【完結】愛の輪廻~愛する人の為に別れを決意したら運命の人と出会いました~

今井杏美

文字の大きさ
41 / 65
星の章 願い

悲しみの再会

しおりを挟む
 ***クリビア

 ロータスの登場にかっこいいとか素敵だとかいう女性客たちの黄色い声が耳に入ってくる。

 彼の力や情報網ならきっと私を見つけることなど簡単なことだったのだと思うと、もう逃げられないのかと絶望感が襲い汗が出た。

 彼は王者の風格を漂わせて私たちのテーブルの横で立ち止まった。
 緊張する。
 心に鎧を着せ、絶対言いなりにはならないと自分に言い聞かせた。

「君の笑顔を久しぶりに見た気がする。元気そうで良かった……」

 でも彼は嬉しそうに優しくそう言い、眦には微かに光るものが見えた。
 怒りと共に連れ去られてしまうのかと思ったのに、そんな悲しそうな笑顔を見せないで欲しい。
 どうして逃げたんだと責めてくれれば、そうすれば私だって彼に強く出れるのに!

 そして彼はすぐに「あぁ、なんて可愛いんだ! この子が俺たちの子か!」と言って自分のミニチュア版の頭を愛おしそうに撫でた。

「……知っていたの?」
「ああ」
「いつから?」
「サントリナに来てからだ。君が公爵邸にいることがわかって……」

 ああ、彼に知られず出産することなんてしょせん無理だったのだ。
 あなたの子どもではないという見え見えの嘘は通用しない。

 クリーヴはいつの間にか起きていて泣きもせず彼に微笑んでいる。
 どうしよう。
 このまま連れて行かれたら……。

「名前は何て言うんだ?」
「……クリーヴよ」
「クリーヴ。いい名前だ。男の子なんだな」
「……何しに来たのですか」
「何しにって、迎えに来たに決まっている。一緒にカラスティアに帰ろう」
「あなたがアナスタシアと結婚して私を牢から出してくれたことは本当に感謝しています。でもカラスティアには行かないわ」

 ロータスの顔が曇ってクリーヴを撫でていた手が止まった。
 このままでは他の客の迷惑になりそうだったので、クリーヴをメイドに預けて店の外で彼と話をすることにした。
 タンスクのように逃げることはもうしない。
 けりをつけなければ安心してクリーヴを育てることはできないと悟った。

 人通りの少ない店の脇の通路に入ると、彼は私を後ろからそっと抱きしめた。
 どことなく遠慮がちな抱きしめ方だったけど、「やめてください」と冷たく言うと彼は小さくため息を吐いてゆっくりと離してくれた。

「アナスタシアは素敵な女性よ。彼女とちゃんと向き合って」
「無理な話だ」
「子どもだってできたじゃない」
「あれは初夜のたった一度でできた子だ。俺が彼女を愛することは無い。それに君を殺そうとした男の娘だ」
「え? それってまさかトリス川のこと?」
「ああ。あいつは牢から出た君を殺そうと刺客を放った。ばれていないと思っているだろうが、あいつは俺を騙したんだ」
「じゃあ私を助けてくれたのは……」
「俺が君に付けていた男だ。川に流されたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ」
「ねぇ! 助けてくれた人は生きているの?」
「もちろん」
「良かった……」
「君を襲った男は死んだけどね」
「あ」

 だとすればヴァルコフ国王が私を生きていると思っているのは確実だ。

「ロータス様! お願いよ、私の事は忘れてアナスタシアと仲良くして! そうすればヴァルコフ国王は私を殺そうとするのを止めるわ。彼の望みはアナスタシアが幸せになることだもの」
「カラスティアの王妃にしてやった」
「そんなことじゃないわ。名ばかりの王妃が幸せなはずないじゃない」

 ふと自分の事を言っているようだと思った。
 今度はアナスタシアが名ばかりの王妃になるなんて、ヴァルコフ国王にとっては皮肉なことだと思うけど、彼女には幸せになって欲しい。
 でも生活面では私のような苦労はしていないだろうからそれだけは感謝すべきか。

「愛していない人間を無理やり愛することはできない。それが原因でこれからも君が……そしてクリーヴも狙われるのなら、俺はヴァルコフを殺す。本気だ」

 そう言って彼は徐に私の顎に手をやってキスをしようとしたので、思い切り睨んで言った。

「やめて」
「……」
「私はあなたを愛していないわ」
「は?」
「愛していないのよ」

 彼の青い瞳が悲しげに揺れた。
 彼にははっきりと、きつく言うのよ。
 妊娠している妻がいる男なんだから。
 それに愛していないというのは嘘じゃない。一度裏切った男を何も無かったかのように愛する心の広さを私は持っていない。
 これまではっきり言わなかったのは、まだ私に覚悟がなかったからだ。
 でもクリーヴの母となった今は違う。

「嘘を、言うな……」
「嘘じゃない」
「あんなに愛し合っていたじゃないか。子どもも生まれた。俺たちの! クリーヴは次のカラスティア国王なんだ」
「なんですって! 国王なんてとんでもないわ!」

 アナスタシアの子どもと争うようなことになったらクリーヴはいとも簡単に暗殺されてしまうだろう。
 狙うのはヴァルコフ国王だけでなく、カラスティアの誰かということだって大いにあり得るのだ。
 感情だけでそんなことを簡単に言うロータスにこれまで以上に腹が立つ。

「クリーヴがカラスティアに行ったら周りは敵だらけよ! どうしてそんなことが分からないの!?」
「そんなこと俺が考えていないとでも思っているのか!?」
「……あなたが何を考えていようと、私はこの子を国王にさせるつもりはないの。王位継承権は放棄するわ」
「な、に? そんなこと……そんなことはさせない!」

 彼が初めて私に厳しい顔を向けた。
 クリーヴと同じ青い瞳から悲しみと怒りの炎を感じた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。

テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

処理中です...