

廻り
恋愛
 幼い頃に誘拐されたトラウマがあるリリアナ。  王宮事務官として就職するが、犯人に似ている上司に一目惚れされ、威圧的に独占されてしまう。  恐怖から逃れたいリリアナは、幼馴染を盾にし「恋人がいる」と上司の誘いを断る。 「リリちゃん。俺たち、いつから付き合っていたのかな?」  幼馴染を怒らせてしまったが、上司撃退は成功。  ほっとしたのも束の間、上司から二人の関係を問い詰められた挙句、求婚されてしまう。  幼馴染に相談したところ、彼と偽装婚約することになるが――

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

よめかわ

ariya
恋愛
遊び人として名高い貴族・夏基は、不祥事の罰として「醜聞の姫」白川殿と政略結婚することに。 初夜、暗い印象しかなかった姫の顔を初めて見た瞬間――大きな黒目がちな瞳、薄桜色の頬、恥ずかしげに俯く仕草に、夏基は衝撃を受ける。 (可愛すぎる……こんな姫が俺の妻!?) 亡き恋人への想いを捨てきれず、夫を拒む白川殿。 それでも夏基は過去の女たちに別れを告げ、花を贈り、文を重ね、誠心誠意尽くして彼女の心を溶かしていく。 儚くて純粋で、泣き顔さえ愛らしい姫を、夏基はもう手放せない―― 平安貴族の切なく甘い、極上よめかわ恋物語。 ※縦読み推奨です。 ※過去に投稿した小説を加筆修正しました。 ※小説家になろう、カクヨム、NOVELDAYにも投稿しています。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸
恋愛
 レーナは、婚約者であるアーベルと妹のマイリスから書類にサインを求められていた。  その書類は見る限り婚約解消と罪の自白が目的に見える。  ただの婚約解消ならばまだしも、後者は意味がわからない。覚えもないし、やってもいない。  しかし彼らは「名前すら書けないわけじゃないだろう?」とおちょくってくる。  それを今までは当然のこととして受け入れていたが、レーナはこうして歳を重ねて変わった。  彼らに馬鹿にされていることもちゃんとわかる。しかし、変わったということを示す方法がわからないので、一般貴族に解放されている図書館に向かうことにしたのだった。

王太子様お願いです。今はただの毒草オタク、過去の私は忘れて下さい

シンさん
恋愛
ミリオン侯爵の娘エリザベスには秘密がある。それは本当の侯爵令嬢ではないという事。 お花や薬草を売って生活していた、貧困階級の私を子供のいない侯爵が養子に迎えてくれた。 ずっと毒草と共に目立たず生きていくはずが、王太子の婚約者候補に…。 雑草メンタルの毒草オタク侯爵令嬢と 王太子の恋愛ストーリー ☆ストーリーに必要な部分で、残酷に感じる方もいるかと思います。ご注意下さい。 ☆毒草名は作者が勝手につけたものです。 表紙 Bee様に描いていただきました

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。

碧野葉菜
恋愛
フランチェスカ家の伯爵令嬢、アンジェリカは、両親と妹にいない者として扱われ、地下室の部屋で一人寂しく暮らしていた。 そんな彼女の孤独を癒してくれたのは、使用人のクラウスだけ。 彼がいなくなってからというもの、アンジェリカは生きる気力すら失っていた。 そんなある日、フランチェスカ家が破綻し、借金を返すため、アンジェリカは娼館に売られそうになる。 しかし、突然現れたブリオット公爵家からの使者に、縁談を持ちかけられる。 戸惑いながらブリオット家に連れられたアンジェリカ、そこで再会したのはなんと、幼い頃離れ離れになったクラウスだった――。 8年の時を経て、立派な紳士に成長した彼は、アンジェリカを妻にすると強引に迫ってきて――!? 執着系年下美形公爵×不遇の無自覚美人令嬢の、西洋貴族溺愛ストーリー!

処理中です...