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星の章 願い
前世の二人
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***ランス伯爵
「クリビアさんは前世というものを信じていますか」
「ええ、信じていますよ」
当たり前のようにあっさり言われて拍子抜けした。
本当は「前世の記憶をお持ちなのではありませんか」とストレートに聞きたかったが、初っ端からそんなことを聞く勇気はさすがに無かったので、まずはその手の話の反応を見ようと思ったのだ。
「それならよかった。実はなぜ私がこのような話をするのかと言うと、これまでのあなたの話の中に、この世界ではまだ知られていない事とか言葉が含まれていたからなんです」
「それは……伯爵は前世の記憶を持っているということですか?」
”信じている”と”持っている”は全く違う。
肯定したら今度こそ変な人と思われるだろうか。
でもクリビアさんはピンクの瞳を輝かせて私を見つめている。
勇気を出そう。
「持っています。こことは違う世界の……」
「実は私も前世の記憶があるんです! 多分伯爵は熱中症と梅の実の事を仰っているんじゃないですか?」
彼女は興奮したように椅子から半分立ちあがり、私が心の奥で期待していた言葉を返してくれた。
やばい。奇跡か。
熱中症に感謝するのは彼女に悪いと思うが、梅の実には素直に感謝しかない。
「そうです! 今だってあなたはシルエラを“梅の実”と言った。シルエラは前世の世界では“梅”という名前です。それにいくらあなたが王族だったとしても、昔食べたことがあると言うのはほぼありえないのです」
シルエラは、その存在を今まで他国に知られないよう東の国の国王によって厳重に管理されていた。
それが、ここ数年で国同士の交流と貿易が盛んになったため、それを重く見た国王が極一部の薬売りにだけ販売許可を出したのだ。
この前ガルシア宗教国に行った時にその販売許可を持つ東の国の薬売りと知り合いになった私は、様々な薬効があるというシルエラを見せてもらった。
その時すぐにこれは青梅ではないか? と思った。
食べ方を聞くとやはり梅干で。
その他、シルエラジャムや黒焼きの作り方も教えてもらった。
そして今度タンスクで店を開くので、そしたら医師である私に優先して売ってやると彼は約束した。
クリビアたちを街で見かけたのはタンスクのその店に行った帰りだったのだ。
「それ以外にも、あなたはマリウスがガルシアへ行く時に、意識が無くても聞こえていると言いました。そういう考えはここではまだ浸透していません。というか、そう考える人はまずいません」
「そういえばそんなこと言いましたね。でももっと早く言ってくれればよかったのに」
「頭がおかしいと思われるのが嫌で」
彼女はくすくすと笑った。
興奮は冷めやらず、自分がこことは違う世界の日本人として生きていた事、医師だったことを話した。
前世の医療の方がこの世界の医療より進んでいたため、今世ではその知識を持って他の医師たちに講義をしたり、診療をしたりしているのだ。
「え、伯爵は日本人だったのですか? 私も日本人だったんですよ!」
「本当に!? っていうか、お互い梅干を知っているのだからそうなりますね」
「もしかしたら同じ時代を生きていたりして」
「知り合いだったら面白いですね」
「えーと、私が死んだのはいつだったかしら。そうそう、交通事故で死んだんです。それもデートの待ち合わせ場所に行く直前で。運悪いですよね」
「……私の彼女も交通事故で亡くなりました。デートの待ち合わせをしていた日で」
私とクリビアさんの顔から笑顔が消えた。
ここまで偶然が続くと、更なる偶然を期待するのは当然だ。
それもとっておきの。
「そして私の勤務する病院に彼女は運ばれてきました」
「え」
「名前を覚えていますか。私は畠山蓮司という名前でした」
彼女は目を見開いて、元王女とは思えないほど大きな口を開け驚いた。
そんな顔も可愛らしいが。
「蓮司!? 畠山蓮司ですって!? 私は――」
運命。
私は彼女といると、美砂を求める心が落ち着く理由がわかった。
魂はとっくに分かっていたのだ。
もう十年以上も前からクリビアさんが美砂だと。
感動で涙が出てきた。私は彼女の手を握り締めた。
「実はあの日君にプロポーズしようと思っていたんだ」
「やっぱり」
「知っていた?」
「死んだ後、あなたの所に行ったのよ。そこで指輪を握り締めて泣いているあなたを上の方から見ていて、婚約指輪かなって。憔悴しているあなたは本当に可哀そうだったわ。置いていく方より置いていかれる方が悲しいわよね」
「はは、あんな場面を見られていたのか」
どうやら彼女はいわゆる幽霊となって私に会いに来たらしい。
恥ずかしくて照れ笑いをした。
「蓮司。遅くなったけど、返事は」
「え?」
「イエスよ。私もあの頃あなたと結婚したかった」
そう言われて私は無意識に彼女の隣に移動して座った。つい抱きしめたくなったのだ。
だが“あの頃”と言った。
今の彼女の気持ちと同じだと錯覚したらだめだ。
ブレーキがかかって抱きしめようとした両腕を彷徨わせていると、驚いたことに彼女の方から私に抱き着いて来た。
これは……え? 抱きしめていい?
