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星の章 願い
新しい人生の始まり
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***クリビア
旧シタールの港町タンスクを目指す旅人は多い。
乗合馬車の他にも行商の一行の馬車に乗せてもらうなどしてたくさんの人にお世話になりながら、マリウスと別れて半月後、無事タンスクに辿り着いた。
港には大きな商船、優雅なガレー船が停泊し、そして小さな漁船はまるで踊るように波を切って進んでいる。
市場を歩くと野菜や果物、珍しい外国の香辛料や布地が売られていて、見ているだけで楽しい。
この自由と開放感あふれる雰囲気の中、私の萎縮した精神は少しずつ息を吹き返していく。
今私は宿屋の食堂で出す料理の手伝いをしながら、おかみさんの子どもたちやその友だちに読み書きや勉強を教えている。
その代わり宿代は半額で食事付き。
タンスクに着いたその日、宿泊した宿屋のおかみさんの子どもにたまたま文字を教えたのが切っ掛けで、暫くここにお世話になることになったのだ。
もう一か月近くになる。
勉強しに来ている子どもたちはまだ十歳にも満たない子ばかり。
その子たちのお陰で毎日楽しく過ごせている。
夕暮れになると、波の音と共に鐘の音が響き渡る。
お気に入りは部屋の窓から海を眺めること。
海は金色に輝いて帰港する船のシルエットが水面に映ってとても美しい。
何にも煩わされない生活ができている今、私は幸せだ。
夕飯時の食堂の料理を手伝うまでまだ少し時間があるので、窓越しに座って叔母からの手紙を開封した。
叔母には自分は世間で噂されているようなことは何もしておらず、無実だということを知ってもらいたかったので、ここに宿泊することが決まってすぐに手紙を書いたのだが、これはその返事だ。
もしかして拒絶の手紙だったらどうしようかとドキドキしたけどその心配は無用だった。
私を信じている、遊びに来るのを待っているという内容に、涙が出た。
翌朝早朝、目が覚めて窓から海を眺めると、朝霧が晴れて遠くの水平線が徐々に明らかになって、多種多様な船が姿を現した。
こんな早朝から海はもう活気に満ちている。
「よーし、今日もがんばるぞ!」
自分に活を入れて階下へ降りて行った。
「おばさん、魚の仕入れに行ってくるわ」
「タラをお願い。気を付けていくんだよ。ああ、走んなくていいから!」
おかみさんの手伝いも大分慣れて料理や食材の事などたくさん知ることができた。
お腹は徐々に膨らんできたけどそれほど目立たず、つわりの症状もないから少しでも役に立ちたいと思っている。
仕入れから戻ると食堂のテーブルに一人の男が座っていた。
まだ準備中なのに迷惑な人ねと思っていたら、おかみさんが「マリアンヌのお客さんだよ」と言った。
私に客? そんなの変だ。
しかも私の名前をマリアンヌだという人なんて限られている。
でもランス伯爵じゃないし……。
ここからじゃ帽子をかぶった後ろ姿しか分からないけど、よーく見ると帽子の隙間から薄紫色の髪が見えていた。
薄紫色の髪はサントリナ王国の王族特有のもの。
え、まさか。
その男がふと振り向いた。
テーブルから立ち上がり、両手を広げながら近づいてくる。
やっぱりアスター王子だ。
平民のような恰好をしている。
「クリビ……マリアンヌ!」
「え、ど、どうしてここに?」
「ノースポール公……じゃなくてダイアナに聞いたんだ。手紙に住所が書いてあっただろう、それを教えてもらったんだよ」
因みに偽名の事もね、と耳元で囁く。
おかみさんは魚を受け取ると、手伝いはいいからと言って調理場に引っ込んで行った。
何も言わなかったところを見ると、彼がサントリナ王国の王太子だと分からなかったみたいで安心した。
「ずっと心配していたんだ。私も、ノースポール公爵夫人も」
「ご覧のとおり、元気にしておりますのでご安心ください」
「うん。思っていたより元気そうでよかった」
彼は微笑んではいるけど、もろ手を挙げて喜んでいるようには見えない。
どこか心の底が沈んでいるようなそんな感じを受ける。
まあ目の前に牢屋に入れられていた人間がいるのだからそのことを哀れんでいるのだろう。
「でも君に何もしてあげられなくて、本当に申し訳ないと思っている。牢から出てくるのをただ手をこまねいて見ていることだけしかできなかった……」
サントリナがバハルマの王室のプライベートなことに口を出すのはおかしいからそれは仕方のないこと。
なにも気に病むことは無い。
「アスター王子がそんな暗い顔する必要ありません。もう過ぎたことですし、今はほら、こんなに自由で元気なんですから」
力こぶを作ってみせたけど、全然こぶになってない。
私と彼はぷっと噴き出した。
彼は港町タンスクからほど近い所にある別荘に滞在しているそうだ。
それから毎日のように宿屋の食堂に来るようになった。
