42 / 65
星の章 願い
慟哭
しおりを挟む
***ロータス
「さあ、一緒に来るんだ」
「離して!」
連れ去ってしまおう。それしかない。クリーヴは後で連れてくればいい。
クリビアの手を握って待たせてある馬車に乗せようと引っ張ると、メイドがクリーヴを抱いて通りまで下りて来た。
「クリビア様大丈夫ですか!」
その声にびっくりしたのかクリーヴが大声で泣きだした。
するとクリビアは俺の手を強く振り切ってクリーヴをメイドから引き取った。
俺は今さっきまで彼女を連れ去ろうとした衝動的な感情も忘れて、息子をあやすクリビアの慈悲深い美しい顔に感動して見入ってしまった。
赤ん坊の泣き声は周囲の目を引いて、街の人がちらちら見ながら通り過ぎて行く。
馬車近くに待たせている護衛が近づいて来そうになったので戻るよう合図して、恐る恐るクリビアに近づいて泣きわめくクリーヴを覗きこんだ。
俺そっくりな男の子。
愛する女性との間にできた子は誰よりも愛おしい。
今こうやって家族三人が揃っているのにどうしてこのまま共に暮らすことができないのか、どうしてそんな簡単なことが叶えられないのか意味が分からない。
気が狂いそうだ。
ひとしきり泣いたクリーヴが落ち着いてから、クリビアはメイドにクリーヴを託して俺の方を向いた。
少し緊張する。何を言われるんだろう。
「ロータス様。あなたは私を殺そうとした男の娘と幸せになることはできないと仰いました。じゃあどうしてあなたの両親を殺した男の娘と幸せになれると思っているのですか」
「君は何も知らなかったじゃないか。俺の両親のことでまだ負い目を感じているのか? そんな必要はない。最初から無いんだ!」
「アナスタシアも知らないのよ」
「待ってくれ。俺はそもそも彼女を愛していない。君は俺に幸せになるなと言いたいのか?」
「そんなことあるわけないじゃない! でもその相手は私じゃない。お願いよ……私はバハルマにいる時アナスタシアに救われてきたの。生きていられたのも彼女のお陰なのよ。彼女のことをよく知れば、あなたもきっと好きになるわ」
「彼女がたとえ聖女だったとしても俺の気持ちは変わらない。君は何も悪いことをしていないんだから彼女に遠慮するな」
「遠慮で言ってるんじゃない。私はあなたを愛していない!」
「嘘を吐くな!!」
どうしてもアナスタシアとくっつけようとする彼女に怒りが湧いて大声を出してしまい、すぐに反省して口を閉じだ。
クリーヴがまた大泣きしなくて良かった。
気付くと俺たちの周りに人だかりができていて、カラスティアの国王じゃないか? という声に人々がざわつき始めた。
その中から「クリビアさん?」と言う男の声がした。
誰だと思って人だかりに目をやると、大きなずだ袋を下げた男が前に出てきた。
これまでの流れ、そして空気がこの男の登場でガラッと変わるのを感じた。
「誰だ、こいつは」
「この方は……クリーヴを取り上げて下さった医師です」
「どうも、ランス・クライブ伯爵と申します。医師をしております」
「伯爵が医師だと? 本当にそれだけか? まさかこいつとできてるのか」
「変なことを言わないで」
「……」
違うのなら構わないが、どうも嫌な予感がする。
「お困りの様ですね、クリビアさん」
「部外者は黙っていろ」
「伯爵、なんでもないんです。すぐ帰りますからご心配なさらずに」
クリビアはこれだけの人だかりの中では俺に連れ去られることはないだろうと思っているのか、安心した様子でメイドと帰ろうとした。
「待ってくれ」
彼女の腕を優しくつかむと力いっぱい、ともすれば乱暴に振りほどかれた。
血がのぼる。
目の周りがカーッと熱くなった。
ああ、俺は今どんな顔をしているんだ。
彼女は俺を無視して待たせてある馬車にメイドと乗ろうとしている。
その時、ランス伯爵が護衛として付き添うと言った。
何が護衛だ。
俺が馬車を襲うとでも思っているのか。
しかも彼女は少し考えた様子を見せたがそれを受け入れた。
彼を馬車に乗せ、足早にこの場から立ち去ろうとする彼女に心が崩壊寸前になる。
「行くな! なんでそんな奴と一緒に行くんだ!」
叫んでも彼女が馬車から出てくることは無い。
「行かないでくれ! クリビア!」
見物人のざわめきが俺を嘲笑っているように聞こえる。
牢の中から見た星の輝きと同じ。
間抜けな俺。馬鹿な俺。
――「私は……最初からあなたとは別れるつもりだったの」
また君は俺を……。
地面に崩れ落ち、そして呟いた。
「俺を捨てないでくれ……」
#####
もう何日も食事がのどを通らない。
孤独と喪失感に苛まれ、心の中で何度も「何故?」と問いかける。
これまでの自分の行動全てが意味をなさないもののように崩れ去っていく。
未来への希望が見えない。
本当に終わりなのか……?
