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第3.5話 間章
香凛はやっぱり全くなんにも分かってない【パパはとっても苦悩している】 その3
しおりを挟む抱きかかえたまま、足早に寝室に雪崩れ込んだ。
ベッドに横たえれば、そこにはとんでもなく扇情的な光景が広がっていた。
乱れたセーラー、スカートは捲られ太ももが露わになっている。
脱がせた覚えはなかったが靴下は片方だけ脱げており、その中途半端に乱れた様子が更に劣情を煽る。
こちらを見上げる潤んだ瞳、乱れた呼気、上気した頬。
赤のスカーフは机の上で擦れていたからか、留め具から片端が外れていた。取り払っても問題ないかと引き抜けば、しゅるりと鳴るその衣擦れの音だけで己がビクリと反応するのだからやっていられない。
「どう、したの」
溜め息を吐いたオレを見て少し不安そうな様子を見せる香凛に、苦笑交じりに零す。
「――――本当に、悪いことをしている気分になるな」
今ここで組み敷いている香凛はとうに成人している。学生ではない。けれど。
そうだ、この少女は、娘だったのだと突き付けられる。そんな相手を手籠めにしている。
一線を超えた頃のことを鮮明に思い出す。
征哉と名前では呼べず、まだ“パパ”とオレのことを呼んでいた香凛。あの頃に感じていた、危うい背徳感。
本当に、どうかしている。
このシチュエーションに自分でも意外なほど昂ぶってしまっている事実に、自分で自分にドン引きだ。しっかりしろよと言いたい。
なのに。
こちらのそんな内心に香凛は全く配慮してくれず。
「……合法だよ?」
おずおずとこちらの手を掴んで、制服の内へと忍ばせてみた。
「だから、好きにして?」
「ぐっ……」
だから、どうしてそうもこちらを煽ってみせるのだ。自分のしていることにどれだけの破壊力があるのか分かっているのか。天然で、これなのか。
挿れてもいないのに放ちそうになって、何とか堪える。これで“パパ”なんて呼ばれた瞬間には、絶対に耐えられない。
だが――――だが!
天地神明に誓って、オレは制服を着ていた頃の香凛に欲情したことはない。そういう目を向けたことは一度もない。何を懸けても良い。あの頃の香凛は、オレにとっては完全に娘だった。庇護すべき対象で、絶対の絶対に欲望の対象ではなかった。なかった!
誰にともなく、心の中でひたすらに弁解する。精神衛生上、弁解しなくてはやっていられない。
あぁ、なのに。
「ふふ、変な気分」
香凛ときたら、本当にこちらの心情など分かっていないのだ。
「……変?」
制服の内側にこちらの腕を引き込むという所業をやってのけながら、妙に穏やかに微笑む。そして、語ってみせる。
「こうやって制服を着てる頃、こんな関係になれるとは夢にも思わなかったから。絶体に無理だって、叶うことなんてないんだって分かってたし、信じてた。自分が、娘以外の何かになれるなんて、思いもしなかったの」
あの頃、オレは香凛の恋心など知りもしなかった。
そんなものが自分に向けられることを考えもしなかった。
「どれだけパパと娘としての時間を延命できるか、そんなことばっかり考えてた」
香凛の初恋はどれほどの痛みに満ちたものだったろうか。
見込みの全くない、けれど一つ屋根の下逃れようのない生活は、どれほどの苦しみをこの娘に教えたのだろうか。
けれど見下ろす香凛には、過去の苦悩を匂わせるようなところはまるでない。
それどころか。
「でも、今、こうして触れてもらえてる。愛してもらえてる。好きだって、いくらでも言える。好きだって、言ってもいいなんて、それが私にとってどれだけ幸せなことか」
とろりと蕩けるような笑みを浮かべて、心から香凛は言うのだ。
「……嬉しい」
あぁ、そうか。
「香凛」
あの頃こうして制服に身を包んでいた香凛も同じようにオレに心を寄せていて。
今ここにいる香凛はとっくに成人している訳だが、ある種の錯覚を与えるのだ。
タイムスリップしたかのように、当時の香凛の想いがリアルに報われているかのような錯覚。
「あんまり可愛いことばかり言うな」
「かわっ」
「冗談抜きで、手加減してやれなくなるだろう」
「ひゃっ」
性急に下着をずり下ろし、足から引き抜く。何もかもがもどかしく投げるように手放せば、ベットの下で布が落ちたにしては重い音が鳴った。
「やだぁ」
どれだけ濡れて水気を含んでいたのか。それを教えるような音に、見下ろす顔が真っ赤に染まる。
