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最終章 命を救う魔剣
夕凪
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***ロータス
クリビアが意識を取り戻した。
みなが彼女を取り囲んで喜びを分かち合っている。
ベッドから上体を起こして微笑むクリビア。さっきまで死人のような顔だったのが嘘のようだ。
彼らを押しのけて彼女を抱きしめ、生をこの手で感じたい。
一緒に笑いあいたい。
その資格が俺にはあるよな? と思って一歩踏み出そうとしたら足が動かない。
これまでの彼女の拒絶を思い出して臆病な俺が顔を出した。
それと同時に、必要なくなったら消えてしまう魔鉱石のように、俺のクリビアに対する存在意義もまた消え去ったような感覚が胸のどこかでした。
もう俺は彼女に必要ないのか?
だからだろうか、離れ行く彼女を見ても以前のような絶望や苛立ちを感じない。
ただ心にぽっかり大きな穴が開いて、夕凪の海底に静かに、静かに沈んで行くようだ――。
「あまり好きな感覚じゃないな……」
クリビアを見つめながら、誰にも聞こえないくらいの大きさで意識して声に出した。
そうすることで、いくぶん気が楽になるというものだ。
「ロータス様」
俄かに聴こえたその声に、許しを得るのを待っていたかのように反応して、ベッドへゆっくり近づいた。
生きている彼女と言葉で繋がったことが嬉しくて、涙が出そうになるのを必死に抑えながら。
「ロータス様。命を救ってくださり、お礼の申し上げようもございません。魔剣の事、聞きました。私の為に……本当に、何と申し上げたらいいか……」
「いいんだ。俺だって君に命を救われたんだからそのお礼だ」
ピンクの可愛い瞳に涙が浮かんでいる。
泣く必要は無い。
悪いと思う必要もない。
愛しているんだから当然だと言いたかったが、他人行儀な彼女の言葉に俺も合わせた。
そして自分の発した言葉に救われるように、今にも涙が零れ落ちそうだった瞳の熱がスーッと引いて行く。
そして俺はやっとクリビアを諦める決心がついた。
最初に魔剣で命を救えるのは王家の血筋だけという事を伏せてランス伯爵の本気度を試したその行為こそが、既に彼に敗北する道を選んでいた証でもあったのだ。
一生を共にできなくても、彼女が生きていてくれればそれだけでいいという俺の願いは文字通り叶えられた。
「ロータス国王陛下。私からも陛下に心より感謝申し上げます」
ランス伯爵が恭しく頭を下げた。
お前にお礼を言われる筋合いはないと以前の俺なら言っただろうが今は彼の言葉に反発する気は無い。
街で彼を見た時、この男をクリビアは必ず好きになるだろうと思ったのだ。
二人は想い合っている。
俺の役目は終わった。
もう出て行こうとしたら、ドレインが男の子にジーッと見つめられて目線をあちこち動かしていた。
「思い出した! このおじさん、僕たちを守ってくれた人だ! お姉ちゃん、この人がトリス川で僕たちを助けてくれた人だよ」
「この方が?」
「絶対そうだよ、ね、ね、そうでしょ?」
詰め寄られてたじたじしているドレインに代わって俺が答えた。
「そうだ、ドレインがクリビアを襲った刺客を殺した」
「そうでしたか。ドレインさん、あの時は本当にありがとうございました」
「いえ……川に流される結果になってしまい申し訳ありませんでした」
「それは私の判断ミスですから気になさらないでください。逆にあなたを置いて逃げてしまって、こちらの方が謝りたいくらいなんですから」
このあと襲ったのはヴァルコフ国王によるものという話になって、帰るタイミングを逃してしまった。
「でもどうしてわざわざ外で襲ったんだろうか」
ランス伯爵が疑問を口にした。その答えは俺しか知らない。
「アナスタシアと結婚すればクリビアを牢から出すということだった。だから牢から出すまでは手を出せない」
あの結婚に裏があったことに、ランス伯爵もアスター王子も驚愕した。
特にランス伯爵の顔がわかりやすく曇ったのは、魔剣で命を救ったことといい俺がどれほど彼女を愛しているのか実感したからだろう。
だがその伯爵を、クリビアが心配そうに見ている。
彼は何も心配することは無い。
この邸の執事とクリーヴを抱いた乳母が入って来た。
「旦那様。クリビア様が意識を取り戻されましたので、クリーヴ様とお会いしたいだろうと思いお連れしました」
執事がそう言うと、乳母はクリーヴをクリビアに手渡した。
「可愛いクリーヴ。母ですよ」
大きな青い瞳で彼女を見つめ、にっこり笑う最愛の息子クリーヴ。
もう一度会えるとは思っておらず、頭を撫でようと手を伸ばしたらほんの微かだが彼女がビクッとした。
クリビアを諦めたのだ。クリーヴも諦めなければいけない。
すぐにその手を引っ込めた。
彼女が俺を警戒しないように……。
ベッドに半分身を乗り出して、男の子が「わー、この子がクリーヴかぁ。僕、叔父さんになるんだね」と嬉しそうにはしゃいでいる。
この男の子の髪色を見てジュリアナを思い出した。
「この子は?」とクリビアに聞くと、彼女が答える前にランス伯爵が即座に反応して言った。
「この子はジュリアナの弟ですよ」
「なんだって……」
クリビアが意識を取り戻した。
みなが彼女を取り囲んで喜びを分かち合っている。
ベッドから上体を起こして微笑むクリビア。さっきまで死人のような顔だったのが嘘のようだ。
彼らを押しのけて彼女を抱きしめ、生をこの手で感じたい。
一緒に笑いあいたい。
その資格が俺にはあるよな? と思って一歩踏み出そうとしたら足が動かない。
これまでの彼女の拒絶を思い出して臆病な俺が顔を出した。
それと同時に、必要なくなったら消えてしまう魔鉱石のように、俺のクリビアに対する存在意義もまた消え去ったような感覚が胸のどこかでした。
もう俺は彼女に必要ないのか?