私たちはまるで前世で成し遂げられなかったことの続きをするかの様に強く抱きしめ合い、お互いの存在とその奇跡を確かめ合った。
「私と付き合ってくれないか。前世の事とは関係なく、君の事が好きだ」
興奮冷めやらぬ中、勢いで口から出た言葉に焦った。緊張でどうにかなりそうだ。
ああ、もう、どうにでもなれ! ……いや、どうにでもなったら嫌だ。
私を困らせるのを楽しむかのように彼女は笑顔のまま少しの間沈黙して、「よろしくお願いします」と言った。
信じられない。願いが叶った。
数か月前サントリナ行きの船上で、流れ星に願い事をした。
『クリビアさんを守れる男になりたい』と。
そういう男になれたかどうかは分からないが、今、そういう関係になることができた。
年甲斐もなく嬉しさのあまり飛び跳ねて、笑顔の彼女を再び抱きしめた。
そして互いに見つめ合うと、自然に唇は近づいていった。
「クリビアさんは前世というものを信じていますか」
「ええ、信じていますよ」
当たり前のようにあっさり言われて拍子抜けした。
本当は「前世の記憶をお持ちなのではありませんか」とストレートに聞きたかったが、初っ端からそんなことを聞く勇気はさすがに無かったので、まずはその手の話の反応を見ようと思ったのだ。
「それならよかった。実はなぜ私がこのような話をするのかと言うと、これまでのあなたの話の中に、この世界ではまだ知られていない事とか言葉が含まれていたからなんです」
「それは……伯爵は前世の記憶を持っているということですか?」
”信じている”と”持っている”は全く違う。
肯定したら今度こそ変な人と思われるだろうか。
でもクリビアさんはピンクの瞳を輝かせて私を見つめている。
勇気を出そう。
「持っています。こことは違う世界の……」
「実は私も前世の記憶があるんです! 多分伯爵は熱中症と梅の実の事を仰っているんじゃないですか?」
彼女は興奮したように椅子から半分立ちあがり、私が心の奥で期待していた言葉を返してくれた。
やばい。奇跡か。
熱中症に感謝するのは彼女に悪いと思うが、梅の実には素直に感謝しかない。
「そうです! 今だってあなたはシルエラを“梅の実”と言った。シルエラは前世の世界では“梅”という名前です。それにいくらあなたが王族だったとしても、昔食べたことがあると言うのはほぼありえないのです」
シルエラは、その存在を今まで他国に知られないよう東の国の国王によって厳重に管理されていた。
それが、ここ数年で国同士の交流と貿易が盛んになったため、それを重く見た国王が極一部の薬売りにだけ販売許可を出したのだ。
この前ガルシア宗教国に行った時にその販売許可を持つ東の国の薬売りと知り合いになった私は、様々な薬効があるというシルエラを見せてもらった。
その時すぐにこれは青梅ではないか? と思った。
食べ方を聞くとやはり梅干で。
その他、シルエラジャムや黒焼きの作り方も教えてもらった。
そして今度タンスクで店を開くので、そしたら医師である私に優先して売ってやると彼は約束した。
クリビアたちを街で見かけたのはタンスクのその店に行った帰りだったのだ。
「それ以外にも、あなたはマリウスがガルシアへ行く時に、意識が無くても聞こえていると言いました。そういう考えはここではまだ浸透していません。というか、そう考える人はまずいません」
「そういえばそんなこと言いましたね。でももっと早く言ってくれればよかったのに」
「頭がおかしいと思われるのが嫌で」
