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星の章 願い
プロポーズ(一)
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***クリビア
おかみさんはアスター王子一行を平民のお客さんだと思っているけど、目つきや体格、風情などは平民とはちょっと違う。
食べる量も普通より多いから厨房は朝からとても忙しい。
それにしても彼は私にべったりで……。
子どもたちに勉強を教えている時も側にいるし、早朝の魚の仕入れにも付き添ってくれる。
それはありがたいんだけど。
「マリアンヌ、うちとしてはあの男が来るようになって客も増えて嬉しいんだけど、今のお前さんの状況はちゃんと伝えているのかい? 五か月目にしては全然目立たないがこれから目立ってくるよ。早めに言った方がいいんじゃないかい? それで離れていったらそれまでの男だったってことなんだし」
「離れて行くとか、そういう関係じゃありませんよ。ただの知り合い、友だちですから」
「そうかい?」
「でもありがとうございます。考えてみます」
妊娠していることは言わなければ分からないから、聞かれもしないのに自分から言うのも変だよねと思っていた。
子どもたちに勉強を教えている場所は宿屋の敷地内の空き地に置いてあるテーブルだ。
雨の日はお休みにしている。
夕方、勉強が終わって子どもたちが帰って行った後、アスター王子に海の見える展望台に誘われた。
しかしこれから夕飯時、一番忙しくなる時間帯で手伝いをしなければならないため一旦断ったら、おかみさんに今日はいいから行っておいでと言われた。
それも悪いなと思って渋っていると、背中を押されて厨房から出されてしまった。
馬車に乗って山の上にある展望台に着いた。
三百六十度見渡すことができ、遠くにはかつてのシタール城が見えた。
現在はカラスティアの管理下にあるが、不思議と何の感慨もない。
城の美術品などはゆくゆくはそのまま展示品として一般開放されるらしい。
「あー、気持ちいい。こんな所があったのね」
残暑の厳しい地上よりもだいぶ気温が低く、涼しい秋風に金髪がふわっと靡いた。
アスター王子は景色を見ればいいのに、私ばかり見てなんだか落ち着かない。
何か言わなければ。
「サントリナ島は見えないのね」
「船でも丸二日はかかるからね」
「二日! そういえば地獄の二日間だったわ」
「え?」
「子どもの頃サントリナへ行った時、行き帰りずっと船酔いしていたの。本当に苦しくて大変だったわ」
「じゃあ今度サントリナに来るときは特別に最上級の船を用意してあげるよ。なるべく君の負担を減らす様にしないといけないからね」
私たちは展望台の椅子に座って海を眺めた。
太陽の下半分がゆっくりと水平線に触れ、空はオレンジ色から紫色へと変わっていく。
海面は夕陽の光を反射して、宝石のように輝いている。
「綺麗。部屋の窓から見る光景も美しいけど、ここからは格別だわ」
「それは良かった」
妊娠していることを言うタイミングを見計らっていると、アスター王子が真面目な顔をして伝えたいことがあると言ってきた。
そっちを先に聞こう。
「なんですか?」
「実は私は子どもの頃あなたに一目惚れしたんですよ」
「え、それはまた……」
「でもあなたはカラスティアの王子と婚約していて本当にがっかりしました」
「ああ……」
もしアスター王子と結婚していたら私の人生はどうなっていただろう、なんてことが脳裏をかすめた。
きっとこれまでのような辛い目には合っていなかったかもしれない。
「ロータス王子との結婚が無しになってから、私がどれだけあなたを切望したか……」
あれ、この流れはもしかして……。
「そしてバハルマに嫁いだと聞いてどれだけ絶望したか。私はもう二十七歳です。誰にも何も言わせない」
彼は遠くの海を見つめ、決意を表明するかのように力強く言った。
違うかもしれない。でももしかして、もしかしてだから、この続きを彼が言う前に早く言わないといけない。
彼は私の事を何も知らないのだから!
