【完結】愛の輪廻~愛する人の為に別れを決意したら運命の人と出会いました~

今井杏美

文字の大きさ
54 / 65
最終章 命を救う魔剣

命を救う魔剣(五)

しおりを挟む
 ***ランス伯爵

 突然やって来た男の斜め後ろには褐色の肌の男が立っていて、その二人の後ろで執事がオロオロしている。

「ロータス国王!」というアスター王子の言葉でその男の正体が分かった。
 やはりそうか。

 クリビアには聞かなかったが、街で会った時にロータス国王だろうとは思っていた。
 野次馬もそんな風なことを言っていた。
 クリーヴとそっくりのクリーヴの父親。
 とてつもなく美しく精悍な、男でも惚れてしまいそうな外見で、銀髪の輝きが目に眩しい。
 クリビアはこの男を振ってよく私と付き合ってくれたと思うと、それこそ前世のお陰としか言いようがない。

 彼はクリビアのベッドに脇目もふらず近づいた。
 彼女を見て安堵の表情を浮かべた彼は、頭を優しく撫でた後おもむろに剣を鞘から抜いた。

「何をするんだ!」

 びっくりして私とアスター王子が同時に彼の腕を掴んで制止した。
 そしてアスター王子が「気でも狂ったか!」と目を剥いて付け加えた。

「離せ。クリビアを刺すわけではない」

 ロータス国王は冷静だ。
 よく見ると彼が握っているのは漆黒の剣。
 これは噂に聞くダキアのリーダーであるロータス国王の魔剣ではないか。
 これで何をしようとしていたのか。

「ロータス国王陛下、これから我々はバハルマに行かなくてはならず、あなたの相手をしている暇はありません」
「バハルマに何しに行くんだ」
「毒消しのノクリスの根を取りに行くのです」
「笑わせるな。その間に死んでしまうぞ。クリビアは俺が救う。ランス伯爵、お前ではなく」

 横目でニヤッとされカチンときた。
 だが、どういうことか聞くと、ロータス国王は魔剣は命を救うことができると言って、その方法を簡単に説明した。

「ならば私が胸を刺す!」

 話しを聞いて威勢よく私がそう言うと、ロータス国王は睨んでいるとも、にやついているとも言えない表情になり私を見据えた。

「お前は死ぬがそれでもいいのか」
「彼女が生き返るならこの命惜しくありません」
「待て伯爵。娘がいるのにそれでいいのか。ロータス国王なら死なないのだから、君が命を懸けることはない。落ち着け!」
「あ……」

 ロータス国王への対抗意識から愚かにもラミアの事を忘れて命を無駄にするところだった。
 私は彼女の事となるとどうも周りが見えなくなってしまう。

「言い忘れたが、この魔剣で命を救えるのはカラスティア王家の血筋の者だけだ。お前が胸を突き刺したところで彼女は生き返らない。死に損だ」
「なんだって? だったら最初からそうおっしゃってください!」

 なかなか意地が悪い。
 ロータス国王はフッと笑うと、魔剣を握り直した。

「引っ込んでいろ」

 真剣な顔に戻ってそう言った彼はクリビアを見つめながら片膝立ちになり、両手で握り締めた魔剣の剣先を自分の心臓に向けた。
 これから彼は魔剣を自分の心臓に突き刺す。
 いくら死なないとはいえ、見ているこちらも緊張する。

 私たちは固唾を呑んで見守り、マリウスは怖いらしく目を瞑った。
 褐色の肌の男もごくりと唾を飲み込む。

 そして目を閉じたロータス国王は息を止めたと同時に魔剣を勢いよく心臓に突き刺した。

 彼の眉間に皺が寄り、グサッという骨と肉を切り裂く鈍い音がした。
 その瞬間、血が飛び出るどころか夥しい玉虫色の光が胸から溢れ出した。

 この美しい光景をマリウスにも見せたくて、未だ目を瞑っている彼の肩を二回ポンポンと叩いた。
 言葉を発する気にはならなかったのだ。
 意味が分かった彼はゆっくり目を開け、続けて口も大きく開いた。

 光はロータス国王とクリビアを包み込んでいく。
 心臓を突き刺している魔剣は徐々に彼の手からその形を崩壊させ消え去っていく。

 なんという奇跡だろう。
 前世の記憶を持っていることなど足元にも及ばない。
 この美しく不思議な光景に感動した。

 光りが消えると褐色の肌の男が彼に駆け寄った。

「陛下! 御無事ですか!」
「ああ、この通り、大丈夫だ」

 彼はゆっくりと立ちあがった。
 胸からは一滴も血は流れておらず、何事も無かったかのように服さえ乱れていない。
 私たちは胸を撫で下ろし、自然と口元に微笑みが浮かんだ。

 ベッドに眠るクリビアを注意深く見ていると、肌が土気色からどんどん健康的な艶のある白い肌に戻っていくのがわかった。
 頬と唇はバラのような赤味を取り戻し、浅い呼吸もぐっすり眠っているような深い呼吸に戻り、なんなら毒に冒される前よりも健康そうに見える。

 少しして彼女の瞼がピクリと動いた。

「ん……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

背徳の恋のあとで

ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』 恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。 自分が子供を産むまでは…… 物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。 母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。 そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき…… 不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか? ※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。

全部私が悪いのです

久留茶
恋愛
ある出来事が原因でオーディール男爵家の長女ジュディス(20歳)の婚約者を横取りする形となってしまったオーディール男爵家の次女オフィーリア(18歳)。 姉の元婚約者である王国騎士団所属の色男エドガー・アーバン伯爵子息(22歳)は姉への気持ちが断ち切れず、彼女と別れる原因となったオフィーリアを結婚後も恨み続け、妻となったオフィーリアに対して辛く当たる日々が続いていた。 世間からも姉の婚約者を奪った『欲深いオフィーリア』と悪名を轟かせるオフィーリアに果たして幸せは訪れるのだろうか……。 *全18話完結となっています。 *大分イライラする場面が多いと思われますので苦手な方はご注意下さい。 *後半まで読んで頂ければ救いはあります(多分)。 *この作品は他誌にも掲載中です。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。

テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

処理中です...