だからだろうか、離れ行く彼女を見ても以前のような絶望や苛立ちを感じない。
ただ心にぽっかり大きな穴が開いて、夕凪の海底に静かに、静かに沈んで行くようだ――。
「あまり好きな感覚じゃないな……」
クリビアを見つめながら、誰にも聞こえないくらいの大きさで意識して声に出した。
そうすることで、いくぶん気が楽になるというものだ。
「ロータス様」
俄かに聴こえたその声に、許しを得るのを待っていたかのように反応して、ベッドへゆっくり近づいた。
生きている彼女と言葉で繋がったことが嬉しくて、涙が出そうになるのを必死に抑えながら。
「ロータス様。命を救ってくださり、お礼の申し上げようもございません。魔剣の事、聞きました。私の為に……本当に、何と申し上げたらいいか……」
「いいんだ。俺だって君に命を救われたんだからそのお礼だ」
ピンクの可愛い瞳に涙が浮かんでいる。
泣く必要は無い。
悪いと思う必要もない。
愛しているんだから当然だと言いたかったが、他人行儀な彼女の言葉に俺も合わせた。
そして自分の発した言葉に救われるように、今にも涙が零れ落ちそうだった瞳の熱がスーッと引いて行く。
そして俺はやっとクリビアを諦める決心がついた。
最初に魔剣で命を救えるのは王家の血筋だけという事を伏せてランス伯爵の本気度を試したその行為こそが、既に彼に敗北する道を選んでいた証でもあったのだ。
一生を共にできなくても、彼女が生きていてくれればそれだけでいいという俺の願いは文字通り叶えられた。
「ロータス国王陛下。私からも陛下に心より感謝申し上げます」
ランス伯爵が恭しく頭を下げた。
お前にお礼を言われる筋合いはないと以前の俺なら言っただろうが今は彼の言葉に反発する気は無い。
街で彼を見た時、この男をクリビアは必ず好きになるだろうと思ったのだ。
二人は想い合っている。
俺の役目は終わった。
もう出て行こうとしたら、ドレインが男の子にジーッと見つめられて目線をあちこち動かしていた。
「思い出した! このおじさん、僕たちを守ってくれた人だ! お姉ちゃん、この人がトリス川で僕たちを助けてくれた人だよ」
「この方が?」
「絶対そうだよ、ね、ね、そうでしょ?」
詰め寄られてたじたじしているドレインに代わって俺が答えた。
「そうだ、ドレインがクリビアを襲った刺客を殺した」
「そうでしたか。ドレインさん、あの時は本当にありがとうございました」
「いえ……川に流される結果になってしまい申し訳ありませんでした」
「それは私の判断ミスですから気になさらないでください。逆にあなたを置いて逃げてしまって、こちらの方が謝りたいくらいなんですから」
このあと襲ったのはヴァルコフ国王によるものという話になって、帰るタイミングを逃してしまった。
「でもどうしてわざわざ外で襲ったんだろうか」
ランス伯爵が疑問を口にした。その答えは俺しか知らない。
「アナスタシアと結婚すればクリビアを牢から出すということだった。だから牢から出すまでは手を出せない」
あの結婚に裏があったことに、ランス伯爵もアスター王子も驚愕した。
特にランス伯爵の顔がわかりやすく曇ったのは、魔剣で命を救ったことといい俺がどれほど彼女を愛しているのか実感したからだろう。
だがその伯爵を、クリビアが心配そうに見ている。
彼は何も心配することは無い。
この邸の執事とクリーヴを抱いた乳母が入って来た。
「旦那様。クリビア様が意識を取り戻されましたので、クリーヴ様とお会いしたいだろうと思いお連れしました」
執事がそう言うと、乳母はクリーヴをクリビアに手渡した。
「可愛いクリーヴ。母ですよ」
大きな青い瞳で彼女を見つめ、にっこり笑う最愛の息子クリーヴ。
もう一度会えるとは思っておらず、頭を撫でようと手を伸ばしたらほんの微かだが彼女がビクッとした。
クリビアを諦めたのだ。クリーヴも諦めなければいけない。
すぐにその手を引っ込めた。
彼女が俺を警戒しないように……。
ベッドに半分身を乗り出して、男の子が「わー、この子がクリーヴかぁ。僕、叔父さんになるんだね」と嬉しそうにはしゃいでいる。
この男の子の髪色を見てジュリアナを思い出した。
「この子は?」とクリビアに聞くと、彼女が答える前にランス伯爵が即座に反応して言った。
「この子はジュリアナの弟ですよ」
「なんだって……」
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