脱がせたのは下着だけだ。他はそのまま。
脱がせてはもったいない気がしてしまったなんて考えは、心の内にしまっておく。
「香凛、もう挿れてもいいか」
あまりナカを解していないと思ったが、これ以上この昂ぶりを抑え続ける余裕がない。
手早く避妊具を付けながら声をかけると、
「そ、そういうこと、訊かないで」
と香凛は枕に埋めるように顔を背けた。けれど、もごもごとくぐもった声が続く。
「……好きにしていいって、言った」
どうやらご許可頂けるらしい。
膝裏に手を入れて腿を大きく割り開く。薄暗い部屋の中でもソコが十分潤って他とは様子が違うことはよく分かった。
「ん……」
己を宛がって先端を沈み込ませれば、内側は柔らかく欲望を受け入れる。
「んぁ、っく」
零れる吐息は甘く痺れていて。
性急に押し入りたくなるのを抑えながらずずっともったいつけて腰を進めると、ナカはそんなこちらを誘うように強くうねった。溢れ出す蜜が接合部でこぽぽと理性を殺すように音を立てる。
「ん」
「っぁ」
根本まですっかり治めきると香凛の身体が歓喜にぶるりと震えた。
内側はぴったりとオレの形に沿っている。拒絶の気配はどこにもなく、ただ収めただけなのにきゅうきゅうとオレを締め付ける。
素直で、淫らな身体。
オレが香凛の身体を、心をそういう風にしたのだ。
「あぁ……」
恍惚とした声。自分がそんな声を出させているのだと思うと、興奮が更に加速する。
「香凛……!」
「あうっ」
引き抜くだけでぬちぬちといやらしい音が部屋中に響いた。腰を打ち付けるとそこに更に盛大な水音が加わる。
香凛のナカはいつでも熱くてキツくて、堪らない。必死に縋り付くようなうねりは、こちらの心までは絡め取っていく。
「あ、あ、あぁ!」
香凛、香凛。幾度身体を重ねても、飽きはこない。それは香凛も同じようで、未だに時折驚くほど初々しい反応を見せたりする。いつでも、全身でオレが好きなのだと訴えかける。
「っふぅう! あ、ゆき、やさんっ」
香凛、お前はきっと知らないだろう。
いつでもその心には不安があるから。この“奇跡”はいつまで続くのだろうと、いつか不意に終わりを告げられてしまうのではないかと、そういう怯えが常にその心に巣食っているから。
自分が、捨てられることばかり心配している。
でも、その逆だってあるのだ。
オレの方こそ、いつもいつも気が気でない。自信がない。小心者で、情けないヤツなのだ。
香凛、お前がよそに目を向けて、新しい選択肢に、その良さに気付いてしまうことをオレはもうずっと恐れている。
香凛が社会人になった時、毎日毎日出社していくその姿を見ながら、オレがどれだけ情けないことを考えていたか、そんなこと、香凛はこれっぽっちも知らないだろう。
嫉妬の可能性なんて、考えもしなかっただろう。
社会に出て、見聞を広めて、働く沢山の人間を見て。
そうしたら、オレが良く見えていたその魔法が解けてしまうのではないか。ただのくたびれたおっさんだと、気付いてしまうのではないか。
若くて、将来性があって、趣味や気が合うお似合いの男がきっといくらでもいる。
親の欲目を引いても香凛は男の目を惹くものを持っている。外見だけの話じゃない。内面にも申し分ない。香凛の良さに気付いて、迫って来る男が今まで以上に増えるだろう。
オレがそれを一つ一つ潰して回る訳にはいかないし、そもそもそんなことは不可能だ。
香凛が、気付いてしまったら。
オレ以外の選択肢に気付いてしまったら。
オレは潔く身を引かなくてはならない。この関係を、想い出を清算しなければならない。香凛を新しい男に託し、きちんと送り出す父親の役目に戻らなくてはならない。
いや、それどころか、きっともう父親になど戻れない。お互いに気まず過ぎるだろう。
だからきっと、香凛の人生から、フェードアウトしていかなければならない。
そんなことをずっとずっと恐れて、心配して、気が気でなかったんて、香凛は知らない。
いや、知らなくていい。知られたくなど、ない。
「激し、あ、あぁ!」
制服の隙間から手を忍ばせ柔らかな乳房を揉みしだきながら、指の腹で頂きを押し潰す。それでいて、腰を打ち付ける動作も容赦をしない。
「嫌なのか」
「嫌じゃ、ないっ……ん!」
切なげに身を捩りながら、濡れた吐息が零れる。肌はしっとりと手のひらに吸い付き、このままずっと触れていたいと思わせる。離したくない。
「どこがいい」
「え、あ」
「ここか」