タンスクにいるのは私に会うためだけじゃなく視察も兼ねていると言っているけど。
護衛の騎士たちもここで食事をして売り上げが上がったからまあいいか。
旧シタールの港町タンスクを目指す旅人は多い。
乗合馬車の他にも行商の一行の馬車に乗せてもらうなどしてたくさんの人にお世話になりながら、マリウスと別れて半月後、無事タンスクに辿り着いた。
港には大きな商船、優雅なガレー船が停泊し、そして小さな漁船はまるで踊るように波を切って進んでいる。
市場を歩くと野菜や果物、珍しい外国の香辛料や布地が売られていて、見ているだけで楽しい。
この自由と開放感あふれる雰囲気の中、私の萎縮した精神は少しずつ息を吹き返していく。
今私は宿屋の食堂で出す料理の手伝いをしながら、おかみさんの子どもたちやその友だちに読み書きや勉強を教えている。
その代わり宿代は半額で食事付き。
タンスクに着いたその日、宿泊した宿屋のおかみさんの子どもにたまたま文字を教えたのが切っ掛けで、暫くここにお世話になることになったのだ。
もう一か月近くになる。
勉強しに来ている子どもたちはまだ十歳にも満たない子ばかり。
その子たちのお陰で毎日楽しく過ごせている。
夕暮れになると、波の音と共に鐘の音が響き渡る。
お気に入りは部屋の窓から海を眺めること。
海は金色に輝いて帰港する船のシルエットが水面に映ってとても美しい。
何にも煩わされない生活ができている今、私は幸せだ。
夕飯時の食堂の料理を手伝うまでまだ少し時間があるので、窓越しに座って叔母からの手紙を開封した。
叔母には自分は世間で噂されているようなことは何もしておらず、無実だということを知ってもらいたかったので、ここに宿泊することが決まってすぐに手紙を書いたのだが、これはその返事だ。
もしかして拒絶の手紙だったらどうしようかとドキドキしたけどその心配は無用だった。
私を信じている、遊びに来るのを待っているという内容に、涙が出た。
翌朝早朝、目が覚めて窓から海を眺めると、朝霧が晴れて遠くの水平線が徐々に明らかになって、多種多様な船が姿を現した。
こんな早朝から海はもう活気に満ちている。
「よーし、今日もがんばるぞ!」
自分に活を入れて階下へ降りて行った。
「おばさん、魚の仕入れに行ってくるわ」
「タラをお願い。気を付けていくんだよ。ああ、走んなくていいから!」
おかみさんの手伝いも大分慣れて料理や食材の事などたくさん知ることができた。
お腹は徐々に膨らんできたけどそれほど目立たず、つわりの症状もないから少しでも役に立ちたいと思っている。
仕入れから戻ると食堂のテーブルに一人の男が座っていた。
まだ準備中なのに迷惑な人ねと思っていたら、おかみさんが「マリアンヌのお客さんだよ」と言った。
私に客? そんなの変だ。
しかも私の名前をマリアンヌだという人なんて限られている。
でもランス伯爵じゃないし……。
ここからじゃ帽子をかぶった後ろ姿しか分からないけど、よーく見ると帽子の隙間から薄紫色の髪が見えていた。
薄紫色の髪はサントリナ王国の王族特有のもの。
え、まさか。
その男がふと振り向いた。
テーブルから立ち上がり、両手を広げながら近づいてくる。
やっぱりアスター王子だ。
平民のような恰好をしている。
「クリビ……マリアンヌ!」
「え、ど、どうしてここに?」
「ノースポール公……じゃなくてダイアナに聞いたんだ。手紙に住所が書いてあっただろう、それを教えてもらったんだよ」
因みに偽名の事もね、と耳元で囁く。
おかみさんは魚を受け取ると、手伝いはいいからと言って調理場に引っ込んで行った。
何も言わなかったところを見ると、彼がサントリナ王国の王太子だと分からなかったみたいで安心した。
「ずっと心配していたんだ。私も、ノースポール公爵夫人も」
「ご覧のとおり、元気にしておりますのでご安心ください」
「うん。思っていたより元気そうでよかった」
彼は微笑んではいるけど、もろ手を挙げて喜んでいるようには見えない。
どこか心の底が沈んでいるようなそんな感じを受ける。
まあ目の前に牢屋に入れられていた人間がいるのだからそのことを哀れんでいるのだろう。
「でも君に何もしてあげられなくて、本当に申し訳ないと思っている。牢から出てくるのをただ手をこまねいて見ていることだけしかできなかった……」
サントリナがバハルマの王室のプライベートなことに口を出すのはおかしいからそれは仕方のないこと。
なにも気に病むことは無い。
「アスター王子がそんな暗い顔する必要ありません。もう過ぎたことですし、今はほら、こんなに自由で元気なんですから」
力こぶを作ってみせたけど、全然こぶになってない。
私と彼はぷっと噴き出した。
彼は港町タンスクからほど近い所にある別荘に滞在しているそうだ。
それから毎日のように宿屋の食堂に来るようになった。
タンスクにいるのは私に会うためだけじゃなく視察も兼ねていると言っているけど。
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