「あの……アスター王子、私の話を聞いてください」
彼はゆっくりと私の方を向いた。
熱いまなざしで私を見つめ、話すのを黙って待っている。
これから言うことに彼ががっかりすると思うと言い辛いけど、避けては通れない。
「実は私……妊娠しているんです」
おかみさんはアスター王子一行を平民のお客さんだと思っているけど、目つきや体格、風情などは平民とはちょっと違う。
食べる量も普通より多いから厨房は朝からとても忙しい。
それにしても彼は私にべったりで……。
子どもたちに勉強を教えている時も側にいるし、早朝の魚の仕入れにも付き添ってくれる。
それはありがたいんだけど。
「マリアンヌ、うちとしてはあの男が来るようになって客も増えて嬉しいんだけど、今のお前さんの状況はちゃんと伝えているのかい? 五か月目にしては全然目立たないがこれから目立ってくるよ。早めに言った方がいいんじゃないかい? それで離れていったらそれまでの男だったってことなんだし」
「離れて行くとか、そういう関係じゃありませんよ。ただの知り合い、友だちですから」
「そうかい?」
「でもありがとうございます。考えてみます」
妊娠していることは言わなければ分からないから、聞かれもしないのに自分から言うのも変だよねと思っていた。
子どもたちに勉強を教えている場所は宿屋の敷地内の空き地に置いてあるテーブルだ。
雨の日はお休みにしている。
夕方、勉強が終わって子どもたちが帰って行った後、アスター王子に海の見える展望台に誘われた。
しかしこれから夕飯時、一番忙しくなる時間帯で手伝いをしなければならないため一旦断ったら、おかみさんに今日はいいから行っておいでと言われた。
それも悪いなと思って渋っていると、背中を押されて厨房から出されてしまった。
馬車に乗って山の上にある展望台に着いた。
三百六十度見渡すことができ、遠くにはかつてのシタール城が見えた。
現在はカラスティアの管理下にあるが、不思議と何の感慨もない。
城の美術品などはゆくゆくはそのまま展示品として一般開放されるらしい。
「あー、気持ちいい。こんな所があったのね」
残暑の厳しい地上よりもだいぶ気温が低く、涼しい秋風に金髪がふわっと靡いた。
アスター王子は景色を見ればいいのに、私ばかり見てなんだか落ち着かない。
何か言わなければ。
「サントリナ島は見えないのね」
「船でも丸二日はかかるからね」
「二日! そういえば地獄の二日間だったわ」
「え?」
「子どもの頃サントリナへ行った時、行き帰りずっと船酔いしていたの。本当に苦しくて大変だったわ」
「じゃあ今度サントリナに来るときは特別に最上級の船を用意してあげるよ。なるべく君の負担を減らす様にしないといけないからね」
私たちは展望台の椅子に座って海を眺めた。
太陽の下半分がゆっくりと水平線に触れ、空はオレンジ色から紫色へと変わっていく。
海面は夕陽の光を反射して、宝石のように輝いている。
「綺麗。部屋の窓から見る光景も美しいけど、ここからは格別だわ」
「それは良かった」
妊娠していることを言うタイミングを見計らっていると、アスター王子が真面目な顔をして伝えたいことがあると言ってきた。
そっちを先に聞こう。
「なんですか?」
「実は私は子どもの頃あなたに一目惚れしたんですよ」
「え、それはまた……」
「でもあなたはカラスティアの王子と婚約していて本当にがっかりしました」
「ああ……」
もしアスター王子と結婚していたら私の人生はどうなっていただろう、なんてことが脳裏をかすめた。
きっとこれまでのような辛い目には合っていなかったかもしれない。
「ロータス王子との結婚が無しになってから、私がどれだけあなたを切望したか……」
あれ、この流れはもしかして……。
「そしてバハルマに嫁いだと聞いてどれだけ絶望したか。私はもう二十七歳です。誰にも何も言わせない」
彼は遠くの海を見つめ、決意を表明するかのように力強く言った。
違うかもしれない。でももしかして、もしかしてだから、この続きを彼が言う前に早く言わないといけない。
彼は私の事を何も知らないのだから!
「あの……アスター王子、私の話を聞いてください」
彼はゆっくりと私の方を向いた。
熱いまなざしで私を見つめ、話すのを黙って待っている。
これから言うことに彼ががっかりすると思うと言い辛いけど、避けては通れない。
「実は私……妊娠しているんです」
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