内側をまさぐれば、入口はすっかり降りてきていた。一番最奥が一番良いのだとは経験からも分かってはいたが、だが敢えてそこから少し外したところを狙い、幾度も穿つ。
「んあ、ちがっ」
もどかしさに焦れた余裕のない声が、嬌声の合間に上がる。
「違う? じゃあどこがいい」
言わせたくて、こんなことをしている。あられもないことをその口に、言わせたくて。
オレは、どうしようもない男だ。
「お、おく、もっと」
涙目で香凛は懇願した。
「もっと奥がいいの……!」
「奥、な」
その表情を堪能しながらオレは香凛の身体を抱え直し、これでもかと言うほど執拗に激しく張り詰めた自身を穿つ。
「ひ、あ、あぁ……! イ、んぅ、んんー!」
ナカの様子でも分かる。香凛の限界が近いこと。
「やだ、あ、イっちゃう……!」
けれどその抗い難いだろう波を前に、必死に踏ん張っている。
「イけばいいだろ」
先ほどと同じようにそう言ってやった。
啼かせたくて、イかせたくて、その身体を絶頂に導きたくて、こうしているのだ。
けれど、香凛は必死に頭を振った。何かお気に召さないことがあるらしい。
ゆきやさん、と呂律の怪しい口調で香凛がオレを呼ぶ。甘く蕩けた舌足らずな声が、脳に直接ガツンとくる。
「一緒が、い、い」
あぁ、だからこの娘は。
「一緒に、イきたい……」
オレの理性をめちゃくちゃにして、ただの獣に成り下がらせ、どうしようもなく依存させようとする。
「だって」
言いたいことは、分かった。
だって、オレのためにした格好だから。
オレにその気になってほしくて、愉しんでほしくて、気持ち良くなってほしくて。
だから、自分ばかり満たされるのではダメで。
言わなくても、全部分かる。
「香凛っ」
香凛から与えられる全てに、思考が焼き切れそうになる。
愛しくて愛しくて堪らなくなる。
「や、あ、あぁ――――!」
「ぐっ、はっ……!」
奥を抉じ開けるように強く数度己を捩じ込めば、香凛の身体は絶頂に大きく痙攣した。それと同時に自分ももう我慢が効かず、己の内から勢いよく欲望を放つ。
「はぁ」
柔らかな身体の上にそっと倒れ込めば、余韻に震える腕がのろのろとこちらの首に回される。
香凛、オレは本当に恐れていたんだ。
社会に出たお前は、絶対に他の可能性に気付くと。
そしてその可能性に心が傾いたとしても、それを責めることなどできないと。
香凛の人生の全てがオレである必要はない。香凛の選択肢にオレ以外があっても、それは悪いことではない。当然のことだ。
付き合っているからと言って、そのまま死ぬまで添い遂げると、そこまで約束している訳じゃない。人の心は、縛れない。
だが。
「香凛……」
だが、香凛の心は未だここにある。全力でいつでもオレに傾いている。オレだけを、変わらず求めてくれている。
香凛に色んな選択肢があるのは、この先も変わらない。
だからオレの危惧は当然のものではあるが、それを理由にいつまでも二の足を踏んでいる訳にはいかないこともまた事実。
そろそろ、腹を括らなければならない。
考えていない訳ではないのだ。先のことは。
どうするべきか、どういう手順で進めるべきか、いつがいいのか。ぐるぐるとそのタイミングをはかっている。
分かっている。オレはもうこの娘を手放せない。絶対に手放せない。
だから、覚悟を決めるのだ。年が離れていようと、元父親代わりだろうと、他の誰にも決して譲らず、この手で香凛を幸せにすると。
「香凛」
「なに……」
「……愛してる」
そう頻繁に口にはしない言葉を囁くと、未だ己を収めたままの蜜壺がきゅうっと締まってみせた。
「愛してるよ」
「!」
重ねて囁くと、更にきゅうきゅう締まって喜びを示す。
身体を起こして顔を覗き込めば、びっくりしてまん丸に見開かれた目と目が合った。
「な、な……」
オレと目を合わせて恥ずかしさが加速したのか、顔が真っ赤に染まっていく。
「えっ、やだ待って」
そして困惑した声が上がった。異変に気付いたからだ。
「あ、え、もう?」
放ったばかりというのに、もうむくりと欲望が首を擡げ始めていた。内側で硬度を取り戻し始めたソレに、香凛は目を白黒させる。
「香凛が悪い」
「なんで!」
「可愛い反応して、こっちを刺激したのは香凛だろ」
淫らな格好で、こんな風に締め付けられれば反応するのが摂理というものだ。
「それは! そっちが急に……!」
だがそう言うので、ずるりと己を引き抜く。
「あ……」
引き抜けば、途端に寂しそうな、惜しむような声が上がった。
「嫌なんじゃないのか」
