【完結】愛の輪廻~愛する人の為に別れを決意したら運命の人と出会いました~

今井杏美

文字の大きさ
43 / 65
星の章 願い

決別と梅の実

しおりを挟む
 ***クリビア

 メイドも伯爵も何があったのか詳しい事を聞こうとしない。
 ロータスと別れた後の馬車の中は静かでクリーヴの寝息だけがスースー聞こえる。

 前に座っているランス伯爵は、なぜだかわからないけどさっきからため息ともいえないような小さなため息を何度も吐いている。

 馬車がガタンと大きく揺れて伯爵のずだ袋の中身が落ちて足元にコロコロ散らばった。
 拾うのを手伝おうとすると、さすがにクリーヴを抱っこしているメイドは無理なので伯爵に止められたが、私が拾い上げようと手を下に伸ばした時、思いがけず一滴の涙が足元にポタッと落ちた。
 それを機に立て続けにポタポタと落ちる。

 わかっている。
 私は彼に取った態度に自分でもびっくりしていた。

 これまでも拒絶したことはあったけど、今日のように厳しく、冷たい態度を取ったことはない。
 クリーヴの頭を愛おしそうに撫でる場面を見せられたことも私の心を揺さぶり、胸が締め付けられた。

 後悔はしていない。
 彼との別れはずっと前から決めていた。
 ただ、それは自分本位であったこともわかっている。
 もしかしたら彼とジュリアナさんのことを知らなければ私は彼の情熱に負けていたかもしれない。

 涙よ止まれ。

 泣いている私をランス伯爵とメイドに見られたくない。
 上体を上げないでいる私のおかしい姿に何も言わないでくれる二人の優しい気遣いがありがたい。
 一生懸命何度も瞬きを繰り返して涙を消そうと努力した。


 そして涙も乾いて心も落ち着いたので、上体を起こして手にした物を伯爵に渡した。

「……はい、どうぞ」
「ああ、拾ってくれてありがとう」

 伯爵の包み込むような静かな微笑みが不思議と心の奥深くにしみ込んだ。

「あの、これって……」
「これはシルエラって言ってね、大陸の東の国にだけ生っている果実だよ」

 ずだ袋から落ちたのは、薄緑色の丸い果実だった。
 今更だけど、私はこれを見たことがある。
 梅だ。
 前世の祖母が梅干を作っていた。

 メイドは興味深げにしげしげと眺めて、「どんな味がするんですか?」と聞いた。

「このままでは食べられないんだ。追熟させて黄色くなったら食べられるんだよ」
「青いのはまだ毒素があるんですよね」

 つい知っていることを話してしまったけど、まあいいか。

「クリビア様は食べたことがあるのですか?」
「ええ、遠い昔ね」

 前世で。
 伯爵は不思議そうなびっくりした顔で私を見ている。
 元王女だった私が食べたことがあるとしてもおかしくはないのに。

「クリビアさん、お話があるのですが」
「話し? マリウスの事ですか?」
「違います……ここではちょっと。都合のいい時で構わないので時間を作っていただけないでしょうか」
「でしたら明日でも構わないですよ」


 そうして翌日、彼は公爵邸にやってきた。

 心なしか身なりに気合が入って、メイドに頼んで髪をハーフアップにセットしてもらった。
 ドレスは叔母が選んでくれた水色のオーガンジーのワンピースにして、何度も鏡を見てやっと客間に下りて行った。

 途中、なんでこんなに気にする必要があるのかしらと笑いが込み上げてくる。

 客間に入ると、昨日はよれたシャツ一枚の上からベストだけという、いかにも旅人のような格好だった彼が、今日は伯爵然とした立派な黒いフロックコートを着てソファに座っていた。
 船で会った時もラフな服装だったから、こんな姿は初めて見た。

 私の診察に来るたびにメイドたちから熱い視線を送られていたことに彼は気付いていただろうか。
 無精ひげを生やすような人だから鈍感ぽいし気付いてないかもしれない。

「今日はお時間をとっていただきありがとうございます」
「いいえ、どうぞお座りください」

 立ち上がって挨拶する姿は上品で、まさに紳士という言葉がぴったりだと思った。
 そういえば何の話だろう。さっぱり見当がつかない。

「話とはなんでしょうか」
「ああ、はい……」

 伯爵は、自分から言い出しておいて、なかなか話そうとしない。

 だから私も何を言っていいか分からない。
 二人で紅茶をすするだけの時間が一分程続いたのち、ようやく彼が口を開いた。

「クリビアさんは前世というものを信じていますか」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。

テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

処理中です...