彼女はくすくすと笑った。
興奮は冷めやらず、自分がこことは違う世界の日本人として生きていた事、医師だったことを話した。
前世の医療の方がこの世界の医療より進んでいたため、今世ではその知識を持って他の医師たちに講義をしたり、診療をしたりしているのだ。
「え、伯爵は日本人だったのですか? 私も日本人だったんですよ!」
「本当に!? っていうか、お互い梅干を知っているのだからそうなりますね」
「もしかしたら同じ時代を生きていたりして」
「知り合いだったら面白いですね」
「えーと、私が死んだのはいつだったかしら。そうそう、交通事故で死んだんです。それもデートの待ち合わせ場所に行く直前で。運悪いですよね」
「……私の彼女も交通事故で亡くなりました。デートの待ち合わせをしていた日で」
私とクリビアさんの顔から笑顔が消えた。
ここまで偶然が続くと、更なる偶然を期待するのは当然だ。
それもとっておきの。
「そして私の勤務する病院に彼女は運ばれてきました」
「え」
「名前を覚えていますか。私は畠山蓮司という名前でした」
彼女は目を見開いて、元王女とは思えないほど大きな口を開け驚いた。
そんな顔も可愛らしいが。
「蓮司!? 畠山蓮司ですって!? 私は――」
運命。
私は彼女といると、美砂を求める心が落ち着く理由がわかった。
魂はとっくに分かっていたのだ。
もう十年以上も前からクリビアさんが美砂だと。
感動で涙が出てきた。私は彼女の手を握り締めた。
「実はあの日君にプロポーズしようと思っていたんだ」
「やっぱり」
「知っていた?」
「死んだ後、あなたの所に行ったのよ。そこで指輪を握り締めて泣いているあなたを上の方から見ていて、婚約指輪かなって。憔悴しているあなたは本当に可哀そうだったわ。置いていく方より置いていかれる方が悲しいわよね」
「はは、あんな場面を見られていたのか」
どうやら彼女はいわゆる幽霊となって私に会いに来たらしい。
恥ずかしくて照れ笑いをした。
「蓮司。遅くなったけど、返事は」
「え?」
「イエスよ。私もあの頃あなたと結婚したかった」
そう言われて私は無意識に彼女の隣に移動して座った。つい抱きしめたくなったのだ。
だが“あの頃”と言った。
今の彼女の気持ちと同じだと錯覚したらだめだ。
ブレーキがかかって抱きしめようとした両腕を彷徨わせていると、驚いたことに彼女の方から私に抱き着いて来た。
これは……え? 抱きしめていい?
私たちはまるで前世で成し遂げられなかったことの続きをするかの様に強く抱きしめ合い、お互いの存在とその奇跡を確かめ合った。
「私と付き合ってくれないか。前世の事とは関係なく、君の事が好きだ」
興奮冷めやらぬ中、勢いで口から出た言葉に焦った。緊張でどうにかなりそうだ。
ああ、もう、どうにでもなれ! ……いや、どうにでもなったら嫌だ。
私を困らせるのを楽しむかのように彼女は笑顔のまま少しの間沈黙して、「よろしくお願いします」と言った。
信じられない。願いが叶った。
数か月前サントリナ行きの船上で、流れ星に願い事をした。
『クリビアさんを守れる男になりたい』と。
そういう男になれたかどうかは分からないが、今、そういう関係になることができた。
年甲斐もなく嬉しさのあまり飛び跳ねて、笑顔の彼女を再び抱きしめた。
そして互いに見つめ合うと、自然に唇は近づいていった。
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