引き抜いたのは、別に香凛の意向を汲んでのことではない。ただ避妊具を換えるためだ。
というか、香凛も恥ずかしがっているだけで嫌がっている訳ではない。
「別に、ダメとは、言ってない、し」
その証拠に、すぐに小声でそう零す。
「だよな?」
「ひゃっ」
なのでその腕を引っ張り上げて身体を起こしてやった。
「なに」
腰を持ち上げて、既に上向いている切っ先を秘所に宛がう。
「ひっ」
そのまま抱きしめるように引き寄せれば、ずぶずぶと突き刺すように再び媚肉の中を屹立が侵攻した。
「あぁ、待っ、今、イったばっかりだからぁ! あぁ……!」
仰け反る身体は、しかし奥までこちらが辿り着くと逆にこちらに雪崩れ込んで来る。
「んんぅ、深いぃ」
自重で更に当たりが深くなっているらしい。縋るように、強請るように抱きつかれる。熱い吐息が耳許をくすぐる。
「香凛、香凛」
「征哉さんん」
その声に拒絶の気配がないことを確認して、突き上げるように腰を動かした。
「ひっ、あう!」
夜は長い。
互いを貪るように求める時間はまだいくらでもある。
「嘘だろ……」
カーテンの隙間から差す、陽の光が目に眩しい。
ベッドに腰掛けながら、オレは朝から頭を抱え込んでいた。
昨夜の自分の行為を思い出せば、頭も抱えたくなるというものだ。
制服姿の恋人の姿にこれでもかというほど欲情し、組み敷き、しかも、しかも――――
「連続で、三回とか」
がっつき過ぎだ。異性を知ったばかりの十代の青年ではないのだ。それなのに。
いい年したおっさんが、連続で、三回も。
どこにそんな元気が残っていたというのだ。いや、ないよりはいいのかもしれないが、加減ってものがあるというか、このシチュエーションでそこまで反応してしまうとか、まるでコスプレ趣味があるとか、制服姿にやたらと興奮する特殊性癖持ちだとか、そういう疑惑に繋がってしまうではないか。
いやいや、違う違う。
「違う」
そういう趣味はない。そういうことでは、ない。
確かに、そそったのは事実だ。けれどそれは世の中の男であれば、大抵は反応する類のものだ。恋人が、自分のために、趣向を凝らそうとしてくれるとか、普通に、誰であっても嬉しいものだ。セーラー服も、あれだ、割に王道だと思う。王道というのは、需要があるという意味だ。だから決して、おかしな反応ではない。やましいことは、ない。
香凛がオレにとって娘みたいな存在だったことは、この際ちょっと別扱いにしておいてほしい。
「んん……」
背後で小さな声が上がって、反射的に振り返る。
布団の中で香凛が身動ぎする。その肌はもう何も纏っていない。さすがに三回目には脱がしてしまっていた。
「ん……」
薄っすらと瞼が開いて、引き寄せられうようにこちらに向けられる。
しばらく香凛はそうやってぼんやりとこちらを眺めていたが、
「っ」
意識が鮮明になってきたらしい、急に布団を引き上げて顔を隠して見せた。
どうやら昨日の行為の濃厚さを思い出して、居た堪れなくなったらしい。
分かる、オレもとても居た堪れない。
「……あの」
けれどまたそろそろと布団から半分だけ顔を覗かせたと思ったら、
「――――良かった?」
そんなことを訊いてきた。
「いや、その、まぁ」
良くなかった訳がない。そんなことは、昨日の行為の内容で十分分かっているだろうに。
「悪くは、なかったというか、その、良くなくは、なかった」
直接は、肯定しにくい。
破壊力があり過ぎて、ある意味宜しくなかったと言えばそうなのだが。
香凛は自分の仕掛けたことの威力を、この期に及んで理解していないらしい。
もごもごとはっきりしない返答をしていたら、そろりと身を寄せて来た香凛が、これからもちょくちょくしてみる? なんてとんでもなく恐ろしいことを言い出した。
やめてくれ、違うんだ。趣味というほどではないが、でもされると破壊力があるんだ。そう定期的にされては堪らない。
昨日存分に、一生分堪能したような気がする。当分、当分チャレンジしてくれなくても大丈夫だ。オレの理性とか威厳とかその他諸々が危ないから、そんなにオレのために頑張ってくれなくてもいい。そんな風に趣向を凝らさなくとも、オレは香凛に飽きたりしないし、心変わりもしない。
なので、次はどういうのを試してみたいかという香凛の申し出を、オレは丁重にお断りした。
丁重に、お断りした。
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