半ば無理やりカラスティア王国に連れ帰らされたが政務などやる気が起きず、ずっと部屋に閉じ籠った。
「さあ、一緒に来るんだ」
「離して!」
連れ去ってしまおう。それしかない。クリーヴは後で連れてくればいい。
クリビアの手を握って待たせてある馬車に乗せようと引っ張ると、メイドがクリーヴを抱いて通りまで下りて来た。
「クリビア様大丈夫ですか!」
その声にびっくりしたのかクリーヴが大声で泣きだした。
するとクリビアは俺の手を強く振り切ってクリーヴをメイドから引き取った。
俺は今さっきまで彼女を連れ去ろうとした衝動的な感情も忘れて、息子をあやすクリビアの慈悲深い美しい顔に感動して見入ってしまった。
赤ん坊の泣き声は周囲の目を引いて、街の人がちらちら見ながら通り過ぎて行く。
馬車近くに待たせている護衛が近づいて来そうになったので戻るよう合図して、恐る恐るクリビアに近づいて泣きわめくクリーヴを覗きこんだ。
俺そっくりな男の子。
愛する女性との間にできた子は誰よりも愛おしい。
今こうやって家族三人が揃っているのにどうしてこのまま共に暮らすことができないのか、どうしてそんな簡単なことが叶えられないのか意味が分からない。
気が狂いそうだ。
ひとしきり泣いたクリーヴが落ち着いてから、クリビアはメイドにクリーヴを託して俺の方を向いた。
少し緊張する。何を言われるんだろう。
「ロータス様。あなたは私を殺そうとした男の娘と幸せになることはできないと仰いました。じゃあどうしてあなたの両親を殺した男の娘と幸せになれると思っているのですか」
「君は何も知らなかったじゃないか。俺の両親のことでまだ負い目を感じているのか? そんな必要はない。最初から無いんだ!」
「アナスタシアも知らないのよ」
「待ってくれ。俺はそもそも彼女を愛していない。君は俺に幸せになるなと言いたいのか?」
「そんなことあるわけないじゃない! でもその相手は私じゃない。お願いよ……私はバハルマにいる時アナスタシアに救われてきたの。生きていられたのも彼女のお陰なのよ。彼女のことをよく知れば、あなたもきっと好きになるわ」
「彼女がたとえ聖女だったとしても俺の気持ちは変わらない。君は何も悪いことをしていないんだから彼女に遠慮するな」
「遠慮で言ってるんじゃない。私はあなたを愛していない!」
「嘘を吐くな!!」
どうしてもアナスタシアとくっつけようとする彼女に怒りが湧いて大声を出してしまい、すぐに反省して口を閉じだ。
クリーヴがまた大泣きしなくて良かった。
気付くと俺たちの周りに人だかりができていて、カラスティアの国王じゃないか? という声に人々がざわつき始めた。
その中から「クリビアさん?」と言う男の声がした。
誰だと思って人だかりに目をやると、大きなずだ袋を下げた男が前に出てきた。
これまでの流れ、そして空気がこの男の登場でガラッと変わるのを感じた。
「誰だ、こいつは」
「この方は……クリーヴを取り上げて下さった医師です」
「どうも、ランス・クライブ伯爵と申します。医師をしております」
「伯爵が医師だと? 本当にそれだけか? まさかこいつとできてるのか」
「変なことを言わないで」
「……」
違うのなら構わないが、どうも嫌な予感がする。
「お困りの様ですね、クリビアさん」
「部外者は黙っていろ」
「伯爵、なんでもないんです。すぐ帰りますからご心配なさらずに」
クリビアはこれだけの人だかりの中では俺に連れ去られることはないだろうと思っているのか、安心した様子でメイドと帰ろうとした。
「待ってくれ」
彼女の腕を優しくつかむと力いっぱい、ともすれば乱暴に振りほどかれた。
血がのぼる。
目の周りがカーッと熱くなった。
ああ、俺は今どんな顔をしているんだ。
彼女は俺を無視して待たせてある馬車にメイドと乗ろうとしている。
その時、ランス伯爵が護衛として付き添うと言った。
何が護衛だ。
俺が馬車を襲うとでも思っているのか。
しかも彼女は少し考えた様子を見せたがそれを受け入れた。
彼を馬車に乗せ、足早にこの場から立ち去ろうとする彼女に心が崩壊寸前になる。
「行くな! なんでそんな奴と一緒に行くんだ!」
叫んでも彼女が馬車から出てくることは無い。
「行かないでくれ! クリビア!」
見物人のざわめきが俺を嘲笑っているように聞こえる。
牢の中から見た星の輝きと同じ。
間抜けな俺。馬鹿な俺。
――「私は……最初からあなたとは別れるつもりだったの」
また君は俺を……。
地面に崩れ落ち、そして呟いた。
「俺を捨てないでくれ……」
#####
もう何日も食事がのどを通らない。
孤独と喪失感に苛まれ、心の中で何度も「何故?」と問いかける。
これまでの自分の行動全てが意味をなさないもののように崩れ去っていく。
未来への希望が見えない。
本当に終わりなのか……?
半ば無理やりカラスティア王国に連れ帰らされたが政務などやる気が起きず、ずっと部屋に閉じ籠った。
0
あなたにおすすめの小説
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
全部私が悪いのです
久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。
姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。
世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。
*全18話完結となっています。
*大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。
*後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。
*この作品は他誌にも掲載中です。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。
テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる